シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【2020春のオリエンテーリング】バデス台地から帰還せよ!

リアクション公開中!

【2020春のオリエンテーリング】バデス台地から帰還せよ!
【2020春のオリエンテーリング】バデス台地から帰還せよ! 【2020春のオリエンテーリング】バデス台地から帰還せよ!

リアクション




--バデス台地キャンプ

 涼司や花音たちが救出部隊の本隊を連れてキャンプへ戻ると、慌ただしく脱出方法の作戦を練る会議が持たれた。
 一丸になって脱出への準備が進められる中、成瀬はゴブリンたちの足止めに使う痺れ薬入りの運搬車を運んでいてとんでもない話を立ち聞きしてしまった。
「マナ、本気なの?」
 未沙は思わず信じられないという声を上げてしまった。
「うん、ゴブ太を助けに行く」
 愛美は決意を込めた表情で頷いた。
「お願い、手伝って」
 マリエルは両手を合わせてお願いをした。
「しょうがないな、助けてくれたゴブ太さんを見捨てるわけにも行かないよね」
 愛美とマリエルだけで危険に場所に行かせるなんて、未沙は友達としてできなかった。
「じゃ、私も行くの」
 未沙の妹である未羅は暢気に喜んだが、未那は心配して止めに入った。
「姉さん、そんな危ないことはよした方がいいですぅ」
「未那ちゃん、お願い」
 未沙に懇願されては、未那も強い反対はできなかった。
 大変なことになったと成瀬は思ったが、持ち前のヘタレさが出て止めに入っていいものかどうか決断がつかずにいた。
「困ったなぁ。もうすぐ脱出なのに、でも助けに行きたい気持ちはわかるし」
「だったら、一緒に行くことです」
 そう言って、成瀬の背中を押したのは白百合女学院のサムライである真口 悠希(まぐち・ゆき)だった。
「あ、弱虫の一さんなの!」
 成瀬を見つけた未羅が大きな声を上げた。こうなっては成瀬も隠れるわけにはいかない。
「あ、あのですね。その……」
 成瀬が悠希を振りかえると、彼女は導くような笑顔で微笑んだ。
「はぁ……若輩者ですがご一緒させてください」
「私もお手伝いします」
 悠希も加わってパーティの形をなした一行は、キャンプを離れてゴブ太救出へと向かうのだった。



--バデス台地西方の峡谷

 戻ってこない成瀬を探しに来たソルランの報告により、隼人、ホウ統、恭司も新たに救出メンバーへと加わっていた。
「勇気が出たのはいいんですが」
「まったく、今度は止めると言うことを知らないようだな」
 恭司と隼人からお小言を受けて、成瀬はもう頭を下げるしかなかった。
「すいません……」
「危ないです!」
 成瀬に向かって飛んできた矢を、悠希は花散里を抜き放って真っ二つに斬りおとした。
「イー!」
 ゴブリン部隊はすでに峡谷を歩く成瀬たちの前方と後方を挟みうちにして取り囲んでいた。
 隼人と恭司がすかさず戦闘態勢に入る。
「ソルラン、後ろは任したぞ」
「は、はい」
 ソルランは返事をすると後方の部隊の前へ立ちふさがる。
「覚悟はいいな、カスども」
 翼の剣を抜いたソルランはさっきまでの礼儀正しさを脱ぎ捨てたかのように頼もしい。
 未沙、未那、未羅は愛美とマリエルを守るように陣形を取った。
「行くわよ、未那ちゃん、未羅ちゃん」
「頑張るの」
「アレを解禁ですぅ」
 未那がそう言って構えたのは機晶キャノンと六連ミサイルポッドだ。発射されたミサイルが後方のゴブリン部隊を吹き飛ばしたのが戦闘の合図となった。
 ゴブリンたちは仲間の倒れた身体と硝煙を乗り越え、雄たけびを上げて突っ込んでくる。
「わ、この」
 まだまだ剣に振られている成瀬も、先輩たちに負けぬよう必死で戦った。
「イー!」
 思わぬ抵抗にあったゴブリンたちは、隊長格のゴブリンの合図を受けると一斉に撤退しだした。
「む、これはおかしいです」
 ホウ統は小人の鞄から小人を出して使い魔のカラスへ乗せると、上空から敵の様子を窺わせた。道を挟む峡谷の上には別働隊のゴブリンがいて、成瀬たちの上へと巨大な岩を落とそうとしていた。
「いけません、罠です」
 ホウ統は下がるように指示を出すが、前にも後ろにもゴブリン部隊が待ち受けていた。
「ど、どうしましょう?」
 慌てふためく成瀬の目に、空中で光る何かが目に入った。小さな点だったそれは、近づくにつれて人の乗った小型飛行艇であると分かった。
「音子、敵を発見。これより味方救出のため戦闘に入るであります」
 シャンバラ教導団ソルジャーのジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)は無線へそう告げると、急降下してトミーガンを掃射した。
 浮足立ったゴブリンへ追撃を加えたのは、ジャンヌのパートナーであるルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)だ。
「わたくしたちが来たからにはもう勝手な真似はさせないですぅ」
 ルノーはスプレーショットで岩を落とそうとするゴブリンたちの行動を封じた。
「イ、イー」
 混乱した部隊を立てなおそうとするゴブリンの小隊長だが、次の言葉を発する前にシャンバラ教導団ソルジャーの黒乃 音子(くろの・ねこ)が放ったルミナスライフルの光弾に命を絶たれた。
「よし、次」
 音子に声をかけられたパートナーのフランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)は双眼鏡を覗いて、標的への修正値を的確に告げた。
「風向き変更なし。右へ三メートル、角度下方へ二度修正でござる」
「了解、撃つよ」
 音子の指が引き金を引くたびに、確実に一匹ずつゴブリンたちが消えていった。
 戦闘不能に陥ったゴブリンたちは、ルノーの威嚇射撃に追い立てられ撤退を始めた。
「作戦成功のようでござるな」
「うん。ボクの読み通りだよね」
 音子はライフルを肩へ担ぐと、ルノー、フランソワを率いて峡谷を下りていった。成瀬たちの前には先に小型飛行艇で降り立ったジャンヌも待っている。
「ボクたちはシャンバラ教導団の第四師団所属の黒豹小隊。よろしくっ」
「緊急の支援要請を受けて救出に来たのであります」
 挨拶した音子とジャンヌに成瀬は礼を述べると、作戦への協力をお願いしてみた。
「僕たちだけでは戦力不足ですし、どうでしょうか?」
「よし、行こう。仲間の救出なら、行かなきゃだよね」
 新たなる戦力を加え、成瀬たちは敵の本営である陣地へとさらに歩みを進めていくのであった。



