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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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sedecim 戦端・対ミツエ
 
「ミツエめ、目先の利益に走って本質を見失ったな」
 ジャジラッドはせせら笑う。
「ミツエの真価は、乙王朝開発イコン、『饕餮』を操縦した時にこそ発揮される。
 あれを伴わないミツエなど敵ではない」
 ましてや、それは四人揃わなければ100%の威力が出ないのだ。
「恐竜騎士団副団長の名前で、傭兵や暇な団員を集めましたわ。それなりの私兵集団が出来ましてよ」
 パートナーの魔女、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が首尾を報告した。
 勿論、恐竜騎士団と乙王朝との全面戦争に発展しないよう、表向き、恐竜騎士団の名前は出さないよう計らってある。
 ミツエは既に、軍勢の襲撃に備えていた。だが、それも計算の内だ。

「恐竜騎士団第四十八の型・ラミナの接吻!」
 ジャジラッドの叫びと同時に、ジャジラッド勢からミツエ勢へ、アルキメデスの投石機によって、雨のように次々と投げ込まれるそれは、恐竜の糞だった。
 ミツエは火のように怒る。
「このあたしの兵に何って作戦を……!!!!
 誰だか知らないけど、そいつ一生彼女ができないわよ!!」
 作戦を考えた相手に恐ろしい呪いの言葉を吐くと、糞まみれになって動揺する兵に、ミツエはすかさず指示を出した。
「敵の範囲内の兵は全員、装備を捨てて撤退っ!
 ただし此処から100メートルのラインより戻ったら殺すわよ! 孫権、フルパワーで嵐の使い手!」
「はあ!? おま、装備丸裸にさせた味方に範囲攻撃をする気か!? 嵐の使い手だって!?」
「うっさい、さっさとやる! 大は小を兼ねる、よ。洗ってやろうって言ってんじゃないの!
 それともあの状態で敵に突っ込ませて巻き添えにして、泥沼のぐちゃぐちゃにしてやる方がいい?」
 それはあまりにも憐れだ。味方の兵が。
 孫権は配下達に心から同情する。
「どうせあんなの、無限弾数のわけないわ!
 敵陣も巻き込んで暴風叩き付けてる間に、無事な兵は範囲外から敵を包囲! 第三勢力の動きは?」
「西から近付いてる」
「じゃあ北側から西へ追いこんで。その間に洗った兵は戻して、向こうの出方を見て臨機応変っ」
「了解」
 皆、生き残れよ、と心の中で語り掛けて、孫権は配下の兵に、嵐の使い手を命じた。



「今回の作戦は、中原の覇者にして帝国に忌み嫌われているミツエを止める!
 パラ実側との交戦も手段に含む。各員戦闘準備。相沢飛空艇小隊! 発進!」
 パートナー達に指示を出し、相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、この戦闘の頭上を越えて、軍勢の最後方で采配を振るうミツエに直接攻撃を仕掛けた。
「各員攻撃用意! 私は強襲を仕掛ける。それを合図に全機突撃せよ!」
「ご武運を」
 パートナーの魔女、乃木坂 みと(のぎさか・みと)が、援護の為に後に続いて高度を下げる。

「へえ。あれがあの、中原の覇者、横山ミツエかあ。歴史の授業で習ったけど。
 傲慢にしてわがまま、部下の制止を聞かず、無理矢理ハーレムを作り、部下の孫権が反逆したんだっけ。
 ここが分水嶺みたいだね」
 未来人、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)の存在した世界では、そういう歴史になっていたようだった。
 今が、歴史に介入するチャンス。そう感じる。
「劉備や曹操は居ないのか。僕が知ってるあの人達の未来を教えてやったのに」
 洋孝は、小型飛空艇アルバトロスで上空に待機し、機を窺う。
 勿論それは、“この世界”の未来ではないかもしれないが、混乱を煽るには充分だったろう。

