シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション公開中!

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【5】 GUARDIAN【4】


「海流及び、地形データ、照合開始」
 黄山は海底の岩山の上に立ち、地形探査を行う。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)には以前、海京近海でのイコン戦闘の経験があった。その時に取得したデータと現環境の情報をすり合わせ、戦闘時に最適な判断を下せるよう、また友軍機に有効な情報を与えられるよう、確実な情報の構築を進める。
「……で、魔法少女とマスコット、どっちにする?」
 サブパイロットの世 羅儀(せい・らぎ)は仮契約書を手に尋ねた。
「マスコットでは操作に支障が出ます。このパワードスーツを着込んでいれば、魔法少女化しても、見苦しい格好を見られることはないでしょう」
「パワードスーツそのものが変化した場合は?」
「その時はその時です」
「えー……」
 サインすると、二人はおそろの魔法少女姿に変身した。モコモコ素材のブラに尻尾付きホットパンツ。猫耳カチューシャも付いている。羅儀の危惧した通り、パワードスーツだろうと問答無用で、魔法少女コスチュームに変化させてしまった。
「つ、辛いっ! この格好、辛いよっ!」
「……思いのほか軽装で助かりました。これなら操縦に支障ありません」
「そういう問題!?」
 その時、黄山の策敵機能が、ガーディアンの接近を報せる。
 既に二度絶命に相当するダメージを受けたはずだが、三度目の復活を遂げ、ガーディアンは尚も活発に海中を飛び回っている。とは言え、復活にはそれなりのエネルギーを消耗するらしく、少しづつだが、ガーディアンの力が削がれているのは確かだ。
 白竜は発光する巨大な物体を肉眼で確認し、魔法少女らしく名乗りを上げた。
「お前に世界を壊す権利などない。マジカルプリティー☆ホワイトキャッツが相手だ!」
「名乗るのかよ! てか、複数系かよ!」
 対神スナイパーライフルで牽制する。
 しかし、ガーディアンの移動速度は凄まじく、正確に照準を絞ることが出来ない。逸れた弾丸は泡を散らす白線となり、ガーディアンの横をかすめていく。
「目標までの距離、400……200……、接敵するぞ!」
 ライフルを格納し、武装をクローアームと超電磁ネットに変更。迎撃の準備をする。
 しかし、黄山が動くより先に、ガーディアンを数発のミサイルが襲撃した。
 ガーディアンは触腕で空間を掻き分けて、素早く攻撃の軸線から離脱すると、ミサイルはガーディアンをかすめ、その先にある海底を吹き飛ばした。

「……全弾失中。しかし想定内だ。続けて、魚雷準備」
 ジェファルコンはミサイルランチャーをパージし、身軽になると、流れるようにガネットトーピドーの発射体勢に入った。
 機体の調子は良好である。戦線に到着するのが遅くなってしまったが、念を入れて換装をした意味はあった。前回の破損箇所の修復と平行して、耐水圧性の装甲に張り替え、出力とバランスも水中戦に適した仕様に変更してある。
「俺と契約して魔法少女になってよ!」
 戦闘補佐の閃崎 静麻(せんざき・しずま)はマスコットとなっている。前回、前々回と異なる形態に変身した彼だが、今回もこれまでとは違う、猫のような兎のような魔法少女モノのマスコットになっている。本家と違ってまだらの三毛猫模様だが、射殺された自分の分身をむしゃむしゃ食べちゃいそうな逞しさは本家同様に垣間見える。
「黒革の煌めきに包まれ、ビシバシ一閃、今日も悪をこらしめる! お仕置き委員長・サディスティックレイナ!!」
 メインパイロットのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は魔法少女に。黒革のハイレグレオタードに、同じ素材の長手袋とハイヒールブーツを着用。その上から、深紅の裏地が鮮やかな黒マントを纏う。
「戦闘海域の海流及び、地形データを送ります」
 黄山から通信が入った。白竜の顔の下に、受信データの残時間を示すゲージが現れる。
「助かる」
 白竜のデータを元に照準を補正。命中精度を上げた魚雷を叩き込む。
「この隙に……!」
 レイナはガネットランスを構え、スラスターを全開にし、一気に間合いを詰める。
「はああああああああああっ!!」
 繰り出される触腕を紙一重で回避し、本体にランスによる連続突きを放つ。回避に重点を置いているため、踏み込みが浅く、致命的なダメージを与えるには至らなかった。
 だが、無駄な動きを抑えた最小の回避動作で張り付くレイナのジェファルコンは、ガーディアンの注意を引き付けるには十分な働きをしている。

