リアクション
○ ○ ○ 「猫耳生えてるの見た時はびっくりしたけど、すげぇ似合ってて可愛かったぜ!」 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、休憩中のアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)を連れ出して、街中を歩いていた。 「康之さん! あれは実は、生えてるんじゃないんです。猫耳かちゅーしゃっていうのを、つけてたんですっ」 得意げにアレナはそう答える。 「そうだったのか……! 獣人化とかとは違うんだな。すげぇ似合ってて可愛かったぜ!」 「あ、ありがとうございます……っ」 照れながら微笑むアレナを、康之も嬉しそうな笑みを浮かべながら見つめる。 「そのメイド服もすっごく可愛いな。ホント似合ってるぜ!」 猫耳はつけていないけれど、アレナは店の紹介もかねて、お手伝い中の執事メイド喫茶のコスチュームである、ピンクと白のふりふりのメイド服を纏ったまま、康之と祭りを楽しんでいた。 「ありがとうございます。ちょっと派手かなと思うんですけれど、可愛い服だと思います」 「日本はあぁいう店ばっかりらしいけど、どんだけ再現されてたんだ? やっぱり本場の人間が『再現度高ぇなオイ』って言うくらい?」 康之の言葉に、アレナは小首をかしげる。 「ん……どうなんでしょう? 日本にはほとんど行ったことないので、わからないです。そういうお店ばかりなのですね。私ももっと優子さんの故郷のこと、勉強しないと、ですね」 「そうか、そうだな、優子さんに聞くのもアリだったよな! 何か言ってたか? 本場の人だから、『完成度高いな』とか唸ってたり? それとも、地球に居た頃は普通にあぁいう服着てたとか?」 「ど、どうなんでしょうね……。メイド服姿は、また見せてないです、けど。多分、見るのは好きだと思います」 「着るのは……ううーん、想像できねぇな。そんな優子さん……アレナは想像できるか?」 康之がそう言うと、アレナもううーんと考え込んで、首を左右に振った。 「優子さん、百合園の前の制服も着たことないですし」 以前の百合園の制服は可愛らしいメイド服のような制服だった。 優子はアレナが知る限り、その制服を一度も纏ったことがないという。 「なら、実際やってもらうのもアリか!」 と言った後、厳めしい優子の顔を思い浮かべて、康之は苦笑する。 「……やっぱりダメか?」 「ダメだと思います」 アレナはふふっと笑みを浮かべた。 「それじゃ、つけるかどうかは自由ってことで、優子さんに土産の猫耳を買おう! っと、日本文化を広めてくれている、ゼスタさんにも何か買って行こうな!」 「はいっ」 はぐれないようにと、アレナの手を引いて、康之は出店やヴァイシャリーの協賛店を見て回る。 「……他に行きたいところ、あるか? 今日はもう無理かな」 「今日はもう十分です。あと夜ちょっと、夜景を見たいですけれど……危ないので、優子さんと一緒に行けないようなら、やめておきます、ね」 休憩時間はあっという間に過ぎてしまい、あと数分で店に戻らなければならない時間になっていた。 「楽しかったです。ありがとうございました。お店にも顔を出してくださいねっ、日本のお店の文化を学ぶいい機会ですから」 「そうだな」 康之は微笑む彼女に微笑み返すけれど。 彼女の心の中が、複雑な状況にあることを、康之は知っていて。 (心ン中にある辛いもの、不安なものは全部取っ払いてぇし、できる事なら全部、無理なら半分もでいい。俺がかわりに背負ってやりてぇ) そう思いながら、彼女を見るけれど、アレナはにこにこ笑みを浮かべているだけで。 辛さも、悩みも何も語らなかった。 「それじゃ、優子さんとアレナ……そして、ゼスタさんもだな、3人が喜んでくれるようものを、差し入れとして持って行くぜっ! 期待していいぞ」 「はい! 楽しみにしています」 繋いでいた手を離して、アレナはぺこりと頭を下げた。 「それじゃ、行ってきます」 「また後でな、アレナ!」 「はい」 いつもと同じ笑顔を浮かべて、アレナは店の方へと戻っていった。 康之は笑顔で手を振って、アレナを見送る。 アレナの前では決して笑みを絶やすことなく。 彼女が抱えている辛さを紛らわせることが出来るくらい、楽しい思いをさせようと。 努めて明るく振る舞っていた。 「また、後でな……」 小さく呟きながら、振っていた手を降ろして握りしめる。 拳が、軽く震える……。 唇をかみしめて、パワーを呼び起こして。 「好みが違いそうだからな、迷うぜ〜!」 頬をぱしぱしっと叩き、康之は差し入れを探しに、祭りに戻っていく。 |
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