First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
艦隊出動1
アイールでの交戦後も、引き続きホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が艦長を勤め、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)らが艦の中枢を司る{ICN0004430#テメレーア}を中心とした機動要塞群からなるH艦隊は、アクリト艦護衛の任についていた。旗艦であるテレメーアはアクリト艦の右前方に位置し、全艦隊の動きを統率する。アクリト艦に対し左前方に位置するアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)を艦長とするウィスタリアは補給や軽度の損傷のイコンを受け入れる役目も持つ。ウィスタリアは被弾ダメージを最小限に食い止めるべくジャマーカウンターバリアを展開していた。アリクト艦の右後方には湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)を艦長とし、高嶋 梓(たかしま・あずさ)がオペレーターを務める土佐が位置している。大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)の加賀加賀はアリクト艦の左後方に展開し、後方と左側面の警戒を担当葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の乗艦である伊勢は最前線に近い位置に配備、個々のイレイザーなどに攻撃を仕掛けるイコン部隊のすぐ後方に位置しており、それらを縫ってイレイザーたちが接近してきた際、あるいは僚艦が被害を被った場合その代行業務を引き受けるという特殊な立場でもある。
上面、左右はカバーしやすいものの比較的ガードが甘くなってしまいがちな下からの攻撃を防ぐ為、H部隊全艦は湖底すれすれを航行し、アクリト艦にも同様に深度を下げ湖底付近を航行するよう要請した。ネルソンがローザマリアに命じ、アクリト艦への通信を開く。
「こちらテレメーア、下方からの攻撃を防ぐべく、貴艦も湖底に近い位置を航行されたし。
なお、座礁を防ぐべく、富永 佐那(とみなが・さな)のイコン、ザーヴィスチが湖底の地形データの取得を行っている。
随時データの送信は行わせていただく。地形への衝突の回避に注意を払っていただきたい。
護衛上最も有効と思われる対策であります、ご留意いただきたい」
「了解した。その判断は現状において最良と思われる。データの送信チャネルを開けておく、よろしく頼む」
アクリトが応じた。
「これでよし、あとはデータ関係をまとめて、と」
ローザマリアがザーヴィスチのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)からの湖底地形データをわかりやすい形に視覚処理を施し、戦闘管制室のグロリアーナをはじめ、アクリト艦ならびに僚艦に一斉送信を行う。ローザマリアにエレナから通信が入った。
「湖底の地形をスキャン、データを順次取得中です。この近辺のデータ取得は完了いたしました。
続いて周辺部のデータ取得を開始いたします」
「了解。続行よろしくお願いします」
今回もH艦隊は全艦で連携して、襲撃序盤に群れなすイレイザー部隊への間断ない艦砲射撃を行い、まとまった数の殲滅作戦を行うことにしている。グロリアーナがチャネルを開く。
「全艦、湖底の隆起に留意しつつ前進――射撃開始。妾主催のパーティである。派手にやってやれ。
ビショップも3体混じるという。可能ならば巻き込め!」
今回は水中とあって使用するのはグラビティキャノンである。重力波本体の威力ももちろん、押し退けられた水が再び元に戻ろうとする圧力による複合効果も狙いである。H艦隊は機晶技術を用い艦隊の砲撃を統一して行う為のデータリンクを構築している。展開中のイコン部隊との回線はグロリアーナの担当部署である防空戦闘管制室にも繋がっており、戦場周辺の地形の詳細な情報に加え、レーダーなどによる探知情報と照合し、敵の数や展開状況を把握出来るようになっている。遺跡群を擁する湖底は凹凸が多く、艦長のネルソンは今回、艦の操艦にのみ集中していた。平行して自由に動き回っている巨大イレイザー――パラ実校舎――にも友軍による被弾をさせぬよう、最適な弾道を選ばねばならない。
「前方に敵軍、下方の地形も油断がならん。さらに味方らしいが……好き勝手に動いている様子の巨大イレイザー、か。
ビショップも3体が確認されているということであるし、今回はかなり緊張を強いられることになりそうだ」
コンソールデスク脇に置かれた冷め切った紅茶を一気に飲み干し、周辺部のイコンや地形データを素早く照合し、艦隊のフォーメーションを崩さないような進路を選び出し、巧みにテレメーアを操りながら各艦の総合指揮を行う。
グロリアーナは各機体や艦のレーダーが得た目標情報の集中処理を行っていた。偵察隊からの情報や、艦によるレーダー探知などを駆使して、それらのデータを取りまとめ、ネルソンに随時送信する。
「今回は操艦も相当神経を使うものとなろう。だが妾はそなたに全幅の信頼を置いている。頼んだぞ、ネルソン」
「御意」
短いネルソンの返答には万感の思いがこめられていた。ついで内線通話により砲術長であるローマリアに声をかける。
「当艦が一斉射撃の第一波を行う。準備せよ」
「了解しました!」
ローザマリアは機晶支援AI、シューニャと共に敵部隊の情報解析を行い、最も敵が密なエリアで、かつ巨大イレイザーを巻き込むことのない位置をはじき出した。同時に付近で迎撃を行うイコンへの警報も発令する。
「これよりH艦隊による連携砲撃を行います。座標A16―78396付近の機体は、速やかに退避を行ってください!
