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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第三話
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duodeviginti 遭遇・対アンデッド

 鵜飼 衛(うかい・まもる)は、傭兵としてミツエ側についていた。
 理由は簡単、その方が面白そうだからだ。
「妙な運命を持つセルウスとミツエがパートナーになれば、何か面白いことが起こるに違いないて」
 セルウスの捕獲、説得は他の者に任せて、自分はセルウスを狙う他勢力の足止めと殲滅を行うことにする。
「ふむ。此処が良いじゃろう。ルーンを用いて魔法陣を張るぞ」
「お手伝いいたしますわ」
 パートナーの魔道書、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が手伝う。
 機晶姫のメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)は、それとは別に、自らの破壊工作とトラッパースキルを活かして、トラップを張り、待ち伏せた。

 ジャジラッド達とミツエ達の戦端が開かれた頃、近くを爆走するアンデッド恐竜の群れに気付き、誘い込む。
「ふむ、セルウスが掛かればと思っておったが、またアンデッドとは、縁が深いわい。カッカッカッ!」
 プリンの銃撃に、何頭かのゾンビ恐竜が進路を変えた。
 追走していた異形の獣が、その動きに続き、乗っていた者が衛達に気付く。
「鵜飼衛!?」
「おう、ハデス殿か!」
 衛は見知った顔を見て笑った。
「おぬしはそちらについたというわけか。じゃがわしは今、乙王朝の傭兵。手加減はせんぞ」
「望むところ。『管理職のための侵入社員の心の掴み方』にも、「部下のやりたいことをやらせるのが、やる気を出させるコツ」と書いてあったしな!」
 ドクター・ハデスはそう言って、二人のパートナーを見た。
「というわけで、改造人間サクヤ! 暗黒騎士アルテミスよ! ナッシングの援護として、彼奴等の足止めを行うのだっ!」
 勿論自分は出ない。
「もう、改造人間って呼ばないでくださいって、何度言ったら……」
「りょ、了解しました、ハデス様!」
 文句を言おうとした咲耶の横から、アルテミスが飛び出す。
 まだ言いたいことはあったが、咲耶も仕方なく後に続いた。

「なら、こっちは自分が出るけえ」
 メイスンが、大型の斧剣を片手で振り上げながら、前に出る。
「雑魚の掃除は衛とプリンにお任せじゃ。大剣の味、とくと吟味せい!」
「あの恐竜を、雑魚とは言わない気が致しますが……」
 プリンの呟きは、メイスンの耳には届かない。

 アルテミスは、既に防御体勢を取っていた。
 メイスンの一撃を、龍鱗化で防ぎ、メイスンの背後に回り込んだ咲耶が氷術を仕掛ける。
「ぬるいわ!」
 一旦後退したものの、メイスンは構わず次の攻撃に移った。
「きゃっ!」
 斧の一振りに、咲耶が弾き飛ばされる。アルテミスが咲耶の護衛に、前に出た。
「させません!」
 武器が大きい分、小回りが利かない。
 後方からプリンの援護射撃が来る。メイスンは体を引きながら、斧を下から振り上げた。
 アルテミスは深追いせず、それを躱す。
「のらりくらりと逃げよるのう」
 メイスンは笑った。

 一方、誘いに乗って近づいた恐竜が、衛の仕掛けたトラップを踏んだ。
 ファイアーストーム、ブリザード、サンダーブラスト、悪霊退散と、仕掛けておいた魔法が、魔法陣の中で爆発のように吹き上がり、魔法の炎に包まれたゾンビ恐竜が、倒れる。
 その恐竜の頭にナッシングは乗っていなかったが、その様子を見て、自分の恐竜を向けて来た。
「おっと、仕掛けはこれで終わりじゃ。ここが潮時じゃのう!」
 足止めは十分だろうと、衛はメイスン達に合図する。
「面白くなってきたところじゃが、仕方ないのう!」
 メイスンは、撤退の合図に苦笑した。
 仕掛けておいた機晶爆弾を一気に爆破させ、その隙に逃げる。
「お疲れ様でした」
 と、プリンが労った。


 セルフィーナ・クロスフィールドが、上空からその様子を確認する。
「やはりアンデッド恐竜達は、基本的に闇雲に進んでいるようですわね」
 更に上空から、騎沙良詩穂が降下して来た。
「ミツエさん達、もう少し東だよ」
 セルフィーナは頷く。
「扇動して誘導いたしましょう。
 見ていましたところ、簡単に誘いに乗ってくれそうですわ」


