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夜桜デート

 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)に、夜桜の下お茶を注いでいた。
 つかさはいつも着ている戦場的なメイド服を纏い、白い肌を一部あらわにしている。
 つかさは頭の中で考えていた。
(「今までのデートは、皆さまからだ目的でしたわ。アルコリア様はどうなのでしょう」)
 つかさの胸が期待で高まる。
「つかさちゃん、お酒飲めるよね。注いであげるからぐいっといっちゃってください」
 つかさが握っているグラスにアルコリアがなみなみと、アルコールを注ぐ。
「アルコリア様が注いでくださったお酒、ありがたく頂戴いたします」
 つかさはその外見から想像できない、飲みっぷりでグラスを空にする。
 そしてつかさの露出している部分が所々朱に染まる。
 つかさの頬も朱に染まり、目もとろんとしている。
 そしてつかさは、甘ったるい声で。
「……アルコリア様」
 アルコリアの名前を呼ぶ。
 我慢できなくなったアルコリアが、朱に染まったつかさの頬を食べるように唇を動かす。
「ほっぺあむあむー。美味しい」
「ああんっ……」
 その行為につかさが甘ったるい声を出す。
「柔らかくておいしい」
「……アルコリア様」
 つかさが何かを求めるようにアルコリアに視線を送る。
「夜風に当りにいきましょう」
アルコリアが言うと、つかさはただ頷く。
そして人の来ない方へと二人は歩いていく。
「つかさちゃん、もしかして誘ってたのかしら?」
 アルコリアが聞くと、つかさは微笑を浮かべ。
「そう見えたのなら、そうかもしれませんわね」
 言って、つかさはただアルコリアに微笑みを返した。
 二人の夜の顛末は誰も知れない。

 「うん? 夜も遅くなりそうなのに準備をしていないだと……ふむ、仕方が無いな」

 黒崎 天音(くろさき・あまね)のパートナーブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、パートナーの無計画さにため息をつきながらも、早速、宿泊施設の手配に向かった。
「まだまだ宴もたけなわといった感じだね」
 天音がしばらく桜の下で待ち人を待っていると、待ち人は走ってやってきた。
「お待たせしました」
 走ってきたのは、薔薇学の鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
 憧れの先輩の天音との外出ということで内心ドキドキしている。
 肩からはクリスマスの夜に天音から貰った、マフラーを軽く肩からかけている。
憧れの先輩である天音の今日の服装は、?ネックセーターにスプリングコート、スラックスと大人の着こなしをしている。
「それじゃあ、行こうか」
 天音が尋人を促す。
 そして二人で、白い桜の花が舞い散る歩道を歩く。
 桜の花が舞い散る情景が神秘的で尋人が一言。
「夜桜って初めて見た。幻想的だね……黒崎にはこの光景がよく似合う」
「そうかい?」
 天音が意味深に笑うと、肩から落ちそうになっていた尋人のマフラーを直す。
「また、どこか一緒に……」
 尋人が言いかけると、天音は柔らかく笑い。
「僕は守れるか分からない先の約束はしない主義なのだけど……少し先のことくらい構わないよ」
 その言葉に尋人の顔が明るくなる。
 桜の花びらが二人を包んでいた。

「リッシュ、あなた、うだうだやってると惇さん他の誰かに取られますよ」
「とられますよと言ったってなあ」
 自分より30cmも低い女の子に説教されているのは、リッシュ・アーク(りっしゅ・あーく)
説教しているのは水橋 エリス(みずばし・えりす)、彼のパートナーである。
説教していると言っても決して起こっている訳ではない。
愛の説教なのである。
軽く要約するとこうだ。
リッシュは、エリスのもう一人のパートナーである、夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)が好きらしいというか、好きなのだ。見てれば分かる。
そして、夏候惇もリッシュのことが気になっている。
なのにくっつかない。
そんな現状に、エリスはやきもきしていた。
そこで考えついたのは、雰囲気のいい場所でリッシュに告白させる。
多少強引だがパートナー二人の為を思ってだ、それにずっとやきもきしているのは、エリスの精神衛生上よろしくない。
「俺、告白なんかしたことないのにどうすりゃいいんだよ!」
「それくらい、自分で考えなさいな。男でしょ。ほら、惇姉さん来ましたよ。頑張ってください」
 リッシュがエリスの視線の方を見ると夏候惇が、こちらに向かって歩いてきた」
「それじゃあ、頑張ってくださいね」
 エリスは極上のスマイルをリッシュに向けると夏候惇が来た方とは逆の方向に歩いていく。
(「一体どうすりゃいいんだよー!」)
 リッシュの心からの叫びだが当然誰も答えてくれない。
 そんな時、夏候惇が、リッシュの側までやってきた。
「リッシュ、主からここでみんなで花見をしようと誘われたのだが、主はどこに行かれたのだ?」
「いや、それは」
「それにしても美しい夜桜だな」
 夏候惇が夜桜を見て感嘆の声を上げる。
「お前の方が綺麗だぜ」
「えっ?」
「俺、頭わりぃから、上手く言えねえけど、惇が好きだ!」
「えっ!? えっ!?」
「お前を誰にも渡したくねぇ。だから、俺のものになってくれ!」
 そのせりふを聞いて、夏候惇は真っ赤になり、慌てふためいている。
 そんな夏候惇をリッシュが強く抱きしめる。
そして瞳をじっと見つめる。
夏候惇は、その瞳から逃れることが出来ない。
「惇、返事は?」
 少しの間。
 そして小さく頷かれる、夏候惇の顎。
 リッシュは、心の中でガッツポーズをとっていたが、ただ静かに、
 夏候惇の顎をとり唇を重ねるのだった。
 夏候惇は、一瞬驚き、リッシュに従った。
 大きな桜の下、二人の恋人が生まれたのだった。

 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)の二人は、手を繋いで縁日を覗いていた。
 日奈々の手にはリンゴ飴、千百合の手にはチョコバナナが握られている。
 日奈々は遠慮がちに千百合の腕を引っ張ると。
「千百合ちゃんにも……リンゴ飴……食べてほしいですぅ」
「嬉しい♪ じゃあ、日奈々には私のチョコバナナを食べさせてあげるね」
 そう言って二人は互いのお菓子を食べさせあった。
「それにしても綺麗な桜だなぁ。日奈々にも見えればいいのに……」
 目が見えない日奈々のことを考えて、日奈々が寂しそうに言う。
「私も……千百合ちゃんと……桜が見れれば……嬉しかったけど……千百合ちゃんと一緒にいられるだけで幸せなのですぅ」
「日奈々♪ 大好きっ!」
 日奈々の言葉に千百合は人目もはばからず日奈々に抱きついた。
「千百合ちゃん苦しいですっ……」
「日奈々。人のところに行って一緒に桜を感じよう」
「はい……」
 解放された日奈々は千百合の提案に頷き、二人、手を繋いで人気のないところへ歩いて行った。
 桜の精が二人に舞い降りるように祈りながら。

 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、人が来ない場所を選んで、亜璃珠のペットの虎、レモンに二人寄り掛かって舞い散る桜を眺めていた。
 今宵の亜璃珠は、着物姿でとても美しい。
 佐代子の喉がごくりと動く。
 お姉さまの血が吸いたい、滅茶着茶にしてしまいたい衝動にかられる。
 亜璃珠の方も分かっているのか、着物をはだけて見せたり太ももを出してみたり、それは夜桜の下とても幻想的で煽情的だだった。
「お姉さま、私もう我慢できませんわ。お姉さまの血を吸わせて下さいまし」
 小夜子の切羽詰まった声に満足したのか、亜璃珠は、湯っ繰ると着物を着崩しその美しい肌を見せていく。
「小夜子、いらっしゃい。私の血を存分に吸いなさい」
 その言葉に吸い寄せられるように、小夜子が亜璃珠の胸元にその牙を刺す。
「ああんっ……」 
その途端、亜璃珠がHなとも快楽の声ともつかない声を出す。
「痛いですかお姉さま?」
「大丈夫よ、小夜子。キス与ぴ感じると思わない。こんな快楽もないわ」
 二人の情事を草むらの陰からみている者がいた。
 亜璃珠達の後輩、幻時 想(げんじ・そう)である。
 想は一緒に来るはずだった相手がこれなくなったので、これからの自分の恋愛や交友関係の為に、いろんな人たちの、桜の下での愛の語らいなどを見ていた。
 そして、百合学の先輩である、亜璃珠達を見つけた。
大変興味があったので隠れて見ていたが、二人の情事は、想の想像を超えて濃密になっていく。
 流石に恥ずかしくなった、想はその場を逃げるように去って行った。
 そんな事とはつゆ知らず、小夜子と亜璃珠の情事は激しくなっていくのだった。

