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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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10.

 油揚げを片手に路地裏を探していたフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は、前方から良い匂いがするのに気付いて顔を上げた。
「あ」
 その匂いの元とぶつかりそうになり、フィルは立ち止まる。
「あら」
 彼女に気付いた稲荷白狐(いなり・しろきつね)も足を止め、互いの手にした物に目をやる。白狐はおいしそうな焼き鳥を、フィルは油揚げを一つ。
「子ギツネ、探してるんですか?」
「ええ。あなたも?」
「あ、はい」
 道は一本しかない。先ほどフィルは通りからこの路地に入ったのだから、この先を探しても無意味なことが分かる。
「一緒に探しましょう」
 と、白狐はにっこり微笑んだ。

 キツネが街に迷い込んでいることを知った佐倉留美(さくら・るみ)は、自分も探すことにした。白い身体に赤い瞳、という特徴をヒントに街を歩く。――本来の目的は買い物だったが、白い子ギツネというのも面白そうだ。
 何となく眺めていた道の先で、白い影が曲がり角へ入っていくのを見つける留美。
「見つけましたわっ!」
 高鳴る胸を押さえつつ、走り出す。
 そして白い影の消えた路地へ入ると、何やら良い匂いがした。
「ん、この匂いは……」
 奥へ行けば行くほどに鼻をつく。そして留美は立ち止まった。
「すでに先を越されてましたのね」
 油揚げと焼き鳥に気を取られている子ギツネ、その周りにはフィルと白狐がいた。
「残念でした。でもそこに立っててくれると、子ギツネの逃げ道を塞げます」
 と、フィル。留美はそれもそうかと思いなおし、子ギツネへ近寄った。
「クォン」
 懐くように甘い声で鳴いた子ギツネは、風をぶわっと起こす。
「きゃあっ」
 悲鳴を上げるフィル。下から吹き付ける風でパンツがまる見えだ。白狐はとっさにしゃがみこんで避けたが、留美は――。
「な、何ですの、この風!?」
 パンツが見え……ない、というよりも。
「ちょっと、これでは動きづらいじゃないですか。いい加減にしてくれませんこと?」
 フィルと白狐は、ほぼ同時に留美から視線を逸らした。どう見たって彼女は、はいてな――。

 夜薙綾香(やなぎ・あやか)は空から子ギツネを探していた。それらしきものはすでに何度か見かけたが、その後ろには何人もの人が付いていて、なかなか入っていけなかった。
 だが、路地裏で子ギツネらしき動物を手なづけている少女たちを見つけた。少人数だし、今なら自分も捜索に加われる。いや、子ギツネに触れられる!
 綾香はすぐに地上を目指した。

 子ギツネは焼き鳥を平らげると、油揚げにも口を付けた。
 その様子を微笑ましく見守るフィルと白狐と留美。風は未だに止まなかったが、三人ともしゃがんでいるので安心だ。
「どうやら、腹を空かしているようだな」
 と、大量の油揚げを手土産に現れる綾香。
「はい、そうみたいなんです」
「焼き鳥もすぐに食べてしまわれて」
「……それは?」
「エサだ」
 綾香は留美の隣へしゃがみこむと、油揚げを地面へばらまいた。子ギツネはすぐに反応して、綾香のエサに食らいつく。
「まだ子ギツネなのに、よく食べますよねぇ」
「もしかすると街に入ってからろくに食べていなかったのかもしれません」
「迷子、ですものね。さぞかし大変だったでしょうに」
「遠慮せず、いっぱい食べるんだぞ」
 四人が見守る中、どこからか声がした。
「おいで、ごん」
 留美と綾香のその後ろ、風森望(かぜもり・のぞみ)が子ギツネを手招いているではないか。
 望は子ギツネが振り向かないのを知ると、つかつかと歩み寄ってきた。
「この子は私が責任を持って野生へ返します」
 と、子ギツネを抱き上げる。
「野生だと!? その子はアルビノだぞ!」
 綾香の言葉を無視し、子ギツネを胸に抱き、走り出す望。すぐに綾香がその後を追い、子ギツネ奪還を目指す。
「生き残りにくいのは知っています。だからといって、珍しい、可愛そう、という理由で保護するのは本当に正しいのですか?」
 子ギツネが鳴いた。望のパンツがまる見えになったが、構わずに走り続ける。
「まだ子ギツネだぞ! 野生に返すのは大人になってからでも遅くはない!」
「遅いのです!」
「何を根拠に、そんなこと……!」
 そうして二人の子ギツネ争奪戦は幕を切った。