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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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第11章


「さあ、ようやく冬将軍との最終決戦です。勝ち残るのは蒼空学園か、それとも冬将軍か!!」
 冷静な小次郎の解説も少しだけ熱を帯びてきた。

 悪鬼のごとき姿へと変貌を遂げた冬将軍と対峙するヴァル・ゴライオン。美羽との距離を取りつつも問答無用で戦闘を開始する。
「おらおらおらぁ!」
 右手に絶望の剣、左手に栄光の刀を握ったヴァルは、六本腕の冬将軍と正面から斬り合う。もともと3mの長身である冬将軍は四天王を吸収したことでさらに巨大な姿へと変貌している。だが、ヴァルは一歩も引くことはない。
「負けられぬ戦いというものがある! 民のため、仲間のためにこの帝王が、将軍ごときに負けるわけにはいかぬ!!」
「ふざけるな! 帝王だろうが何であろうが全て叩きのめし、この地を支配してくれる! いずれはこの地全土を極寒の地へと変えてやるわ!」
 さらに神速の斬り合いを続ける両者、冬将軍は二本の刀以外にも四本の腕で打撃を交えてくるが、そのほとんどをヴァルは防いでいく。
 とはいえ、その全てをガードできるわけではない。刀による漸撃は辛うじて防いでいるものの、四本の打撃はヴァルガードをくぐり抜けて徐々にダメージを与えていく。
「ふははは!! どうした帝王!! 口ほどにもない!!」
 自らの優勢を悟った冬将軍は、さらに打撃の勢いを強めていった。
「くっ……」
 徐々にヴァルの形勢が崩れていく。ヴァルの構えに一筋の隙を見抜いた冬将軍は、二本の刀でヴァルの両剣を封じると、とどめとばかりに四本の腕に渾身の力を込めてヴァルの胴体を打ち抜いた!!

 だが、それで倒れる帝王ではなかった。

「何だと!?」
「……かかったな!!」
 そう、ヴァルは劣勢に追い込まれるように見せかけて隙を作り、冬将軍の攻撃をあえて受け止めることで攻撃のチャンスを作ったのだ。来ると分かっている攻撃なら防ぎようもある。タイミングを合わせて残心で肉体を強化し、その鎧と肉体に秘められた強靭な意志の力で冬将軍の攻撃を弾き返す!
「ぐわっ!?」
「お返しだ!!」
 ヴァルが両手を翻すと、冬将軍の二本の刀が宙に舞った。いつの間にか吹雪きは止み、厚い雲の隙間から太陽の光が眩しくヴァルを照らしていた。
「光輝のブースト! 背に受ける間隙の晴れ間!!」
 二本の刀を弾き飛ばすと同時に、自らの両手の武器を手放したヴァル。固く握られた両拳に太陽の力が宿り、激しい炎を纏っていく。
「冬の厳しさの中にも、奇跡のように輝く晴れ間がある。そのような男に、俺はなる!!」
 絶望を手放した右手を冬将軍のボディへと叩き込む!! そして栄光を掴む左手が鳳凰の拳で打ち込まれた!!
「そう、太陽を背負う男だ!!!」
「があぁぁぁ!!!」
 ボディに激しい炎を打ち込まれながらも冬将軍はその六本の腕を活かしてヴァルに叩きつけようとする。だが、帝王はその反撃を許さない。
「受けろ友の力!! トリプルバーストォォォ!!!」
 即座に冬将軍のボディに突き刺さった左手からさらに激しい炎と衝撃が巻き起こる。同じ冒険屋のメンバー、アリス・ハーディング、ノア・セイブレム、そしてレン・オズワルドから受け取った雪だるマーのバーストが3つ同時に発動したのだ!
「うがあああぁぁぁ!!!」
 あまりの衝撃にその場を弾き飛ばされる冬将軍とヴァル。ヴァルはその場に倒れ、下から打ち上げられた冬将軍はその巨躯を崩壊させながら、今や巨大雪だるまと化したDX冬将軍の胴体に突き刺さった。

