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木の実

 やがて、一行は美味しい木の実がたわわになっている場所に到着した。

 メンバーの中には、単にキアリを救出するだけでなく、こちらがお目当ての者も少なからずいたようだ。

「わあ、おいしそう!」

 メニエス・レインは、早速木の実狩りと決め込んだ。

 メニエスにとっては、キアリたちより木の実のほうがどちらかというと重要だったのだ。

「木の実を採って持ち帰るぜー。キアリちゃん、一緒に採ろう!」

 エル・ウィンドは、もうすっかりキアリとデート気分だ。

 支倉 遥もこれに便乗。木の実をいっぱい採って、お持ち帰り。

 木の実をしこたま採った電波 夕希は、うれしそうな顔でキアリにこう提案した。

「ねえ、キアリ様、今度自分たちのパートナーのために木の実を使ったお菓子を作りませんか?」

 面倒くさがりの夕希がこういうのは、キアリと仲良くなりたいという意思があるから。

 愛川 みちるは、「ほらっ」と採った木の実をルズへ渡した。

「もし、あなたが留守番してたのなら、お土産に持っていってあげようかと思ってたけど、一緒に来たから、今採ったのをあげるわ。キアリとはきちんと向き合ってね」


 源内侍 美雪子は、木の実を使ってなにやら計画があるらしい。

「これを持ち帰ってパイでも作りたいね。あ、でもあたしはそういうの出来ないから、同行した百合園の連中に頼んでみるかな・・・・・・。ねえ、鳥丘さん、この木の実でパイ作ってくれない?」

「いいよ! さすが美雪子。目のつけどころが違うね!」

 これを聞くと、キアリの表情が少し明るくなった。
 やはり、お菓子は人の気持ちを笑顔へと向けるようだ。

 このほか、ルイ・フリード、クレア・シュルツ、レオナーズ・アーズナックらも、思い思いに木の実を取って、持ち帰っていた。

 パートナーのため? 自分のため? 人それぞれである。


 ☆ ★ ☆


 北の森からの帰り道、またゴブリン残党が出現した。

 しかし、少数のゴブリンなど、彼らの敵ではない。

 宇都宮 祥子は、ゴブリンに八つ当たりともいえる一撃を加え、あっという間に退散させた。

「どうやら、さっきの話で、例の抱きつき女を思い出してムカムカしてきちゃったみたいね。
 でもやっぱりキアリ、あなたルズの過去も含めて付き合っていったら? 私たちとパートナーは一蓮托生の仲なのだから」

 この祥子のひとことで、またキアリへの矛先が蒸し返されてしまった。

 愛川 みちるは、キアリに訴えかける。

「私もあなたと同じく、パートナーのこと思っているから、その気持ちはよくわかるわ。その気持ちは分かるけど、パートナーを試すような事はしてはダメよね。もっと信じてあげるべきよ」

 水神 樹も同じ意見だ。

「ゴブリンの出る森に一人で行くなんて、いくらなんでも無茶よ。気持ちはわかるけど、相手を試すような真似はしないで、ルズにあなたの心のうちをはっきり伝えた方がいいと思うわ」

 これを聞くと、せっかく表情をやわらげたキアリは、またうつむいて、歩みを止めてしまった。

 カディス・ダイシングは、黙って樹がキアリを説得するのを見守っている。
 樹はキアリと友達になりたいという気持ちで言ったと思うのだが、果たしてキアリに伝わっているのだろうか?


 ターラ・ラプティスは、弱っているキアリのそばに寄って背中をなでた。

「キアリ、あなたがルズを試すまで帰らないつもりなら、気の済むまで居させてあげるわ。でもキアリ、結局あなたはルズを友達以上として思ってるんじゃないの? だったら友達になったとしても根本的に解決はしないわよねぇ。でも友達になったら恋愛相談くらいはしてくれるようになるかもしれないし、無駄ではないわよね……?」

 ターラには、キアリの不安が痛いほどよくわかる。
 パラミタ大陸に来たばかりで、仲の良い人がいないのが可哀相でならないのだ。