リアクション
◇ 嬉々としてバリケードに迫るならず者達の前に、御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が立ち塞がる。 「正義の味方を気取るわけじゃないが、なすべき力があるならやらなくてはな」 自信に満ちた言葉と共に握り締めた拳を開いて、迎撃の構えを見せた。 もちろん相手はスパイクバイクに乗っているので、素手でこの行動を取る事を挑発と捉えて紫音に向けて攻撃を仕掛けてくる。 ――が、紫音はそれより速く相手に詰め寄り、改心の一打を放つ。乗っていたバイクごと浮きかねない衝撃がならず者を襲う。 「逃げたければ逃げな」 打ち据えた拳をそのままに、紫音は不適に笑う。 一瞬の出来事に戸惑いながらも周りのならず者達が紫音に銃口を向けると、発砲をする前に辺りに炎の嵐が巻き起こった。 「主様、バックアップはわらわ達に任せるが良いのじゃ」 聞き慣れた声に振り向けば、紫音の背後に付く形でアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が、禁忌の書を片手に笑顔を浮かべている。 頭だけ、とはいえ後ろを見せた状態をチャンスだと思ったのか、血煙爪を片手にモヒカンを振り乱して襲い掛かってきたが、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が横合いからの射撃で、振り被られた武器ごと押し戻す。 「私らが紫音の背中を護りますんで、あんじょうおきばりやす」 ロングの黒髪を風になびかせて、風花は銃口の煙を吹き飛ばしてから、微笑んだ。 さらに風花の背後からはアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が紫音へ歩み寄り、 「我が主よ、無法者どもを懲らしめてやりましょうぞ」 と言うや否や魔鎧となって、紫音の身体を包み込む。 「我、魔鎧となりて我が主を護らん」 ◇ 圧倒たる攻勢の中、数人の敵を吹き飛ばした所で、紫音の顔が微かに曇った。 「……?」 アルスと風花は、それぞれ紫音の顔色の変化に気が付いて、視線で何事かと訴えかける。 当然目立った外傷なども無く、これだけの戦闘で疲弊するような人間ではない事を二人とも知っていた。 だからこそ、この状況で霧が晴れないような顔をしていることに問題がある。 「主、顔色が優れんようだが……?」 自らが着装している鎧、アストレイアに語りかけられて紫音が小さく口を開いた。 「弱すぎる」 攻め入って来たのは明らかに雑魚以外の何者でもなく、それに加えて妙に数が少ない。 背にしているバリケードにも大したダメージが見えない中、よく見てみれば後続のモヒカン達は渋い顔をしながらアクセルを吹かすに留まっている。 「いやしかし、主様。少し毛色が違う猫がまぎれているようですぞ……?」 紫音に背を合わせたアルスの視線の先では、高らかに上がる笑い声と共に、チャクラム――アウタナの戦輪が宙を舞っていた。 「ハッ! 手ぇ抜いてくれなくたっていいんですよ?」 強襲。まさに言葉通りに、志方 綾乃(しかた・あやの)は現れた。 大したモーションも無い中、身の回りで不規則な動きを伴う戦輪が紫音達に襲い掛かる。 目の前を通り過ぎる円状の刃は、皮一枚の所で回避しているが、合間に挟まれる拳がとにかく重い。 「こちらも好きでやってるんじゃないんです」 そこまで言って、少しだけズレた眼鏡を直しながら、小さく笑う。 下から浮遊してきた輪を紫音が回避。防御が開いている綾乃に標準を合わせ、引き金を引こうとする風花の視界に輪が飛翔して阻害する。 射線を確保しようと動いた風花に向かって外野のならず者達が血煙爪で襲い掛かるが、アルスがこれを迎撃。 「けど……ビジネスとなれば話は別ですよね」 腰を落として人差し指を紫音へ向けた。迎撃や回避に気を取られて、三人が一直線に並ぶ形になっている。 そのスキを見逃さずに、綾乃は三人纏めて拳で撃ち抜いた。 「さっくり貰ってちゃっちゃと帰るだけなんで、邪魔しないでくださいねー」 と、吹き飛ぶ三人に手を振る綾乃の眼前に落雷が落ち、次いで間髪入れずに氷嵐が巻き起こる。 「校長の名のついたものを壊すなど……喧嘩を売っているとみて問題なかろうな」 眉間に皺を寄せる綾乃の前には、怒りに満ちた表情を隠しもせずにイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)が立ち塞がっていた。 |
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