「無理無茶無謀な敵陣強襲単独飛空艇降下攻撃。
 自殺行為と言えますが、ブレイブならではの特殊攻撃ですね。特殊能力は使ってみたい……わかります。以上」
 ミサイルポッドの装備された小型飛空艇ヴォルケーノに乗った剣の花嫁、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)がそう呟く。
 洋は途中で小型飛空艇を乗り捨て、身一つで飛び降りて、ミツエに突っ込んだ。
「必殺・メテオストライクアタック!」
 酒杜陽一が渡したタリスマンの、禁猟区の反応を待つまでもない。
 落ちて来る洋に気付いたミツエ達は、後退して距離を置く。
「そんな解り易い攻撃、食らうわけないでしょ!」
 孫権が前に飛び出し、その攻撃を受け止めた。
 セルウスとのパートナー契約を密かに阻止しようとは思っていても、流石に、ミツエへの攻撃を許すわけにはいかない。
「久しいな、横山ミツエ」
「誰よ」
 パワードスーツでフル装備した洋の顔は、ミツエには判別できず、即答で訊ねる。
 見えていても同じことを言ったかもしれないが。
 言い捨てたミツエを、洋は睨んだ。
「やはり貴様は乱世に相応しき戦乙女よ。
 大帝のパートナー候補のうちにパワードレーザーで消し飛ばしておけばよかったと思うぞ」
「あなたにそれができなかったから、今もあたしは健在なのよ」
 挨拶の後で、洋は上空のパートナー達に攻撃を指示する。
「銃剣! 突撃!」
 みとと洋孝、エリスが、洋の巻き添えも構わずに、上空から援護の攻撃をして来る。
 それに乗じて突撃して来た洋の攻撃を、孫権が凌いだ。ミツエの前には、陽一が出る。
「貴様が邪魔をするか!」
「するだろ、ここは」
 孫権の下手からの突きの一撃を、洋は辛うじて躱し、退く。
「セルウスは教導団が預かる」
 ミツエを見て、そう宣言した。
「あら、教導団が動くなんて初耳ね」
「現在セルウスは、シャンバラ側に入国している以上、保護する責務がある。
 邪魔するなら殲滅する。これは理解できるよな?」
「悪いわね、できないわ。大事の前の小事って言葉知ってる?」
 内容以前にそもそもミツエは、洋の言葉自体に耳を貸す気が無いらしい。吟味以前にあっさり断る。
「図に乗るな、ミツエ。
 勝手にセルウスをパートナー化するというのであれば、孫権あたりが反乱を起こすかもしれんなあ」
「はあ? 孫権?」
 何でそこでそんな話が出てくるのよ、と、ミツエは孫権を見る。
 ば、馬鹿っ! と孫権は慌てたが、辛うじてその動揺を表情に出さずには済んだ。
「部下を切り捨てる覇者に栄光の道なんぞ無い!」
「てめえっ……」
 黙れとばかりに、孫権が攻め込む。
 部下を大事にすべしという内容でありながら、その実、孫権を疑えと言っているようなものだ。
 洋は孫権の攻撃を防ぎ切れないと判断し、ここが引き際と判断した。
「みと、エリス、援護! オレイは放棄、撤収!」
 上空からの援護に乗じて、洋は後退する。
「追うな。ほっとけ」
 後を追う王朝配下の兵に、孫権は投げやりに言った。

 そんな孫権の背後から、ミツエが忍び寄る。
「そんけん〜?」
 ぎくり、と、その声音に孫権の肩が震えた。
「あなた何か企んでるの?」
「誤解だ。あんな敵の言うことに惑わされんなよ。あれはこっちの混乱を誘う出任せだぜ!」
「そうだろうけど、火の無いところに煙は立たないじゃない。
 大体、あなたってところが妙にリアルなのよね」
 ミツエは、じっと孫権を睨む。
「あたしがセルウスをパートナーにしたら、自分は待機に回される、とか思ってんじゃない?」
 ぎく。
「だから裏でセルウス側と組んでたり」
 ぎくぎく。
「だってあなた他の二人より今いち知名度が低いもの。
 三国志読んでない日本人でも、劉備と曹操の有名所なら何となく知ってる人多いけど、『孫権? 誰それ』てな感じじゃない?」
 ぐさぐさぐさ。
「ミ、ミツエ、あのな……」
「そこまでにしてあげて、ミツエ! 彼のライフはもうゼロよ!」
 酒杜美由子が、孫権をフォローする。
「……携帯見せなさい」
「は?」
 手を出したミツエに、孫権は青くなった。
「ミツエ、それはプライベートだぜ!」
「そうね。何かあたしも今、彼氏の浮気を問い詰める女みたいで寒かったわ。これはやめとく」
 ミツエはあっさり引き下がる。
 この話はそこで終わったが、これで、下手に動くことはできなくなった、と孫権は思った。
 今も小鳥遊美羽からのメールが携帯に入って来ているが、ミツエの前では携帯をいじらない方がよさそうだ。
 悪い、と、心の中で謝った。