 それを見た雪だるま王国女王、赤羽 美央は最後の仕上げにかかる。
「さあ、これで本当に終わらせましょう。唯乃さん、エルム、力を貸して下さい」
「もちろん! ミネ、行くよ!」
 四方天 唯乃とパートナーのシンベルミネ、そして美央のパートナーのエルムと魔鎧『サイレントスノー』の5つのブーストが同時に発動した。
「スノークイーン!!!」
 氷結のブーストにより、巨大な雹が空中に出現する。それは大小二つの雪玉をくっつけた、ちょうど雪だるまのような形をしていた。ブーストの効果でみるみる巨大になっていく雹は、あっという間にDX冬将軍の残された胴体よりも大きなサイズに成長する。
「さあ、みなさんご一緒に!! 雪だるま王国に栄光あれ!!」
 王国民の掛け声と共に巨大な雪だるま形の雹はDX冬将軍の胴体に激突し、そのままDX冬将軍をすっぽりと包み込むように完全に内包してしまった。もはや冬将軍の面影などどこにもない、一体の巨大雪だるまの誕生である。
観客からも参加者からも湧きあがる歓声、それは同時に戦いの終りを告げる合図でもあった。

 戦いは終わったが、雪まつりはまだ終わる気配を見せない。
「このままでは氷だるまですね、いまいち美しくありません。」
 との美央の言葉を受けたのはコルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)だ。
「ハッ! 我々にお任せ下さい!!」
 美央の前でビシッと敬礼し、配下のミニ雪だるまとパートナーのルーシェン・イルミネス(るーしぇん・いるみねす)と共に巨大氷だるまの表面に雪を盛りつけていく。
「雪だるま王国雪だるま王国の近衛騎士たる者、雪だるまの扱いは一流であらねばならん!」
 と、張り切って雪運びの指示を出すコルセスカだが、3体いる雪だるまの内の1体がなかなか働いてくれていないようだ。
「おい、ちゃんと働くんだ! 我が女王のご命令だぞ!」
 しかし、その言葉も虚しく雪遊びに夢中のミニ雪ダルマ。処遇に不満でもあるのだろうか。
「ははは、なかなか一流の雪だるま師とはいかないようですね」
 そこに笑顔を投げかけるのは同じく雪だるま王国に所属する、音井 博季(おとい・ひろき)だ。雪だるま師、という単語もあまり聞かない言葉ではある。
「むう、俺もまだまだか……。して、君は何を?」
「ええ、僕もあなたと同じく、女王のお手伝いをさせていただいてます」
 博季は、戦いを終えた雪の精霊たちと一緒に和気あいあいと雪だるま製作に勤しんでいた。
「そういえば雪の精霊さん達は来年もまた遊びに来るのですか?」
「んー、まだ分からないでスノー。その年ごとに役割分担が決まるので、来年のことはその時でスノー」
「そうですか、それじゃあ今年のうちにいっぱい遊んでおかないといけませんねえ。」
「そうなのでスノー!」
「それならば、今度雪だるま王国の方にも遊びに来て下さいね、みんな喜びますから。」
 確かに、今日この戦いに参戦したのは王国のメンバー内のごく一部だ。王国にはまだたくさんの仲間がいるし、雪の精霊の来訪はみんな手放しで喜ぶであろうことは間違いない。
 雪だるま王国へのご招待を喜ぶ雪の精霊たちに混じったルーシェンは、雪だるまの表面を火術で溶かし、またすぐに氷術で凍らせて、を繰り返していた。こうすることで雪だるまの芯の耐久力を上げようという算段である。
「ねえコル、やっぱり雪遊びは楽しいね!!」
 パートナーであるコルセスカに笑いかけると、巨大雪だるまを見上げていた彼も思わず笑みをこぼす。
「そうだな、去年の巨大雪だるまも見事だったが、今年のもまた圧巻だ。あとはこれをどうやって王国まで運ぶかだが……」
「え、これ運ぶつもりなの!?」
 驚きの声を上げるルーシェンだが、コルセスカは意にも介さずに語る。
「当然だろう、これは我らが女王の戦利品であり、我々の勝利の象徴なのだぞ、持ち帰らんでどうする! なあ!」
 傍らの博季に同意を求めると、柔らかな笑顔の向こうから心地よい返事が返って来た。
「そうですねえ、持ち帰れれば女王もお喜びになるでしょうし……どうでしょう、雪の精霊さん達にお願いするというのは」
 おお、それはいいと盛り上がる一同。そのついでに王国にも遊びにいけるでスノー、と雪の精霊も喜ぶのだった。