◇ ◇ ◇


 キリアナは、協力者達と打ち合わせた場所に、紫月唯斗や封印の巫女白花鹿島 ヒロユキ(かじま・ひろゆき)らと共に待機していた。
 ヒロユキは、本当はこの大捕り物劇は、『何もなかった』ということで、見なかったことにしようと思っていたのだが、ミツエまで出てきて話が大きくなってきたので、どうなることかとやって来たのだ。
 最もミツエに関しては、名前しか知らないような別世界の人間なのだが、不測の事態に備えて、パートナーと共に、キリアナの側に付いている。
「こういう時って得てして、予想もしてなかったような事態になるんだよな」
 だが、武闘大会のキリアナを観戦していて、何となくキリアナを気に入った。
 助けて恩を売っておくのも悪くないよなと思ったのだ。

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と、パートナーの精霊、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)は、キリアナの待機する場所を捜し当てた。
 とりあえず、孫権がドミトリエ側についているのだから、ミツエの方は任せていいだろう。
 当座の心配事は、アンデッド恐竜だ。
 荒野はヴァイシャリーにも近いのだ。アンデッド恐竜などを暴れさすわけにはいかなかった。
 その為に、キリアナの協力を得ようと考えたのである。
 祥子達を見て、護衛の唯斗が身構えたが、キリアナは首を傾げて、
「用やろか」
と訊ねた。
 敵意が無いのを察したらしい。
「ええ。取引に来たの。
 状況は、何処まで知っているのかしら。アンデッド恐竜の出現については?」
「先程聞きました」
「なら話が早いわ。
 キリアナ、ちょっとあのゾンビ恐竜を始末するのを手伝って欲しいんだけど。
 ミツエ相手じゃなければ、いいんでしょ?」
 キリアナは答えず、じっと祥子を見ている。
「アレの狙いはあなたと同じなんじゃない? 目的は違うみたいだけど。
 今の内に潰しておいた方が得策だと思うの」
「……確かに、そうですね」
 キリアナは頷いた。
 だが、話に乗ろうとしているようには見えない。祥子は更に言った。
「今回というか、アレに対してのみ、ということで共同戦線張らない?
 ほっといたら、ユグドラシルの中にまで追いかけてきかねないわよ」
「そら困りますね」
 キリアナは苦笑する。
「それに……あなた、セルウスの使命を知ってて追いかけてるんじゃないの?」
「……知りまへんよ」
 キリアナは答えた。
「エリュシオンに戻られる途中、セルウスさんに便宜を図る行為を取られましたでしょう?」
 イオテスが言った。
 クトニウスを、自らの手元に残さずに、落ちたセルウスと同じ場所へ落とした。
 その場に居たのは二人だけだが、イオテスは御託宣により、その事実を知ったのだ。
「それは、キリアナの優しさなんじゃないのか?」
 唯斗が言って、キリアナは肩を竦めた。
「……あれは、気の迷いどす」
 そして改めて、祥子に言う。
「セルウスはんの使命は、知りません。
 でも、何となく、予測はしてます。言えまへんけど」
「何故?」
「確実な話やないからどす」
 キリアナは苦笑した。
「……でも、その予測が当たってるなら、あのアンデッド恐竜を倒すのは、うちやなくて、あの子やあなた達であるべきやないかな、と、思ってます」
「あたし達もなの?」
「あなたは、あの子の味方でしょう。うちは違います」
「……」
 祥子は、キリアナとの会話から、状況を読み取る。
 つまりはそれが、セルウスの宿命ということなのか?
「でも、混戦になってきたようですね。もう、相手が無茶苦茶になってます」
 皆さん、無事だとええのやけど。
 協力者達を案じるキリアナに、唯斗が言う。
「皆そんなヤワじゃないだろ」
 そうですね、とキリアナは頷いた。


