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リアクション
追われるもの
ウゲンとジェイダスのタコヤキ屋台から一旦離れ、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とともに町のスポーンたちの様子を見て回っていた夏來 香菜(なつき・かな)だが、やはりあの二人は気になる。Uターンして広場の隅から様子を伺っていた。
「確かにあの光景……というか組み合わせもシュールだよね……」
美羽が言う。先ほど香菜が見たときより、手伝いも増え、店も繁盛している。屋台前の広場のガーデンテーブルにはスポーンやここに駐留する調査員のほか、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)とヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)の姿も見える。呼雪が香菜に気付き、手招きする。
「おーい、こっちに来て座ったら? 俺らも今来たとこだ」
ちょっと躊躇ったが香菜は美羽らと共に呼雪のテーブルにつく。すぐに呼雪が追加のタコヤキを注文に立つ。手早く仕上がったタコヤキにソースをかけるジェイダスは、ウゲンと和やかに屋台を経営しているようだ。かつてはあり得なかったウゲンとのコラボレーション。
「流石ジェイダス理事長はソースの掛け方も芸術的ですね」
呼雪はある種の感慨を覚えながら香菜らにタコヤキを持ってきて勧める。
「香菜も食べないか? まぁ、あれは、今までを知ってるやつは普通なら近寄れなくても仕方ない」
と言った。
「そ、そうね。あまりにも現実離れしてて……」
立ち働くウゲンとジェイダスを見つめる香菜。美羽は香菜にもタコヤキを勧める。
「でも、このタコヤキ、すごく美味しいよ、熱々のうちに食べようよ?」
「うんうん、このタコヤキ、タコがすごく大きくて美味しいね」
コハクも言い、美味しそうにタコヤキを頬張る。
「うーん、タコヤキ美味しーい。……でもこれも全部ほんとに藻から出来てるのかな?」
ヘルも感慨いっぱいに言う。
「そんなのわからないくらい、ほーんと美味しい!!」
香菜が同意しながらもう一つ頬張る。。
「あ……、ね、あそこにいるのルシアちゃんとレナちゃんじゃ?」
「あれ? 今日はあの娘たち、遺跡の光条兵器を見に行ってたはずだけど……」
広場の隅に物陰を伝って動くものを認め、ヘルが言うと、香菜がいぶかしげに首をかしげる。
「待て、なんか様子がおかしい」
呼雪が言うと、立ち上がった。香菜、美羽とコハクもすぐに席を立った。美羽は何故かお土産用タコヤキパックを手にしている。さりげない様子を装いながら5人は物陰に潜むルシアとレナトゥス、アラム・シューニャの元に歩み寄った。
「何かあったの? どうしたの?」
美羽がすぐに尋ねると、3人の中で最も論理的なアラムがかいつまんで光条平気の部屋で起きたことを語った。ヘルがお手上げと言った感じで天を仰いで見せる。
「悠長に遊んでる場合じゃなくなっちゃったじゃないの〜せっかく休日を楽しんでいたのに〜! いやーんもぉ。
まぁ、あの因業オヤジの好きにはさせないよ。
レナちゃん達を人形扱い?! ちょっとなにそれ〜! いい加減にして欲しいしッ!」
呼雪が眉間に皺を寄せる。
「ゴダートが何かしでかしたのかと思ったが、やはりか……愚かな奴だとは思ったが、ここまで救いようがないとはな。
んで、巨大イレイザーだが……あいつは、お前やこの街のスポーン達を傷付けたりはしないんだな?」
「それハない。あれハ、コノ街ニ居るスポーンを護ろうトしていル。
……ソシテ……助けを求めテ私ヲ呼んでいル」
レナトゥスが請合った。
「助け? 何か危ない状況なのかしら? 確か遺跡から持ち帰ったスポーンがあれを操っているって言う話だけど……」
美羽が首をかしげた。
「そうではナイ。アレは使命ヲ感じているガ、それを達成するのニ私の助けがいるのダ」
そこにバラバラと5人の兵士が駆けつけてきた。
「いたぞ!」
