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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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 セルウス発見の報せを受けて、小鳥遊美羽コハク・ソーロッドはそれぞれジェットドラゴンとレッサーダイヤモンドドラゴンに騎乗して、すぐさまに現場に駆けつける。
「おかしいな、孫権と連絡がとれなくなっちゃった」
 傍ら、腕時計型携帯電話を見下ろして首を捻り、何かあったのかな、と、美羽は案じる。
 騒ぎを聞きつけた乙王朝のパラ実生達が集まってくる。
「まず、数を減らすよ! セルウス達は、逃げて!」
 ミツエのニ胡を取り出しながら、美羽は叫んだ。コハクは耳を塞ぐ。
 ニ胡の伴奏で、美羽は子守唄を歌った。
 多くのパラ実生達を眠らせて、彼等を足止めする。
 無論、これで全員を止められるとは思っていない。美羽とコハクは、残ったパラ実生達に突っ込んで行った。



「セルウスが見付かった! 他の仲間達と合流したって!」
 連絡が入り、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が、パートナーの英霊、織田 信長(おだ・のぶなが)に叫んだ。
「無事じゃったか」
 信長もほっとして笑う。
「俺達も行こう」
「セルウス達の現在地は何処じゃ?」
「合流はしたけど、ジェットドラゴンで、小型飛空艇と追いかけっこらしい。
 引き離すまでは合流地点に行けないから、あちこちだ」
 信長の問いに、携帯をしまいながら忍は答える。
「ふむ。
 ならば、ミツエ達やキリアナ達の勢力との争いを利用するしかあるまいのう。
 三勢力の睨みあう地点へ行こうぞ」
 セルウスが、再び捕まることのないよう、手を貸してやりたい。
 二人はセルウスの居る場所へ急ぐ。



 追手が増えていた。
 キリアナに協力するセルウス捜索者達も続々合流しつつあったし、ミツエ配下のパラ実生などは、既に暴走族のような状態になっている。
 独特の叫び声と独特のクラクション音と共に、パラ実の改造バイクが、セルウス達のドラゴンを追った。
「早いよ!」
 セルウスが振り返って叫ぶ。
「ちっ、改造を重ねてやがるな!」
 そこへ、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)とパートナーの獣人、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が、前方から回り込んでセルウス達に追いついた。
「大変なことになってるわね!」
「済まんが、一旦任せてええか!? 俺は目立ちすぎたけえ!」
 翔一朗の叫びに、霜月が、クコの運転する軍用バイクの後ろから飛び降りた。
 そこにセルウスが飛び移り、翔一朗はドラゴンの向きを変える。
「また後でな、セルウス!」
 先に逃げてドミトリエ達と合流する、とセルウスと話は決めてある。
「うん!」
 クコのバイクはそのまま走り去り、翔一朗と霜月は、バラ実生達と対峙した。
「ミツエさんの配下の人達ですか。
 戦うのは本意ではありませんが、無理やり拉致しようとするのを、黙って見ているわけにもいきませんね」
 霜月が、刀の柄に手を乗せる。
「抜かんのか?」
 翔一朗が訊ねた。
「言っとくが、説得の効く連中じゃないぜ」
「そのようですね」
 会話はそこで終わった。走るバイクから飛び降りながら、パラ実生が襲い掛かってきたからだ。
 セルウスの捕獲を優先させるべきなのだが、ノリで熱くなっているのだろう。
 霜月が抜いた刀は、相手の目先を掠め、次の瞬間には鞘に収められていた。
「はあ? てめえ、外してスカしてんなよ!」
 霜月としては、当てなかったのは警告の意味だったのだが、そうと理解できる連中ではなかった。
 こうして一人と戦っている間にも、他のパラ実生がセルウスを追って行くのだ。
 霜月は威嚇を諦めた。
「仕方ありませんね。倒します」



 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)にとっては、シャンバラもエリュシオンも、等しく悪だった。
 シャンバラは、契約者であるという事実を盾に、犯罪者ですら支援と擁護をする国。
 そしてエリュシオンは、各国に戦争を仕掛け、その責任問題を碌に解決していない国。
 牙竜から見れば、どちらの国も悪に変わりなく、失望をもたらした。
 だからこそ、己の正義に忠実に、そして正しく在りたいと思う。
 セルウスのように、運命に翻弄される子供を護ってやりたいと。
 武闘大会で、牙竜は一歩及ばず、セルウスを奪われた。
 今度こそ、護り抜くと誓った。