 はっ、とキリアナが身を翻した。唯斗も遅れて、それに気付く。
「気配がなかったぜ……!?」
「ヒロユキさんっ」
 魔鎧のウィンディ・ベルリッツ(うぃんでぃ・べるりっつ)が、パートナーのヒロユキを呼び、自らを装着させる。
 ゆらりと、地面にうずくまるボロ布から立ち上がったのは、ローブの男だった。
 あの時の、とキリアナは呟く。
 屍龍を駆って襲撃した男と、同一の者、に、見えた。ナッシングだ。
 その足元には、黒い穴。それが大きく広がって行く。
「……? あなた、空っぽやね。中身はどうしたの」
 身構えながら、キリアナが怪訝そうに眉をひそめた。
 ゆら、と、ナッシングは首を傾げる。
 答えずに、大きな首狩り鎌を、ゆっくりと構えた。
「先手必勝っ!」
 それを見て、低く頭を下げながら、唯斗が走り込む。
 穴はいっそう広がって、腐った恐竜が押し出されて来る。
「今なら、まだ……!」
 白花が、神子の波動を放って恐竜を封じようとした。
「なるほど、押し戻すってわけね!」
 祥子とイオテスも、それを援護する。
 二人の上からの攻撃に、恐竜は押し戻され、白花によって穴が塞がれた。その次の瞬間。
「後ろですわ!」
 イオテスが、白花に向かって悲鳴を上げた。
 白花ははっと振り返る、間もなく。
 その体に、ナッシングの鎌が貫いた。
「白花はん!」
 キリアナが駆け寄る。倒れる白花を抱きとめた。

 気配はなく、いつ動いたのかも解らなかった。
 ナッシングは、唯斗の攻撃を受けていたはずだった。
 それなのに、ゆらりと動いたその鎌の先にいたのは、白花だったのだ。

「っ……てめえ! よくもやりやがったな!」

 キリアナは、溢れる怒りに、ぎっ、とナッシングを睨みつける。
 白花を寝かせ、ナッシングに向かって走り出しながら剣を抜いた。
「纏え、浄化の聖炎!」
 ばっ、と払うように刀身を撫でる。
 剣から、白い炎が噴き出た。
 ナッシングは、ふいっと後ろに下がる。
 地面がボコボコと盛り上がり、人や獣、果ては異形の化け物の、ゾンビやスケルトン、アンデッド達が次々に這い出て来た。
「邪魔だァ!」
 襲撃して来るゾンビ達を、キリアナは次々斬り払う。
「ヒロユキ、援護しないと!
 でも、範囲攻撃だと巻き込んじゃうっ……?」
 パートナーの吸血鬼、ホミカ・ペルセナキア(ほみか・ぺるせなきあ)がまごつく。
「それ以前に、通常の攻撃ではアンデッドには通用しないし!
 キリアナを助け出して下がった方が……」
 突進するキリアナに、ゾンビ達の攻撃が集中している。数が多すぎる。
 ヒロユキが駆け出そうとしたが、
「待て」
と唯斗が留めた。
「下手に近づくな。彼女の攻撃に巻き込まれるかも」
「えっ……?」
 キリアナは、圧倒的な強さでゾンビ達を薙ぎ倒しているが、まるで見境がないように見えた。
「バーサークしてる……!」
 キリアナは、ナッシングしか見ていない。声を掛けても、恐らく無駄だ。
 せめて、キリアナに向かうゾンビ達の数が少しでも減るようにと、外側からゾンビ達を攻撃する。
 唯斗はナッシングを狙おうとしたが、また逃げられるかもしれない、という思いから攻めあぐねた。
 そんな唯斗達の援護にも目もくれず、キリアナはナッシングを目指す。

 後退しながら、次々とゾンビ達を出現させていたナッシングだが、ついにキリアナの間合いの中に追いつかれた。
 キリアナは飛び込み、剣をナッシングに突き刺す。
 “抜ける”ような感覚がした。何度も攻撃を受け、再び何処かに出現していた、あれだ。
「逃がすかっ!」
 キリアナは叫ぶ。
「滅びやがれ!」
 渾身の、その力に、ナッシングの体が燃え上がった。
 空気を揺るがす、声無き叫喚と共に、その姿が燃え尽き、塵となって消える。
 負荷がなくなり、キリアナは剣を下ろした。

 累々と、屍が転がっている。
 ゾンビは既に、その殆どがキリアナに倒されていた。
 うろうろと彷徨うゾンビが多少は残っていたが、それらは、もはや脅威ではない。
「キリアナ!」
 唯斗が走り寄り、キリアナはフラリと振り向いた。
「白花はんは……」
 口調が戻っている。
「大丈夫だ」
 イオテスが治療を施して、命には別状はないと知らせる。
 よかった、と、キリアナは目を閉じた。
「……堪忍どす」
「え?」
「…………電池切れや」
 くた、とキリアナは座り込む。
 そのまま倒れて、意識を失った。