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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

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小さなコンサート

 さて、みんなが仲良く勉学に勤しみ、そして催しに向けて動き出している中で、1人ポツンと佇む男がいた。
 ただでさえその光景には物寂しい物があるというのに、五条 武(ごじょう・たける)は薄暗い音楽室で自作したパラミアントのテーマソングをさらに哀愁漂うアコースティックアレンジをしてギターを奏で始めた。
 一体何故、彼がこんな目にあってしまっているのか。少し時間を遡ってみよう。



 そもそもパラ実生である武は、知り合いを訪ねてやってきた。学生の放課後、本来ならば下校途中に寄り道をしたりと今頃楽しい時間を満喫していたかも知れない。
 しかし、今日という日を選んでしまったのが不運だった。敷地に入った瞬間、生徒会役員に校舎内に入るよう言われてしまい、気がつけば閉じ込められてしまった。それはそれで仕方がないので知り合いを訪ねたのだが……。
 最初に見付けたのはレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)
「ごめん、別の友達と先約あるんだ。悪いな」
 申し訳なさそうに頭を下げられ、彼にも用事があるのだと別の知り合いを当たることにする。次に見付けたのは
「睦月も一緒だし……ちょっと復習しておきたいとこがあるんだぁ」
 確かに、先程勉強するように放送があった気もする。周りの空気からもそれが察知できるので、次の知り合いセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)に声をかけた。
「おぬしもタイミングが悪いのう……先約があって相手が出来んのじゃ」
 さすがに困っているからとは言え、その輪にまぜてくれとも言えず立ち往生していると、刀真が勢いよく走ってきた。
「環菜長ぉおっ! 俺が、一肌脱ぎますよっ!!」
 しかし、気付かれることなく通り過ぎて行ってしまい、とにかく忙しいということはわかった。最後の頼みの綱だったも勉強に勤しむらしく、これで知り合いは全てダメだったことになる。
 何か催しがあるのなら手伝いたいが「校長命令ですから」と口止めされている様子。ほとほと困り果てて、現在に至る。



(いつになったら帰れるんだ……)
 知り合いと楽しめるならいざ知らず、他校で1人は中々に辛い物がある。そんなとき、音楽室のドアが開いた。
 武がふと振り返ると、控えめな拍手を送ってくれる少女がいる。柊 まなか(ひいらぎ・まなか)シダ・ステルス(しだ・すてるす)と共に歌の練習に来たのだが、人見知りな性格のためか拍手はする物の声をかけることは出来なかった。
「……あんた、他の曲も弾けんのか?」
 そんなまなかに変わり、口を開いたのはシダ。突然の物言いだが、1人で黄昏れているよりはよっぽどマシだろう。
「趣味でかじっているからな。ある程度なら大丈夫だ」
「あ、あの! それじゃあリクエストがあるんですけど……」
 おずおずと音楽の教科書を差し出すまなかに、一体どんなリクエストが飛び出すのかと思えば、音楽の歌唱のテストに向けて練習したいということらしい。
「これなら大丈夫だ。そこの君とユニゾンか?」
「いや、俺はいい」
 言いながら教室の電気を全部つけて、小説を手に適当な席へ座ってしまった。仕方がないので、武とまなかは「よろしくお願いします」とお互いに頭を下げて静かに歌い始めた。
 そんな中、賑やかな図書室から読書の場所を求めて数名が音楽室へとやってきた。各教室でも勉強やお喋りを楽しむ生徒がいるので、特別教室の方が静かだろうと思って歩いていたところ、心地良い音楽に惹かれて来たようだ。
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)もその中の1人で、パートナークリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)との勉強も一段落したので音楽室へ続く階段を上っていた。
「やっぱり音楽室からだよね。僕も一緒に歌おうかな」
「……止めておきませんか、アヤ」
 パートナーとしての欲目を抜きにしても、綺人の歌声は素晴らしい。元々声が良いことも相まって、単調なメロディーであっても聞き惚れてしまうほどだ。
 だがしかし、何故だかオカルト的現象が起ってしまうので聞き惚れてもいられないのが残念だ。
「そう言えば、中間考査が終わったらすぐに歌唱のテストがあったね。その練習かな」
(そんな厄介なこと、無くなってしまえば良いのですが……)
 そうして、階段の踊り場に出ると階段からは荷物を抱えた向飛 雉里(むかひ・ちさと)が降りてきた。どうやら、折りたたみ式の将棋盤に1冊の本。とすると、小さな箱は駒だろうか。
「あら、あなたたちも音楽室へ?」
 綺人の手元を見て、同じように静かな場所を探していたのだろうと思った雉里が声をかけると、綺人は微笑み返した。
「うん、賑やかなのは嫌いじゃないけど、やっぱり本は落ち着く場所で読みたくて」
「そうね、悪くはないんだけど。……それにしても、随分渋いのを読むのね。歴史が女の子に流行ってるとは聞いたけど」
 本当だったのね、と頷くけれどクリスが持っているのは家事の入門書。
「……僕は男です。それに、渋いって言うなら将棋も結構渋い方だと思うけど?」
 もう言われ慣れてしまった言葉に対して驚きもないが、やはり落込んでしまう。
「将棋って、確か盤上遊戯の一種ですよね。お強いのですか?」
「やってみる? 人の手を読むのは奥深いわよ」
 普段目にしない物が珍しくて声をかけてしまったものの、上手く会話を成立させながら遊べる自信はない。そんな様子を気遣ってか、綺人がフォローを入れる。
「確か、1人で出来る物もあったよね。いきなりは難しいだろうし、それを見させてもらったら?」
「詰め将棋ね。そのつもりで本も持ってきているし……まぁ、無理には誘わないわ。興味を持ってくれただけでも嬉しいし」
 そうして、3人揃って音楽室に向おうと廊下に出ると、向かいからは本の山がやってきた。いや、山のように本を積み上げて運ぶ3人組みだった。その1人の如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が思い出したように口を開く。
「……これ、どうやってドア開けるの?」
 図書室で読みたい本を物色していたとき、お互いに凄い数の本を抱えている物だから、同じような目的だろうと思って一緒に図書室を出た。そこを出る際は他の生徒も一緒だったこともありドアのことなど全く頭になかったが、全員手が塞がっている今となっては音楽室は開けられない。少し考えた後、一式 隼(いっしき・しゅん)は音楽室のドアの前で立ち止る。
「あまり良いとは言えませんが、自分が1度廊下に置いてドアを開けます」
「しかし、これほど積んでいては崩れてしまいます。本が傷んでしまわないでしょうか」
 そうパートナーの李 零仙(り・れいせん)が言うものだから、隼は黙ってしまった。
 元々口数の多くない3人なので、話も進まずどうしようかと思ったとき、綺人たちが声をかけた。
「音楽室で読書をするなら、ドアを開けようか?」
 こうして、落ち着ける場所を探し求めていた6人はやっと安らげる空間にたどり着き、思い思いの本を読みふける。
 先にいた3人も歓迎してくれて、それにつられて口ずさむ者もいれば、互いにオススメの本を交換しあったり、将棋指導が始まったり……1番笑い声が響いたのは、シダが急に歌い出したときだろうか。
 今まではたまに演奏を止めて指導をする側だったのに、普段は無口な彼が本に視線を落としたまま突然歌い始め、歌っていたまなかが驚いて声がひっくり返ってしまうことがあった。
 ゆったりとした時間に満ち溢れる音楽室は、しだいに居心地の良い空間になっていたようだ。



