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リアクション
第三章 魔女の正体
魔女は焦っていた。今日はやたらと知らない人が自分に近づいてくる気がする。もしかして、バレてしまったのだろうか? でもそれももう関係ない。この角を曲がれば――
迷路のような袋小路を抜けて安堵した魔女は、すぐに心臓の止まるような思いをする。自分の家の前に人がいたのだ。
魔女が見たのはケイとカナタだった。ケイは魔女の慌てぶりに思わず声をかける。
「おい、あんた」
魔女はすぐに来た道を引き返そうとしたが、最悪なことにそこにも人がいた。美羽だ。魔女はケイとカナタ、そして美羽に挟まれる形になる。
魔女がおどおどしていると、次から次へとジャックたちが周りに集まってくる。これは魔女にとって喜ばしい状況ではなかった。
「ふむ、ジャックたちはおぬしの下に集まっているように見えるな」
カナタは何か悟ったように言う。
「く……お前たち、こやつらを――」
魔女がジャックたちに何か言おうとしたそのときだった。一匹のジャックが重みに耐えきれず、持っていた箱を落とす。地面に激突した箱からは、マナが出てきた。
「いたた、もっと大切に扱ってくれたまえよ」
そこにクロセルが駆けつける。
「マナさーん、大丈夫ですかあ? このお茶の間のヒーロー、クロセル・ラインツァートが今いげふっ」
クロセルは言葉半ばで地面に押しつぶされる。彼の上にはやはりジャックたちが落とした巨大ケーキ、いや佑也が乗っかっていた。
「ん、なんだ? 本丸に着いたのか?」
「ちょっと、私より目立つなんて許さないんだからね!」
クロセルと佑也のドタバタ劇を見て、美羽も黙っていない。辺りは俄然騒がしくなってきた。
騒ぎを聞きつけて、魔女を探していた他の生徒たちもどんどん現れる。魔女はあっという間に生徒たちに取り囲まれてしまった。
「ちぇ、先超されたか。まあいいや。この状況、あんたがジャックたちを操ってるってことで間違いなさそうだね。さて、どうしてやろうか」
「あ……う……」
リリィが魔女に詰め寄る。それを菅野 葉月(すがの・はづき)が制止した。
「ちょっと待ってください。魔女もおびえているではありませんか」
「なんだよ、悪事は阻止して当然じゃん」
「まあまあ、これ以上何かしようという様子は見受けられません。一つ話を聞いてみましょうよ」
「……分かったよ。あたしが悪者みたいじゃないか」
リリィはしぶしぶ引き下がる。そこで、葉月のパートナーミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が一歩前に歩み出て言った。
「みんな色々聞きたいことがあると思うけど、一斉に聞くと混乱しちゃうよね。だから、まずは私がみんなを代表して魔女さんと話していいかな?」
生徒たちは承諾する。
「ありがとう。それじゃあ魔女さん、今晩は。私はミーナ。あなたは?」
ミーナの質問に、魔女はなかなか答えない。しかし、ずらりと並んだ生徒の顔を見回すと、観念したのかとうとう口を開いた。
「……リヤ」
「リヤか。リヤはこの町に住んでるんだよね」
「ここ、私の家」
リヤは目の前の古びた洋館を指さす。
「あ、そうなんだ。いつもは一人なの?」
リヤは再び黙り込む。
「うーん、言いづらいことでもあるのですかね」
葉月は困った顔をする。と、今度はアリアがリヤに話しかけた。
「リヤちゃん、私アリアって言うんだけど、リヤちゃんとお友達になりたいの。よかったら、子供を喜ばせられるような魔法とか教えてくれないかな」
「ど、どうしてもっていうなら別にいいけど……」
リヤの表情が変わる。葉月はこれを見逃さなかった。
「みなさん、これだけ大勢の人に囲まれていたら魔女も話しにくいと思います。ここは一つ、アリアさんにお任せするということでいかがでしょう。アリアさん、お願いできますか?」
