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リアクション
【6】 Re:Re:NOAH【2】
「たぶん、メルキオールがいるのはブリッジ(艦橋)だよね……」
爆散したクルセイダーによって黒焦げになった床とボロボロに崩れた壁の残骸を踏み越え、ミニスカ魔法少女の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は先に進む。
なるべく無駄な戦闘は避けたいところだが、それを許してくれるほど、敵の防衛戦は薄くはなかった。
「きっと食堂とかトイレにはいないと思うんだよ。クライマックスシーンが食堂とかトイレじゃ、絵的な問題が出てくるからね。まぁ食堂はカンフー映画ならアリだけど……」
「またメタ的な発言を……」
犬型マスコットになったコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は肩をすくめた。
「まぁ、どこにいても見つけ出してみせるけどね。絶対に」
大人しいコハクも、今回は海京崩壊を企むメルキオールに、怒り心頭である。
「ここか、ブリッジは!」
目の前の扉を勢いよく開けると、噂をすればなんとやら、食堂だった。
食堂には先客がいた。樹月 刀真(きづき・とうま)と玉藻 前(たまもの・まえ)、そして漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だ。
「……なんだ、あなた達でしたか」
樹月 刀真(きづき・とうま)は剣に伸ばした手をそっと下ろす。
魔法少女となった彼は、髑髏のアクセサリがところどころに付属する黒のシックなドレス姿だった。頭にはネコ耳カチューシャも乗っているが、なんだかそこに突っ込めないほど、自然に振る舞っている。こんな格好も必要経費と思えば、さして問題ないのだ。
後ろには、白の魔法少女衣装の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と、赤の魔法少女衣装の玉藻 前(たまもの・まえ)もいる。
三人は一時、戦闘で疲弊した身体を休めているところだった。
「あ、なんか良い匂いがするー」
「支度途中で放り出されていたものだが、おまえも食べるか?」
玉藻は厨房から持ってきたパラミタオオヤドカリのスープを、美羽にも分けてあげた。
「ふむ。美味だ。隠し味にドラゴンの風味もあるな」
一方、月夜は携帯を通して、超国家神の情報を集めている。誰かに似ている超国家神、ネットならば何か手がかりが掴めるのでは、とアクセスしたものの、シャドウレイヤーに阻まれ、接続出来なかった。仕方なく学院のデータベースにアクセスして、情報を漁っているが、有益な情報は出て来そうにない。
食堂の壁には高価な絵画のように、額縁に入れられた超国家神のポスターが飾られ、カウンターには彼女を模した小さな像が並べられている。
「誰に似てるんだろ……?」
戦闘が始まってから三時間ほど経った。尚も戦闘は各所で続いているが、戦線は大分、後退している。
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)とエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が飛空艇で突入した時も、熱烈な歓迎を覚悟していたが、そこは既に戦闘の終わった場所だったらしく、迎撃に出てくる敵は皆無だった。
「一気に頭を叩くなら、今が好機か……。エヴァっち、”マスコット”になれる契約書を」「ああ」
契約書にペンを走らせると、光に包まれ、煉は”魔法少女”となった。
「……って! なんだこの格好!?」
黒の風紀委員制服をベースにした魔法少女衣装だった。上半身はまだ見れるのものの、下半身は丈の短いスカート。体育の授業中、こっそり教室に戻って、女子の制服を着てみました的、変態感を隠せない。
「ああ、間違えたくさい」
魔法少女に変身したエヴァは、煉と同じ衣装、しかし煉と違ってとてもよく似合う。
「間違えたで済むか! どうするんだ、こんな格好。風紀の仲間に見られたら……」
「たぶん、そいつらも、おまえと同じ状況になってるから気にするこたねーと思うけど」それはそれで風紀の沽券に関わる。
「まぁそんなに嫌なら、ほら、ちょっとそこに座れ」
「ま、待て。その手にもった化粧道具はな……」
「うるせぇな。せめて女っぽくしてやるってんだ」
化粧を施し、ウィッグを被せ、ヒミツの補正下着で体型を女性っぽく、それから胸パットでふくよかなラインも作る。
「……これでよし。お、なんかカッコイイ女になったな」
「く、屈辱だ……」
手鏡を持つ手が震える。
「死んでも正体がバレないようにしなければ……。バレたら身の破滅だ」
「流石にブリッジの守りは堅そうだね……」
