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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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御神楽埋蔵金に翻弄される村を救え!

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第九章 激闘

「そこまでよ!!」

 叫び声と共に、アリアに覆い被さっていたならず者が小型飛空艇に跳ねられて真横に吹き飛んでいった。
 乗り捨てるように小型飛空艇を降りたシズルが、アリアに駆け寄り、肩に手をかけて抱き起こす。
「大丈夫? ゴメン、遅くなった」
「だ、大丈夫……ありがとう」
「大変だったみたいね……ここから、反撃するわよ」
 そう言いながら空を仰ぎ見るシズルの視線の先には、無数の小型飛空艇が飛来していた。

 集団で現れた騎兵隊を、ならず者達がただ向かい入れる筈も無く、ショットガンで銃弾を浴びせる。
「ここは任せて先に行って下さい。村の方はお願いします」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)はわざと敵の注意を引くように飛行し、牽きつけてからならず者達に向かって炎を放ち、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)に指示を出す。
「セルファ」
「任せといて。一転突破で道を切り開くわよ」
 炎に怯んだ集団から少し離れた場所に着地したセルファが、地面スレスレの箇所を滑空し、勢いをそのままに槍を持ち突撃する。
 飛び込んできたセルファを囲い込んで迎撃しようとするならず者に氷室 カイ(ひむろ・かい)が背後から刀を翻す。
 村に着陸する騎兵隊よりも手前で着陸をして騎兵隊に集中しているならず者達に攻撃を仕掛ける。
 その思惑通りに動いた効果は大きく、前後から攻撃を受ける形になったならず者達は混乱を見せた。
「よし、このまま全員潰しちまおう」
「そうしたい所ですが……油断せずに行きましょう」
 勢い付いて戦うカイに、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が冷静に応える。
 刀とハルバードの乱舞に、ならず者達の陣形が崩れていく。固まっていた敵陣にスペースが開き、そこへタイミングを合わせて騎兵隊が上空から舞い降りた。
 追撃する形で海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)がハンドアックスを振りかざして駆け抜け、ならず者を蹴散らしていく。
 海豹仮面は、その脚で中心部に居るリーダーに接敵し、跳躍。頭上から体重を乗せた一撃でリーダーへ攻撃を仕掛けた。
「んだテメェ!」
 スパイクバイクに乗ったリーダーは叫びながらも突然の攻撃に反応を見せる。軽々と持ち上げた血煙爪でハンドアックスを受けると火花が飛び散った。
 押し切ろうとする海豹仮面に周りのならず者達が攻撃を仕掛けてくるのを、バックステップで回避。
「さすがに堅いねぇ……」
 顔を隠す仮面の下でゆったり呟くと、周りのならず者に標的を変えて斧を振っていく。
 距離を取って安堵しているリーダーの後方から、棗 絃弥(なつめ・げんや)が刀を抜いて斬撃を浴びせる。
 完全に不意を突かれたリーダーの腕から血が流れ、滴り落ちる。
「前から後ろから、チマチマと……ウザってぇ!」
 片手でハンドルを切りながらアクセルを開け、血煙爪を横に構え、後輪を滑らせて旋回を始めた。
 絃弥は、周囲を薙ぎ払うかのように迫る刃を刀の切っ先で軌道を変えて受け流す。
「どうやら一筋縄ではいかんな。先に周りの雑兵を片付けた方が良さそうだ」
 絃弥の身に付けている狼を模した鎧、罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)が語りかける。
 戦闘時に語るフォリスの言葉に間違いが無い事を知っている絃弥は、この助言に応じて睨みを利かせるリーダーから離れた。



「尻尾を巻いて逃げることをお勧めしますよ? 通行料は少々高くつきますからね」
 騎兵隊を襲撃しようとするならず者を、降下してきた真人が阻む。
 ガラにも無く満面の笑みを浮かべながらならず者を挑発して、惹きつけた所で雷光を降らせる。
(これで、少しは皆が戦いやすく……ん?)
 視線を向けた騎兵隊の行動が、何故か止まっている。その原因は、一人の少女だった。
 戦線へ降り立った騎兵隊の正面に佐々城 蝶子(ささき・ちょうこ)が腕を組んで立ち塞っている。
「さぁさぁ、全員私が相手になってあげる! かかってきな!」
 叫びながら疾走する蝶子に、騎兵隊だけではなく、ならず者の一部まで呆気に取られた。
(あいつ……そんなに強いのか?)
 満場一致の疑問を理解しているのかしていないのか、自信満々で特攻を仕掛ける蝶子が、騎兵隊までもう一歩、という所で突然の失速。
 前衛的な土下座を見せたのかと思うほど、真っ直ぐ前のめりに倒れこんだ。