「いやぁ、災難だったゴブね〜」
 柱にくぐりつけられ、下には薪という火あぶり寸前のゴブ太だが意外にも元気に過ごしていた。それは思わぬ捕虜仲間ができていたからだ。
「いやぁ、まったくだぜ」
 答えたのは、前夜に包囲網に囲まれて以来ずっと消息が不明だった蒼空学園ローグの閃崎 静麻(せんざき・しずま)だ。
 静麻はパートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)ど共に逃げ延びたものの、水も食料なくて立ち往生するはめになった。
「だから私が言ったではありませんか。敵の本営に食べ物を盗みに入るなんて止めましょうと」
「おいおい、レイナだってお腹がすいたって言ってただろ」
「あ、あれは……半日も飲まず食わずだったのですから、つい口に……」
 静麻たちは大胆にもゴブリンの野営地に盗みに入って捕まったのだ。
「でも、ゴブ太。お前ら、よくあんな残飯食べてたな」
「そう、ゴブよ。ひどいゴブ」
「ありゃ空腹でもさすがにきつかったぜ」
「よく食べれたゴブ」
 食べ物話で盛り上がるゴブ太と静麻に、レイナのお説教が飛んだ。
「そんな暢気にしている場合ですか。このままじゃ、私たち火あぶりですなのですよ」
 三人とも柱に縛られて絶体絶命のピンチなのだが、静麻は妙に落ち着き払っていた。
「なに、そのうち救いに来るさ」
 それはただの願望からの発言ではなく、静麻は先ほどから野営地の上空に侵入してきているいくつかの影に気づいてのことだった。
「問題は守備隊か……」
 静麻は守備として残った百匹近くのゴブリン兵を見回した。指揮官不在で緩みきってはいるものの、片付けるのは難しい数だ。
「イー!」
 ゴブリンたちの間で突然歓声が起こった。本営近くに放置されていた運搬車を見つけて運んで来たのだが、そこにには食料が満載されていたために奪い合いが始まったのだ。
「静麻、運搬車に蒼空学園のマークがあります」
 レイナの指摘を受けて、ローグである静麻にはこれがトラップでに違いないとの勘が働いた。
「どうやらチャンスのようだ」
 静麻は隠し持っていたナイフで縄を切ると、素早くクレアとゴブ太の縄を解きにかかった。
 同時に上空の雲に潜んでいた影も同時に動き出した。
「今よ、後ろに乗って」
 空飛ぶ箒で静麻たちの前に降りてきたのは蒼空学園ウィザードの芦原 郁乃(あはら・いくの)とパートナーである蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)たちだ。
「郁乃、敵が来ます」
 マビノギオンが戻ってきたゴブリンへの警戒を告げる。
「ワタシが防ぎます、その間に」
 郁乃のパートナーである十束 千種(とくさ・ちぐさ)がブロードソードを抜いて、ゴブリンたちの前に立ちふさがった。
「ゴブ太とクレアを頼む」
 静麻もアーミーショットガンを掴んで、千草の支援に回った。
「ゴブ太は私の後ろに、クレアはマビノギオンに」
「わかったゴブ」
 郁乃たちは二人を乗せると、空へ舞い上がった。
「ここまでくれば、もう大丈夫です」
 上空で待機していた郁乃の最後のパートナーである秋月 桃花(あきづき・とうか)は、縛られて傷ついたゴブ太とクレアの手首にヒールの優しい光を当てた。
「見て、応援も来たわよ」
 郁乃はゴブリンたちに向かって始められた黒豹小隊の銃撃を指差した。
 音子とルノーによる左右からのスプレーショットが、突進してくるゴブリンたちを次々となぎ倒していく。
「さぁ、楽しく殺しあおうよ。弾は全部使い切っちゃっていいからね」
「了解ですぅ」
 数では勝っていたゴブリンだが、運搬車の食料を食べた半数近くが行動不能に陥っていた。本営に突入するに当たって、痺れ薬入りの食料を積んだ運搬車を奪わせるホウ統の作戦が見事に成功したのだ。
「千種様、桃花の手につかまって」
 桃花は光の翼を操って舞い降りると、ゴブリンに囲まれた千種へと手を伸ばす。
「ありがとうです」
 千種は桃花の手をしっかり掴むと、悔しがって見あげるゴブリンたちの目の前で上空へと脱出した。
「こちらであります」
 言いながらジャンヌは小型飛行艇を、静麻の目の前へと急降下させる。
「悪いな」
 静麻が乗り込むと、ジャンヌは群がるゴブリンを蹴散らすためエンジン全開のアクセルターンで機体を回転させた。
「邪魔であります」
 飛び上がった飛行艇へ向けて、ゴブリンたちは矢を射かけるがもはや射程の及ぶ範囲ではなかった。
 郁乃と黒豹小隊による急襲により、ゴブ太は処刑をまぬがれて無事に生還することとなった。

