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「よろしくお願いします」
 続いて、 桐生 円(きりゅう・まどか)がラズィーヤの前に座る。
 およそ一年前まで、問題児といわれていた少女だ。
 学業のことや、パラミタでの生活について、軽く話しをした後。
 ラズィーヤは円に、何か聞きたいことや、話したいことはあるかと、質問をする。
 円は首を縦に振って、話し始める。
「今年の冬のことです。ソフィアの遺体を回収、そして遺体を故郷に埋めることを了承して貰い。そしてボクを百合園に残して貰い、ありがとうございます」
「円さんに、お礼を言っていただくようなことなど、特にしていませんわ」
「いえ。刀真くんや、ラズィーヤさん、それに他の方々のおかげで無事回収できたと思っています。ボクは情けない話、それに乗っかっただけです」
「円さんは……」
 ラズィーヤは淡い笑みを浮かべた。
「本当に成長いたしましたわね」
「そんなことないです。皆のお蔭で、自然とそうなったんです。身長とか体型とかもまだまだだし。精神面も……」
「なにか悩みがあるのでしたら、お聞きいたしますわよ?」
 ラズィーヤの言葉に頷いて、円はぽつぽつと語り始める。
「ソフィアの件かな。……クリスくんに聞いた限り、ソフィアはボクに殺してほしかったのかもしれないと言っていた。それが正しいかどうかは、わからない。でもソフィアは本当に殺してほしかった気はする」
 ソフィア――ソフィア・フリークスは短い間、円のパートナーだった女性。
 シャンバラ古王国時代に、女王の騎士として、ヴァイシャリーを護ったといわれている6騎士の一人だった。
「ソフィアの悩んでいる理由をボクが聞ききれずに、別の生き方の方法を提示できなかった時点で……殺してあげなきゃいけない無かったのかなとも思うし」
 円は次第に俯いていく。
「本当にボクは彼女に生きてて欲しい面もあったし、一緒に逃げて生き恥を一緒にさらして、のうのうと過ごすのもありかなとも思ったり。考えても考えても正解が見えないから……ラズィーヤさんなら何か参考になること言ってくれるかもって。答えは自分で出すべきだって解ってはいるけど……」
「ソフィアさんは……そうですわね。仲間を裏切り、愛する方も死に、組織もなくなり、そんな状況で生き残ったのなら。彼女は、自害をしたと思いますわ。紛れもなく、彼女はヴァイシャリー家の、シャンバラの敵に回った人ですけれど、芯の強さと、信念を貫くお心はとても立派な方でした」
 顔を上げた円に、ラズィーヤは少し悲しげな目を向ける。
「シャンバラ復興の為に、力を貸していただきたい人でした。でも、既に彼女は過去に、罪を犯していましたから、わたくし達には彼女をこちら側に引き入れることは不可能だったと言えるでしょう」
「そう、なんだよね……」
「先ほど、自害をしたと思うと言いましたけれど、これは生きることに絶望して、だけではなくて。パートナーになってくれた大切な人の人生を守るために、彼女はそうするだろうと、私は思うのです。報告を聞いた限り、ソフィアさんは円さんのことを、大切に感じていたようでしたから。頑張りましたね」
 優しい言葉だった。
 円は切ない気持ちと……照れくさい気持ちでいっぱいになり。
 顔が赤くなっていってしまう。
「あの、ラズィーヤさんってすごいですよね。そういう細かいことも見てて。25歳くらいなのに、沢山の仕事を処理してますけど、コツとかあるの? ボクにも出来る?」
 ごまかす為に、糞真面目にそう尋ねる。
「……無理ですわね」
 にこにこ、ラズィーヤは微笑んでいる。
「女性の年齢を大幅に間違えるような識別力じゃ到底無理ですわ」
 微笑んでいるけれど、なんだか言葉に棘が含まれていた。
「ええっ!? ラズィーヤさん、やっぱり三十路超えているとか……」
「……円さんには外見年齢通り、小学校に通っていただきましょう」
「ちょ、ちょっと待って。ボクはこう見えても、もう立派なれでぃなんだよ?」
「どこがですか」
 ラズィーヤがじぃっと円の胸に目を向ける。
「うぐぐっ、ボクも30くらいになる時にはきっと」
「まだ言いますか」
 ラズィーヤは黒い笑みを浮かべた後。
 ぷっと吹き出して、円と一緒に笑いあった。
「それじゃ、ボクはこれで……。今日はありがとうございました」
 笑いあった後、立ち上がって円はドアへと向かう。
 部屋から出る前に、振り返って。
「ソフィアの件で恩を受けた分は、出来るだけボクも返そうと努力するよ。大きすぎて返せないかもしれないけど、本当にありがとう」
 もう一度お礼を言って、円は深く頭を下げた。
「期待していますわ」
 笑みを含んだ声で、ラズィーヤはそう答える。
 円はこくりと首を縦に振り、パーティ会場へと――失わずに済んだ、友達の所へ戻っていく。