「……ん?」
 アルバトロスに乗りながら、単独で飛び出した蝶子を上空から撃ち抜いた影野 陽太(かげの・ようた)は、不可解な程に戦場の視線を浴びていた。
 何故かその殆どが、半ば残念そうな表情をしている。当然それは陽太に向けてのものではなかったが、当の本人がそれを知ることはない。

 複雑な空気を纏う戦場をスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が、アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)を後ろに乗せながらスパイクバイクで駆け抜けた。
 走り回るバイクの後ろで、アレフティナがならず者達に向けて叫び始める。
「埋蔵金が1Gだったらどうするんです? あるかないかわからない埋蔵金よりも、長く私達を満たしてくれる大地の恵みを大切にしましょう!
 たった一粒の種モミから沢山の人が救われるんですよ。あなた達がそれを成したら、皆さん英雄です! その方が絶対かっこいいですよ!」
 大真面目にならず者達の説得を試みるが、当然効果は無い。どころか、ならず者達は怒りに身を震わせながらアレフティナ達を追い始めた。
 スレヴィが、深い溜息を吐く。
「私、間違った事言いましたか!?」
「……知らねぇ」
 涙目になりながらアレフティナが掛けた声を、スレヴィは一蹴した。
(けどまぁ、何か誘導しやすくはなったか?)
 スレヴィは心中で呟きながら、当初の計画通り騎兵隊がならず者達を攻撃しやすいポジションまで誘導する。
「チャーンス!」
 スレヴィに並走しているならず者に、小型飛空艇オイレに乗って上空で待機していた師王 アスカ(しおう・あすか)が闘気を放つ。
 不可視の攻撃は、ならず者が乗っていたスパイクバイクの車体を破損させ、そのコースを大きく乱す。
 続けてアスカはオイレの上で高らかに詠唱を始めた。
「紅き薔薇には棘がある? おいでませ、オルベール!」
 若干適当な呪文で呼び出されたオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が、フラフラと走るスパイクバイクの後ろに現れる。
「あら? アスカ〜♪ 一体どうしたの〜?」
 突然呼び出されたバイクの座席上でバランスを取りながら、オルベールはにこやかにアスカを見上げる。
 頭上でアスカが口を開いているのが微かに見えた。妙な音を立てているバイクのせいでハッキリと声は聞こえなかったが、顔と仕草を見れば大体理解が出来る。
「なるほどね、暴れろと」
 ニヤリ、とオルベールが歪む。
 後部の異常に気が付いたならず者が振り向いて驚愕している顔を、オルベールが大きくはだけた胸元に押し付ける。しばらくすると、抵抗も見せずにならず者の目から光が消えた。
「あなたには悪いけど、可愛い妹のお願いなの……ごめんね?」
 聞こえているかも怪しい相手に小さく舌を出してから、オルベールがならず者の頭部を恋愛指南書の角で思い切り殴りつけた。
 座席から崩れるように落ちたならず者の上に、バイクから飛び降りたオルベールが着地。
 何処からともなく現れたオルベールに向けて機関銃や血煙爪を向けるならず者を、アスカと共にオイレに搭乗していたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が魔道銃で狙撃する。
「ぶっ殺してやるぁ!」
 手に持っていた武器を打ち落とされたならず者達は叫び出し、直接攻撃を加えるべくスパイクバイクを駆り出した。
 しかし、小型飛空挺ヘリファルテに乗った蒼灯 鴉(そうひ・からす)が上空から接近し、走る車体に連続してソードブレイカーを突き立てる。
 完全に機能を停止したバイクから黒煙が上がり、ただの鉄の塊になったバイクをならず者達は捨て落としたショットガンを拾い上げた。
 そして上空の鴉に向かって撃つが、加速するヘリファルテに銃弾は掠りもしない。

 空に向かって引き金を引き続けるモヒカンに、金色の狐が迫る。
 上空に気を取られて気が付かないならず者の顔に、木月 楓(こずき・ふう)が拳を突き刺さした。
 鈍い音と共に倒れこむ仲間の音を聞いて我に返るならず者の頭部を、楓が嬉しそうに殴りつける。
「ちょっとは周りも見ろよ……」
 好き勝手に暴れる楓の後方から、紅秋 如(くあき・しく)が溜息混じりにボウガンで矢を放つ。
 夢中で接近戦を行う楓を狙っているショットガンや機関銃を器用に打ち落とす。そして、続々と武器を落とすならず者を楓が笑顔で殴りに行く。
 殴る。打ち落とす。殴る。打ち落とす。殴る。
 この循環は、一通り楓の周りに敵が居なくなるまで、延々と繰り返されていった。



