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秋の実りを探しに

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秋の実りを探しに

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 「いい女がたくさん居て、こりゃあ儲けたと思ったら……何でみんな居なくなるんだよぉう。残ったナナ先輩にはルースが居るから手が出せないし……」
 「まったく、お前と言う奴は……。材料が届かなければ料理が始められないんだから、仕方ないではないか」
 さめざめと泣くパートナーの強化人間クルツ・マイヤー(くるつ・まいやー)を見て、シャンバラ教導団のレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は盛大にため息をついた。『鋼鉄の獅子』の仲間で、新しいメンバーの歓迎会をするためにツアーに参加していたのだが、一緒にナッツを集めていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)ネル・ライト(ねる・らいと)が、調理を担当するメンバーに収穫したものを届けに行ったとたんにこれなのである。
 「こうなったらダメ元で! ナナ先輩ー、後で二人きりで散歩でも……」
 「ごめんなさい、ルースさんと先約があるんです」
 皆まで言うより先に、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)はクルツの誘いをにっこり笑って一蹴した。
 「あう……やっぱりダメか……」
 クルツはがっくりと肩を落とす。
 「ほらほら、朝霧や月島たちが戻って来るまでに、少しでも収穫を増やしておこうじゃないか。収穫が少なかったら、きっと彼女たち、がっかりするであろうな……」
 後半はなかば独り言のように、レーゼマンは言った。とたんに、クルツはがばっと顔を上げた。
 「よーし、いいとこ見せるぞー!」
 俄然張り切って、ナッツを集め始める。レーゼマンとナナは顔を見合わせて苦笑した。そこへ、
 「お、ナナだ」
 イルミンスール魔法学校のレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)がやって来た。
 「あら、レイディス様もベリー摘みですか?」
 ナナはレイディスに近寄って、持っている籠の中を覗き込んだ。
 「私たちがまだ見つけていないベリーもあるみたいですね」
 「『ミスド』にあげようと思って取ったんだが、良かったら、少し分けてやろうか?」
 レイディスは申し出た。
 「いいんですか? ありがとうございます!」
 ナナはレイディスに抱きついた。
 「……いいなー、あれ……」
 クルツが指をくわえて呟く。


 「わあああ、それはそのままじゃ食べられないんだって!」
 波羅蜜多実業高等学校の日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、拾った木の実を洗いもせず、固い殻のまま口に放り込んだパートナーの魔鎧、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)を見て悲鳴を上げた。
 「あら、ほーなの?」
 もぐもぐと口の中で木の実を転がしながら、卯月は首を傾げる。
 「さっきほは、そのまま食べられたりゃない」
 「さっきのはベリーで、もっとうんと柔らかかったし、地面に落ちてもいなかっただろう! そういう、殻つきの木の実の、しかも地面に落ちてる奴をいきなり食べたら、普通の人はびっくりするんだよ!」
 「ふーん……ごめん」
 卯月が口から木の実を出したので、皐月はほっと安堵の息をついた。
 (やっと、せっかく来たんだから楽しもうって気持ちになって来たのに、面倒はご免だぜ……)
 その時、
 「おーい、こっちへ来て一緒にお茶を飲まないか?」
 木立ちの向こうから声がした。見ると、シャンバラ教導団の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が手を振っている。
 「おまえ教導団だろ? オレはパラ実だぜ? なれ合っていいのか?」
 皐月は眉を寄せたが、
 「こういう場所では、一時休戦だろ。『ミスド』に迷惑かけるわけには行かないし」
 「さよう、ここでいがみ合うのは無粋というものじゃよ」
 剛太郎に加えて、パートナーの英霊大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)にも言われて、卯月と一緒にお茶をご馳走になることにした。
 「どうぞ、召し上がれ」
 剣の花嫁コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が、お茶と自作のお菓子を差し出す。
 「卯月、下についてる紙ははがすんだぞ!」
 蒸し菓子の底に紙が敷いてあるのに気付いた皐月は、先手を打って卯月に注意した。
 「そのまま食べられたりダメだったり、難しいのねぇ……」
 卯月は難しい顔で、ぺりぺりと紙をはがす。
 その後、しばらく、五人は当たり障りのないことを話しながらお茶を飲んでいたが、
 「さて、わしはちと、小用にな……。年寄りは茶を飲むと近くなっていかんわい」
 藤右衛門が席を立ったのと同時に、皐月と卯月もベリー摘みを再開することにした。後には、剛太郎とコーディリアが残る。
 「……何か、静かになっちゃったな」
 「……そうですね」
 何とはなしに、秋の森の、色付き始めた景色を見ながら、二人はそれきり押し黙る。けれども、それは、居心地の悪い沈黙ではなかった。
 (よしよし、良い雰囲気じゃ。……願わくば、剛太郎の押しがもう少し強ければのう。せっかく二人にしてやったんじゃから、せめて手ぐらい握れば良いものを……)
 それを木の影からそっと見守って、藤右衛門は心の中で呟いていた。そんな爺心も知らず、剛太郎とコーディリアは、時おり風の音や鳥の声が聞こえる心地よい沈黙の中で、二人、秋の森を眺めていた。