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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)

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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)
大地を揺るがす恐竜の騎士団(下) 大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)

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第十一章 恐竜騎士団



 この日の天気は快晴で、ツアーにはぴったしの日和となった。
 恐竜騎士団に前もって潜入し、協力者となったトマス・ファーニナルの口利きもあって、恐竜騎士団の恐竜を見学するツアーが行われたのだ。発案者兼当日の案内人を勤めるのは、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)である。
 バージャス地方にはまだまだ多くの恐竜が生息しているが、キマクの人や契約者としてやってきた地球人には恐竜は珍しく、またドラゴンとは違ったロマン溢れる生き物だ。
 大人しい恐竜だったら、触れることも背中に乗ることもできると、特に子供の人気が集まっている。
「まずはみなのよく知るティラノサウスじゃ。肉食で、体長も大きくてかなり凶暴で白亜紀にもっとも活躍されたとされている恐竜じゃ。恐竜の中で一番人気で世間から一般的に知られておるぞ。おっと、あまり近くに寄るとぱくりといかれるかもしれん、気をつけるのじゃぞ」
 武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)が何人かの子供を引き連れて、恐竜の説明をしながら歩いていく。凶暴なティラノサウルスでさえ、柵なんか用意はされていない。
「ちょっと遠いが、あれが翼竜プテラノドンである。プテラノドンは翼を広げて空をおおいに飛ぶことが特徴で、白亜紀における大空の覇者とも言えるべき存在なのである」
「こいつはトリケラトプスだぜ。見た目は可愛いが3本の角があって突き刺されたら痛いぞ。ティラノサウルスと同じ人気でまさに白亜紀における二大スターってやつだな。そんでこいつが、ステゴサウルス。ちょっと亀に似てるだろ? こんなにでっかいのに、こいつらは草しか食べねー大人しい恐竜だ」
 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)も、それぞれの受け持ちを連れて、恐竜騎士団の宿舎を歩いている。説明や案内を受け持つのは自分達だが、それぞれの恐竜の手綱を握り、触れ合いの時に責任を持つのは恐竜騎士団の人間だ。
 子供が素直な気持ちでかっこいいなんて口にすると、少し嬉しそうにしてるのが見てとれる。こうして、小さい交流でも続けていけば彼らがこの土地や人に対して愛着も湧いてくるだろう。
 岩造はツアー全体の調節をしながら、ちょくちょく恐竜騎士団の人に声をかけては、世間話を少しして過ごした。そうこうしていると、案内をしていたはずのドラニオがやってきた。
「どうした?」
「とにかく、ちょっと来てくれ」
 急いだ様子で言うドラニオに連れられていくと、ゲブー・オブインに率いられたモヒカン軍団が殴りこみにやってきていた。
「今日こそてめぇらを追い出してやるぜ!」
 イコンまで持ち出して、戦闘する気満々のモヒカン軍団に恐竜騎士団も恐竜を動かして迎撃の態勢を取る。
「ちょっと待った!」
 と、そこへ姫宮 和希(ひめみや・かずき)が飛び出してきた。
「てめぇもあいつらに肩入れする気かぁ、あぁん?」
「いや、別に」
「じゃあなんで出てきやがった!」
「喧嘩を割って入って止めるなんて無粋な真似はしねーさ。むしろ、ガンガンやってくれて構わない。けどな、殺しはご法度だぜ」
 和希が振り返る。そこには、岩造のツアーにやってきた人達の姿があった。子供も少なくない。
「つーわけだ。もし卑劣な真似や、やり過ぎだと思ったら俺がおしおきしてやる。恐竜騎士団だろうが、モヒカンだろうが関係ない。わかったな?」
 モヒカンと恐竜騎士団に限らず、小さないざこざを拳で解決するなんてのは日常茶飯事だ。そういうのをまとめて喧嘩と呼んで、喧嘩ぐらいじゃここでは事件になったりしない。
 守るべき一線というのがあって、その一線を越えないで自由にやるのがここのやり方だ。困ったことに、この守るべき一線というのが明文化された法ではなく、個々人によってだいぶズレてくるわけだがそれは置いておくとしよう。
 ここに来たばかりの恐竜騎士団は、状況もあったがこの一線を随分と無視していた。それが今でも亀裂として残っているところも少なくないが、なんだかんだ色んなもんを受け入れてきたのがこの大荒野だ。
「てめーら男だろ! もっと本気だせ!」