美羽がとっさにタコヤキのパックを開け、熱々のそれを兵士たちの顔面めがけて投げつける。
「嫌がる女の子を追いかけるなんてサイテーよッ! ええーいっ!! 食らえーッ! 熱々タコヤキ爆撃〜!」
「うぁッ! 熱ッ!!!」
ほぼ同時に黙ってコハクがバーストダッシュで追っ手の足下に飛び込み、槍の柄で相手のむこうずねを計算の上狙って強打、脚払いを食わせる。密集形態を取っていたところに目潰しを食い、さらにむこうずね狙いの脚払いだからたまらない。折り重なるようにして兵士たちはその場に転がり、足を抱え込んでうめき声を上げる。いかに兵士といえどすぐには立ち上がれる状態ではない。コハクは追っ手とはいえ敵対関係というわけでもない人を傷つけることをしたくないと考えていたのだ。
「これもあげるわッ!!」
美羽が爪楊枝を散弾のようにばら撒き、レナトゥス、ルシアの手を掴み、アラムとコハクがその後方をカバーする。
「はぐれたらいけないからねッ!」
呼雪が叫ぶ。
「俺達は時間を稼ぐ。無事にレナを送り届けてやってくれ」
「わかったよッ! 任せて!」
美羽の返事が返る。
「あ、香菜ちゃんはちょっとこっちへ」
ヘルがルシアたちのあとを追おうとした香菜に呼びかける。呼雪はすぐに近くの服飾店に入った。レナトゥスが着ていたのと似た服を見繕い、ついでにマネキンを見て店のスポーンに頼む。
「これも一緒に幾つか売ってくれないか?」
ヘルと一緒にやってきた香菜に手短に作戦を話す。
「レナを逃がす為に協力してくれないか?」
俺は同時にアニメイトでマネキンを『レナトゥスそっくりの生物』に変える。
『追い掛けてくる者から逃げるように』と命じて街に放てば、少しは時間が稼げるはずだ。
ヘルはてきぱきと周囲のスポーンや簡単に傍受できる通話でニセ情報をばら撒いていた。
『今ルシア達が連れているレナトゥスは影武者と入れ替わって、本物は別の協力者が手引きしている』
『いや、それも偽者で本物はまだ街の中に潜伏している』
などなど。
『タコヤキ屋台のあたりで捜索隊を迎撃したようだ』
など、信憑性を持たせるため真実もしっかりと混ぜることを忘れない。一段落し、マネキンたちも街中に送り出してしまうとヘルは呼びかけた。
「呼雪、疲れちゃったんじゃない?」
「大丈夫だ」
呼雪は香菜と、ヘルは単体でドラゴンに乗って、町の上を旋回しレナ達とは別方向から巨大イレイザーを目指すフリをする。
「こっちに来た追っ手は迎撃だよッ!」
ヘルは言い、町の向こうに見える巨大イレイザーに呟いた。
「レナちゃんを頼んだよー!」
近くのベンチでタコヤキをつまんでいた匿名 某(とくな・なにがし)も騒ぎに気付いた。一見すれば逃げる女の子たちと追う兵士という構図、どっちを支援するかは決っている。
「なんだか知らないがたこ焼き食ってる場合じゃなさそうだ。とりあえず助ける!
……と言っても、追ってる相手は一応ゴダートの配下で調査隊の人間。
調査隊には知り合いもいる。俺ら契約者のせいでその人達に迷惑かけるわけにもいかない。
契約者の仕業と確証を得られるのもまずい。バレずに介入する必要がある。
それと……下手に本気で武力介入して死者が出たら面倒なことになるな」
さきの兵士の声を聞きつけた増援がこちらに向かってくるのが見えた。匿名はディメンションサイトで追っ手の位置を正確に把握すると、移動速度なども計算に入れ、現在の自分の位置から光術で効率よく目くらましをできるかを計算する。
「よっし!」
一気に増援に向け光術を放つ。念を入れて二発目を追加で放つと、目潰しは成功した。ポイントシフトで追っ手の近くに瞬間移動し、混乱する兵士の合間を縫うようにして動きながら武術による手刀で首に当て身を食らわせてゆく。
「がッ!」
「ぐはッ!」
かすかなうめき声と共に兵士たちはその場に崩れ落ちた。念のため手を上着を巻きつけて縛る。時間稼ぎ程度にはなるだろう。再びポイントシフトを使い、匿名は他の協力的な契約者たちを探しながら、ルシアたちに合流すべく急いだ。
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