 その頃、なんとか数学のコツが掴めるようになったは、やっとの思いでラルフのお許しをもらい、ゆっくり出来る場所を2人で探し歩いていた。静かな廊下を進んでいくと、2人分の足音の他に微かな歌声が聞こえてくる気がする。
「なんだろう、音楽室の方かな」
「そういえば、昔読んだ書物にありましたね。学校の七不思議がどうとか」
「えぇっ!? な、なにか噂あったっけ……?」
 心霊現象が大の苦手な勇は、ラルフの服をぎゅっと掴み側へ寄り添った。まだそうと決まったわけでもなければ、音楽室の前に立っているわけでもないのに。ラルフは苦笑しながら勇の頭を撫でてやる。
「大丈夫ですよ、人の気配がしますから」
「ひ、人じゃない気配だったらどうするのさ」
 ぴったりと後ろにくっついたまま目を閉じているので、ラルフはそのまま歩み進めて音楽室のドアを開く。
 そこには、ギターを弾く武とそれに合わせて歌うまなか。そして、同じように静けさを求めにきたのだろう読書の面々。
「ほら、大丈夫でしょう?」
 そぉっと目を開いて教室の中を確認すると、安堵の息を吐く勇。空いている席に座り、2人で借りてきた本を見る。
 図書室より静かで、穏やかな気持ちになる優しいギターの音と歌声を聞きながら見る写真集は、いつもより幻想的に見えるのだった。



 一方、図工室ではの指導の下で沙幸刀真、そして用務員室からいくつかの木箱を貰ってきた陽太が懸命に飾りを作っている。その横で、刀真のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はポツリと呟いた。
「やっぱり、ルミーナを手伝ってこようかな」
「ダメです。月夜だとお手伝いにならないでしょう」
 力仕事を手伝うというのなら、それはそれで心配ながらも一緒に手伝っただろう。けれど、月夜は料理を手伝いたいと言い出した。何度それで自分が危険な目にあったことか数えきれず、これでは環菜長にご迷惑がかかってしまう! と全力で止め、諦めてくれたと思っていたのだが、機会を窺っていたのか再び口にし始めた。
「大丈夫……な、はず」
(いや、絶対に大丈夫じゃないでしょう……)
 何人に振る舞うことになるか分からない料理は、被害を想像するだけで恐ろしい。
「環菜の為に何かをしてあげたいの」
 普段口数の少ない彼女が、ここまで自我を通すのも珍しい。だからと言って、料理を許すことは出来ない。
 話題を変えた方がよさそうな空気を察して、陽太が月夜に声をかけた。
「すみません、1人ではどうも上手くいかなくて……その端を押さえて頂いていいですか?」
 コクリと頷き飾り作りを手伝い始めた月夜に、どうか料理のことは忘れていて欲しいと刀真は心底願った。
 その願いが叶ったのか、イーオンが図工室にやってきた。
「遅くなった。その代り、おまえたちに朗報だ。ルミーナから外出許可を得た」
「ほ、本当ですか!? じゃあ、俺たちも会場の準備に参加出来るんですね。会長のお役に……!」
 感動している陽太を無視し、イーオンは話を進める。飾りらしい飾りは用意していなかったので、感謝していたこと。そして、その飾りにもう1つ加えて欲しいこと。
「もう1つ? ススキと水桶と……まだあったっけ」
 団子を飾る物も少しは用意したけれど、もしかしたら足りているかもしれない。他に何を用意していただろうかと、真は首を捻った。
「物自体は俺のパートナーが用意している。おまえたちはそれを入れる花瓶を用意しろ」
「花瓶ですね、それが環菜長のお望みとあれば!」
「……頑張る」
 刀真と月夜もさらに気合いが入り、準備へのラストスパートをかける。カンナはもちろんのこと、みんなが楽しんでくれるようにと一足早い文化祭気分を味わうのだった。