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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第三章 情報戦2


【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月3日 21時49分】
 瑞穂国瑞穂城――



 瑞穂城に先行しているものがいた。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)である。
 彼は忍(しのび)ではない。
 しかし、真人は忍顔負けの行動に出た。
「これは情報戦である」
 と、真人は言った。
「本之右寺後、最有力者には瑞穂国主瑞穂魁正(みずほ・かいせい)ではなく、羽紫秀古(はむら・ひでこ)になってもらわなければ、後の時間に影響が出てしまう。……何が何でも瑞穂側に『本之右寺の変』を知られてはなりませんね」
 真人はどの時点で魁正が情報を手にするかを考えた。
「と、おそらく講和後……魁正が放った密偵か何かのはずです。それを妨害することができれば、魁正が講和を破棄する判断材料はなくなる」
 真人はすでにセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)トーマ・サイオン(とーま・さいおん)とともに、魁正の居場所を探らせていた
 相手に気づかれることなく近づく。
 それが第一の関門であった。

卍卍卍


「忍びを雇ってはくれないかねぇ。 俺なら賃金以上の役に立ってみせるが?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はわずかな明かりを頼りに筆を動かしている瑞穂国主に問うた。
「侍は沢山いるが忍びの数は足りないみたいだし……きいてるのか魁正?」
 瑞穂魁正(みずほ・かいせい)はようやく顔をあげた。
 唯斗がたずねる。
「何を書いてたんだ」
「日記だ」
「日記? ああ、へたくそな字……じゃない、達筆なやつか。なんて書いたんだ。読めないじゃないか」
「人に読ませるために書いてるんじゃない。それとも何か。そんなに他人の日記が気になるのか」
「ああ、別に――暇だからさ」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に頼んで、魁正の日記を解読させようとしていることは、本人には内緒にしておこうと思った。
「だから仕事をくれ。諜報なら喜んでやろう」
 瑞穂城は、秀古の策略により湖水の城となっている。
 水による兵糧攻めである。
 秀古の出してきた条件は、瑞穂領内の十一カ国のうち五領と引き換えに水攻めを解くというものである。
 魁正にとっては到底受け入れられるものではなかった。
 かといって、今の魁正に余裕があるわけではない。
 そんな折、羽紫から使者がやってくるという。
 講和に向けての話し合いを船上で行いたいというのだ。
「何を考えている、秀古」
 魁正は秀古と一時期行動を共にしたことがあった。
 隙のない切れ者で、織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)とはまた違った恐ろしさをもつ者だと思った。
「いいじゃないですか。これぞ渡りに船ですよ」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が魁正を促した。
「相手がどのようなことを言ってくるのか。先に情報を制したほうが有利ですよ。ねえ、唯斗兄さん」
 唯斗も声なくうなずいた。
 何よりも魁正を見張っておく必要があった。
 未来の瑞穂で生きる女子供のために、ここで復讐鬼を作り上げてはならない――。
「あともう一人馬鹿野郎がいた。あいつの目も覚まさせてやらないとな」
 唯斗はふらり立ち上がると部屋を後にする。
 睡蓮もそれに続いた。


【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月4日 9時49分】
 瑞穂国瑞穂城――


 翌日――
 羽紫秀古(はむら・ひでこ)軍側から小船が瑞穂城へ向かっている。
 葛葉 明(くずのは・めい)レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)を乗せたその船は、湖面の中ほどで止まると、瑞穂国国主瑞穂魁正(みずほ・かいせい)と引き換えに城内すべてのものの命を保証すると告げた。
「これが羽紫側からの講和の条件だ」
 この条件が難しいことは彼等にもわかっている。
 魁正の性格からいって、素直に降伏するとは思えない。
 しかし、秀古はそう思ってはいなかったようだ。
「瑞穂魁正殿は鈍感ではない。むしろ鋭敏な方だ。幸か不幸かのう――」
 そう意味ありげな台詞を漏らして秀古は彼等を送り出した。


「魁正様、この講和どうぞ冷静に。急いてもあなたの望む天下は遠のくばかりですわ。それどころか、香姫様のご遺志も遠くなるばかりです」
 明智 珠(あけち・たま)が瑞穂家の元腰元として小船に乗り込もうとする魁正を訪れていた。
 珠は、扶桑の都のすぐ傍で起こったという本之右寺の変を知りつつも、再び時を越えてきた。
 日本の歴史と似たマホロバの歴史に親近感を覚えつつも、明智という英霊になる前の記憶をたどると複雑な心境である。
 それでも、それだからこそ彼女は、カトリーン・ファン・ダイク(かとりーん・ふぁんだいく)とともに『鬼の仮面』を追っていたのだろう。
 歴史を元に戻したいという気持ちがあった。
「仮面は魁正様の鬼に対する執着を利用してるんだわ。でも、香姫『弱者を力でねじ伏せる天下』なんて望んでなかったはず。あなたが兄としてしてやれることは、その香姫の願いを継ぐことです」
 カトリーンも仮面の鬼の魔手から香姫を救ってやれなかったことを悔やんでいた。
 自分たちができることは、香姫のかわりに魁正を見守ることしかなかった。
 もし、魁正が道から外れるようなことがあれば、香姫に代わって進言するしかない。
 魁正は香姫のこととなると口をつぐんだ。
「あれは俺が悪いのだ」
「また……ご自分を責めないでください。私は魁正様に思い出してほしいのです。香姫が話していたことを。葦原祈姫(あしはらの・おりひめ)のことをいってたでしょう。もし、祈姫のことを思うなら葦原とも同盟国としやっていけるんじゃないかしら」
「俺は祈姫のことは知らない。何の感情もない。戦国の慣わし同然に政略婚があるというだけだ。そうしてみれば、葦原の姫君として生まれついた祈姫も不幸なのかもしれん」
「そう思われるのでしたら、ぜひお考えください」
「……考慮はしよう」
 魁正は小船に乗る。
 珠はすぐそばに駆け寄り、顔を近づけて言った。
「くれぐれもお気をつけくださいませ。決してお心を惑わされることのないように。それが『鬼の仮面』だったときは、とくに周囲の者にお気を配られませ。魁正様の考え方、気持ち次第で歴史が変わってしまう。そんな影響を与えかねません」
 カトリーンと珠は不安な気持ちを抑えながら、小船を見送った。
 彼の妹に代わって見守ると決めたのだ。
「いざというときは……異国の教えでもいい。貴方のお心に安らぎがもたらされますように……」