繰り返します……」
グロリアーナがついで笑いを含んだ声で続ける。
「押し潰されたいものは、その限りではないぞ」
退避が完了したのを見届けるや、ローザが澄んだ声で砲撃命令を下す。
「テレメーア、第一射撃――ファイア!」
魔道レーダーと機械系レーダーセンサーによる測距を併せての複合レーダーによる射線である。ホークアイで動きを追い、行動予測で動きを予想した上でのエイミングとスナイプで標的を狙い、シャープシューターとトゥルー・グリットを使用しての砲撃だ。弾着情報を元に誤差がないかのチェックに入る。
「やれやれ、今度は水中戦闘か。だが、引く訳にはいかないな」
土佐の亮一が呟く。呼吸可能で濡れることもないという特殊な水とはいえ、抵抗値などは通常の水とあまり変わりはない。あらかじめ根回しを使い、甲板分隊、整備分隊用のパワードスーツを確保して配備してある。戦闘被害による浸水に備えてのことだ。同様の理由から艦の指揮は艦橋基部装甲区画内のCICで行なうことにしていた。梓、航海長、航海科分隊、砲雷科分隊、通信化分隊も同様にCICでの待機となる。整備分隊と甲板分隊はイコンデッキで浸水に備えてPSを着用した上で補給に来るイコンへの修理、補給を行える体制を取っている。イコンデッキ外側の扉と格納庫側の内扉の間を水密区画として利用、艦内への水の進入を防ぐ対策も採っている。要塞砲は念のためR&Dでレールガンに改造済みだ。
梓がペレーター席で通信科分隊及、支援AIと協力し通信管制と索敵を行っている。レーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視確認を併用し、部隊の機動要塞と通信ネットワークでの迅速な情報交換を行う。
「テレメーアの砲撃でエリアAでは敵影が疎になっています。座標Z58―00972付近に密集エリアがあります」
「グラビティキャノン発射警報を周囲のイコンに通達。発射用意!」
「こちら土佐。グラビティキャノンでの砲撃を行います。座標は……」
梓が共通チャネルで周囲のイコンへの警報を発する。亮一が退避を確認後、発射命令を下す。
「グラビティキャノン――発射!!!」
群がるイレイザーの群れに、風穴が開く。
「着弾位置データをテレメーアに送信します」
梓の白い指がコンソール上を踊る。
「抜けて射程圏内に入った敵に対し、弾幕射撃を展開。抜けてきた相手に対しては直掩隊のイコンを発進!
ウィッチクラフトライフル、ソニックブラスターでの迎撃準備を併せて行うように」
「了解しました。同時に退避してくるイコンへの誘導を開始します」
梓は補給や損傷のあるイコンを適切な機動要塞に振り分け、誘導を行う。土佐の格納庫ではアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)がソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)とともに蒸気傾奇者、整備分隊にてきぱきと指示を与えていた。土佐は中破以上の損傷機体を主に扱うため、一機当たりの修理にかかる時間も人手も必要である。
「さて、と。今回もここは忙しくなりそうですな。
ああ、そっちの修理キットを――それではなく――Bのセットのほうを。ありがとう。
着艦時に可能な限り水を入れないよう、扉を開く前に排水が完了しているかの確認を徹底してもらってくれたまえ」
銃型HCに登録したトリアージプログラムと目視チェックを併用し、二重扉をくぐって格納庫に入ってくる機体のチェックを忙しく行う。ソフィアが修理に必要な資材のチェックを行いながら、格納庫と弾薬庫、燃料保管室、資材庫の間を文字通り飛び回っている。合間にパイロットたちのうち軽傷のものをナーシングでの簡易手当てを行っている。
「はい、これでもう大丈夫と思いますよ。もしもなにか異常を感じたら、すぐに医務室に連絡を取ってくださいね」
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last