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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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6.

 塀を超えた先には人間がたくさんいた。
 とりあえず人気のない路地裏へ入り、涼しい日陰で足を休める。
「あら、こんなところに子ギツネが」
 そう言って近くにしゃがみこむ神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)
 子ギツネはすぐに立ち上がると、風を起こそうとした。しかし体力が減っている為、そよ風しか吹いては来ない。
「疲れてるのかしら? まあ、いいでしょう」
 と、エレンは子ギツネを抱き上げると、胸元の谷間へその小さな体を収めた。
 ――両方から挟まれて身動きが取れない。子ギツネは慌てたが、とりあえず今は体力を回復するのが先だと気づく。
 エレンは立ち上がると歩き出してしまったし、しばらくの間はここで大人しくしていても良いだろう。

 アルビノということは、日光に当たり過ぎると良くない。紫外線に皮膚がやられてしまう可能性が高いのだ。それはアルビノに生まれた者の負わざるを得ないリスクである。
「きっと日陰にいるはずっ」
 そのことを心配した葛葉明(くずのは・めい)は、必死で街中を探し回っていた。
 外敵にも見つけられやすい身体だ、街の中に迷い込んだのは不幸中の幸いかもしれない。
 突然聞こえてきた女の子たちの悲鳴に、明ははっとした。路地裏を出て声のした方へと向かう。
「あ!」
 百合園の制服を着た女の子たちが皆、一様にスカートを押さえて顔を赤くしている。その中心から現れたのは黒い制服に身を包んで胸元に白い動物を挟んだ女性。
 明はすぐに駆け寄った。
「何てことしてるの!?」
 エレンは急にどなられた意味が分からず、首を傾げて見せる。
「何って、このキツネの可愛さを、他の方たちにも分かってもらおうと――」
「アルビノは日光に弱いの。下手すると病気になって死んじゃうわ」
 と、明は子ギツネへ手を伸ばした。エレンの胸元から救出される子ギツネ。
「あら、そうでしたの? でもこれは授業だし、とりあえず先生のところへ――」
 と、明に抱かれようとする子ギツネを捕まえる。
「それよりもまず、病院へ連れて行かなきゃ!」
 明も子ギツネを放そうとはせず、二人の視線がぶつかり合う。
「これまで生きてきたんだから、少しくらい平気ですわ」
「手遅れになったらどうするの!?」
「それは分かりませんが、きっとこの子は丈夫です。だから焦らなくても――」
「駄目よ! この子はあたしが責任をもって病院へ連れていく!」
 ぎゅうぎゅうと前から後ろから引っ張られる子ギツネ。エレンのおかげで少しだけ体力は回復したが、これは精神的に疲労する。
 痺れを切らした子ギツネは強風を巻き起こすと、その隙に逃げ出した。

「キッツネさーん、一緒にチマキ食べよー」
 狐尾付きスパッツ水着のしっぽをぱたぱたさせながら、チマキを頬張る竜ヶ崎みかど(りゅうがさき・みかど)
 みかどは持ってきた青チマキ赤チマキ黄チマキの内、青チマキ(しそ)を食べながらの捜索だ。のんびりしているように見えるが、これでも一応やる気はある。

「駄目だよ、やー兄。今は子ギツネさんを見つけなくちゃいけないんだよ!」
 と、日下部千尋(くさかべ・ちひろ)は隣を歩く日下部社(くさかべ・やしろ)へ言った。
「あー、ごめんな。でもこんだけ人いたら、知り合いに会うてもいいんやけどなぁ」
 そう言ってまた周囲を見回す社。千尋はそんな兄の姿に呆れ、前を向いた。
「あー! 子ギツネさんだ!」
 前方を走る動物と目が合い、千尋は「やー兄は待っててね」と言いつけて駆けだす。
 社は無邪気に子ギツネへ近寄る千尋を見て、思わず突っ込んだ。
「って、おい! ちーのスカートがめくれそうになっとるやないか!」
 ダッシュして上へと舞い上がるスカートを必死で抑えつける。
 子ギツネはさらなる風を起こそうとして、途中でやめた。
「あれれ? 子ギツネさん、疲れちゃったのかな?」
 風が収まり、社は千尋のスカートから手を離す。千尋は子ギツネの頭を撫で撫ですると、ひらめいた。
「ちーちゃんが元気になるおまじないしてあげる!」
 と、子ギツネへアリスキッスを使用する。途端に身体が軽くなった子ギツネは、何か嫌な匂いを感じ、立ち上がる。
「偉いで、ちー」
 社が千尋の頭を撫でていると、それは確実にこちらへと近づいてくる。奴とはまた違った匂いの……。
「見ぃつけた」
 不格好な女装姿のブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)だ。
「ちー! 見たらあかん!!」
 とっさに千尋の目を塞ぎながら抱き上げ、あとずさる社。
「ほーら、キツネさん、君の大好きな油揚げだよ!」
 ばっと服を脱いで素肌に貼りつけた油揚げを露出する。
「ちー! 逃げるで!」
「えー、子ギツネさんはー?」
 子ギツネはブルタへ顔を向けると、自ら起こした風に乗って高く飛んだ。
「ぐあぁっ!」
 そしてブルタの顔面を勢いよく踏んづけ、走り去ってゆく――。