「あ、はい」
生徒たちが離れ、アリアとリヤは二人きりになる。
「さ、これでゆっくり話せるよ」
「……」
「ハロウィンのときだけ町の中心の方に来るのはどうしてなのかな?」
「そりゃ……楽しそうだし」
「普段から遊びにくればいいのに」
「それは……」
「それは?」
「だって……だって……恥ずかしいんじゃ!」
リヤは堰を切ったように話し出す。
「何年か前この町に引っ越してきたけど、魔女なんて他にいないから友達もできないし。ハロウィンなら私がいても変じゃないかなって。でもいざとなるとやっぱり恥ずかしくて……」
「なあんだ、リヤは恥ずかしがり屋さんなんだね。じゃあ、ジャックを操ってお菓子を取っちゃったのはどうして?」
「……お菓子は食べたいんじゃ!」
それを聞いてアリアは笑い出す。
「何がおかしい!」
「ごめんごめん。リヤがかわいくてつい。そっか、話は分かったわ。さ、みんなのところにいきましょう。大丈夫、私が話してあげるから。みんな分かってくれるわ」
アリアはリヤを連れて他の生徒たちに合流すると、事の次第を説明する。生徒たちは当然のこととして悪戯をしてはいけないとリヤを諭し、最後にはリリィも含めて全員が彼女を温かく受け入れた。
「さあリヤ、事件も解決したことだし、ジャックたちを解放してあげて!」
とにかく目立つことが大好きな美羽は、最後の締めをもっていく。
「うん。ジャックたち、ごめんね」
リヤが術を解くと、ジャックたちはしばらく宙をさまよった後夜空に消えていった。
町中で戦っていたジャックたちも退散していく。真一郎は、今の今まで戦っていた相手が急に引き上げて驚いた」
「これはどういうことですか?」
「分からないわ。でも、願ってもないことじゃないの」
「それはそうですが……おっと?」
真一郎は、何者かが自分のコートの裾を引っ張っているのに気がつく。それはウィティートだった。
「優しいおじちゃん、ウィティを助けてくれてありがとう。すっごくかっこよかったよ」
「あ、いや、その……」
「もう、子供相手に何オロオロしてるのよ。しっかりしなくちゃ」
子供との付き合い方を知らない真一郎を、可奈がフォローする。
「そうですね……コホン、お嬢さん、ご無事で何よりです。礼には及びません」
「だから堅いって……」
「あ……れ……? 私の子分たち……?」
突然ジャックたちに置き去りにされ、真宵は一気に勢いを失った。そんな彼女の前に、サレンが仁王立ちする。
「さあ観念するッスよ、カボチャ女王!」
「いやほら、演出よ演出。敵側も学生ならハロウィンショーっぽいじゃない!」
「……」
「……」
「グッドパンプキン!」
「あ、こら、待つッス!」
「どうやらうまくやったみたいだな」
騒動が収まった頃、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)はようやく動き出す。
ジャック対策や魔女探しに向かう人たちはきっと沢山いる。奪われたり学生が来たりすることで、お菓子が足りなくなるという事態もありそうだ。それならば自分はお菓子を配ることにしよう。ミサはそう考えた。
「でも、子供に直接配るんじゃおもしろくないよな。俺も小さい頃、子供同士で家を回ってお菓子を貰うのが楽しかったもんだ。親たちに渡して、ちゃんと子供がイベントを楽しめるようにしよう」
ミサは三つの穴を開け、額のところにくる部分に『肉』と書いた布をかぶる。お手軽ゴーストだ。これで顔はバレない。
「ハッピーハロウィーン。子供たちの笑顔をみんなに」
各家庭を一軒一軒回っておかしを配り終えると、ミサは心地よい達成感に包み込まれる。
「ふう。はてさて、俺は楽しいハロウィンのお役に立てたかな?」
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