魔法少女アマテラスこと赤城 花音(あかぎ・かのん)と狼型マスコットになったリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)は、アウストラリアスと合流し、ブリッジに続く通路に突撃する機を窺う。
海京市民の安全を一番に置く彼女は、ブリッジの制圧こそ最優先と考える。船の頭脳であるブリッジなら、シャドウレイヤー発生装置を止める術もあるだろう。
「ポラリスちゃんとは連絡とれた?」
「それがまだ……」
アウストラリアスは首を振った。
「でも、心配はしてません。彼女は優れた才能を持つ魔法少女ですから」
「ふぅん。アウストラリアスちゃんがそんなに信頼してるとなると……これは同じ魔法少女として、負けてらんないなぁ。寿子ちゃんはアイドルとしてもライバルだし」
アマテラスは通路を守る敵に視線を移す。
「また寿子ちゃんと勝負するためにも、海京崩壊は絶対に阻止しないと……!」
「多くの命を生け贄にするような真似を看過することは出来ません」
アマテラスとリュートの瞳に、抑えきれぬ怒りと揺るぎない正義が交錯する。
三人は激しく闘志を燃やしながら、通路に躍り出た。
「アウストラリアス・パーミット!」
入口前のクルセイダーに、まずアウストラリアスが一撃を浴びせた後、アマテラスが距離を詰める。
「壊れた正義に、皆を巻き込むなっ!」
ヒロイックアサルト”雷公鞭”による、強烈な電撃がクルセイダーを貫く。迸る稲妻は目の前の敵を黒焦げにすると同時に、後ろの敵をも閃光の奔流に飲み込む。
「はあああああああっ!」
電撃を鞭のように振り回し、入口前を守るクルセイダーをあっという間に一掃した。
ゴールドノアのブリッジは、役割に応じて、階段状の段々で区切る三層構造となっている。通信・策敵・情報収集を担うブロックが一層目に。航法・操舵・機関制御を担当するブロックが二層目に。三層目には全体を統轄する指揮ブロックがある。
「花音が敵を討つ覚悟を決めたなら……。僕ものほほんとしていられません」
リュートは槍を構え、クルセイダーとの距離をに急接近する。
「必殺……”天狼牙”!」
盾を捨て、両腕と全身のバネの反動を突撃に加算させる、突進系刺突術である。
壱式と呼ばれる基本の突きで、クルセイダーの胸を抉るように突き刺す。血の代わりに噴き上がる紫の煙を浴びながら、槍を返し、もう一人に一撃。
「これで二人……!」
次の標的に切っ先を定めたところで、クルセイダーの放った反撃が、リュートの肩に深い傷を負わせた。
「……っ!」
「我等、祝福を受けし理想の尖兵。我等の敵に安らぎをもたらさん」
クルセイダーは間合いを詰める。
「突進系の技に対して、距離を詰めるのは戦法として正しい……しかし」
上半身のバネから繰り出される零距離の突き、零式を繰り出す。
「奥の手はとっておくものですよ」
敵の顔面を吹き飛ばし、もの言わぬ煙に変える。
とその時、二層の敵がライフル仕様のアシュケロンを構え、こちらに銃口を向けた。
「花音! アイリさん! 下がって!」
間一髪、遮蔽物の陰に飛びこび、事なきを得る。
「……え、遠距離攻撃はずるいぞぉ!」
「……見えました。あれがブリッジです」
飛行装備着用の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、ブリッジの正面、外側から接近する。
それぞれ銃を構え、二層のクルセイダーに怒濤の銃撃を放つ。ブリッジ前面を保護する硝子を吹き飛ばし、弾丸の暴風雨は二層にいる敵を黙らせた。
「目標クリア。奇襲成功ですね」
舞花とノーンはブリッジに着陸すると、遮蔽物の陰にすぐさま隠れた。不意打ちで、何人かに手傷は負わせたが、舞花の読み通りなら、それで大人しくなる相手ではない。
案の定、隠れた途端、反撃の銃弾が掃射された。
「ここは私に任せて!」
ノーンは少しだけ顔を出す。
「魔法少女アイシクル・ノーン! 氷臨だよ!」
小さくポーズを決め、得意とする氷魔法ブリザードを放つ。吹雪が渦を作り二層を直撃、瞬間的に冷凍されたブリッジの設備が、ぴしぴしと声を漏らして凍っていく。
二層の敵はノーンに任せ、舞花は三層に目を視線を移す。そこには、司教・メルキオールの姿があった。
「メルキオール、あなただけは……!」
狙撃するべく構えたところ、今度は三層から銃撃が飛んできた。
「……く!」
遮蔽物の陰に隠れながら、舞花は許されざる敵に向かって叫ぶ。
「あなたの思う未来なんて来ませんよ、メルキオール! 私はあなたの居た時代より、もっと先の未来から来たんですから。私の居た未来では海京は健在です」
「それはアナタの未来の話デショウ?」
メルキオールは言う。
「我々がこの時代に来たのは、正しき未来に世界を導くためデス。アナタの居た未来に、この世界が辿り着くことはありマセン」
「いいえ。この世界は私の未来に繋がっています。海京を守って証明してみせます」