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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「行くわよ、早苗」
 魔法を使ってくるイコン――【ルシファー】の機体を見据え、葛葉 杏(くずのは・あん)は【ポーラスター】とのシンクロ率を上げていく。
 50%では足りない。今度こそ、100%まで引き出したい。
(でも、私が目指すのは、さらにその上!)
 限界まででは、いいとこ互角だろう。ならば、その限界を超える。目の前にいる『ウィザードイコン』を倒すためには、それしかない。
(させない!)
 間合いが開いていると、魔法を使われてしまう。そのため、ブースターを全開にして【ルシファー】に接近していく。
 シンクロ率を上昇させることによる負担が頭にのしかかってきた。
(私だって痛いし、早苗だって痛い、ポーラスターも痛いのよね?)
 だが、それを何とか耐える。
(杏さんも痛いし、私も痛い、きっとポーラスターも痛いんだ)
 橘 早苗(たちばな・さなえ)もまた、同じ思いだ。
(痛いって感覚が一番共有しやすいものね)
 そう、これは互いに理解しあうために必要なもの。だからこそ、受け入れることが出来る。
 【ルシファー】が杖をかざし、ファイアストームを放ってきた。
「そんなもの!」
 フォースフィールドを展開、そのまま炎の中を突っ切っていく。
 シンクロ率80%を突破。
 今回はブルースロートの干渉機能によるエネルギーの安定がない。だが、それでも自らの意思で掛かってくる負荷を感じながら、機体を駆り続ける。
『消えろ!』
 天のいかずちが降り注ぐ。
「二度は食らわないッ!」
 覚醒か、そしてBMIシンクロ率を一気に90%まで上げ、フォースフィールドだけでなくサイコキネシスによる力場も展開した。
 その上で、ビームシールドを使って受け止める。
「早苗!」
「はい!」
 ここからが本当の勝負どころだ。
 天のいかずちを弾いた直後、まだ帯電しているであろうビームシールドを【ルシファー】に向かって投げつける。
「くぅ……!」
 頭が割れそうだ。
 だが、そこで自分の意思をなくしては意味がない。あくまで、他の人達とは違う方法でレイヴンを乗りこなす。一の中にゼロが二つ、一が一つ含まれるのではなく、一を三つ掛け合わせた上での一。
 そのシールドを炎が包み込む。炎の聖霊による自動防衛だ。
 おそらく、生身のように本当の聖霊を召喚しているわけではなく、機体にプリセットされた防御術式としての擬似的な姿なのだろう。
 だが、それでも一瞬だけ炎で視界を塞ぐことが出来た。その間にミラージュを展開、【ポーラスター】を突っ込ませる。
 ブースター全開。今度は吹雪が吹き荒れ始めた。
「無駄よ!」
 今のフォースフィールドならそれをものともしない。臆することなく【ルシファー】を実体剣の間合いに捉え、剣を構える。
『来たわね!』
 直後、周囲の風景が暗くなっていく。
 エンドレス・ナイトメア。【ルシファー】が自分の機体ごと【ポーラスター】を幻影も含めた範囲で闇の中に引きずり込んだ。
『超能力とやらは安定した精神でないと制御が難しいのでしょう? 闇に包まれて自ら滅ぶがいいわ!』
 闇の中で、ファイアストームが放たれた。
『こんなものが、効くか!!』
 既に頭痛だけなら気を失いそうなほどに感じている。それに、最初のテストパイロットの一組としてずっとレイヴンに乗っているのだ。精神を安定させる方法など、とっくに心得ている。
 マインドシールドを張っているため、まったく受け付けない。逆に言えば、シンクロ率が高くなるほど外部からの影響を、パイロットが直接受けるようになるためそれが必要となるのだ。早苗もまた、超人的精神で乗り切ったようだ。
 【ポーラスター】が【ルシファー】の前に躍り出る。
 炎の聖霊が現れ、【ポーラスター】を阻もうとするが、そっちは幻影だ。
 【ルシファー】の背後に回り込み、斬撃を繰り出そうとする。頭痛はもはや痛覚が麻痺してしまったのか、感じない。むしろ、
(全てが鮮明に見える)
 なぜかは分からない。ただ、相手の「隙」が分かるのだ。魔力らしい力が集中している場所も。
 ならば、それを抜けていけばいい。
(早苗、何%!?)
(ひゃ、100%です!)
 ついにその領域に到達した。理屈抜きに、持ち前の精神力だけで。
 【ポーラスター】が剣を振り下ろそうとしたとき、【ルシファー】が天のいかずちを落としてきた。
(そっちも幻よ)
 炎が発生した後、その熱による光の屈折を実践的錯覚によって利用し、それとミラージュを掛け合わせることで、まるで鏡に映すかのようにして【ポーラスター】の姿を投影していたのである。もっとも理屈は一切抜きにして「なぜか出来た」わけだが。
 そして本体は、
「レイヴンファイナルクラーッシュ!」
 【ルシファー】の真上からサンダークラップを纏わせた実体剣で袈裟斬りに【ルシファー】を切断した。
「三位一体、ポーラスター!」
 【ルシファー】の機体が斜めにずれていき、直後爆ぜた。
 同時に、シンクロ率を無理に上げ続けていたことによる反動がどっと押し寄せる。
「や、やりましたね……杏さん」
「ええ……でも……疲れたわ」
 機体のバランスが崩れる。
 それを、早苗が何とか取りもった。
「杏さん? ……杏さん!?」
 コックピットの中で、杏の意識は消えていった。

* * *


「メニエス様!」
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、メニエスの危機を察知し、魔法の箒に乗って【ルシファー】に接近した。
 彼女がその姿を捉えた直後、天学の黒いイコンの剣が【ルシファー】に斬撃を繰り出したのが見えた。
 爆発の直前、機体の切断面から人影が飛び出したのが見えた。
 コックピット中で全能の書 『アールマハト』(ぜんのうのしょ・あーるまはと)メニエス・レイン(めにえす・れいん)を歴戦の防衛術を駆使して斬撃による衝撃から護り、メニエスを抱きかかえて機体から飛び降りたようである。
「ご無事ですか、メニエス様!?」
 気を失ってはいるが、辛うじて命に別状はないようだ。
 ただ、やはり魔導力連動システムがあるとはいえ魔法の酷使による消耗が響いているらしい。
 さらに、さっきの爆風で飛んできた機体の破片が当たったのか、右目から鮮血が零れている。
 ミストラルは彼女達を連れ、速やかに戦線を離脱した。