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作ろう! 紙ペット動物園

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2、準備完了とバトルの終わり

 メモ帳を片手に、佐々良 縁(ささら・よすが)が周囲を見渡していた。
「開園後の案内係としては、施設の把握はしておかないとねぇ」
 半分ほど作業の終わった外観作りに視線を向ける。
「塔はこのくらいの高さでいいか?」
「はい。あとそっちもお願いします。ネヴィル、指示を頼みます」
「ハーレック興業、一気にドームを作るぜ!」
「おう!」
「築城には根気と根性が大事だ。皆、頑張ってくれ」
「塔の飾りはこれでいいかしら」
「……大丈夫だと、思います。ね、三号さん」
「うん。いいね」
 マクフェイル・ネイビー、ガートルード・ハーレックとネヴィル・ブレイロック、ジークフリート・ベルンハルト、リーフィア・ミレイン、高峰結和、アンネ・アンネ 三号……。
 話しながら、相談しながら、動物園の外形を作り上げていく。
 作っているメンバーには疲労の色と、そして笑みが浮かんでいた。
「外観は城っぽくするんだねぇ。大変そうだねぇ」
 佐々良縁の呼びかけに、マクフェイル・ネイビーは首を振った。
「いや、協力してやっているから、大丈夫です」
「それでも、大変だよー。後で手伝うよー」
 約束して手を振り、その場を後にした。
「次は……あ、アレはブルドッグ館かぁ」
 犬小屋形の、赤い三角屋根の家。その中では、色とりどりのブルドッグが駆け回っている。
「えぇと、こっちは猛獣館だねぇ」
 少し歩を進めた先に広がる、柵。
 木を切りだして作り続けた柵は、猛獣たちの憩いの場。
 等間隔に、しかしその枠から出ないように。
 沢渡真言は真剣な表情で作業を進める。
 紙ペットが小さいので、隙間は小さく、慎重に。真剣な瞳で、一心不乱に作業を続けていく。
「綺麗にできてきましたね……」
 紙キリンを手の上で遊ばせつつ、グラン・グリモア・アンブロジウスは作業を見つめる。
「まこりんふぁいとー」
 小さく言って、次の地へ急ぐ佐々良縁。
「こっちも柵かぁ。ここは大人しい動物達を入れた方がいいかもねぇ」
 少し不格好な柵を、テン、と叩く。
 その先で座り込む二人の姿。
「ふーっ、できた」
 並んだ柵をポンと叩き、佐伯梓が満足げに微笑む。しかし、その手は様々な傷に覆われている。
「……ほら、絆創膏くらいつけてよね」
「へへー、ありがとう、イル」
 イル・レグラリスに絆創膏を差し出され、笑顔で受け取った。
 二人の様子を背に、佐々良縁は進む。
「あ、これは枯山水かぁ。ここも園の名物になりそうだねぇ」
 カリカリとメモをとる。その視線の先には、枯山水の仕上げに入る四人の姿。
 和原樹とフォルクス・カーネリア、ショコラッテ・ブラウニー、
セーフェル・ラジエールが作り上げる水場代わり。
 砂が美しい波を作っている。
「砂の用意はこれで十分ですね」
 セーフェル・ラジエールが最後の砂袋を下ろし、枯山水のでき具合を見まわす。
「後少しですね」
「……足あと、消えたの。もういい?」
「あぁ。助かった、ショコラッテ」
 フォルクス・カーネリアに許しを得、ショコラッテ・ブラウニーはこくりと頷き、くるりと身を翻した。
「コツを掴んできたな、フォルクス」
 砂の袋を傍らに置き、伸びをしつつフォルクス・カーネリアを見る和原樹。
「慣れたころに終わると言うがな。……疲れたなら、休んでいいのだぞ。仕上げは我がやろう」
「いや、俺は――」
「お疲れ様なのでございます!」
「わ!」
 施設を見て回る佐々良縁の後ろから、ハルミア・グラフトン(はるみあ・ぐらふとん)がお茶と菓子を持ちやってきた。
「【至れり尽くせり】でご用意いたしましたー。一服どうぞ」
 ぺこりと頭を下げて、ハルミア・グラフトンが休憩を促す。
 しかし、誰も動かない。
「ふやっ、あ、他に必要……じゃないや、ご、御入り用のものがあるのでしたら、どうぞハルミアめにお申し付けくださいませっ!」
 荷物を持たない手をバタバタしつつ、彼女は言った。
「すぐにご用意致しますです!」
 その必死であわあわした様子に、笑みがこぼれる。
「折角だから、もらおうか」
「そうですね。少し休んだ方がいいですよ」
 和原樹達は、休憩をとることにした。
 その様子を背に、佐々良縁は再び歩き出した。
「ハルミアも参りますっ!」
 給仕を終えたハルミア・グラフトンが、彼女を追いかける。
「これは……紙ペット達の休憩所みたいだねぇ」
「休憩ですか? ハルミアの出番です!」
 佐々良縁とハルミア・グラフトンが辿り着いたのは、トマス・ファーニナルとミカエラ・ウォーレンシュタットが作業する場所。
「休憩場所はできたことだし、次はふれあい広場をつくろう」
「そうね」
「隠れられる場所も用意して……」
 トマス・ファーニナルは丸太に穴をあけたり、ダンボール箱をそのまま置いてみたりして、紙ペット達が隠れられる場所を作っていく。
「これで、どんな動物もくつろげそうね」
「喜んでくれたらうれしいぜ」
 青い瞳を細め、微笑むトマス・ファーニナルにミカエラ・ウォーレンシュタットも釣られて笑う。
「一休みに、食べ……、召し上がりませんか?」
 ハルミア・グラフトンが進み出る。
「そういえば、私たちの休憩を忘れていたわね」
「そういえば、そうだ」
 顔を見合わせて苦笑し、ハルミア・グラフトンを振り返った。
「お茶にするから、給仕してもらえるかしら?」
「はい! このハルミアめにお任せあれ!」
 胸を張った彼女が、再び給仕する。菓子を、紅茶を、丁寧に二人に渡して一礼。にこにこと微笑んで、二人の休憩を見守る。
 佐々良縁はそっと、別の施設へ足を伸ばした。

