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墓地に隠された秘宝

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墓地に隠された秘宝

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チャレンジャー


 ゆる族の秘宝が眠ると言われているゆる族の墓地に突如現れた秘宝への道。そのうち南側に現れた幅十メートルくらいの入口の脇で、セシル・ミューラー(せしる・みゅーらー)はたった今そこからフッと吹き飛ばされてきた蒼空学園の制服を着た男を見送った。
 ここに着てから何度かこの場面を見てきたわけだが。
「いつまでも見ていても埒が明かないねぇ」
 というわけで、自らも乗り込んでみることにした。
 試しに一歩踏み込んだところでランスを地面に刺してみる。
「何も起こらない、と」
 セシルはさらに進み、壁や地面に切っ先を突き刺しながら奥を目指した。
 通路は仕組みは不明ながらもぼんやりした照明が壁に等間隔に設置されていたため、何も見えないということはなかった。その代わり、その曖昧な明かりの効果でむき出しの土壁の凹凸が不気味さを煽っていた。
 しかしセシルにはそんなものは何の障害にもならなかった。
 ザクザクとランスを刺しながら真っ直ぐに歩を進める。
「何もない……?」
 そう思った時、突然数メートル先の空間がゆらいだように見えた。
 どこからどうやって?
 口に出す前にセシルはいきなり現れた、ここにいないはずの人物によって出口へ押し出された。
 どすこーい! という掛け声と共に。
 強力な磁石に吸い寄せられるように、あるいは巨大な掃除機に吸い込まれていくように、セシルの体は宙に浮き、抗う間もなく気づけば外に転がっていたのだった。
 今の出来事を反芻していると、寝転がったままのセシルを見下ろしてくる影があった。中に入る前に見た蒼空学園の生徒だ。
「どうやら、わいと同じっちゅうとこやな」
「みたいだねぇ」
 二人は気の抜けた苦笑を浮かべる。
 上体を起こしたセシルに千堂 秦(せんどう・しん)が中であったことを尋ねた。
「ここにいないはずのパートナーに、笑顔で張り手されたよ」
「それはそれは」
「そっちは?」
「同じく、連れてきてないパートナーにロケットランチャーぶっ放されて追い出された」
 どちらもありえない方法だった。
 その時、セシルと秦の頭上を二人分の影が飛んでいった。
 その二人は、地面に転がされるなりすぐに身を起こし、言い争いを始めた。いや、金髪の男が一方的に怒鳴っている。
「何故おまえは言うことをきかないのだ! それどころか俺に攻撃してくるとはどういうつもりだ! 俺の指示が聞こえていなかったのか?」
「攻撃してきたのは君が最初だもん。まさか君に後ろから攻撃されるなんて思わなかったよ」
 一方、淡々と言い返す瑠璃色の瞳の少年は、目で「卑怯者」と非難していた。
 その目に金髪の男が怒りとショックに言葉を詰まらせた時。
「まあまあ、少し落ち着けって。ほら、よく見てみぃ。どっちも怪我なんかしてへんで」
 秦が割って入った。
 言われて初めて白菊 珂慧(しらぎく・かけい)ラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)は自分達の身形を確認した。確かに怪我はない。服が埃っぽいくらいだ。
「なるほど。幻を見せてくるわけですね」
 不意に会話に加わってきたのは高崎 しずる(たかさき・しずる)。彼女は考えをまとめながら言う。
「パラミタでボク達地球人が活動するためには、この世界のパートナーの存在が不可欠です。そして、この世界の人にも地球人の力は必要で……それがどんな関係であれ、お互いが選び選んだ相手ですから、その相手に攻撃されたらビックリしますよね」
 ラフィタは「ビックリで済むか」という顔をしていたが、口には出さなかった。
 しずるはさらに浮かんだ考えを口にする。
「幻は、それだけなのでしょうか? ふむ、行ってみないとわからない……」
 そして、ちらりと四人を見る。
「もう一度行きますよね?」
「当然。まだ何にも解決してないもん」
 即答したのは珂慧。他の三人も頷く。
 そうこなくっちゃ、としずるはニッコリして四人に飴を差し出した。
「一休みしたら、出発しましょう。……ところで、最初に突入したピンクのリュックの人、どうしたかな」

「故様、今日はこのくらいにしてもう帰ろう」
 立ち止まり、振り返ってそう言ったエリナ・ウィロビー(えりな・うぃろびー)に、パートナーの岩木 故(いわきの・ゆえ)は眉をひそめた。
 ──今日のボクは一味違うの! 何たって『大吉』だもん!
 元気にそう言って、ラッキーカラーのピンクのリュックを背負ったエリナを思い出す。
 彼女は占いマニアで夢見がちなところがあるが、一度始めたことを途中で投げ出すような人ではない。
 故は冷たく目を細め、エンシャントワンドを突き出す。
「……あなた、誰?」

 倒れて動かない故に、エリナはどうしたらいいのかわからなくなる。
 故を倒したのは、故。
 エリナの目の前には二人の故がいた。そして、一人が倒された。
「敵は去った……進むは今……」
「いや、でも……」
 ここに倒れている故様は?
「偽者……」
 エリナの疑問を読んだように言う故。
 けれど、その証拠はどこにも見えなくて。
 どちらを信じていいのか、エリナはわからなくなった。
 もしも、この倒れている方が本物だったら?
 今、立っている方が偽者だったら?
「だ、誰が明日の運勢を占ってくれるんだー! ……アイタッ」
 叫んだところでガツンと頭を殴られた。
 とたん、靄が晴れたように何かがスッキリしていた。
「大丈夫ですか?」
 どことなく不幸そうなオーラを纏った男がエリナの前にいた。
 エリナの目に男──笹島 ササジ(ささじま・ささじ)の持つホーリーメイスが目に入った。どうやらこれで殴られたらしい。
「殴ったな!? 敵?」
「ち、違います。お二人が幻覚でも見ているようだったので、衝撃を与えれば正気に戻るかと思ったんです」
「そうだ、故様っ」
 ササジの話を無視して故を探し出すエリナ。故は少し離れたところにいた。いつもの眠そうな顔がエリナを迎えた。
 ササジは無事を確かめ合う二人を見て、そっと安堵した。
 彼自身はバーストダッシュでここまで駆け抜けてきたわけだが……ふと、彼は思った。
 自分には宝が必要なのに、どうしてわざわざライバルを助けたのか。素通りしていれば、この先楽になっただろうに。
「まやかしを退けてくれたこと……礼を言う……」
「助けてくれたお礼に、秘宝が見つかったらボクの分を少しわけてあげるねっ」
「……まいりましたね」
 ササジは困り顔で頭をかいた。
 自分はそんなに善人ではないのに。
「では、進みましょうか」
 それでも、助けてしまった理由が出会ったばかりのエリナと故のどこかにあるような気がして、ササジの口からは自然と同行を促す言葉が出ていたのだった。