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吟遊詩人の美声を取り戻せ!

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吟遊詩人の美声を取り戻せ!

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吟遊詩人の美声

 宴もたけなわとなった頃、いよいよラナ・リゼットの歌声が披露されることになった。
 白金色の長髪に、空色のドレスと、いでたちは当初と同じだが、その表情は目に見えて明るかった。

「みなさん、こんばんは。おかげさまで声が出るようになりました! 今夜は、ぜひ私の歌を聴いてください」

 生徒たちから拍手と歓声が沸き起こる。
 やがて、ラナは歌い始めた。
 さすがは名うての吟遊詩人だけあって、その朗々と響く声は、たちまち聴衆を魅了した。

 ラナの歌に、神和 綺人(かんなぎ・あやと)は感動して、他の生徒たちと喜び合ったいた。

「やっぱりハチミツの効果はてきめんだね」

 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、ラナの歌声を聴いて、自分も歌ってみたくなった。

「わぁ、ハチミツを食べたラナって、ステキな歌声ですねぇ。私も歌は好きですし、ちょっと歌ってみたいな」

 と、ラナ・リゼットが舞台上から由宇を手招きした。

「え、私? でも、ステージは恥ずかしいし・・・・・・すみっこなら・・・・・・」

 でも、ラナは「恥ずかしがらないで」と、遠慮する由宇をステージ上に引き上げる。
 ついで、二十織 円満(はたおり・えんま)がラナに頼み込む。

「あたしもライブに参加させてぇな。こういうの、夢だったん。あ、あたしはバックコーラスでいいからね」

 すると、万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)がすかさずツッコミをいれる。

「なにをいってるんだ、円満殿。本当はセンターで歌いたいくせに」

 バックコーラスときいて、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)も身を乗り出した。

「サリスちゃんが、ラナおねえちゃんの歌のファンなので、一緒にステージに上がりたいなと思っていたんだけど・・・・・・バックコーラスだったら出来ないかな?」
「いっしょにえんそうできたらうれしいんだもん♪」

 もちろん、ラナは快諾した。

「やったー」

 サリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)は喜び勇んで、エレキギターを抱えるとステージにのぼった。

 そして、彼らはラナと一緒に歌った。
 ラナがメインのパートを歌うと、由宇は、メイドのスキル「子守歌」をアレンジしたメロディを歌におりまぜて唱和した。
 そして、円満とサリスは後ろからコーラスで支える。
 さらに、サリスのエレキギターが歌に絶妙な切れ味を加える。

 これを聴くと、円満に毒づいていたミュラホークもいつの間にか最前列に陣取り、実はちょっと感動していたのだ。
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も、ラナ・リゼットの歌が聴けただけでなく、自分が知っている『子守歌』まで耳にすることができて、感動していた。

「こういうのも人生経験だってことね」

クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)のふたりも、ラナたちの歌声に聴き入っていた。

※ ※ ※


 ラナのコンサートの後は、誰でも好きな歌を歌える時間となった。
 トップバッターはマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)

「わいも、秋葉原四十八星華の歌うたいの一人でありますからな。わてが思うに、今はなにかと争いごとや危機が多い時期なので、こういう時こそ歌を通じて人と自然とパラミタとの共存、世界平和への訴えがみんなの心にとどけばいいと思うのであります」

 パートナーのカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)は、突っ込み、もとい、フォローを入れる。

「マリちゃん、気持ちを込めるならマイクを使わないでアカペラで歌ってね・・・・・・『シャンバラ教導団の産みだした音の最終兵器こと、マリちゃんが大音量で歌ったら、観客のみなさんが暴動を起こしたり悶え死んだりしちゃうからね。せめて被害を減らすようマイクは渡さないようにしないと・・・・・・』」

 ランカスターの歌は、マイクがなくてもすごい迫力だった。
 生徒たちは、脂汗が出るのをどう隠そうか、困惑しているくらいだった。

 やがてランカスターが歌い終わる。
 真口 悠希(まぐち・ゆき)は、デュエットを希望していた桜井 静香(さくらい・しずか)がいないのでパスし、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がステージにあがる。

「はーい、小鳥遊 美羽です。私、幸せの歌を歌いまーす。蒼空学園のアイドルとして、みんなを幸せな気分にできたらいいな」

 客席からは瀬蓮が手を振って応援していた。

「美羽ちゃん、カワイイー」

※ ※ ※


 さあ、後半は、オリジナルの歌詞を用意してきた生徒たちが歌う番だ。

 沢渡 真言(さわたり・まこと)は、微笑みながらパートナーのティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)の背中を優しく押した。