 それとはまた別に、北郷 鬱姫(きたごう・うつき)とそのパートナー、ターマルク・ミケルテッド(たーまるく・みけるてっど)もまた、王国民として巨大雪だるま製作に携わっていた。何しろ巨大なので、数班にメンバーを分けて作業しなければならないのだ。
「雪だるまは芸術品ですから……丹精込めて丁寧に仕上げませんとね……」
 鬱姫の情熱は雪だるまの美しさに対して特に発揮されているようだ。確かに彼女が手がけた部分は他のメンバーの部分よりもキメ細かく、美しい仕上がりだ。
「これだけ大きいんですもの……美しく仕上がればきっと王国の皆さん以外の方々にも喜んでもらえるはず……」
 まさに至れり尽くせりの精神で丁寧に仕上げていく鬱姫、その隣で手伝っているターマルクも同様だ。
「ね、タマもそう思いますでしょ?」
「その通りです、この僕が手伝うからにはただ大きいだけの雪だるまなど認めない!」
 ぐぐっと鬱姫に詰め寄るターマルク。
「いいですか、雪だるまを語る上で外せないのは、まずは頭と身体のバランスです。頭が大きすぎてもいけないし、小さすぎてもいけない。もちろん芸術とは理論一辺のものではありませんが、それでも最高に美しい黄金率というものは存在するのです」
 いつの間にか雪だるまの話から芸術の話にシフトしかかっている。
「あの……タマ?」
「しかしそこはさすが雪だるま王国の女王! 完璧に近い比率です。次は鬱姫さんもご存知の通り、曲線の美しさと表面の滑らかさ、キメの細かさです。雪だるまの表面というのは、例えるならば女性の肌のように美しくないといけないのです。いや美しいだけでもいけない、女性の肌が持つ質感、つまり触り心地をも体現しているべきなのです。いいですか、そもそも女性の肌というものは……」
 芸術論議から女性の肌講釈にいつの間にかシフトしているが、それを止めることもできずに、小一時間ほど女性の肌について不要な知識を得てしまった鬱姫だった。
 その間もしっかりと雪だるま作業の手を休めなかったのは、さすがと言うべきであるが。

 巨大雪だるまの作業も終盤にさしかかった頃、参加者たちは巨大雪だるまの中から一つの光が飛び立っていくのを見た。
「あ、あれは冬将軍の本体、地上の雪の精霊でスノー!」
 見ると、巨大雪だるまを離れた光は2、3回その辺を旋回していたが、やがて遠い空の向こうへと飛び去って行った。
「今回はお前らにしてやられたけど、次はそうはいかないでスノー! また力を蓄えて攻めに来てやるから首を洗って待っているでスノー!! 覚えてろでスノー!!!」
 まるっきり子供である。雪の精霊というのはみんなこうなのだろうか、と一同が思っていると、
「おい日比谷 皐月!! DX冬将軍の残骸とそいつらはお前たちに預けるでスノー!! 次に来る時まで大事にしているといいでスノー!!」
 という声が追加で空に響いた。もう気配も感じない、言うだけ言ってさっさと地上へと帰ってしまったのであろうか。
「おー、またなー!! おかげで楽しかったからなー、来年は遊びに来いよー!! ……で、残骸ってーのはこの巨大雪だるまだろ? そいつらってーのは何なんだ?」
 名指しで呼ばれた皐月はポリポリと頭を掻いて疑問を口にするが、その疑問はすