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出会いと始まりの花見

 大前田 ゴメス(おおまえだ・ごめす)は、一人でホットドッグ屋を出店していた。
 繁盛しているのはいいが、当初の目的だった華麗な腕前で女の子達にちやほやされるという目的を達成させる暇がない。
(「ゴメスも女の子達と花見したいネ……ハア」)
 そんなことを考えていると、ひときわ大きな声がゴメスにかかる。
「おい! 俺にホットドッグ3本だ! 美味いところを頼むな!」
 その声は、パラ実の姫宮 和希(ひめみや・かずき)の声だった。
「ハイハイ、3本ネ」
 ゴメスがホットドッグを袋に入れて和希に渡す。
 和希の両手には、既にクレープや綿菓子も握られており、ゴメスは一瞬ぎょっとする。
 付随して言うなら和希は既にたこ焼きとお好み焼等も食べており、手にぶら提げたビニール袋にはたこ焼き等が入っていたタッパーが入っていた。
 和希はその小さな体で今日一日で食べ物系のテキヤを全制覇するつもりでいた。
 実は、やけ食いである。
 本当は今日は、一日大切な人である、ミューレリアラングレイ、愛称ミュウと花見をするつもりでいたのだが、運悪くミュウの都合がつかなかったのだ。
 なので仕方なく、和希は目的を花見ではなくテキヤ巡りに切り替えた。
 漢一匹(性別は女性だが)、寂しいなんて思いたくなかった。
 そんな時、和希に声がかかる。
「姫宮じゃないか? 一人か?」
 その声は、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)の声で気安く接してきた。
「イリーナか……ああ、一人でテキヤ巡りしてる」
 和希が答えると今度はイリーナと一緒にいたルカルカ・ルー(るかるか・るー)がにこやかに声をかける。
「一人なんだったら、ルカ達とお花見しない?」
「そうだな別にかまわねぇけど、もう結構食ったし」
「じゃあ決まりだな」
 和希の返答にイリーナが頷く。
そんな時ルカルカが、大きな声を出す。
「あーっ! 繭、発見!」
 言うと、ルカルカは走り出し、稲場 繭(いなば・まゆ)一行に声をかける。
「まーゆ♪ 3人でお花見? よかったら、私達と一緒にお花見しない?」
 ルカルカの言った通り、繭はパートナーのエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)ルイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)の3人で来ていた。
「ルカルカさん……」
「駄目?」
「……いえ、私も今日は他校の人達とお話がしたかったんです。よければご一緒させてください。私のパートナー達と一緒に」
「もちろんOKだよ」
「ルカ達もパートナと一緒だから賑やかになるね」
 ルカルカがにっこりと繭に微笑みを見せるのだった。

