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吟遊詩人の美声を取り戻せ!

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女王バチ

「ふう、ふう」

 オスバチとの戦闘が終息した頃、熊谷 直実(くまがや・なおざね)真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が現場に駆けつけた。

「あ、もう人食い虎はいなくなってしまったのかな? 楽しみにしていたのに・・・・・・」
「あなた、なに言ってるのよ。人食い虎どころか、もうミツバチすらもみんなが退治しちゃったみたいじゃない。ホントに、人助けとかいってグズグズしてるんだから」
「な、なんだと、真名美。人助けの何が悪い!」

「おっさん、先生。痴話ゲンカはやめなよ!」

 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に注意されて、ふたりは一時休戦。
 と、パラミタミツバチの巣から、なにか巨大なものが飛び出した。
 羽音も、これまでのオスバチの比ではない。

 パラミタミツバチの女王バチだ!

「こ、これは!?・・・・・・南無阿弥陀仏」

 熊谷 直実(くまがや・なおざね)は、人食い虎のことなどすっかり忘れ、巨大な女王バチの姿に目を奪われた。
 実は、ミツバチと聞いて内心がっかりしていたのだが、この大きさを見て考えを改めた。
 直実は、良き修行相手に出会えた事を仏に感謝しつつ、アルティマ・トゥーレで冷気を放った。

「よし、動きが鈍ったぞ。次は奈落の鉄鎖だ」

 しかし、巨大な女王バチは彼の繰り出す奈落の鉄鎖を軽々と打ち破ると、直実に反撃を加えた。

 賈思きょう著 『斉民要術』(かしきょうちょ せいみんようじゅつ)も、最初驚いたが、冷静さを取り戻すべく、じっと観察を始めた。

「流石に1メートルのハチは迫力が違うわね。でも、大きさがちょっと違うだけだよね。どんな習性があるのか、詳細に書き留めてマニュアル化しないと・・・・・・見事倒せたら、佐々木印のハチミツがつくれるかなぁ」

 次に女王バチがターゲットにしたのはイルマ・レスト(いるま・れすと)だった。

「来たわ。すごい大きさ・・・・・・ちょっと怖い。でも、ラズィーヤ様の為にハチミツを手に入れるのですわ。ラズィーヤ様なら、ラナさんに譲る分の蜂蜜はお持ちでしょうが・・・・・・これは私たちを試す試練に違いありませんね。そのお気持ちにお応えするのは礼儀ですわ! 魔剣士の力を封じてしまったので、あまり力が出せませんけど・・・・・・ハチぐらいなら今の私にも対処可能ですわよね」

 朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)も呼応する。

「こんな森まで来て巨大バチと戦うなんて、イルマがラズィーヤさんのファンクラブを造ってから百合園に関わることが増えたわね。なんだか自分が蒼学生ということを忘れてしまいそう。でも、女王バチは殺しちゃダメだわ。蜜は必要な分だけ取るのが自然との共生というものだと思うし・・・・・・女王バチと巣が残れば全滅しないで済むわね。手加減した遠当てで、あの女王バチを気絶させることにするわ」

「ハチにまで情けをかけるとは、千歳は本当に優しいですわね。その甘さが命取りになりかねないですわよ。まぁ、私が側にいる限り大丈夫ですけど」

 と、戦いの最中、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)はクルリと踵を返してその場から立ち去ってしまった。

『あ、藤原 雅人(ふじわら・まさと)がいるわ。こっちに来てたのね・・・・・・無視だわ、無視』

 イルマ・レスト(いるま・れすと)がふと見ると、彼女の視界にある男子生徒のの姿が入った。

「あのイルミン生の男子は誰でしょうね? 千歳が人を無視するなど珍しいですが・・・・・・詮索するのはよしましょう」

 みんなの戦意を少し喪失させるできごとであったが、イルマのフォローで生徒たちは戦闘に戻った。なににせよ、すぐそこに女王バチはいるのだ。
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、すぐに向き直る。

「よし、俺とクリスティーが前に出て盾になる。騎士の防御の硬さを活かしてな。みんなはその間にハチにトドメを刺してくれ。クリスティーがいつも『騎士たるもの、男子たるもの、レディの盾とならねば』って言ってるけど、まぁ確かにそのとおりだね」

 そこで、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)の後ろから、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が銃で、柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)が魔法で、それぞれ遠距離攻撃を仕掛ける。

「ハチミツですか? 栄養もあって、のどに良いらしいですね。かなり危険な気もしますが、クリストファーさんがいるので安心・・・・・・美鈴さん、この女王バチ、かなり大きいとはいえ、やはり銃では当てにくいですね。あ、自分回復もできますので、怪我してもご心配なく」

「ありがとう、翡翠様。私、ハチミツを少しもらえたら、お菓子を作りたいです。女王バチは、氷術で封じ込めますわ」

 ガキーン!!

