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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第三章 情報戦5

【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月8日 10時49分】
 葦原国葦原城 ――



 扶桑の都での混乱は、葦原国にも伝え知るところとなっていた。
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は再び葦原国国主葦原総勝(あしはら・そうかつ)の元をたずねていた。
 優斗はあらためて助力を請いたいといった。
「総勝さんは未来の僕たちの存在をご存知のようですから、率直に言いますね。総勝さん、貴方の宿願であるシャンバラ王国の復活は一千五百年後に叶います。そのとき、葦原はマホロバとシャンバラの間に立ち、友好な関係を築いています。心配させることはないんです」
「おお……おお、それは誠か」
 総勝は感激したように優斗の手を握った。
「ええ。そして、その未来を守るために僕たちはここに来ています。過去で何かか起こるということは、未来が変わるということ。その一つに1188年葦原城攻めがあり、葦原国国主――つまり追い詰められた総勝さんは自刃します」
 優斗はこわばった総勝の顔色を伺いつつ続けた。
「ここからが肝心です。この話をするのは、僕は総勝さんに生き延びてほしいからです。僕の弟が1年後、総勝さんを助けにいくでしょう。そのとき、自刃したフリをしてほしいのです。血糊を仕組んだ玩具の刃で芝居の練習をしておいてください」
「おじいさま」
 葦原祈姫(あしはらの・おりひめ)は総勝の背に隠れながら、心配そうに祖父を見つめている。
 好敵手であった武菱大虎(たけびし・おおとら)が死去し、武菱氏が滅んでからというもの、気が抜けたのか総勝はすっかり老け込んでしまった。
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が言った。
「総勝殿が生き残った事実を確定させれば、御筆先(おふでさき)にある1190年の崎ヶ原の合戦での鬼城の敗北うをひっくり返すこともできるかもしれない。御筆先を使われる祈姫殿ならば、その意味の重要性がお分かりいただけるでしょう」
 鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)がぽつりと言う。
「崎ヶ原の合戦では……鬼城貞康(きじょう・さだやす)は鬼鎧(きがい)の旗本と供に戦って勝利したと記憶している。その鬼鎧は葦原によってもたらされたもの。葦原の役割は鬼城家にとっても重要なのだ」
 総勝はそれらを黙って聞いていた。
 彼等のいうことは正しい。
 しかし、総勝もまたこの戦国乱世を生き抜いてきた武将の一人として、譲れない武士魂をいうものがあった。
 国を滅ぼして主が生き延びるなど、到底考えられないことであった。
「おぬしたちの諫言、総勝肝に銘じて参る。ただ、そのときが来たら決めるのはわし自身だ」
 総勝の申し出は優斗には受け入れられないものだった。
「それでは、また歴史が変わってしまうかもしれない。僕たちは御筆先とマホロバに残された史記の情報をを頼りに過去へ介入しています。都合よく書かれていたり、改変されているかもしれないのです。だから僕は、僕たち自身が今後の活動ができるように手を打っておくんです。これもその一つです」と、優斗。
「そこまで気付いているなら、もうわかっておるだろう。おぬしたちの力がどれほど強力なのかを。『月の輪』をくぐったものが観測した歴史、が真実として確定するのだ。決してわしら側にあるわけではない」
 総勝は興奮した様子で語気を荒げた。
「わしらはおぬしたちに観測されているに過ぎない。自らの意思ぐらい、自分で決めさせてくれ……頼む」
 歴史を改竄しようとする『見えない敵』は存在している。
 しかし、それと同じようなことを、『月の輪』をくぐったものが行おうとしていると、総勝は言おうとしているのか。
 祈姫は、すっかり気を弱らせている総勝にかける言葉が見つからなかった。
「それでも俺は、総勝さん何とかしてくれるんじゃないかって信じてますけどね。東へ……逃げるといい。そんときがきたら。」
 沖田 総司(おきた・そうじ)はふとそう言葉を漏らした。
 総司は東へ行けば再起はあると信じていた。
 いつも――懐かしい故郷は東にある。
 英霊の記憶がそうさせているのか、彼自身も良く分からない。
「総勝殿、私からもお願いいたします。1188年の6月にこの書簡を読んでください。必ず、葦原の危機に光明を見出せることでしょう」
 息も絶え絶えで龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が手紙を差し出す。
 鬼鎧ダイリュウオーは質(しち)として葦原城に置いていた。
 境(さかい)の山路からここまで必死の行程であった。
 そこにいる孔明の姿を見て、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は「これは三つの袋の策だ」と言った。
「三つの袋……? ああ」
 孔明は理解したようだ。
 自分と同じように、先手を打って仕込んでおくというのだろう。
「一年後に、明らかになることでしょう」