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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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 その戦闘の最中、二人のナッシングが、それぞれ、ふと何かに気付いた仕草をした。
「どうした?」
 訊ねた早川呼雪に、
「糸が、切れた」
 と言った。
「糸?」
「耳の、糸が切れた」
「耳?」
「セルウスを、探していた」
「まだ他にも、ナッちゃんがいたってことかな……?」
 ヘル・ラージャが囁く。

「それで、どうしますか?」
 もう一人のナッシングに、天樹十六凪が訊ねる。
「それで、どうする」
 じっ、とナッシングは十六凪を見た。
 ふう、と十六凪は肩を竦める。
「……そうですね。
 色々と出遅れているようですから、ここは向こうの動きが解ってから決めるのが、基本ではないですか」
 ナッシングは頷いた。
「向こうの動、きが解って、から、決める」



 その発見は、まさしく僥倖だった。
 配下の兵と共に馬を走らせ、セルウスを捜索する一派。その進む先で、馬はユニコーンを降りる。
「昭烈帝陛下!」
 一派の先頭にいる者が、兵達を抑えて止まり、馬超を見た。
「昭烈帝陛下……!
 まさか再び拝謁できる機会に恵まれるとは、この馬超、歓喜の極み!」
「おお。あなたでしたか」
 劉備は、相手が誰かを知り、笑みを浮かべて馬を降りた。

「横山ミツエの使者とやら!」
 ラブ・リトルがずずいと馬超の前に出る。
「残念ながら、無駄足だったわね。セルウスは既にあたしのしもべとなりもがっ!」
 そこでラブは口を押さえられ、コア・ハーティオンに引きずられて、もがもがと下がって行く。

 二人、それを見送った後、彼は馬超を見て笑った。
「壮健そうで何よりです」
「陛下の下で戦ったあの頃には、まさか陛下が曹操と肩を並べる日が来るとは、夢にも思いませんでしたが……」
「確かに」
と劉備は笑む。
「時は移ろい、世界は変わりました。
 我々の時代は終わりましたが、まだ、人の世で生きる猶予は残されているらしい」
「時に、陛下……かの少年、セルウスのことなのですが」
 馬超は、劉備の説得を試みる。
「彼は若き日の陛下の如く、今は各地を巡り己が才を磨いている最中。
 差し出がましい意見ながら、更なる成長を信じ、今は在野に、という育て方も、ひとつの手と考えます」
「……それは、ミツエが判断するでしょう。
 ミツエに力を貸すと決めた以上、私はミツエを裏切ることはできない。あなたが仲間を決して裏切らないように。
 彼を見付けたら、捕らえます」
「…………」
「ですが、時は既に遅かったようです」
「え?」
「先程、かの少年が仲間と合流したという報を受け、我々は、ミツエのところへ帰還するところでした」
「何と……?」
「ミツエは不要の諦めを選択しませんが、見苦しく往生際の悪い選択もしないでしょう。
 これは、無駄になってしまいましたね」
 劉備は、ミツエから預かったドワーフの宝を取り出す。
「セルウスを釣る餌とするよう、預かったのですが。
 ミツエはこれには興味がないようです。あなたに預けましょう。
 セルウスに渡してください。健闘を祈る、と」
「陛下……!」
 劉備からドワーフの宝を渡され、馬超は頭を下げた。


「セルウスは逃がしたか。それもまた一興」
 曹操は、配下の報告を、特に残念がりもしなかった。
 彼は本当は、何を望んでいたのだろうと、夏侯はふと思う。
 ミツエの好きにすればいい、というのが彼の“意見”だった。
 部下という位置付けにありつつも、彼はむしろ親か祖父のようにミツエの成長を見守っている節がある。劉備もそうだ。
 だが、もしもミツエではなく彼の“望み”が優先されるとしたら、彼はどうしたいと思ったのだろう。
「淵」
 曹操は、クトニウスを淵に投げ渡した。
「殿?」
「相応しきと思う者に託せ。
 我々には必要無き物。ミツエと共に有ったら、喧しいと叩き壊すであろう」
 曹操は、そう言って笑い、馬に跨る。
「また会おう」
「ご健勝で」
 クトニウスを手に、淵は去って行く曹操を見送った。


◇ ◇ ◇


「それじゃあね」
「そっちも気をつけろよ!」
 黒崎天音や雪国ベアが、残るトオルに言い残す。
 よろしくお願いします、と、ソアはヨハンセンに挨拶してある。
 飛空艇が、地表ギリギリに高度を落とした。
 敵の目を欺く為に、見通しの悪い場所が選ばれたが、ヨハンセンの腕は確実だった。
 船に待機していた御凪真人達が、ドミトリエと共に地上に降り、セルウスと合流する。
「土産待ってるな〜」
 送り出すトオルが手を振って、飛空艇は再び上空へ。
 コンロンへと進路を取った。



 合流場所で密かに待機しながら、大熊丈二とパートナーのヴァルキリー、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)は、セルウスとドミトリエに渡す為の、コンロンの簡単な地図を作っていた。
 電源が無い時の為と、教導団で所有する地図をそのまま渡すのは問題があると考えてのことだ。
 濡れても大丈夫なように、丈夫な羊皮紙に、簡単な地形、地名、道路などを書き込む。
「町や主要地形には、記号を書き込んでおくのはどう?」
 ヒルダが提案した。
「記号で言い合うようにすれば、暗号になるでしょ?」
「成程」
 と、丈二は、ミカヅキジマ、と書いた下に「S2」と表記を加える。
「あ」
 その時、信号弾が放たれた。ドミトリエに渡しておいたものだ。

「よかった、無事に合流できたのね」
 セルウスの姿を見て、ヒルダがほっとする。
「準備は?」
 丈二と合流したドミトリエ達は、休む様子もなくそのまま、先を進もうとする。
「これを」
 丈二はドミトリエに、地図を渡した。
 受け取ったドミトリエは、念の為にとそれをスマートフォンで撮影した後、ポケットに入れる。
「ありがとう」
 セルウスは、物珍しげに暫くそれを眺めた後で、同じようにしまいこんだ。
「さあ、行こう」
 一行は、コンロンを目指す。
 ヒルダは、上流を見て、ふと微笑んだ。
 以前コンロンに行った時は、西王母を見に行くことはできなかった。
「でも、ついに念願叶うのね。待ち遠しいわ……」