「おお、盛大にやってるな」
 見通しのいい崖の上から、モヒカンと恐竜騎士団の喧嘩をヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は眺めていた。
 仲良しこよしで手を取って、というのよりも大荒野らしい。よくよく見れば、パラ実生徒会長の姿も見える。喧嘩をはやし立てているようだ。
 遊び半分、監視半分といったところだろうか。まだまだ恐竜騎士団は、全幅の信頼を置けるような相手ではないという事でもあるのだろうが、そのぐらいのツケは払ってしかるべきだろう。
「こんなところにいたんッスか。もう時間ッスよ」
 駆け寄ってきたシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)は、ヴァルが眺めていたものを見て、
「派手にやってるッスね。いいんスか?」
「いいだろう、あれぐらいなら喧嘩のうちだ」
「イコンを持ち出して、恐竜で迎撃して喧嘩っすか」
「両者が納得の上での力比べなら、喧嘩だろう」
「そういうもんッスかねぇ。あ、そうそう、計算終わったんであっちの会計に見せたんスけど、支払えるそうッスよ」
 シグノーが一枚の請求書をヴァルに見せる。記載されている金額は、驚くほどの大金というわけではないが、地味に大きい。
 これは、いくつかの集落で起こった恐竜に家畜が襲われた事件の被害額である。全てが全て、食肉用の家畜というわけではないが、指標として食肉価格をベースにしている。本来ならば、この支払いは賠償金とでも呼ぶのだろうが、集落側との話し合いで家畜は売ったという扱いにすることになった。
 理由は単純で、賠償金だと恐竜騎士団の立場が上のように聞こえるのを嫌がったからだ。その言葉にそんな意味は一切ないのだが、イメージ的なものだろう。また同時に、各集落が彼らに対して対等であると突きつける意味合いもある。
「わかった。で、何の時間だ?」
「恐竜用の食料販売の商談っスよ」
「ああ、そうか今日はそっちだったか」
 恐竜騎士団の恐竜を維持するには、大量の食料が必要だ。本国からの物資もあるが、それで賄いきれていない為に略奪が発生している。その足りない部分を、大荒野で合法的に賄う形にすれば不要な問題の回避にも繋がることになる。
 いざという時の為に作った連絡網を、そのまま商売のルートに利用しているのだ。先日の決定戦によって、賭けの利益を大量に得た恐竜騎士団はしばらくの支払いに困る事は無いだろう。
 ヴァルの役目は、交渉の橋渡しとその用心棒だ。実際の交渉に関しては、本人達に一任して眺めているだけだ。お節介はしているが、当人達の問題なのだから踏み込み過ぎないのも大事なことだ。
「もうみんな待ってるッスよ」
「なら仕方ない。あそこの決着にも興味があったのだがな」
 少し名残惜しそうに、派手な喧嘩を一度を振り返って見て、ヴァルは駆け足のシグノーのあとを普段のペースでついていった。



「プーちゃん元気になってよかったねー」
 決戦でノックダウンしたラミナのプレデターXだったが、命に関わるような状態ではなく僅かな休養ですっかり元気になっていた。
「あ、そだそだ。これ、返してもらうねー」
 師王 アスカは貸していた虹のタリスマンを回収した。状態異常対策兼お守りだ。こうして元気になってくれたのは、その効果があったということだろうか。
「うぅ……何日祝勝会やれば気が済むんですの……」
 一方、死にかけっぽい人も居た。崩城 亜璃珠だ。
「適当に断ればいいのにー」
「帝国の見た事のないお酒の味が気になりまして……それだけじゃないのですけれども……」
 新団長決定戦で優勝したラミナの陣営では、連日祝勝会が開かれていた。亜璃珠が用意した超有名銘柄の日本酒も当然卓に出たが、他にも見た事も聞いた事もない酒も用意された。バージェスの故郷であるというバージャス地方の酒が中心だった。
 そんな中に、時折地雷のような酒が混じっている。アルコール度数が90いくつとかいう、むしろただのアルコールではないかと突っ込みたくなる代物だ。そんなものを、割りもせずにゴクゴク飲んでるので、知らずに同じように飲んで大ダメージを被ってしまう。
「心配したくなる気持ちはわかるけどねー」
「吹っ切れたとは言い切れない様子ですもの」
 あの日から、ラミナは通常営業どころか、あちこちに行っては話をしたりと大忙しだ。この仮の駐留地点に居る時間はめっきり少なくなった。祝勝会に顔を出して、最初は騒ぐが気づくと隅の方で一人でちびちびと飲んでいる。
 もう間もなく、ラミナは一度故郷に戻ることになる。そこまで長い里帰りというわけではないが、その先顔を合わせるのは難しくなる。

