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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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リアクション

 
「わーい、みんなひさしぶりだねー!」
「あっ、ノーンだ! おひさしぶりー」
「ねぇねぇ、紅白歌合戦で演奏したって聞いたんだけど、本当?」
「うん、ホントだよー。すっごい緊張したけど、楽しかったよー」
「わー、いいなー。その時のお話、もっと聞かせて!」
「いいよー。あっ、お菓子持ってきたんだ、一緒に食べよー」
 
 『氷雪の洞穴』にて、同胞に出迎えられたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が楽しそうに、最近あったことを話にしていく。それを、周りの氷結・舞雪・水泡の精霊(全て、氷結属性の精霊)が興味津々といった様子で聞き入っていた。
「……で、あんたはあの子の保護者役ってわけ」
「そうですわ。影野陽太が御神楽環菜につきっきりなので、仕方なくですわ」
 カヤノの言葉に、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)につきっきりの影野 陽太(かげの・ようた)に代わりノーンをここに連れてきたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が答える。それでも、言葉ほどには渋々といった様子ではなく、遊びに満喫するノーンを微笑ましく見守っているようであった。
「そうですわ、カヤノには聞きたいことがありましたの」
「なによ? あたいに分かることにしてよね」
 言ってエリシアが、イナテミスの主に軍事力についての質問をカヤノに投げかける。それは、今後イナテミスが他国との戦争の際に舞台となった時、どの方面で手を貸すことが出来るのかを探るためであった。
「うーんとね……まず、ここはよっぽどのことがない限り、大丈夫。いざとなったらメイルーンに頼んで、入り口閉じてもらうし。
 元々あたいたち冬の精霊は、夏の間とかはそうやって眠って過ごしてたんだし。それがこの前、夏に出ちゃったことから始まったのよね……」
 カヤノが、過去を懐かしむように呟く。要は、よっぽどのことがない限り(それは例えば、超巨大な土竜が地面を掘り進んでこない限り)氷雪の洞穴に住まう精霊の安全は確保されるとのことであった。ちなみに、既に契約を交わしている精霊は主の生死に大きく左右されるので、生まれ故郷である氷雪の洞穴が閉じても肉体的な影響は皆無(精神的には何か有るかもしれないが)とのことであった。
「戦うんだとしたら、ミオの『雪だるま王国』が中心になると思うわ。
 ……そうよね、あんたの言う通り、これから何起きるか分かんないけど、備えしとかなくちゃいけないわよね。
 ミオ、何か考えてるのかな。聞いてこなくっちゃ。……あんたたちも来る?」
「ええ、カヤノがよろしいのでしたら。……ノーン、行きますわよ」
 エリシアがノーンに、雪だるま王国に行く旨を伝える。
「じゃあ、またねー」
「うん、またねー」
「今度もいっぱい、色んな話を聞かせてね!」
 手を振って見送る精霊たちの姿が、遠くなっていく。
(……もし本当に、戦争が起こるようなことになれば、もうこうして気軽に会うことも出来なくなってしまうのかしら)
 ふと思うエリシア、もしそうなれば、ノーンはとても悲しむだろう。
(……そんなことはさせませんわ)
 ノーンが悲しむ顔は、見たくない。
 そんな思いで、エリシアはカヤノとノーンと、雪だるま王国へと向かう――。
 