 ジャジラッドの攻撃で下がった軍勢と入れ替わって、ミツエの軍の後方の一派が回り込んで来る。
 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)相田 なぶら(あいだ・なぶら)達は、それに応戦して戦った。
「やれやれ。キリアナが居ないとは」
 キリアナに興味を持って、此処まで付き合いで来たルファンのパートナー、長尾 顕景(ながお・あきかげ)は、つまらなそうに言う。
 キリアナは、ミツエとの戦いを避ける為に後方待機だ。
 各自が手分けするところで、二人はキリアナとは分かれ、敵の足止めを引き受けてこちらに来たのである。
「協力する、と言ったのじゃから、仕方なかろう」
 顕景に巻き込まれた形で共に来たルファンが、既に飽きている様子に苦笑する。
 無論、キリアナが居たとしても、遅かれ早かれ、飽きることには変わりないのだろう。
 敵の攻撃をのらりくらりと避けながら、適当に魔法攻撃などしていたがやがて、やはり、「飽きた」と言い出した。
 止めても無駄だと解っているので、ルファンも付き合って辞めることにする。
「キリアナのところまで引くか?」
「ふむ……どうするか」
 時間を稼ぐことは、ある程度したと思うので、ここまでと二人は撤退することにした。

 一方、なぶらの方も、半ば投げやりの様子だった。
「全く、もういい加減にして欲しいよね」
 第七龍騎士団の一員としては、帝国の依頼を無視はできない。
 任務の責任者が別番隊の隊員でも、コツコツ武功を上げて行こうと思った。
 なのに、セルウスは散々逃げ回り、色々な人が彼に見方して、もう面倒くさいといったらない。
「しかも、また新たな勢力が出てきたみたいだしさ。
 捕縛に駆り出されるこっちの身にもなって欲しいよね。いい加減捕まってくれないかな、本当」
 いや勿論、此処まで来たのは自分の意志だけどさ。それでも。
「何をブツブツやさぐれているのですか、なぶら」
 パートナーのヴァルキリー、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)が呆れる。
「下っ端なのですから、雑務を引き受けるのは当然のことでしょう。
 ほらほら、大軍相手の立ち回りなんて、滅多にあることではありませんよ。
 これも修行、今後の糧と思って頑張りましょう。
 さあ、今回はこっちが主導権持ちますよ、切り込みます、ついて来なさい」
 言い放つと、フィアナは魔剣を掲げて走って行く。
「フィアナ!?
 そんな闇雲に突っ込んで行くなって! ああ、もう、しょうがないなあ……」
 と、なぶらも後を追う。
「仕方ない、平団員は平団員らしく、雑魚敵の相手でもしてますか」
「誰が雑魚だあ!?」
 背後の敵を振り向き様に斬り捨てて、猛然と戦うフィアナの後ろに付き、彼女のフォローに入った。
「叫びながら襲い掛かってくるなんて、雑魚の証明でしょ」



 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、ミツエが乙王朝の本拠地を空けている今が、叩くチャンスだと思った。
 S級四天王として、大勢の配下を引き連れ、本拠地を目指す。
 これでミツエがこちらの動きを知り、セルウス争奪の場から撤退して戻ってくれば、それを迎え撃つし、キリアナも優位に動けるようになる。
 そうならなければこのまま拠点奪取して、乙王朝を衰退させればいい。
「叩き潰すぜ、乙王朝!」
「ミツエがキリアナからカツアゲした100万ゴルダ、ぶん取ってやる!」
 パートナーのゆる族、猫井 又吉(ねこい・またきち)も叫ぶ。
 無論取り返した後、それはキリアナの懐に戻るのではなく、自分のパラ実四天王活動資金として活用させてもらうつもりだが。
 王朝という軍閥を維持するには、相応の軍資金かお宝を有してあるはずである。
 襲撃したら、トレジャーセンスでそれらへ探し出して奪ってやろうと、又吉の目は輝いていた。
 いや、これは王朝の資金源を断つ、という、乙王朝を潰す為の純粋な作戦なのである。

 武尊は手下を蜂起させ、乙王朝の本拠地を襲撃させた。
 だが、本拠地は空ではなく、王朝の控え部隊が予想外に手強かった。
「又吉。ミツエの方はどうだ?」
 仲間へ、テレパシーで繋ぎを取る又吉に訊ねる。
「ちっ!」
 又吉は舌を打った。
「ミツエは戻って来ねえ。だが龍騎士団が丸々戻って来る」
「龍騎士団だと?」
 背後から挟み撃ちにされる形になる。
 龍騎士団員とは言え、その九割は従龍騎士なのだが、それでも一割は龍騎士だ。
 一割いれば充分を越える、精鋭中の精鋭である。
「どうも、既にこっちに向かってたらしくて、到着が間も無いぜ!」
「ちっ」
 分が悪い、と判断せざるを得ない。
 舎弟達から、無駄に死傷者を出すわけにはいかなかった。