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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●鋼の鼓動(1)

 衝撃は、一拍遅れて訪れた。
 拳が岩を砕く。
 その拳は鋼の拳。巨大人型兵器サロゲート・エイコーン(イコン)が繰り出したストレートであり、
 その岩は巨大生物の外骨格。甲虫じみた外装と爬虫類の頭部を持つ異形の存在、龍の眷属の鎧であった。
 殴るは一瞬、破裂は一音のみ。
 だが、砕けた外骨格が四分五裂し石の粉となって散らばり落ちるのを耳にしながら、操縦桿を握る柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の腕にはびりびりと振動の余韻が残った。
 硬いのだ。そして重いのだ。
 機体内蔵のショックアブソーバーが大半の衝撃を吸収してなお、これほどの揺れ。
 この感覚だけで、目の前の連中が現実の存在であると判ろう。
「簡単に学園を落とせると思うなよ、グランツ教……!」
 しかし恭也の口元には不敵な笑みがあった。
 戦場はツァンダの外れ、何時(いつ)のものとも知れぬ石の遺跡が並ぶ広大無辺な一帯だ。
 ここから、蒼空学園のある街の中心部まで数十キロある。
 逆に言えば、数十キロ『しか』ない。
 龍の眷属を返り討ちにすべく、馬場正子校長が指示した迎撃地点がここだった。防衛陣を敷く立地としては悪くないが、限りなく背水の陣に近い。なぜならここを抜かれれば、あっという間に都に『眷属』が街に躍り込むことになるは自明だからだ。
 しかし効果と防衛を考えたとき、これが最大限の妥協ポイントであることは疑いがない。
 ゆえに譲れない。抜かせない。この場所は。
 最初に飛んで来た外骨格は、アルマジロのような形態をした『眷属』が飛ばした棘だった。外骨格の一部を棘として射出したものだ。敵本体はまだずっと先である。
「ったく、敵も無駄に数が多い」
 恭也は眼を細めた。まさしく軍団と称するにふさわしいものが、黒山になって迫り来るのが見える。
「流石にあれだけの数を一体づつ相手にしてたら、数の力で押し切られるのは確実だな」
「同感だ」
 彼の声にこたえるは柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)の声である。
「まさかあれほどの数で進行してくるとは……もはやグランツ教の連中は隠す気がないようだね」
 冷たい鈍色のスイッチが押され、ペダルに足が、トリガーに指がかかる音が聞こえる。唯依の準備はもういいらしい。
「姉貴、状況の把握は任せた」
「言われずともわかっている」
「ヴィクセンの火力ならそれなりに減らせるはずだ」
「それと、恭也の実力であればな」
「……随分評価してくれるじゃないか」
「私は状況を正当に判断しただけだ」
 鉄(くろがね)の巨人アサルトヴィクセン。
 身長十数メートル。
 両肩に艦載用大型荷電粒子砲装備。
 左手に機晶ブレード搭載型ライフル装備。
 今、右手に握られたのはレーザーマシンガン。
 さらにビッグバンブラストをサブウェポンとして装備する火力超重視の機体。その姿は黒い要塞を思わせる。
 いや、まさしく要塞だ。歩く要塞。火器の化身。恭也と唯依が駆るは、人類の戦闘本能が具現化したかのようなこのイコンなのである。
 二人の正面にある三百六十度全視界モニターに、龍の眷属の姿が映り込んでいた。最初の一撃はただの挨拶だというのか、それ以上眷属は手出しをしてこない。
 手出しはしないが、ただ着実に迫ってくる。
 迫ってくる。
 迫ってくる。
 先に撃ってこいと言わんばかりに。
 モニター上、いくつかの敵個体に黄色いマーキングがなされていた。
「恭也、優先する敵をマーキングしておく」
「助かる」
「派手にブチかませ」
「言われずとも!」
 アサルトヴィクセンが火を噴いた。
 大型荷電粒子砲から、
 ライフルから、
 マシンガンから、
 一斉に。
 絶え間なく。
 天を割るほどに……!