 カタカタカタと、回し車が回る。
「くるたん、いいよいいよー」
 ミレイユ・グリシャムが、紙リスを応援する。
 デューイ・ホプキンス手製の回し車には「かんたん」「ふつう」「むずかしい」と書かれていて、美味く回ための難易度となっている。
「くるたんは上手だね。むずかしいのもクリアだよ!」
 紙リスが回し車からおりてくると、ミレイユ・グリシャムが頭をくしゃくしゃと撫でた。
「左右対称に作らないと、回りにくくなってしまうな」
「ペットが飽きない程度に難しいなら、大丈夫だよ。ね、くるたん」
 難しい表情をするデューイ・ホプキンスに明るく言うミレイユ・グリシャム。と、その背後では。
「はい、おーわりっ」
編んだかごを十数個転がし、ぱたりと寝転がってごろごろ転がり始めるルイーゼ・ホッパー。
「やめたまえ、ルイーゼ」
 腕を組んだデューイ・ホプキンスがびしっと告げる。
「籠をたくさん作ったのは偉いが、転がるのは慎んでくれ。きみは、スカートなんだからな」
「ふあーい、デューイパパ、ごめんなさ〜い」
 深く息をつき、ルイーゼ・ホッパーは起きあがった。
「綺麗にできたね、ルイーゼ」
 編まれたエサかごを手に取るミレイユ・グリシャム。
「折角だから、もっと可愛くしようか」
 ハンカチを取り出して、取っ手の部分にぐるぐると巻きつける。
 ピクニックに持って行けそうな、美しいかごが仕上がった。
「うん、いい出来だね」
 満足そうに微笑む。紙リスもこくこくと頷いた。
 回し車と、エサかごを持ち、ミレイユ・グリシャム
は立ち上がった。
「配りに行こう」
「りょうか〜い」
 デューイ・ホプキンスも頷く。三人は、作り上げた物を持って、歩き出した。


 レポート用紙とペンを片手に、椎名真と双葉京子が、紙ペット達の様子を見守っている。
「色々な紙ペットがいるね」
「みんな、可愛い!」
 彼らの視線が向く先、園の片隅で、紙のリスが、群をなしていた。
「……シマリスの可愛さは、異常です」
 天枷 るしあ(あまかせ・るしあ)がそう言い放って、紙リスをわしっと捕まえた。
そしてペンで縞を描いていく。
ただの茶色かったリスは、シマリスへと姿を変えた。
「……シマリス、可愛い」
眼鏡がきらりと光る。レンズの奥の黒い瞳は、獲物をねらっているようであり、子供を見守る親のようでもある。
「可愛いですぅ」
 トゥプシマティ・オムニシエンス(とぅぷしまてぃ・おむにしえんす)もシマリスの可愛さに目を奪われる。
 天枷るしあは採ってきたどんぐりを取り出し、地面にばらまいた。
 小さな紙リスは、ちょこちょことそれに近寄り、小さな両手で持つと、首を傾げて天枷るしあを見た。
 まるで許しを待っているかのようだったので頷くと、紙リスはドングリをまるごと口に含み、もごもごと食べ始めた。
 地面にうつ伏せに寝転んで、トゥプシマティ・オムニシエンスはじっと紙リス達を見つめている。
「面白いこと、起きて欲しいですぅ」
 二人からやや離れた位置で、やはり椎名真と双葉京子も紙リスを見ていた。
「どんぐりが好きみたいだね」
 双葉京子は、リスを一匹抱き上げようと試みる。しかし、捕まえる前に逃げられてしまう。
「この子は、あんまり触られるのが好きじゃないみたい……?」
「そうだね」
 触れ合って分かったことを、レポートに記していく。
「……かえるみたいですぅ」
 トゥプシマティ・オムニシエンスが、どんぐりを口に含む紙シマリスを見て、笑う。
「ゲコッ」
「!?」
 カエルの鳴き声が聞こえた気がして目を丸くする。
「カエルの鳴き声のリスですかぁ?」
 興味津々といった表情で見つめていると、カエルの鳴き声は、全く別の方向から聞こえてきた。
「違ったみたいですぅ……残念ですぅ」
 眉をひそめるパートナーを横目に、至福の表情で天枷るしあは紙シマリスを見つめていた。
「みんな、良い子」
 少し手を伸ばして頭を撫で、くしゃくしゃとやってやる。
「シマリス館ができそうですねぇ」
 二人が、微笑む。
 椎名真達も静かに去って行った。