「ゴブ太ぁ」
 郁乃の箒から降りたゴブ太を見つけて、マリエルが駆け寄る。
「大丈夫だった、ゴブ太?」
「どうして来たゴブか! もし、危ない目にあったらどうする気だったゴブ?」
 しかし、ゴブ太は助けられた喜びよりも、自分のために危険を冒したマリエルたちを心配して怒った。
「だって助けてくれたじゃない。ゴブ太はもう大事な仲間だよ」
「違うゴブ、俺は敵ゴブ……」
 ゴブ太は辛そうに顔を下げ、マリエルを見ようとはしない。
「ゴブ太……」
 再会を喜んでくれないゴブ太に、マリエルは戸惑った。
 そんな二人に救いの手を差し伸べたのは成瀬だ。
「それは違うよ、ゴブ太。僕も君と同じように、自分はダメだ、みんなとは違うんだってずっと思ってた」
 成瀬はしゃがんでゴブ太と目線を合わせると、自分の体験を語った。
「僕はいじめられっ子だった。でも、皆と出会えて変われた。勇気を持って飛び込めば、仲間になれるんだ」
「……仲間になってもいいゴブか?」
 ゴブ太は顔を上げ、マリエルを見つめる。
「おかえり、ゴブ太!」
 マリエルの微笑みに、ゴブ太は顔をくしゃくしゃにさせて泣いた。
「た、ただいまゴブ」
 愛美は危険な救出劇を敢行してくれた郁乃の手を取って感謝を告げた。
「ありがとう、郁乃」
「いつも愛美には助けてもらってるんだもの、これくらいどうってことないよ」
「ううん、みんなをこんな危険な目に合わせることになって……」
 愛美はゴブ太救出のためとはいえ、自分たちの行動により仲間を危険な目に合わせたことに反省していた。
「愛美は間違ってない。だって大事な仲間じゃない、私だってきっと同じことしたよ」
 郁乃は涙ぐむ愛美の頭を優しく撫でる。大切な仲間を一人だって失いたくないのは、誰もが共有する思いだった。
「さて、感動的なシーンはこのくらいにして。脱出しないとまた敵が戻ってきちゃうよ」
 音子は手を叩いて、メンバーたちを促した。
「脱出ルートはこちらでござる」
 フランソワは地図を広げて、素早くルートの説明に入った。
「じゃぁ、戻りましょう。みんなが待つキャンプへ」
 愛美の願いが込められた言葉ではあったが、彼女たちがキャンプに合流することはもはや不可能だった。ようやくキャンプが見える位置まで戻った愛美たちが見たものは、二千を超えるゴブリン部隊の本隊によって十重二十重に囲まれたキャンプの姿だった。
「無理に合流するのは返って危険です。ここは皆の力を信じて、洞窟で待ちましょう」
 冷静なホウ統の進言に誰も異論を挟むことはできなかった。
「行きましょう……」
 成瀬は囲まれたキャンプを見ながら、悔しくて唇をかみしめた。
 圧倒的な力の前には最早なす術がなく、こうなっては洞窟へ先回りして仲間たちが到着するの信じるしかなかい。全員が生きて帰る、そのために今は各自ができうることをしなければならない時だった。