「恩赦ね、恩着せがましく言ってくれちゃって」
 びりびりに破いた手配書を、まとめてゴミ箱に捨てながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は先ほどの場面を思い出していた。
 当初の目的であるラミナとの接触と、自身にかけられた指名手配の解除は達成できた。
 言葉を交わして、ラミナ・クロスという人物についての感触も確かめられた。
 策や罠に相手をはめるよりも、真っ直ぐ勝負するタイプの人間だろう。ただ策を使わないというわけでもない。あの決戦にあったいくつかの不自然な場面は、あの決戦の中で何かしらの協定なりが結ばれていなければ説明がつかない。
 一個人のとしての考えよりも、合理的な判断ができる人間ということだ。つまり、交渉の対象になりえる人物である。組織のトップなら当然のように思えるが、これがバージェスが取り仕切っていた頃には不可能だったのだ。
 それは朗報だろう。彼らは帝国の保有する一部隊ではあるが、有事の際に協力とは言わないまでも、行動を制止することぐらいは可能になる。帝国が絡む話になると別だが、これは大きな意味がある。
 そういった諸々の利点は大きい。今回のお祭りは、表向きには価値あるものだったと報告できるだろう。ある一点を除いては。
 それが恩着せがましく、恩赦にすることになったと言ったジャジラッド・ボゴルだ。騎士団の新団長決定戦に参加したあの男は、団長にこそなれなかったがまんまと副団長のポストを手に入れた。
 手配中の身であるあの男が、ここでこうして力をつけていくのは喜ばしい事ではない。一応、副団長の立場はソー・ルマークという男もなっているため、ナンバー2とははっきりと判断はできない。が、そんな事よりも態度が気に食わなかった。先ほどまで指名手配されていたルカルカは、変装してルウと名乗ってラミナに近づいたのだが、その時に奴も居た。
 こちらの変装を見抜いたかどうかは知らないが、まるで挑発するように恩赦の事を説明していた。恩赦してやるぞ、感謝しろ。という態度だった。
「あーあ、なんかケチがついた気分よ……シャワー浴びてからにしよ」
 ここで得た情報は報告する予定だが、今回は別に任務で来たわけではない。だから、ちょっといいお酒を買っておくのは、個人の勝手だ。
 万事うまくいったら開けようと思っていたが、今口にしても存分には楽しめない。
 ちょっとリセットする必要がある。



