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リアクション
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が熾天使化で光の羽根を具象化させた。
「あいつだけじゃエッツェルの相手は無理だ。俺たちも行くぞ、リーラ!」
「しかたないわねぇ〜」
熾天使化は一時的に真司の能力を向上させ、一時的に飛行を可能とする。どれも時間制限つきだ。わずか30秒。1分にも満たない。
短期決戦で決着をつけるしかない。
空へ舞い上がり、手にしたM9/Avを触手に向かって連射する。
触手は銃弾を受ける都度部分的に破砕したが、行動を読まれてか、致命的な破壊まではいたらなかった。しかし霜月への援護にはなったようで、霜月は再びエッツェルを間合いに捉えることに成功する。
櫟から跳んで、エッツェルに斬りかかった。数秒の間に幾度となく技をたたき込むが、どれも致命傷までは至らず、触腕で防がれてしまう。旋回する櫟へと戻る霜月に襲いかかる触手に向け、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)の操る破鎚竜エリュプシオンが側面から火球を吐いた。
「まったく〜、ひとがせっかくドラゴンと交流を図ろうとしてたっていうのに邪魔してくれちゃって〜。これで印象悪くして、私たちを警戒したりしたらどう責任とってくれるのよ〜」
死んで責任とるっていうんなら考えてやってもいいけど〜?
そう言う間も、リーラは攻撃の手を緩めない。エリュプシオンの火球に加えて両肩から生えた竜頭からの火球、ドラゴニックアームズで火炎放射を行い、圧倒的な火力でエッツェルの動きを封じ込む。その隙に真司が背後をとった。
「よけいな面倒事を増やしてくれるなよ」
銃をかまえた真司を肩越しに振り返ったエッツェルが見る。
起動した対消滅魔力結界が近距離からの銃弾を弾いた。さらにエッツェルはルーン空間結界を立ち上げた。エッツェルの周囲に光り輝くルーンが現れ、リーラの火炎攻撃を無力化する。
「今はきみたちと戦う気はない。私が関心を持っているのはあの竜だけだ」
不可視の力が2人を弾き飛ばした。
「させるかあっ!」
真司は渾身の力で踏みとどまり、一点へ向けて連射した。1発でも入れば…!
直後、横殴りされるような衝撃を受ける。
「真司!」
長い触腕が肩ごと首を握り込んでいた。強い力が圧迫し、のどと肩の骨が今にも砕けそうな音を内側で感じる。集中力を保てず、その背から光の羽根が消失した。
「砕け散れ」
「……がッ…!」
真司の上に、影が生じた。
霜月の刀が触腕を斬り落とす。
落下する真司をエリュプシオンが、霜月を櫟が、それぞれ受け止めた。
「大丈夫ですか?」
「ああ…」
自翼に切り替えたリーラはすでに反転し、火球と火炎でエッツェルに挑んでいた。しかし彼の周囲で光るルーンのせいでやはり攻撃は届かないようだ。
「鉄壁ですね」
「だが不死身じゃない」
真司は痛むのどをさすりつつ指差した。痛みを知らぬ我が躯のおかげで痛覚は鈍いようだが、霜月に斬り落とされた触腕は再生しておらず、短くなった触手がうねうねと独自に動いているだけだ。回復しているにしても即座に再生というわけにはいかないらしい。
「攻撃するときはやつも防御を解かざるを得ない」
しかし光翼による高速の動きで揺さぶりをかけようにもすぐさま発動させることはできそうにない。
「何かきっかけが――」
そのとき、まさに真司の望む攻撃を地上のセラが放った。
「行きなさい!」
自分を取り戻すにつれ、激怒したセラは召喚獣のフェニックスを向かわせる。フェニックスはルーンの魔法防御にひるむことなく、幾度も体当たり攻撃を行った。
執拗に歯向かってくるフェニックスをうるさく感じたのか、エッツェルが触手を伸ばす。
「いまだ!」
真司、リーラ、霜月が三方から同時攻撃を仕掛けた。
霜月の刀が触手を切断、真司の銃弾が胸部にめり込み、リーラの炎が頭から飲み込む。
エッツェルはすぐさま距離をとり、致命傷は免れたが、深手を負っているのは間違いなかった。
「…………」
己の傷をはかりつつ、足下に3人を見下ろす。
このまま戦うことはできる。しかし、今日はそのために来たのではない。
「……竜よ」
エッツェルはイルルヤンカシュへ話しかける。イルルヤンカシュは彼らの空中戦に全く興味を示さず、ただそこにいるだけだ。
さもありなん。エッツェルはもはや不思議とも思わなかった。
「その力、いずれ我がものと変えよう。しかし今はこれまでだ」
これは私から贈り物だ。受け取るがいい。
エッツェルの体から暗黒の凍気がばら撒かれた。先のように分散したそれら1つ1つの威力は小さいが、その分数が多い。
「いけない!」
地上の者たちが一斉に魔法や銃弾を放ち、相殺を図ったが、全てを消滅させるのは不可能だった。
――いやああああぁぁぁぁあっ!!