 美鈴の氷術が命中するのと、女王バチの針がクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)に刺さるのとが、ほぼ同時だった。
 フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)は、慌ててクリストファーに駆け寄ると、傷の手当てをはじめた。

「クリストファー、前で盾になんかなるから、刺されそうな気がしたのよ。うふふ、でも、やる気あるわね。え? 膝枕は、さすがにしないわよ。でも、希望があれば、考えるわ」

 手当てを受けたクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、ニコリとうなずいた。
 女王バチは、今度は矛先を瀬蓮に向ける。

「あ、瀬蓮おねえちゃん、あぶないです!」

 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はこう叫ぶと、則天去私とバニッシュを放ってハチを瀬蓮から遠ざける。
 パートナーのサリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)も、眠りの竪琴で追撃を開始する。

「ハチミツとりは、ハチさんころすのかわいそうだし・・・・・・スリ〜ピング〜、スリ〜ピング〜、イン ウォーム オブ マザ〜♪」

 女王バチの飛び方がフラフラした。
 神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)は、ここぞとばかり、前に出る。

「よし、我の雷術とヴァルのサンダーブラストで仕上げといくか。渦電流を作ってハチの巣の周りに電磁波フィールドを構成するのだ。こうすれば、ハチが場所を見失うから、巣に戻ってこられなくなり、安全にミツを取れる。虎やハチとはいえ、無駄な殺生は我もヴァルも好むところではないのだよ」

 そういって、ふたりで同時に魔法を放つが、それぞれが単独で発動してしまった。

「うーん、失敗だわ。やっぱりサンダーブラストはタイミングが難しいね」

 しかし、それぞれの魔法が見事女王バチの身体に当たり、ハチは森の木々の上へと飛び去ってしまった。

 真口 悠希(まぐち・ゆき)は、危険が去ったとみて、怪我をした者をナーシングで癒し始めた。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も瀬蓮に駆け寄る。

「疲れた瀬蓮おねえちゃんにSPルージュ塗るです。あと、ハチにさされちゃった人はこっちですよ〜! 幻槍モノケロスとナーシングで解毒ですよ〜」

 俺にも頼む、私にも・・・・・・とヴァーナーの周りには負傷した生徒たちが集まった。

 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)も、回復に余念がない。
 毒を受けた生徒を、比較的安全な後方まで連れていくと、キュアポイゾンをかけた。

「猛毒を受けた人が優先ですよ! うーん、これはひどい。ヒールじゃ間に合わないようね。あ、最近使えるようになったリカバリで、一気に治してみましょうか。それっ、こっちのひともリカバリ、あっちのひともリカバリ。ナカヤノフもナーシングで援護してね」

 言われたナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)は、ちょっとちょっととリリィを押しとどめる。

「リリィ、一人でちょっと無理しすぎじゃないかなぁ。手伝えって言われても手伝えないよ」

 見ていられないとばかり、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が助け舟を出す。

「なに? 毒がまわったから、すぐ治してくれって? わりぃな、ナーシングはキュアポイゾンのように即効性はねーんだよ。え? 喉が渇いたって? おいチーシャ、おめー、この人に飲み物やってくれ。あと、刺された部分を冷やしてやってな・・・・・・はい、次の人。うーん、これは猛毒。俺の手に負えねえな。悪いがリリィに治してもらってくれ」

 カセイノは、言葉遣いは適当なうえ、目付きは悪く、見た目は不良っぽいところがあるが、治療はきわめて適切だった。
 彼はまた、髪が落ちないようにバンダナで纏めるなど、細かな心遣いも忘れない。でもよく見たら、それは三角巾だったのだが・・・・・・
 カセイノに指示されたウィキチェリカもてきぱきと動く。

「あたし、体温が低いから手を当てるだけでもひんやりして気持ちがいいよ。なでなで・・・・・・あと、さっき氷術で作った氷は氷嚢にも使えるし、飲み物を冷やすのにも重宝するもんね」

「チーシャ、がんばってますわね。毒は消してしまえばいいし、傷はふさげばいいだけよ」

「はい、リリィちゃん・・・・・・ふう、でも疲れたわ。疲れを見せないようにしているけど、後ろから見れば疲労感バレバレなのよ。よし、一息ついたので驚きの歌で気力を回復っと。あたしは白い衣装で走り回っているので、一見すると看護婦さんだけど、実際はただの看護助手。看護師ちゃんはカセイノちゃんだよ〜」

 オスバチ・女王バチとの2連続となる激しい戦いによって傷ついた生徒たちは、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)らの甲斐甲斐しい治療によって、みるみる回復に向かった。