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リアクション
キロスを囲む人々
時は少し遡る。イレイザーの群れが遺跡に迫ると聞き、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は出陣準備にごった返すイコン格納庫で、モニターに映しだされる敵影を見ながら不敵な笑みを浮かべていた。ハデスの背後では、部下のアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が最終チューニングを終え、完成したばかりのオリュンポス・ナイトに同化し、発進準備を整えていた。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!
イレイザーの襲撃か……、面白い!
ついに完成した我らオリュンポスの秘密兵器、オリュンポス・ナイトの初陣に相応しい舞台だな!
アルテミスよ! インテグラルビショップおよびイレイザーどもを迎え撃て!
我らオリュンポスの技術力の前に、奴らを跪かせるのだっ!」
「了解しました、ハデス様! オリュンポスの騎士アルテミス、オリュンポス・ナイトで出撃します!」
「よいか、アルテミスよ! そのオリュンポス・ナイトは、騎士であるお前の戦闘スタイルに合わせて、接近戦用に調整してある!
一発分だけチャージしてある荷電粒子砲を撃ったら、砲身はパージ。
その後は敵陣に斬り込み、二本の星滅のカルタリで敵を切り刻むのだ!」
「はいッ! キロスさんの背中は、私が必ず守ります!」
「敵陣深くに斬りこんだら、隙を見てヴィサルガ・イヴァでオリュンポス・ナイトの全能力を解放せよ!
……と行きたいところだったが、許可が下りん。
デュランダルも併せて使い、敵を殲滅するのだ!」
「わかりましたッ! キロスさんのピンチを救います!」
噛み合っている様でどこか噛み合っていない二人のやり取りである。ハデスは注意事項をアルテミスに伝えるだけ伝えると、キロスのインテグラルナイトの方へと向かった。
「さて……。あとは、このヴィサルガ・イヴァを、キロスのインテグラルナイトに搭載しておいてやるとするか。
いざという時に役に立つかもしれんし、な」
キロスのインテグラルナイトの目立たぬ部位を選び、ワイヤーでヴィサルガ・イヴァを括り付ける。
リネン・エルフト(りねん・えるふと)はインテグラルナイト、エーデルリッターで出撃していた。アックスに変わり、大弩――アダマントの大弓――を装備している。電磁ネットや対INT用スタンがイコンの馬の背部分に懸架されている。その姿は古式ゆかしいケンタウロスそのものだった。リネンのパートナー、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は女性中心のタシガン空峡の義賊団、『シャーウッドの森』空賊団を率いて、大型飛空艇でリネンの機体を追尾しながら上空待機していた。表向きはリネン、キロスを含むインテグラル乗りのバックアップということだが、リネンがインテグラルナイトの暴走を、特に前科のあるキロス機におけるそれを強く懸念しているせいもあった。
「何かあった時は、こっちで拾い上げてあげるけど……普通のイコンとは違うんだし、無茶すんじゃないわよ!」
ヘリワードがナイト乗りたちに呼びかける。リネンが声をかける。
「ヘイリー、監視をしっかりお願いね」
「ああ、大丈夫」
それからキロスに向かってリネンは呼びかける。
「龍騎士の貴方には釈迦に説法かもしれないけれど……。
キロス、心の乱れは容易に騎馬に伝わるわよ。お兄さんのこと、気になるのはわかるけど平静にね」
キロスからは返信はない。
「……聞いちゃないかな……もうっ!