暗黒の力に切り裂かれ、貫かれる痛みにイルルヤンカシュが初めて身をよじると同時に、苦しむ女性の幻が重なる。
そして次の瞬間、イルルヤンカシュは瞬間移動したかのようにその場から消えた。
「消えた?」
「……くっそおおおおお!! エッツェルーーーーッ!!」
激怒する彼らが再びエッツェルを見上げたとき、そこにいたのは古代の力・熾によって生み出された光の分身だった。
放出された力が強烈な光で彼らの目を焼き、くらませる。その隙にエッツェルはこの場を離脱していた。
「いた。あそこね」
もともとあとを追跡するため、上空からうかがっていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、遠い地に現れたイルルヤンカシュの姿を見つけることができてほっと胸をなでおろした。
どうやらけがは負っていなさそうだ。血が流れている様子もない。多分、驚いただけなのだろう。
「ええと……セルマお兄ちゃんに伝えとく?」
白蛇型ギフトで、今は武器形態になって祥子の腰に収まっている宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)が訊いた。
「そうね。そうして。きっとみんな、心配してるでしょうから」
「うん、分かった」
義弘がテレパシーでイルルヤンカシュの無事を伝えている間に、祥子は氷雪比翼を用いてイルルヤンカシュの元へ向かう。
人間から攻撃を受けた直後で、警戒しているかもしれない。敵愾心を持っているかも。光学迷彩を用いて周囲に溶け込むことで、できるだけ距離を縮めた。
イルルヤンカシュはとりまきのモンスターもなく、1頭で、特に急ぐふうもなくゆっくりと移動を始める。
森のなかを散策するように移動し、ときおり何かを求めるように鳴いて。やがて切り立った崖の斜面にたどり着いた。
(ここに何があるの?)
てっきり巣へ帰るものだとばかり思っていた祥子は眉をしかめる。
ここにあるのは何の変哲もない斜面だけだ。しかしイルルヤンカシュはその斜面へ近付くと、まるでカーテンか何かを通り抜けるように頭を突っ込んだ。
「えっ!?」
足を止めることなく進み、イルルヤンカシュは斜面へと消える。
祥子は下り立ち、斜面に手をつけた。
「ただの石、よね?」
「うん。僕も見たよ。ドラゴンさん、ここに入って行っちゃった」
むう、と考え込む。
そのとき、後ろでがさがさと茂みを掻き分ける音がして、森のなかから何者かが現れた。
「ルイ! あなた無事だったのね」
「ああ、祥子さんですか。よかった」
見知った者と出会えて、見るからにほっとした顔でルイは喜んだ。
どうやら吹っ飛ばされた先からさんざん道に迷ったらしく、少し憔悴気味で、体のあちこちに葉や小枝をつけている。
「こんな所でどうしたんです? ほかの皆さんは一緒じゃないんですか?」
「実は…」
と、祥子から自分が吹っ飛ばされて以降の話を聞く。
「なるほど。この先にイルルヤンカシュが。
では、少し離れていてください」
「ええ。任せるわ」
祥子が十分距離をとるのを待って、ルイは両腕に意識を集中し、気を溜めると一気に斜面へ放った。
「はああっ!!」
滅技・龍気砲が固い斜面を砕く激しい音が響き、周囲にこだまする。何も見えないほど粉塵がたちこめ、地に沈んだとき。祥子とルイの前には、洞窟が開いていた。
かなり大きいが、それでもイルルヤンカシュが通るには小さい。
「…………」
「入りますか?」
「……ええ。そうね」
暗い洞窟を抜けた先、ぽっかりと開いた広間のような空洞で、祥子とルイはクリスタルの奥に眠る女性を発見する。
彼女を守るように前に立った抜き身の大剣はほのかに輝きを発し、それが空洞をうす明るくしている。
目を伏せ、あごを引き、両腕を胸のあたりでクロスさせて何かを持っているように見えるが、垂れたそでや長い髪、剣の影に隠れてそれが何かは分からない。
クリスタルのなかで重力から解き放たれているかのようになびくツインテールの銀の髪は、わずかな光を受けて虹色の輝きを放っていた。
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