「この戦いで最後にできるよう、キッチリと引導を渡しますよ!」
 目標を捉えたアイオーンは、加速してガーディアンに迫った。
 搭乗するシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は、魔法少女仮契約書を取り出し、変身する。同時に魔鎧四瑞 霊亀(しずい・れいき)も契約書の力と融合し、シフの身体を包む魔法少女コスチュームになった。
 ナビ・戦闘補佐担当のミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)も、まんまるミーアキャットのマスコットミーちゃんに変身する。
「……って、霊亀! 前回より恥ずかしくなってる気がするんですがーっ!?」
「ふふふ、前回よりもスカート短め、スリットもつけてみました☆」
「え、ええー……」
「せっかく変身したんだから、シフもノリノリでポーズとか決めたらいいのにー」
「だ、だってぇ……」
 もじもじするクロウを尻目に、ミーちゃんは映像通信をオンにする。すると水中戦に参加している全イコンと映像回線が繋がった。モニターに幾つも開いた小さなウィンドウの奥から、仲間達は何事かと視線を向けてくる。
「ちょ、ま……やだっ。え、映像を映さないでくださいーっ!」
「あらあらダメよ、映像切っちゃ。生徒会長も身体張ってるんだから」
 霊亀はくすくす笑う。
「……へ?」
 一瞬、ぽかんとした聡だが、すぐに意味を理解して映像通信をオフにした。
「うわああああああああああ!!!」
 悲痛な叫びである。
 その時、アイオーンのセンサーが作戦距離に到達したことを報せた。
「よーし、アイオーンもマジカル☆トランスフォーム!」
 ミーちゃんは、ガラスで保護されたスイッチを叩き割って押す。
 すると、アイオーンの擬装用外装がパージされた。フリフリヒラヒラした布地が装甲の上に下ろされ、各所に装着されたクリスマスツリー用の飾りや電飾がピカピカと光だした。頭の上には、天使の輪を思わせる巨大な環状灯が装備されている。
「アンズーサンタさんが、ぎょーむよーのが余ってるからってくれたんだよ!」
 心無しか、無駄に狙われやすくなった気がする。
 ジェファルコンと小競り合ってる隙に、アイオーンは敵の背後をとった。
蒼翼の魔法少女・マジカル☆クロウ、推して参りますっ!」
 先制攻撃のクローアームを頭に叩き込むと、ガーディアンは振り返り、メギドファイアを吐き出した。これまでの戦闘データと行動予測による直感で回避し、有効打になりそうな頭と胴を狙って、ブレイドランスの連続攻撃を放つ。
『小賢しい真似をする。神から賜った豪腕をその身に受けよ』
「…………っ!」
 複雑な軌道を描き触腕が迫る。
 ミーちゃんはディメンションサイトで空間を三次元的に把握し、素早く指示を出す。
「右から一撃。左から二撃……っと後ろに下がって。すぐ前にブースト」
「ええっ! ちょっと待っ……わわわ、速過ぎるよっ!」

「……なかなか有効打を与えられないようですね」
 白竜は言う。
『お客さん。タコを仕留めるなら、とっておきの仕掛けがありますぜ』
 不意に、黄山のモニターに、ジェファルコンカスタムのモモが現れた。
 学院にビッグバン・ボムを届けたあと、彼女は時空断裂弾を持って、太平洋上空にやってきたのだ。処理するために。
「……と言うわけで、ダイナマイト漁と洒落込んでみようかしら」
「作戦は概ね懲戒しました。目標の座標を送ります」
 座標を頼りに当たりを付け、ジェファルコンは弾丸を放り投げる。
「そりゃあああーーーーーっ!!」
 戦闘を即座に放棄し、ジェファルコンとアイオーンは離脱する。
 次の瞬間、時空断裂弾はガーディアンの位置から少しずれたところに直撃した。
 衝撃波を伴って空間に無数の断裂が生じる。例えば、ガラスの立方体に入った”ひび”のように。縦に横にと縦横無尽に広がった亀裂は、ガーディアンの身体を文字通り八つ裂きにしてしまった。
『グガアアアアアアアアアアア!!』
 下半身と切り離され、片腕を失ったガーディアンは絶叫する。
 けれども、まだ完全に仕留めたわけではなかった。ほとんど残骸のガーディアンの身体がむくむくと変形し、蠢いたのである。それはアダムカドモン発動の兆候だった。
「……させません!」
 アイオーンはランスを構えた破岩突で、ガーディアンの胸を突き刺した。更にクローアームでこじ開けると、ランスを破棄し、バスターレールガンをねじ込んだ。
「さよなら、大海の守護者さん」
 ゼロ距離射撃で、ガーディアンをばらばらに吹き飛ばす。
 それが最後の”命”だったらしく、四散した肉片は再生することなく、藻屑と消えた。