「今日は客人が多いな……、まぁ痛くて眠れやしないし、気を紛らわすのを手伝ってくれるってならありがたがった方がいいのか?」
 コランダムは部屋に入ってきた一団に、そんな事を言う。
「見ましたよ」
 軽口を聞き流して、紫月 唯斗はコランダムのベッドに近づいた。
「お怪我は大丈夫ですか?」
 続いて、心配そうに紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が尋ねた。
「まあ、死にはしないだろうさ。元通りになるかは、まぁ分の悪い賭けだがな」
「なら素直に病院に行けばいいんですよ。睡蓮に聞きましたが、手当ても受けなかったそうじゃないですか」
 あの時、睡蓮はあの場に居た。その為、生中継を一時ジャックした映像の裏側を全て見ている。
 バージェスが目覚め、契約者と戦いが終わった頃にやってきたコランダムは、単身バージェスに挑み、そして倒された。そこまでは、残しておいた映像で唯斗も確認している。
 映像はそこで終わるが、それからバージェスはコランダムのケツァルコアトルスに乗って、試合会場に向かった。コランダムは、手当てを受けずに部下から恐竜を一頭借り受けて、自身も試合会場に向かった。
 だが結局、たどり着くことなく途中で倒れて睡蓮とその場にいたミネルバ・ヴァーリイと七瀬 歩が彼を回収した。意識は失ってなかったが、手当てはするなとか、戦場につれてけとか、今の様子からは想像できない錯乱状態だったという。
「詳しくは調べてからでないとわかりませんが、アバラのほとんどが折れてるはずですよ。そのままにしたら、どうなるか……死なないにしても、もう戦う事もできなくるかもしれないでしょう」
「いいのさ、これは俺の勲章だ。元に戻らないならそれで構わない」
「勲章ですか。ですが、そうなったら恐竜騎士団には戻れないでしょう」
「大丈夫。もう辞めた。つーか、そんなつまらない話をしに来たのか?」
 あっさりと辞めたと口にしたのに、睡蓮は驚いた。他の団長候補とほとんど接点が無かったのもあるが、彼が恐竜騎士団に強い想いがあったのを感じていたからだ。そこまであっさりと言えてしまうのは、やはり最後に決着を付けたのが大きいのだろう。
「一つ、聞きたい事があるんですよ。バージェスの件です」
 死の病に冒されたバージェスが蘇り、決戦場に現れた。そこで、バージェスはラミナを文字通り叩き起こすと、有無を言わさず襲い掛かった。伏見 明子との決戦のあとのラミナが勝てるわけない相手だ。
「死因は決闘ではなく、病死ですよね。それにしても、面白いように事態が都合よく回ったものです。あの生中継のジャックのおかげで、バージェスが健在であると思わせ、ラミナとの戦いの最中の死で、次期団長の立場を帝国にも納得させることになりました」
 バージェスの病について知るのは、キマクの中でもごく一部だけ。契約者を次々と倒していた映像からは、それを見抜くことは不可能だろう。結果、ラミナは恐竜騎士団だけではなく、あのバージェスを超えたとして選定神の立場も正式に得ることになった。
「いつだって、あのおっさんは俺達の常識を超えるんだ。そうおかしな話でもないね」
「神のご加護ですか」
「おかげで俺の脚本はぶち壊されたがな」
 バージェスの死を隠蔽し、存在しないカードとしてバージェスを利用する。それがコランダムの考えた恐竜騎士団の存続への手段であった。今となっては下策に思えるが、それ以外は手が浮かばなかったのである。
「そんな話なら、他の奴とも何度もしてて飽きてるんだが」
「一つだけ、確かめたいことがあるんです」
 睡蓮の言葉に、コランダムは、確かめたいこと? と言葉を復唱する。
「バージェスさんの願いは、叶ったんでしょうか……恐竜騎士団のために、自ら死ににいくようなことをして、満足できたんでしょうか?」
 戦いの中で死ぬのが、バージェスの望みだった。それは確かに、その通りになった。
 だが恐竜騎士団のために、わざと殺されに行ったともとれるあの行動は、戦いではなく茶番だとも言える。それは、バージェスの望みではない。
 今となっては本人に確かめる術は無い。だから、一番近くにいたであろう彼にその答えを聞きに来たのだ。
「なんだ、お前らあの映像見てないのか?」
「見ましたよ。何度も」
「じゃあ、もう一度見ることだな。あのおっさん、馬鹿みてぇに嬉しそうな顔してるぜ。もともと、誰かのためになんて理由で動く奴じゃねーんだ。最初から最後まで、腕力にもの言わせて好き勝手やって……勝手に死にやがったんだよ」

担当マスターより

▼担当マスター

野田内 廻

▼マスターコメント

 気温が下がって冬っぽくなってきましたね。野田内です。

 というわけで、ひとまず恐竜騎士団のお話は一区切りです。
 楽しんでいただけたでしょうか、そうであるならいいなと思います。

 さてさて、追加されたティラノサウルスはご覧になりましたでしょうか。
既に購入して頂いた方もいらっしゃいましたが、あのティラノサウルスに一つの謎があるのです。
 空、飛べるんですよね、ティラノサウルス。
 契約者のティラノサウルスは空を飛ぶのです。やばい、主にプレデターXの立場がやばい。

 今回追加されたティラノサウルス以外にも魅力的な恐竜はたくさん居るので、こう隙をつくような感じで追加に漕ぎ着けていけたらいいんじゃないかなと思います。
 幸い、恐竜騎士団壊滅とか、撤退という形にならなかったのでチャンスぐらいはまだあるはずですしね。
 さてさて、どうなることやら。

 また機会と縁がありましたらお会いしましょう。
 ではでは