●雪だるま王国
 
「主殿ー、ボクの方は準備オッケーだよー」
 雪面に雪玉を、適度な間隔で並べていった霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)が、弓を構えた四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)にぶんぶん、と手を振って合図する。
「さーてと、エルとフィアに作ってもらった弓の扱いに慣れとかないとね。特訓って大事よね!」
 パートナーに改造を施された唯乃の新武器、『輝天聖弓アナイアレイター』に唯乃が矢を番え、精神を集中させる。魔力が身体から弓矢へと伝わる感覚を得ながら、唯乃が矢を放つ。瞬間、前から蹴飛ばされるような衝撃が唯乃を襲い、そして放たれた矢は雪玉を穿ち、雪玉は陽光に破片を煌めかせて砕け散った。
 続けて二発、三発と矢を放ち、並べた雪玉を次々と砕いていく。五つ並べた雪玉は、一発で粉砕されていった。
「うん、普通に放つ分には問題ないみたいだね。じゃあ次の特訓に移るよー。
 ボクが持ち上げた雪玉を、空中で砕いてみてねー。いつ落とすかは言わないからー」
 今度も雪玉を作ったミネだが、ここからは異なり、その雪玉を超能力でゆっくりと宙に浮かばせていく。地上から十数メートルの高さまでゆっくりと持ち上げられた雪玉が、ある地点でまるで誰かが手をパッ、と離すように、地上へと落ちていく。
「!」
 すぐさま、唯乃が矢を放つ。仰角をつけられて放たれた矢は、しかしほんの少し雪玉を掠めた程度で、砕くには至らなかった。
「あー、ハズしたわ……やっぱり光の矢っていっても、重力の影響を加味しないといけないわよね」
「でも、最初にしては上出来なんじゃないかなー。じゃ、次行くよー」
 二つ目の雪玉が、やはり宙を上っていき、ある所で地上へと落ちていく。それに唯乃が矢を放つが、今度も矢は雪玉を掠めただけ。結局、有効な命中弾は五発中二発に留まった。
「うーん……これは後でもう一度かしらね。
 次は……サイコキネシスによる矢の制御、だっけ?」
「うん、そう聞いてるよー。
 じゃあ主殿、目の前にある雪だるまの向こうの雪玉を砕いてみてねー」
 ミネの声が、バケツと手袋装備の雪だるまの向こうから聞こえてくる。雪だるまが射線を塞ぎ、雪玉の姿すら見えない。ミネの声を頼りに距離感を掴み、超能力で軌道を変更させねばならない。
(息吸って……吐いて……落ち着けばきっと出来るはず……!)
 先程よりも集中の度合いを強め、唯乃が矢を番え、放つ。雪だるまの左側面を掠めて飛び荒ぶ矢が、しかし軌道を変えた頃には雪玉を通り過ぎてしまっていた。
「あー、ダメかー。矢が速くて制御が間に合わないわね」
「ある程度対象物との距離がないと上手くいかないかもねー」
 それでも、距離を変えて一発ずつ放ってみて、五回目には最適な距離を掴んだのか、見事雪玉を砕くことに成功した。
「よーし、次は属性矢を使用した効果測定よ!」
「主殿、大丈夫ー? 主殿、光輝属性以外は相性よくないよねー? ボクがサポートに入った方がいい?」
 ミネの言うように、唯乃は光輝属性以外の魔法に適性がない(わけではないが、光輝属性が相性バツグンな分、相対的に)こともあって、雷電属性の『コクマーの矢』の使用は、暴発を招く危険性を秘めていた。
「一回だけ挑戦させて!」
 それでも、一度は挑戦してみたいらしく、唯乃がコクマーの矢を番え、精神を集中させる。弓矢の原料となっている世界樹セフィロトの化身、イナンナの加護を身に、唯乃が矢を放つ。
「! っ!!」
 しかし、矢こそ放たれたものの、矢は雪玉を砕くことなく飛び荒び、そして唯乃は身体に強烈な痺れを訴えて弓を取り落としてしまう。
「ほらやっぱりー」
「ったぁー……はぁ、やっぱりダメねー。ミネのサポート無しでも打てるようになるのが目標だったんだけど」
 痺れた腕を何度か振って、唯乃が苦笑を浮かべる。
「雪だるま王国の近衛隊を名乗るからには、強くなっとかないとねー。
 ……ま、美央ちゃん自身かなり強いから、あんまり守るって感じじゃないんだけどね」
 呟いて、背後を振り返る唯乃。見える建物、『雪だるまの王宮』で今頃は、赤羽 美央(あかばね・みお)が執務を行っているはずであった。
「やっぱ守るって言ったら姫よ、姫。
 でも美央ちゃんじゃ違うし……んー、カヤノちゃん、とかどうかしら?」
「うーん、どうなんだろ?」
 首を傾げるミネ、そして唯乃の脳裏には、姫な格好をしたカヤノに頭を垂れて、「お怪我はありませんでしたか、姫殿下」と申す自分の姿が浮かび上がった。
「……でもその場合、美央ちゃんが女王で、カヤノちゃんが姫よね。……なんかダメっぽいわ」
 そうこう言っている間に、腕の痺れも取れたようだ。
「ミネ、お願い」
 唯乃の求めに頷いて、ミネが唯乃の篭手と肩当、マントとなって装着される。
(なんにせよ、特訓しとくことに越したことはないわね)
 