「ティーも舞台で歌ってきたらいかがですか? よかったらラナさんとご一緒に・・・・・・」

 というわけで、ティティナはラナとデュエットすることになった。
 ラナはさすが吟遊詩人だけあって、初めての歌でもすぐに順応してしまう。


 朝の露草の美しさを
 教えてくれたのはあなた
 夜の星の煌めきを
 教えてくれてのはあなた

 私もあなたに伝えたい
 光に満ちたこの世界
 優しく包む夜の帳
 すべてが愛しく思うのは
 あなたが私を見つけた日からだと

 差し出された手に導かれて
 私はこの世界を愛したの


 歌い終わると、盛大な拍手が起こる。
 鹿島 斎(かしま・いつき)も、割れんばかりの喝采を浴びせた。
 彼は、パートナーのカグヤ・フツノ(かぐや・ふつの)を抱きかかえながら、ライブデートを楽しんでいたのだが、カグヤのほうはといえば、もっぱらハチミツのほうがお目当てだったみたいだ。

 次は岬 蓮(みさき・れん)がステージに上がる。

「こんばんは、岬 蓮でーす。【秋葉原四十八星華】の一人として、私『カレーうどんっ子の蓮』も歌っちゃうよーっ☆」

 人は皆 空の下で運命的に出会うけど
 星の下でで出会ったら もっと運命的だと思わない?

 闇の中で美しく光る星の渦の中で 貴方と一緒に駆け巡れたら
 もっともっと嬉しいと思うんだ

 輝け 四十八の星よ
 十二の星に導かれて集ったモノ達よ

 そして その輝く心を 貴方に届け


 蓮は歌い終わると、パートナーのアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)を無理矢理ステージへ引きずりこんだ。

「アイン、さあ舞台へレッツゴーだよ☆ 歌人目指してるんなら、歌っちゃいなさいよ!」

「ちょっと、蓮! 他人に迷惑をかけるようなことすんな! 有名な吟遊詩人もいるから、自分はその美声を聴こうと思っていただけなのに・・・・・・」

「なに言ってるのよ。せっかくの楽しい初舞台だよ? こんなの、百年長生きしたって二度とないかもよ?」

「蓮はアホや、ほんまアホ!・・・・・・」

 そういったものの、アインも実は歌人になりたいと思っていたところ。
 せっかくのチャンスを蓮が作ってくれたのだからと、思い直してラナに一礼した。

「ラナさん、失礼。このアホ蓮がご迷惑を・・・・・・しかし、自分も歌いたいんや・・・・・・一つ歌わせてもらえませんか?

 ラナはもちろん「いいですよ」とうなずく。


 紅に染まった白百合 冷たくなった彼女を見て
 あの時から 自分は光に当たらないと誓った
 なのに 太陽は自分に照らしてきた

 なにも望んでないのに
 なのに 自分はその暖かさが恋しくなる
 そんな自分を 貴女は許してくれますか?
 ならば貴女は 蒼空の上で自分を見守ってください

 自分は太陽の元で
 貴女に白百合を捧げます


 すると、蓮たちのステージに御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が飛び入りで参加してきた。
 普段はクールで事務的な秘書官をつとめる彼女だが、せっかくデビューしたのだからと、今夜は笑顔を振り撒いて営業活動に勤しんでいた。

「みなさんこんばんは。御茶ノ水 千代です。今日は私、歌って踊ります。楽しい一時を観客の皆様と共有できますように! あ、グループのセンターは若い蓮ちゃんに譲って、わたしは大人の魅力と優れたファッションセンスで観客を魅了するよう歌います」

 そういって、岬 蓮(みさき・れん)たちの歌の続きを歌い始めた。


 人は皆 この大地で運命的に出会うけど
 星華の中で出会ったら もっと運命的だよね
 光の中で美しく輝く星華の道を 貴方と一緒に生きていけたら
 もっともっと楽しいかと思うんだ
 煌け 四十八の華よ
 十二の華に導かれて集まった星達よ
 そして その輝く心を 貴方に捧ぐ


 やがて、コンサートはお開きの時間を迎えた。

 秋月 葵(あきづき・あおい)は、ハチミツで作ったレモネードを飲みながら、満足げにパートナーに話しかけた。

「色々あったけど、面白かったよね☆ グリちゃん」

 しかし、当のイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)は、コンサートなどそっちのけで、ずっと飲み食いばかりしていた。

「ハチミツ〜、ハチミツにゃ〜♪」
「あらら・・・・・・」

 こうして、ラナ・リゼットの美しい歌声は取り戻せました。
 また、シャンバラの各地で、彼女の歌は人々の耳を楽しませてくれるでしょう。

 おわり

担当マスターより

▼担当マスター

ヴァイオリン弾き

▼マスターコメント

 こんにちは。マスターのヴァイオリン弾きです。
 梅雨のうっとおしい日が続きますね。
 今回は音楽の話でしたが、私もハンドルネームのとおり、楽器をたしなんでおります。

 自分の好きな音楽を、その音楽が好きな人たちに聴いてもらうというのは、その場にすばらしい一体感が生まれます。
 また、音楽は、純粋に楽しむものだと思います。

 今回のリアクション小説では、そんな気持ちが出せたらと思って書きました。

 次回も、みなさまにお会いできますことを楽しみにしております。