 ――騎兵隊が到着してから程なくして。
 数が減ってきたならず者達の相手をしていたユベールの横を、パートナーの鴉が振り抜いた剣が掠める。
 銀色の髪が数本切れて宙に待った。
「ちょっ……危ないって!」
「ん? あぁ、そうか」
 鴉は、目の前にいる敵へ集中しているのか適当な返事を返すだけで、それ以上は何も言わなかった。
 ユベールは、攻撃が当たりそうになった事と、そっけない返事を返す鴉に怒りを膨らませるが、今は問い詰める事も出来ない。
 溢れ出るフラストレーションは、不幸にも目の前に居たならず者に向けられる事になった。。

「皆さん、大丈夫ですか?」
 火村 加夜(ひむら・かや)が、戦場で負傷した人間を見かけては声をかけ、治療や治癒を施している。
 戦場を見回せば、数で有利になったとはいえ傷を負わずに戦い抜ける事はなさそうだった。
「後は――ッ!?」
 治療する人間を探し回りながらも、常に周りに気を張っていた加夜が、異常な気配を察知して振り向く。
 そこに立っていたのは、無表情の紗昏だった。
 目を合わせたというのに、紗昏の瞳はどこか暗い影を落としたように暗い。
「……何でしょうか?」
 気味の悪い気配に、加夜が脚を引いて距離を取る。
 その言葉に、紗昏はまるで今気が付いたかのようにゆっくりとした動作で着ているTシャツをたくし上げる。
「ティナチャーン」
 感情の篭っていない紗昏のその言葉と共に、Tシャツから覗く内腿に鮮やかな赤い血液が伝った。
 何をしているのか一瞬解らなかった加夜だったが、背後で膨れ上がる気配に気付いて身体を横に投げ出す。
 と同時に、耳元で発砲音が聞こえた。
「わぁ! すごいですねっ!」
 何の躊躇いも無く至近距離で背後から発砲した直後の表情とは思えないほど明るい顔で、アルバティナ・ユリナリア(あるばてぃな・ゆりなりあ)が驚嘆の声を上げる。
 転がるように回避した加夜に、二丁の銃を向けながらアルバティナが引き金を引いていく。
「撃つたびに、魂が吸い取られるようにびりびり感じて……癖になっちゃいそうです」
 アルバティナは、恍惚とした表情で右手に持った銃に向けて囁きかけた。
「本当に魂があれば、もっと気持ちいいのでしょうね」
 続けて今度は、左手に携えた銃にも語りかける。
 どこまでも表情を出さない紗昏に、場違いなほど軽やかな笑顔で殺意を向けてくるアルバティナ。
 そんな二人に、加夜が手持ちの魔道銃で応戦をしていると、村の端からならず者を吹き飛ばして迫り来る二機の小型飛空艇が見えた。
「それ以上は、やらせません!」
 小型飛空艇アルバトロスの上から、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が氷嵐を巻き起こす。
 加夜まで巻き込みそうな氷の嵐を受ける紗昏とアルバティナに、気合を込めて小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が小型飛空艇ヴォルケーノごと突撃を仕掛ける!
「てりゃぁぁっ!」
 回避する紗昏に美羽はショットランサーの穂先を射出。ヴォルケーノのスピードを乗せた槍の先が、紗昏の肩を貫いた。
 通り抜ける際に槍が紗昏の肩から抜け、傷口からは大量の血が流れ出る。紗昏が吹き飛ばされながら地面を転がる度に、土が赤黒く染まっていく。
「もう、終わりにしませんか?」
 倒れる紗昏に、ベアトリーチェが問いかけるが、特に返事は無い。無表情の紗昏の気配に注意を向けていると、突然銃声が鳴り響いた。
 美羽、加夜、ベアトリーチェの三人が咄嗟に戦闘態勢を取った先では、アルバティナが緩く微笑みながら空に向けて発砲を続けている。
 銃声に気を取られている隙に、紗昏が退散したのを見届けたアルバティナは、自身も戦線に紛れ込んで姿を消していった。



 戦場の中心で血煙爪を手に、リーダーが歯を噛み締めていた。
 攻め入る時に浮かべていた笑みは既に無く、眉間には深い皺が刻まれている。
 本来ならもう既に村を制圧して破壊しているはずの音楽堂には、未だ傷一つ付けられていない。
 周りを見れば引き連れてきた仲間は地面に転がっている。
 まだ戦えるはずの者も、この状況に見切りを付けたのか、自分を残してあっさりと退散していった。

「さて、どうする? まだやるの?」

 瑛菜が鞭を鳴らしながら、一人で血煙爪を構えるリーダーへ問いかける。
 横には小太刀を構えたシズル。そしてその後ろには、何人もの騎兵隊が立ち並んでいた。
 村人達を守っていた人間も既に周りを取り囲んでいる。
「ま、やらない、って言っても、帰さないけどね。絶対に」
 その言葉を聞いてリーダーが、咆哮を上げる。

「お前らごとき、俺様一人で十分だザコ共がぁああ!!」

 ――この言葉を最後にならず者のリーダーは、その場に居た全員の手によって完膚なきまでに打ちのめされた。