リアクション
砂漠でチーズ 陽炎が揺れている。 「はい、チーズ」 よれよれのネクタイを締めた男が銀塩カメラをのぞき込む。彼のカメラレンズの先には、学生達が立っている。 「なんで記念撮影?」 「さあ……」 よれよれネクタイ氏は、不審顔の学生達にはまったく構わずシャッターを切っていく。よれよれのネクタイに、同様によれよれのスーツという出で立ちだが、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)から出資を取り付けたということは見た目に反してなかなかの切れ者なのかも知れない。 「危険な砂漠に挑む若者たち! 燃えますねぇ、副長!」 一人で盛り上がるよれよれネクタイ氏の傍らに立つ掘方 ホル三(ほりかた ほるぞう)は、撫で肩をすくめてみせる。 「勝手にするがいいモグ。あと、副長と呼ばないでほしいモグ」 語尾から何となく察せられるとおり、ホル三はモグラによく似ている。ただし、ホルスタイン牛の羽織を着ているのだが。黄色のヘルメットが、ぎらぎらした砂漠の陽光によく映えている。モグラだからか、砂漠用の装備なのかわからないが、レンズの端がやたらと鋭角にとがったサングラスをしている。完全にマンガに出てくるモグラのイメージを踏襲している。 「ちぃと頼みたいことがあるんじゃがのぅ」 パラ実生の棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)がモグ三に話しかける。亞狗理はパラ実生の意地なのか、砂漠でもいつものパラ実ファッションだ。砂漠で見るパラ実ファッションは、1.5倍増しで暑苦しい。 「廃材やらを貸してほしいんじゃ。それで蛮族をおびき出すけん」 パラ実生である亞狗理は、蛮族が好みそうな廃材を選び出す自信があるらしい。 「うーん、よれよれネクタイ、どうモグ?」 「今のところ廃材自体ないですね」 手元の書類を一瞥したスーツの男は申し訳なさそうに眉を寄せる。 「な、なにぃ!?」 亞狗理はショックのあまり地面に両手をつく。 「プロジェクトが終わればいくらでもさしあげられるものがあると思いますが……」 よれよれネクタイ氏は申し訳なさそうに頭を掻く。 「フフフ、その役目このボクに任せてもらいましょう!」 ぎらぎらと輝く砂漠の太陽光にも負けないくらい目に痛い金ピカの装備に身を包んだエル・ウィンド(える・うぃんど)がモグ三とよれよれネクタイ氏の前に立つ。よれよれネクタイ氏はあまりのまぶしさに思わず目を背ける。サングラスを目に付けているモグ三は涼しい顔だ。 「しっかり頼むモグ」 モグ三は大きな手のひらをウチワ代わりにぱたぱたと動かしながら頷く。暑いのは苦手なようだ。 「……地平線全部揺らいで見えますね」 常に冷静な緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)もさすがに辟易とした表情を隠しきれない。 「どういうルートを通るのか教えてくれないか?」 ハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)がモグ三に話しかける。 「トラックのルートは、現場の状況を見つつ判断するモグ。砂漠の状態は日々変化していくモグ……それにどこかに内通者が潜んでいるか知れないモグ」 いいながらモグ三は羽織の隠しから一つのサングラスを取り出す。 「これを貸してあげるモグ。なくさないでちゃんと返すモグよ」 「え……?」 ハーポクラテスはモグ三に渡されたサングラスを持ったまま、突っ立ている。 「モグも若い頃は、美しすぎて苦労したモグ。とりあえずそれをかけておくモグ。きみの先輩にも素顔を隠している男がいるモグ?」 「はぁ……」 ハーポクラテスはとりあえずサングラスをかける。サングラスで目元が隠されたおかげでハーポクラテスの作り物じみた美貌が隠される。 ハーポクラテスのパートナー、クハブス・ベイバロン(くはぶす・べいばろん)は無言でモグ三に目礼する。 モグ三はクハブスに向かってにやりと笑ってみせるのだった。 「それにしても……『コウ』に出会うことはできますかね?」 よれよれネクタイ氏は、トレードマークのくたびれたネクタイを人差し指に巻き付けながら首を傾げる。 「コウ? 事前の情報にはなかったな」 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が顎を撫でながら尋ねる。その姿はかの有名なホームズ氏とどこか通ずるものがある。……国籍と性別だろうか。 「砂漠の伝説モグ。砂漠の底に、空を意のままに駆ける七色に輝く鱗を持つ『コウ』という銘を持つ竜が眠っているという事だモグ」 「ドラゴンかよ! まさか大ミミズがそのコウだなんてオチじゃないだろうな?」 「ミミズは竜とは違うモグ」 「へへ、楽しみだな」 ウィルネストは不敵に笑ってみせた。 |
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