暴走が乗り手の心理状態が原因かはわからないけど、何に乗るにしても昂った状態というのは危険なんだけどな」
アルテミスはぼんやりした瞳をキロスのインテグラルナイトに向けていた。
「キロスさんを見ていると胸が苦しいです……。これは……キロスさんが危なっかしいからですね!」
アルテミスはイレイザーの群れの迎撃に出た。ハデスの指示に従い、インテグラルの密集地帯に遠距離砲撃後に敵陣に斬り込んで行く。
「キロスさん! 援護は任せてください! でも、一人で敵に突撃するような無茶はしないでくださいね!」
相変わらずアルテミスはキロスに対して無自覚の恋心を抱いたまま、キロスの機体に追随する。リネンのエーデルリッターもキロス機のやや後方につき、アダマントの大弓で遠隔攻撃を、近接した相手にはラスターフィストで対応しながら敵を粉砕してゆく。近くでは菊やジャジラッドに護られた巨大イレイザーが蚊でも叩く様にイレイザーを撃ち潰し、食いちぎっている。
清泉 北都(いずみ・ほくと)はクナイ・アヤシ(くない・あやし)とともにルドュテに乗り、遺跡を襲撃しようと襲い掛かるイレイザーの群れをアルテミス、リネンらと共に撃破していた。ルドュテのレーダーによる索敵や熱源反応のチェック、エネルギー残量はクナイの担当だ。無論禁猟区も抜け目なく発動させてある。
「今回は水中での戦闘ですから、機体に掛かる負荷なども計算に入れてありますからね」
クナイの言葉に北都は頷きかける。
「遺跡はヒトガタと何か関わりがあるみたいだ。なんとしても守りきらないとね。
巨大イレイザーも頑張ってくれてるけど、イレイザーを齧るだけじゃなく食べちゃったら、悪い影響が出るかもしれない。
こちらで倒せるものは倒すべきだろう。
……ビショップは覚醒を使うメンバーに任せた方が効率が良さそうかなぁ?」
天貴 彩羽(あまむち・あやは)は水中移動にも対応するイコン、マスティマで遺跡を護るべく北都のルドュテの側で共に闘っていた。水中戦であり敵の数も多いため、エネルギー消費が比較的少なく、威力が減衰しにくい物理攻撃なギロチンアーム、黒色チャクラム・ホロウをメインに戦うつもりでいた。
「遺跡を破壊をされると色々と手がかりがなくなりそうだしね。守らなきゃ」
「敵機の数が多いでござるから、漏らさぬように観測をしっかりするでござるよ」
彩羽パートナーの機晶姫、スベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)は機械部分が多く、一見すると戦闘用に見えるが、実際の戦闘能力はなく身体能力も低い。今回はイコンのサブパイロットとしてイコンにリンクできるように調整中である。指揮通信車両化、コマンダー能力を使い、僚機との連携も併せて図る。黒色チャクラム・ホロウが滑らかに水中を滑空してゆき、運悪くその針路上に位置したイレイザーの触れた部分をバターでも切るように切り裂いてゆく。怯んだところに北都のルドュテがフェンシングさながら、敵の攻撃を最低限の回避行動で避け、カウンターでソウルブレードを突き出してコアを貫く。ルドュテがウィッチクラフトピストルを撃ち込んだ個体を、マスティマがギロチンアームで頭部を粉砕する。頭を潰されたイレイザーは硬直し、そのまま湖底へと沈んでいった。北都は近くで斧を振り回し、イレイザーを滅多切りにしているキロスの機体を見た。
「心配なのはキロスさん。兄に対して確執を持つ気持ちは分からなくは無いけど。
僕も昔は兄と確執があったから。生まれた順番だけで愛される権利を持った兄と、体が弱い兄に何かあった時のスペアな自分。
……今はどうでもいい事だけどね。ちゃんと僕を見てくれる、愛してくれる人が出来たから」
そして通信でキロスに呼びかける。
「キロスさんの敵は、イレーザーとスポーンであって、ヘクトルさんじゃないよ」
「……キッチリやつらと戦ってるだろうが!」
皆からあれこれ言われ続けて、むしゃくしゃしているキロスの駄々っ子のような返事が返ってくる。
「ナイトは実験でリミッター解除しなくても暴走する事態が起きていますから、心配ですね。
巨大イレイザーも、攻撃対象がイレイザーならいいですが、味方機に攻撃意思を向けた場合、体当たりで身を引かせます。
それで元通りになればいいのですが……」
クナイの心配をよそに、巨大イレイザーは黙々とアピスの意思――なんとしても仲間のいる遺跡を守る――に従って、八面六臂の戦いを続けていた。
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