 飛空艇で、鬼気迫る様子の牙竜をドミトリエが気にしていたが、パートナーの魔鎧、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、大丈夫、と言った。
「正義の味方は、死ぬほど諦めが悪いだけ。今度こそ、絶対に……」
 そうして、灯は、牙竜に装着される。
「先に合流できたら、伝えてくれ」
 最後に、ドミトリエにそう頼んだ。
「君に害なす悪から、守り抜く」
 機晶バイクを駆って飛空艇を降りたケンリュウガーは、セルウスを救い出すチャンスを待った。


「見つけたぜえ!」
 上空から、白津竜造が一気に地上へ加速する。
 急降下しながらの、ヴァルザドーンでの砲撃に、隙をつかれたクコのバイクが転倒した。
 セルウスはすぐさま起き上がったが、その眼前で竜造が笑っていた。
「もらった!」
「そうはさせん!!」
 セルウスを拉致しようと手を伸ばす竜造に、機晶バイクでケンリュウガーが飛び込む。
「おっと!」
 その攻撃を先読みしていた竜造は、蹂躙飛空艇を飛び降りながら、それを躱した。
 すぐさまセルウスの位置を確認する。
「邪魔だっ!」
 竜造はゴッドスピードで加速して、ケンリュウガーを切り抜けようとしたが、ケンリュウガーもまた、アクセルギアを発動させて、それを阻む。
 互いに行動を先読みしながら、相手の先を取ろうと動いた。


「こっちだ、セルウス!」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)がセルウスの手を引く。
「でも、ケンリュウガーが!」
「あいつは、おまえが無事に逃げて本望だ! ここはあいつに任せろ!」
 ラルクに言われて、セルウスはぐっと唇を噛み、ラルクの後に続く。
「待ちやがれっ!」
 竜造が叫ぶが、ケンリュウガーが阻んだ。
「ちっ!」
 途端に、竜造の戦意は薄れた。セルウスが逃げた以上、此処でこれ以上戦っても無駄だ。
 竜造は、素早く引く。
「逃がさんっ!」
 牙竜のレーザーブレードの突きを躱して、そのまま大きく後退する。
「まあいい。俺が失敗しても、他の奴等が何とかするさ」
 ナッシングの恐竜軍団が、既に近づいている。
 竜造が後退したところには、彼の飛空艇が横倒しになっていた。
 竜造は素早く跨り、その場を後にする。
 セルウス達が逃げた方角とは別だったので、ケンリュウガーは追わなかった。


「かなり前だが、共闘したこともあったんだがな……」
 ラルクは、ミツエ曹操には悪いな、と呟く。
「知り合いなの?」
 心配そうなセルウスの問いに、ラルクは苦笑した。
「まあ辛いっちゃあ辛いが……。敵はミツエ達ばかりじゃねえしな。
 ミツエからは逃げればいいが、ナッシングとか変な奴等もいるしな」
 最も、パラ実生達を相手に、逃げることは難しい。倒してしまった方が早い、とラルクは思っている。
 遠目でも姿が見えれば、自在による遠距離攻撃で、片っ端から倒して行った。
「どっかで見た顔だと思ったら、貴様かぁ!」
 背後から、怒声と共に襲撃が来る。
 セルウスが反応するよりも先に、ラルクはぶん殴って倒した。
「悪いな、俺はその顔を憶えてないぜ!」
 言って、顔を上げた。
 近づいて来るアンデッド恐竜軍団を見る。
「相手にとって不足はねえが……」
 そこへ、立て直したクコがバイクで追いついた。
「ごめんなさい!」
「丁度いい、セルウスを頼む。俺はあいつらとやる」
 くい、とアンデッド恐竜達を示す。
「俺も戦う!」
「有難いが、おまえはまず先に、ドミトリエと合流。それからだ」
 諭されて、ぐっと詰まる。
 何度も共に戦いたいと思い、その度に同じ説得をされたのだろう。ラルクは苦笑する。
「皆心配してたんだ。先に安心させてやれよ」
「……うん」
 解った、と頷いて、セルウスはクコのバイクに乗る。
 走り去るバイク音を背後に聞きながら、ラルクはぼき、と指を鳴らした。出し惜しみは無しだ。
「行くぜえ。見せてやるよ、武道家としての生き様ってやつをよ!」