 エネルギー弾と実弾、その両者が気温を一気に高めた。
 かくて闘いの火蓋は切って落とされたのである。
 
 異形の集団……百鬼夜行が吼えた。
 仮に四十度近い高熱出ていたとしても、人はこのような姿を悪夢に見ることすらないだろう。
 それほどに禍々しい。思わず目を背けたくなる。
 彼ら龍の眷属は、例外なく異常な姿をしていた。
 ある飛翔する個体はウスバカゲロウのような体躯で、そこに黒々とした鰐のような頭がついている。全身にはびっしりと繊毛が生え、しかもその先端からは、有毒と思われる液体が滴り落ちていた。
 戯画化した人間だろうか。ナナフシという昆虫のようなひょろ長い姿が二本の足で立ち、残る四本の腕にそれぞれトカゲのような頭部を生やしているものがある。
 龍のように長いが不均一な体で、うねりながら進むものがある。遠目にはその姿は線虫そっくりだ。
 その他、百体いるならば百種、二百体なら二百種の龍の眷属は、巨大で不気味な姿をさらしながら恭也の先制攻撃に反応した。
 大蛇とその眷属の襲来以来、空はずっと血のような紅色である。その原因はわからない。しかしこれに不吉なものを感じるなというほうが無理だろう。
 血の雨が降るという暗示なのだろうか。
 それとも、街が戦火に焼き尽くされるという予言なのだろうか。
 だが百鬼夜行なにするものぞと、待ち受ける勇ましい姿があった。
 ただ恭也の機体のみではない。けっして多数ではないが、無視できないほどの数が揃ったイコン僚機である。
「作戦目標を伝える。これより我が隊は龍の眷属の進行を食い止める。その手段は火力の集中運用だ」
 的確に指示を下す声は、相沢 洋(あいざわ・ひろし)のものであった。彼もまたイコンのコクピットにあった。
 イコンはウルヌンガル、個体名は覇王・マクベス
 レーザーバルカン、ミサイルポットを標準装備した機体は、中世ヨーロッパの甲冑騎士のような外見を持つ。抜きん出て特徴的なのは、握り部分だけで数メートルはある巨大な剣であろう。切れ味はもちろん、重さで叩ききるという力強い兵器であり、一度抜刀するや攻撃力のみならず、見た目に起因する強いカリスマ性を放つ。指揮官機にふさわしいイコンといっていい。
 黄金の騎士の懐中、洋は白い手袋をはめた指で眼鏡の中弦を押し上げた。
 イコンは鎧であり、かつ、武器である。
 だが、敗れるや棺にもなる。
 暗く重い鉄の棺だ。洋はイコンのコクピットに入るたび、その冷たさを感じずにはおれない。しかしその反面、決闘者として熱く、滾るものをも感じるのである。
 もし仮にこの戦いで死すことがあったとしても、墓標は、不要だ。
 イコンが墓にもなってくれよう。
 ――こういう考え方は、不吉だな。
 洋は頭から暗い考えを振り払った。
 今はただ、闘いに集中する。流れるように指示を下した。
「みと、射程内の敵にミサイル、バルカンの遠距離攻撃を始めよ。動きを止めて砲台になっても可とする。洋孝とエリスは各自、飛行艇にて牽制攻撃、大物相手だからな。無理はするな。情報収集だけでも構わん!」
 下腹に響くエンジン音とともに、二機の飛空艇がマクベスの頭上をかすめた。相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)の搭乗機だ。
 そのときすでに、マクベスは掃射を開始している。
「マクベス、システムオールグリーン、起動完了です。敵戦力、接近中。長距離砲撃を開始します」
 洋のすぐそばでは、サブパイロットとなる乃木坂 みと(のぎさか・みと)が鈴のような声で彼の指示に応じている。ピアニストのように流麗に計器を読み、操作し、引き金を引く。こういうとき、みとの冷静さはありがたい。彼女はまるで彼の手足のように、洋の考え、洋の意思、洋の作戦を実現するのだ。
 みとは無意識に、自らの首輪を指で一度だけ引っ張った。
 ――洋さまの仰せのままに。
 そう言っているかのようである。
 洋は彼女を見ていなかった。モニターから戦場を見ていた。正確に言うなら、視力のみならず五感で戦場を味わっていた。耳は轟音を聞く。厚い装甲越しでも、香ばしい火薬の匂いが鼻をつくようだ。
「軸線上の友軍へ! 死にたくなければ下がれ!」
 無線の回線を全開にして洋は味方に呼ばわった。
 次の目標は壁のように立ちふさがる巨獣だ。二本足で立ち、圧殺せんとするように挑みかかってくる。