 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)は二人でテキヤデートを楽しんでいた。
 そんな二人に声がかかる。
「そこの二人、芋ケンピはいらねぇか?」
葦原明倫館の鬼桜 刃(きざくら・じん)達である。
芋ケンピ屋で今月の家賃を払おうと必死なのである。
「いえ、自分達にはたこ焼きがありますので結構であります。失礼します」
剛太郎に軽くかわされため息をつく刃。
それを見ていた刃のパートナーである犬塚 銀(いぬづか・ぎん)は、心の中で謝っていた。
「ああ、申し訳ありません刃様。本当は刃様にこんな作業をさせたくないのですが、これも生活のためなのです! 銀は! 心を鬼にして売り子に行かせないといけないのです!』
 考えつつ銀は必至で芋ケンピを作る。
「刃、仕方ないのよ、生活の為だもの、私も行くから刃ちゃんを困らせてはだめよ」
 そう言って鬼桜 月桃(きざくら・げっとう)が白杖で体を支え、弱視の目で体を支え、刃の横に並ぶ。
「桜、咲き誇っているのね。少しでも見ること感じることができる自分に感謝しなきゃ」
 月桃は、優しい声で言うとジンと並び、イモケンピを売り出した。
 人と関わる、それがとても嬉しいかのように。
 剛太郎は、テキヤの雰囲気に流されるようにアルコールを飲んでいた。
 酒を飲むと人は変わると言うが剛太郎の場合顕著だった。
 コーディリアにたこ焼きの「あ〜ん」を迫る。
 コーディリアにも酒を飲ませる。
 コーディリアの肩を抱く。
 普段の気まじめな剛太郎からは想像できない惨状である。
一方のコーディリアも酒は弱いらしく頬を朱に染めると、肩を抱かれている腕を引っ張って胸に当たるようにしている。
他人に喧嘩を売ったりしていないので安全な酔っぱらいだが、二人はテキヤ街を抜けると草むらに消えていった。
その草むらで二人が何をしていたかは誰も知らない。

 美しい着物を纏った少女、有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)は、その着物に袖を通した時心が躍った。
 悟られてはいけない、だけと嬉しかった。
 なぜなら、その着物が大好きな椎堂 紗月(しどう・さつき)昔袖を通したものだったから。
 彼にとって自分は妹。
 それでもいい。
 それでもいいと思わなくてはならない。
 でないと、彼の側にいられなくなる。
 私は妹、そう割り切って凪沙は、一緒に花見に来たのだ。
「凪沙、着物よく似合ってるぜ。俺の昔のだからどうかと思ったけどぴったりだ。俺の自慢の妹だ!」
『チクリ』
凪沙の胸に小さな棘が刺さる。
それでも自分は笑顔でいなければならない。
「うん♪ 有難う紗月♪ すごく嬉しい」
「そっか、じゃあもう少し静かな所で夜桜見物といこうぜ! 折角二人なんだしいい思い出を作ろうぜ!」
「うんっ!」
 紗月にとっての私。
抑えるのが精一杯の私の心。
紗月の彼女になりたかった。
だけど、紗月の横にはそれこそ『桜』のような恋人がいる。
だから私は妹。
今はそれで十分。
紗月の不幸を願っている訳じゃない。
妹なりに紗月に幸せを届けたい。
複雑な想いを胸に、凪沙は、紗月の横を桜を眺めながら歩いた。

「氷雨さんの転校を祝して、そして氷雨さんの今後の為に、かんぱーいっ☆」
 元気な声で乾杯の音頭をとるのは、岬 蓮(みさき・れん)だ。
 すると、同行者二人もグラスを掲げる。
 名前をあげられた鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)と連のパートナーのアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)だ。
 今日は氷雨の天候祝いをしにお花見に来たのだが、連の様子が何かおかしいと思うのはアインの思いすごしだろうか?
「あ、ボク近くの和菓子屋さんで桜餅買ったんだ。皆で食べようね」
 包み紙を開けて、二人に配る氷雨。
 3人でお菓子を食べ、連が「おいしーい」と言うが、アインは表情を変えずに静かに食べている。
 心配になった氷雨は、アインに向かって問う。
「美味しくない?」
 その言葉に、アインはできる限りの笑顔で「美味いぞ」と言う。
 それを聞いて氷雨の顔がほころぶ。
 そんな時唐突に、連が。
「あ、私、トイレ行ってくる!」
 と、さっさと走り出して言った。
 残った二人に沈黙が下りる。
(「くぅ……何故氷雨と二人っきりにさせる……ある意味恥ずかしいだろ……」)
 アインは思い切って口を開いた。
「葦原明倫館は楽しいか?」
「学校? うん、楽しいよー。ボク頑張ってお勉強してるんだ♪」
「そうか……」
アインの質問に笑顔で答える氷雨。
「……寂しくはないか?」
「少しね。でも新しいお友達も出来たんだよ」
 ここでアインは一世一代の気合を込めて一言。
「自分がいなくても寂しくないか?」
「アインさん? ときどきすごく会いたくなっちゃうけど仕方ないよね」
「氷雨、どこまで離れていようと、心の中でずっと、自分の事を思ってくれないか?」
 アインの心拍は上がりっぱなしである。
「アインさんのこと? うん、思ってるよ。ボク、アインさんのこと大好きだもん! 離れてたって会うことは出来るから会いにいくし、会いに来てね! ボク、待ってるから。」
 心からの氷雨の笑顔・
「氷雨それは……」
「だって、ボク達友達でしょ♪」
 時に言葉は凶器になる。
 アインは肩をがっくりと落とした。
「アインさんどうしたの?」 
氷雨が心配するが。
「……何でもない」
 言うのが精一杯だった。
「あれは、駄目ね。長丁場になりそうだよ」
 木陰に隠れて様子をうかがっていた連が漏らすのだった。