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秋の実りを探しに

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秋の実りを探しに

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 シャンバラ教導団のルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)をリーダーとした『鋼鉄の獅子』の生徒たちは、森で採れたものをその場で調理して食べることにしていた。が……
 「え? 手伝うことってこれだけ?」
 最近料理を覚え始めて、今日は手伝う気満々だったシャンバラ教導団の橘 カオル(たちばな・かおる)は、目を瞬かせて、自分をここへ誘ってくれた薔薇の学舎の城 紅月(じょう・こうげつ)を見た。
 「ああ。これなら、ルースの兄貴と一緒に出来ると思ってさ♪」
 紅月が準備をしてきた料理は、既に焼いてあるパイ皮に、これもあらかじめ作っておいたカスタードクリームと、森で採れたベリーを挟んで即席のベリーパイを作るというものだったのだ。
 「……確かに、俺まだ煮るか焼くかくらいしか出来ないけど、挟むだけ……」
 「誰でも参加できるようなものを考えてくれたんでしょう。それにほら、栗は焼きますし! 下ごしらえ、よろしくお願いします」
 さすがに気落ちしてしょげてしまったカオルを、ルースがまあまあと宥める。カオルはまだ残念そうな顔をしながら、森に入って行った仲間たちが交替で届けてくれた栗にナイフを入れ始めた。こうしておかないと、破裂して大変なことになるのだ。
 「あ、椿ちゃん! おやつあるよ、一緒にお茶しようよー♪」
 一方、紅月は通りかかった波羅蜜多実業高等学校の泉 椿(いずみ・つばき)に声をかけていた。
 「お、いいなぁ。じゃ、これも一緒に食べるか?」
 片手に風呂敷包み、片手に幾つか布袋を提げた椿は、紅月たちの方へ寄って来た。風呂敷包みを開くと、中から大きめの弁当箱が現れた。
 「……ところで、お前ンとこって、もっと人居なかったっけ?」
 「まだ森から戻って来ない人たちが居るんだよねー。皆で揃ってお茶にしたいから、ちょっと待ってね、椿ちゃん」
 紅月が森の方を見ると、木立ちの間から、疲れ切った様子の月島 悠(つきしま・ゆう)が、パートナーのの機晶姫麻上 翼(まがみ・つばさ)ネル・ライト(ねる・らいと)を連れて現れた。その後ろから、シャンバラ教導団の朝霧 垂(あさぎり・しづり)も戻って来る。
 「……疲れたぁ……」
 悠は簡易テーブルに木の実の入った籠を置くと、げっそりとした様子で、草の上に敷いた布の上に座り込んだ。
 「どうしたんですか?」
 ルースが尋ねると、もう答えたくない、という様子の悠のかわりに、ネルが答えた。
 「翼さんが、高いところの木の実を落とすのに光条兵器を持ち出して、大変だったんですわ」
 「木の実だけに当たれ!って思えば、他のものを傷つけないからいいと思ったんだもん……」
 翼は唇を尖らせた。
 「手持ちサイズとは言ってもガトリング砲なんか持ち出したら、他の人がびっくりするでしょう! それに、熟してる実もそうじゃない実も、ガトリング砲だと全部落としちゃうし!」
 悠は立てた膝の上に伏せていた顔を上げて、翼を睨んだ。
 「まあまあ、疲れてる時には甘いものですよ」
 ルースは出来たばかりのベリーパイを悠の口元に突きつけた。
 「ありがとうございますー……」
 悠は疲れ切っているようで、手を出さずに、行儀悪くルースが持ったままのパイにかじりつく。
 「あ、私にも頂けます?」
 「美味しそうだね、どうやって作ったの?」
 ネルはパイ皮の端切れにクリームとベリーを盛ったものを味見にもらい、翼は紅月に作り方を聞きに行く。そこへ、レーゼマン・グリーンフィールやクルツ・マイヤー、ルカルカ・ルー、夏侯 淵、ウォーレン・アルベルタ、清 時尭、ナナ・マキャフリーも戻って来た。
 「よーし、始めましょうか」
 ルースは皆に声をかけた。紅月のパイ、椿のお弁当、他にも各自用意して来た食べ物や飲み物を出して、布の上に車座に座る。
 「じゃあ、新メンバーのカオルと紅月から、順に挨拶をしてもらいましょうか」
 「……あ、俺はここで抜けるから」
 一人だけ座らずにいた垂が言った。
 「え? これから垂さんも一緒に採ったベリーや栗も食べるんですよ?」
 悠が目を丸くする。
 「いや、俺はメンバーじゃないから」
 だが、垂はかぶりを振り、輪の中に入ろうとはしなかった。
 「獅子メンバーじゃない俺がこんな事言うのもアレなんだけど、皆は『縁という絆』によって巡り会った仲間なんだ。だから、その『絆』を大切にしろよ?」
 そういい残し、垂は後ろ手に手を振って、立ち去ってしまった。
 「……よし、じゃあ、食って飲んで、絆を深めますか!」
 ルースの声と同時に、『鋼鉄の獅子』の生徒たちは、いっせいに料理に手を伸ばした。


 シャンバラ教導団のマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)とパートナーの剣の花嫁早見 涼子(はやみ・りょうこ)は、キノコが山盛りになった籠を、ミス・スウェンソンに見せていた。
 「この中に食用のものがあるかどうか、ご教示頂けますかな?」
 だが、ミス・スウェンソンは残念そうにかぶりを振った。
 「……ごめんなさい、私は地上出身で、パラミタの野生のキノコを100%見分ける自信はないのよ」
 「そうですか、残念です」
 マーゼンはがっくりと肩を落とした。
 「店員の子たちや、アイリ君にも聞いてみたら?」
 ミス・スウェンソンはそう言ってくれたが、店員たちもアイリも、完全に見分ける自信はないと言う。
 「仕方がない、持って帰って、知識のある者に判別してもらうことにしようか」
 「キノコのフルコースを堪能したかったのですが、戻るまでおあずけですわね。持って来たお弁当を食べることにいたしましょう」
 残念そうに言った涼子は、森から戻って来た楊秀明が、木の実が入っていると思われる袋を提げているのに気付いた。
 「まさかと思いますが、それを地上に持ち帰るつもりではありませんわよね? 地上で殖えて、生態系を乱すことになったりしたら大変ですわ」
 「安心してください、持って帰るのは空京までです。地上までは持って行きませんから」
 涼子が注意すると、秀明は彼女を安心させるように微笑した。
 「それなら結構ですわ」
 涼子はほっと息をつく。
 (しかし、あれを空京に持ち帰ってどうするつもりなのでしょうかな? 『用事があって空京に来た』と言うことは、空京に住んでいるわけではないはず。空京に、持ち帰って渡すような相手がいるということでしょうか?)
 どうも解せない行動をする少年ですな、とマーゼンは、店員からお菓子を貰っている秀明を見た。