シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【十二の星の華】変心のエメネア

リアクション公開中!

【十二の星の華】変心のエメネア

リアクション


第1章 変心

 鞭がしなり、人が打たれる音が響く。
 打たれたのは、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)ではなく、山葉 涼司(やまは・りょうじ)であった。
「ってぇ」
 咄嗟のことながら、エメネアと花音の間に割って入った涼司。
 ガントレットで彼女の鞭を受けたのだが、それでも充分、打たれた腕へと痛みが伝わってきて、顔をしかめた。
「何かあったでござるか!?」
 物音を聞きつけて駆けつけたのは、涼司たちと共に最上階まで上がってきた後、それぞれに分かれて探索していた椿 薫(つばき・かおる)桐生 円(きりゅう・まどか)レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)神代 明日香(かみしろ・あすか)の4人だ。
 同様に最上階に居た虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は、駆けつけはするもののそのまま物陰へと隠れて、ことの様子を窺う。
「エメネア……」
 駆けつけた学生たちが目にしたのは、以前とは違う雰囲気を纏った少女の姿だ。
「先ほど告げたとおり、女王に相応しいのはティセラさんです。彼女の邪魔をするというのであれば、容赦はしませんーーー!!!」
 エメネアは再び、そう告げると手にした鞭を振り上げた。
「とりあえずお縄につくでござる。その後ゆっくりお話でござるよ」
 薫はそう告げ、1曲歌い始める。悲しみを誘うその歌は、攻撃しようという意気を沈めるもの。
 沈められそうになる思いに抵抗しようと、鞭を振り上げたエメネアの手が震える。
「そのような歌、聞こえませんーーー!!!」
 やや苦しげな表情を浮かべたエメネアはその鞭を薫に向かって振り下ろした。
 避けきれず、薫は肩を打たれてしまい、じわりと痛みが広がっていく。
「この前、ティセラから守れなかったのは、私の責任……」
 レロシャンはぽつと呟くと、今一度、エメネアを見た。そして、1つ頷くと、鞭を振り下ろしたばかりで隙のある彼女の後方から体当たりを喰らわせようと近付いていく。
 けれども、エメネアは寸でのところでそれを避けた。



 最上階にて、涼司たちがエメネアに出逢った頃。
 他の階を探索していた者たちの中にも、最上階から聞こえてくる物音に気づく者たちが居た。
「お? 何か上が騒がしいな。もしかして!」
 ふと天井を見上げたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は何か現れたのだろうかと勘ぐって、上り階段へと向かい始める。彼のパートナーであるソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)もそれに続いた。
「何か上が騒がしいな〜、もしかしてもの凄いお宝でも見つかってたりして!」
 古代の文献を求めて参加しているカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)も上階の騒がしさを聞きつけると、宝物の予感を感じて向かう。パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は彼女の護衛のために同行してきたのだから、上階に向かいだすカレンを追った。
「エメネアが現れた!?」
 階ごとの報告のために、と涼司と連絡を取っていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、手にした携帯電話を相手に、大声を上げた。
 薄暗さを補うように光術を用いて灯りを作り出していたライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と、読めそうな文献を見つけて手に取っていた夜霧 朔(よぎり・さく)も、パートナーが上げた声に驚き、彼女の方を見る。
「すぐに向かう! 逃がすなよ!」
 垂は通話を切ると、2人のパートナーに聞こえたとおりだ、と告げた。
 開きかけていた文献を元の場所に戻し、3人は上り階段を目指して、移動し始める。



 騒ぎが気になった者。
 涼司から連絡を受けた者。
 それを聞いていた者、など。
 最上階に次々と学生たちが集まり始める。
「何人集まってこようが、邪魔はさせません。この遺跡にあるという女王器の情報は、あたしがティセラさんのために持ち帰るって決めているんですーーー!!!」
 学生たちを見回しながら、エメネアはそう口にして、鞭を構えた。