 枝ぶりの立派な桜の下では、白波 理沙(しらなみ・りさ)達が花見を楽しんでいた。
「ランディは、まだ食べ歩きかな? せっかくいっぱいお弁当作ってきたのに」
 パートナーのランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)は、テキヤの食べ歩きに行ったっきり戻ってこない。
「放っておいても、弁当を食べにすぐ戻ってくるだろう……」
 カイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)が弁当をつまみながら言う。
「それにしても、昼の桜もいいけど夜の桜も幻想的ね~」
 白波 舞(しらなみ・まい)がコップを傾けながら言う。
 そんな時。
「美味しそうなお弁当ね」
 笑顔で声をかけてきたのは、姫野 香苗(ひめの・かなえ)だった。
「よかったら、あなたも私達とお花見しない? お弁当もいっぱいあるよ」
 理沙が笑顔で声をかけると香苗はとても嬉しそうな声で。
「本当♪ じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」
 そして香苗はカイルと理沙の間に割って入るように、座る。
 その瞬間、カイルの眉間に青筋が一本入ったのに気づいたものはいただろうか?
 香苗が入り4人で花見をしていたのだが、次第にカイルが不機嫌になっていった。
 理由はというと、香苗が必要以上に理沙にスキンシップをはかっているのだ。
 まずは膝に手を置く、そして抱きつく、しまいにはキスをする真似までしてみせる。
「カイルさん、ご気分悪い? 何だか雰囲気がピリピリしてますけど」
 舞が尋ねるが、カイルはぶすっとしたまま「……何でもない」と一言言うだけだった。
 少し経った頃、元気な声が聞こえてくる。
「みんな帰ったぜー! で、お客さんも連れてきたー!」
 テキヤ巡りを終えて戻ってきたランディだった。
 後ろには、和希やイリーナ達一行もいる。
「テキヤ巡りしてたらさー、気が合っちゃって、折角だから一緒に花見しないかって誘ったんだ。弁当も沢山あるし」
 ランディがことのいきさつを説明する。
「大人数だが問題ないかな?」
 イリーナが尋ねると理沙は嬉しそうに。
「こういうところの出会いってとっても素敵だよね。もちろん歓迎だよ座って座って」
 みんなを招き入れる。
「それとね、桜に突っ伏して眠ってたんだけど、危ないからこの子も一緒にいい」
 ルカルカがパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に背負わせているのは百合女のレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)だった。
 百合女でも有名な眠り姫だが、桜の美しさと陽気に囲まれて眠ってしまったようだ。
「えと……あのよろしくお願いします」
 繭が遠慮がちに挨拶する。
 そして大人数となった、桜の木の下、皆でお弁当を食べ楽しい時間が過ぎていく。
 だが、何となく変なのだ。
 弁当を食べ続けているランディは別として、他男二人がちょっと赤くなるほど、女の子同士のスキンシップが激しいものがいるのだ。
 一人は香苗。そしてもう一人は、エミリアである。
 エミリアは、レロシャンを膝まくらしながらも、イリーナのパートナのエレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)に対して妙に話しかけている。
 合流当初もそうだった。
『こんばんは〜、私エミリアっていいまーっす。ヨロシクー♪』という感じでダリルなどは無視だった。
 しかも今の話題は恋愛話ときている。
 だが内容がおかしい。
「あの……男の人って怖くないですか?」
 繭が尋ねると、否定派と肯定派が出るのだ。
 イリーナやルカルカがそれぞれの想い人のことを語っても相槌程度なのに、自分が男だったらこんな女の子がいいなという話題になると、件の二人は食いついてくるのである。
 ちなみにルインに話を振ったら、すごい勢いで慌てたものだ。
「こここ恋!? え、あ、いや、ちょっとそれは……」
 挙動不審なルインに繭がどうしたのと顔を覗き込むと真っ赤になって。
「わ、私は……そう、今は繭を守る盾であり剣なのだから、恋などと……」
 いった、様相である。
 女の子同士のスキンシップもどんどん過激になっており、漢義気質な和希すら逆らえないといった感じだ。
 レロシャンなどは、眠っていることをいいことに色々なところを触られている。
 レロシャンが『……ふぁ』などと声をあげれば余計に香苗とエミリアの手は、遠慮を知らなくなっていく。
 そんな時不意に理沙がカイルに聞いてきた。
「楽しんでる?」
「俺は、俺で楽しんでる……一緒に来たかったからな
「そっか、楽しんでるか。よかった。あと聞き取れなかったんだけど、何て言ったの?」
「綺麗な桜だと言っただけだ」
「そっか」
 理沙とカイルの間に穏やかな時間が流れていく。
「ちょっと、失礼する」
 ダリルが輪を離れて泉のある方に向かっていく。
「どこ行ったんだあいつ?」
 和希が聞くがルカルカはお弁当をつまみながら。
「さあ?」
 と答えるだけだった。
「あれぇ? エレーナちゃんもいないよ」
 レロシャンに夢中だったエミリアがエレーナの不在に気づく。
「どこ行ったんだろう?」
 エミリアは小首をかしげるのだった。
 エミリアの言葉を聞きながら和希は桜に見入っていた。
 そして心の中で大切な人に呼びかける。
(「ミュウ……来年こそ一緒に花見に来ような」)
 手には動物の角と革ひものチョーカーが強く握られていた。
 祈るように……。

『少し時間いいかな?』
 そう言われた時、エレーナは、心臓が跳ねたような感じがした。
 そして、ドキドキが止まらなかった。
 足早に指定された湖に向かう。
 すると、そこには、エレーナの大好きな笑顔があった。
「エレーナ、呼び出してすまない」
「いえ」
 ダリルにはエレーナが輝いて見えた。
 いつも見ている笑顔。
 だが、桜の精が宿っているかのように美しく感じた。
 早鐘を打つ鼓動がばれないように努めて冷静に話しだす。
「金剛でのこと改めて話がしたい」
「はい」
「君が囚われれたと聞いた時知った。大切な君を失う恐れと、いかに君が大切かを」
「えっ!」
 ダリルはエレーナの瞳をじっと見ると一呼吸置く。
「君がすきだ。よければ俺と、付き合ってほしい」
「はい」
 一拍の間もおかずエレーナが答える。
 はいとエレーナは言った。
 はい、と。
 しかし、ダリルの思考は追いつかない。
 こんなに人を好きになったことが無いのだ。
 戦場では万能でも、こういう場面は不慣れなのだ。
 思わず問う。
「それで、答えだが、その、つまり、さっきの『はい』が、それだと思っていいのだろうか?」
「もちろんです。わたくしとても嬉しいです。ダリルさん」
 にこやかに笑うエレーナ。
「こちらこそ、こちらこそだ、エレーナ、エレーナ! 有難う!」
 思わずダリルは、エレーナを抱きしめる。
「ダリルと呼んでほしい。これからも末長くよろしく頼む」
 エレーナは抱きしめられながら幸せを感じていた。
 そして気づく。
「あ……すっかり言った気になってました。好きですよ、ダリル私のことを好きになってくださってありがとう」
 ダリルの抱きしめる力が一層強くなる。
「ダリルとは常に戦友として傍に居続けると思っていました。こんな風になるとは思ってもいませんでした」
 くすぐったそうに笑うエレーナの髪をダリルの指がそっと撫でる。
 それ以上の言葉はいらなかった。
 ダリルの唇がエレーナの唇を塞ぐ。
 短くも長くも感じられる時間。
 そっと唇が離れる。
「……嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいです」
 エレーナが真剣なダリルの瞳を見て笑みを浮かべる。
 その後、桜の下を腕を組み歩く二人がいた。
 花開いた桜のように幸せそうに……。