 そう、これから何が起きるかは、誰にも分からないのだから――。
 
 ミネのサポートを受けて放たれた矢は、光輝と雷電の両方の属性を持って、雪玉を粉砕したのであった――。
 
 
「え〜〜〜と、今月得られた税と、諸経費と……あ〜〜〜、どう転んでも大赤字です……」
 
 その頃、『雪だるま王国騎士団本部』執務室では、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がサボってしまったがために溜まってしまった仕事を片付けていた。
 王国、と名乗っているのは伊達ではなく、こうしてちゃんと収入と支出の計算を行なっているのだが――。
 
「そもそも、財源が税として納められる雪だるまだけでは、国庫が火の車になるのは当然です!」
 
 バン、と執務机を叩いて、クロセルが立ち上がる。確かに、それだけで国を成り立たせているとは到底思えず、結局は契約者が稼いだ金で運営が成り立っている……のではないだろうか。あとちなみに、雪だるま王国もイナテミスの一部に係っているので、税制面で優遇されているとか、でも法人税(住民税? ともかく、何らかの税)かかってるとか、まあ色々あるかもしれない。
 
「クロセル様、少し静かにしていただけませんの?
 元はといえば、クロセル様が広報活動と昼寝を重視し過ぎ、内政を疎かにしたのがいけないんでスノー。
 赤羽陛下より色々丸投げ……こほんっ、もとい、一任されているわけですから、もっとシッカリ仕事してもらわないと、ワタシ達、事務職が苦労するんですの!」
 連れてきた事務員と共に仕事をしていた魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)が、クロセルに釘を刺す。
「むむむ……いやはや、それにしても良い天気ですね、こういう日は外で……そと、で……」
 唸ったクロセルが、おもむろに窓へと歩み寄り、窓を開け……ようとして、ピクリとも動かず悪戦苦闘する。ちなみに窓の向こうでは、確か唯乃が特訓をしていた辺りでボン、と爆発のようなものが生じていた。多分、闇黒属性の『ビナーの矢』の制御に失敗したらしい。
「クロセル様が仕事に集中なされるよう、窓をはめ殺しにしておきましたの」
 涼しい顔でリトルスノーが言う。彼女がここにいるのは、クロセルを手伝うと同時に脱走を阻止する意味もあった。
「く……あ、そ、そうです! 有事に備えて雪だるま兵達の訓練をしなければ!」
 どうせ他にも仕掛けが施されていることを想像して、こうなれば正々堂々と出ようとしたクロセルを、両脇から伸びた槍が交差して道を塞ぐ。
「リトルスノー様より勅命を受けております故、ご理解を」
 やはりリトルスノーが連れてきた武官二人組が、ちょっと申し訳なさそうな顔をしながら(リトルスノーがクロセルのパートナーであるため、クロセルは彼らの上官に当たる)クロセルを押し留める。
「……あっ! UFOだ!」
「クロセル様、そのようなものがこのパラミタに存在するはずが……」
「ああでもリトルスノー様、異国の地ではそれなる物が発見されたとかなんとか」
「……存在していてもその手には騙されませんの」
「急にお腹の調子が!」
「それは大変ですの。貴公ら、クロセル様のお世話をして差し上げるですの」
「分かりました。クロセル様、ささ、こちらへ――」
「……ええい! 女性ならまだしも、男性に下の世話などされたくありません!」
 脱走の手段をことごとく封じられ、部屋に戻ってきたクロセルは、備え付けのベッドに不貞寝するが如く横になる。彼曰く、「そろそろいつもの仕事に戻らないと」だそうである。
(ダメですわこの方、早く何とかしませんと……)
 はぁ、とため息をつくリトルスノーであった。