シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

リアクション公開中!

【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

リアクション

7.

 路地裏から現れた少女に新堂祐司(しんどう・ゆうじ)は目を見張った。白い肌に美しい白金の髪、ぱっちりとした赤い瞳が印象的な美少女である。
「失礼ですがお嬢さん、どこかでお会いしませんでしたか?」
 と、祐司はさっそくナンパをしかける。それを岩沢美雪(いわさわ・みゆき)は見ていたが、ふとある事に気が付く。
「あー、ふわふわだ!」
 少女の尻から生えたしっぽを指さす美雪。
「何言ってんだよ、んなわけ――」
 言いかけて少女の尻尾を視認する。少女はすぐさまあるべき姿へと戻り、駆け出した。
「キツネちゃんだ! 待ってー!」
 と、瞳をキラキラさせ、追いかけていく美雪。状況を把握するのに数秒かけてから、祐司はその後を追った。

 日陰の路地を歩くヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は尋ねた。
「アルビノって、捕まえて守ってあげないと駄目なんですか?」
「確か、色素がないと病気にかかりやすいのですわ。まだ子ギツネですし」
 と、答えを返すセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)
「そうですか。じゃあ、頑張って探すです」
 ヴァーナーが気合を入れた時だった。何かがこちらへ向かって駆けてくる!
「あ、さっそく発見です!」
 と、ヴァーナーが子ギツネを待ち構えると、風がぶわっと吹いた。ヴァーナーのスカートがめくれそうになるのを、セツカが必死で抑えこむ。
「ヴァーナー!」
 子ギツネはヴァーナーの上を飛び越え、立ち止まった。くるりと二人を見ては、何か怖い顔つきになる。
「子ギツネちゃん、こっちですよー」
 と、手を伸ばすヴァーナー。その後ろからは美雪と祐司が追ってきていた。
 未だに風は止まず、セツカのスカートがめくれあがり、白いレースがはためいている。
「クォーン!!」
 ざわざわと周囲に強風が吹き荒れる。ヴァーナーが目を閉ざすと、その風は美雪のスカートまでめくりあげた。しかしスパッツを履いていたので中は見えない。
 その様子を見ていた総司が思わず舌打ちをすると、背筋に嫌なものを感じた。
「光精の指輪!」
 たまたま通りがかったみかどが光精を呼びだし、総司と少し離れたところにいた祐司へダメージを与える。
「ぎゃああ!」
「うおっ!?」
 風によろめきながら地面へ落ちる外見男性二人。
 そして子ギツネは瞬時に踵を返し、再び走り出す――。

 さすがはお嬢様学校があるだけのことはある。
 本郷翔(ほんごう・かける)は執事が行きかうヴァイシャリーで、より多くのことを学びに来ていた。執事の家系に生まれたからには、いつかは立派な執事になり、仕えるべき主を見つけたい。
 ふと後ろを振り返ると、パートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が綺麗な少女をナンパしていた。白い肌に赤い瞳が印象的な十五歳くらいの美少女である。
「それならお嬢さん、お茶でもしませんか? 俺が奢りますよ」
「まあ、ありがとう」
 少女がにっこり微笑み、ソールの胸は高鳴る。翔はその様子を見ていたが、ふと少女の背後から白い何かがちらついているのが見えた。
 そっと近づいて行けば、白い尻尾が生えているではないか。翔はソールの隣へ行き、袖を引っ張った。
「ソール、ちょっと話が」
 しかしソールは無視した。少女の肩に腕を回し、近くのカフェへ向かって歩き出す。背後からははっきり尻尾が見えていたが、ソールが気づく様子はない。
「……化けてます、よね。まあ、たまには痛い目に会わせるのも手でしょうか」
 と、翔は呟くと一定の距離を保ちながら二人の後に付いて行った。
 カフェでは、少女は水しか飲まなかった。ソールが気を利かせて甘いものを頼もうとしたのだが、丁重に断られてしまったのだ。ソールはそれを清純だと受けとめ、何も不思議に思わなかった。
「次もまた、会えるかな?」
 と、ソールが少女の瞳を真っ直ぐ見つめる。少女は迷いなく、にっこり微笑んだ。
「ええ、ぜひ会いましょう」
 そして連絡先の書かれたメモを交換し合う二人。
「それじゃ、ボクはこれで」
 と、水分補給を済ませた少女は先に店を出た。見目麗しいのに性格まで良いとは、なんて素敵な人と出逢ったのだろう。ソールがロマンチックな気分に浸っていると、何者かがポケットを探る感覚で我に返った。
「ああ、やっぱりでしたか」
 ソールのポケットから取り出した一枚の葉っぱを手に、翔が呟く。
「……あれ? メモは?」
 と、自分でポケットを探るソールだが、先ほど受け取ったはずのそれは見事に消えていた。おかしいな、と呟くソール。どうやら化かされたことにも気が付いていないらしい。翔は呆れて溜め息をついた。

 ロザリンドは街の外れを自転車で走っていた。子ギツネを探している途中で、気になる話を耳にしたのだ。
 その話が正しければ、この辺りにいるはずだが……周囲をきょろきょろと見渡すロザリンドのスカートが、唐突にめくれ上がった。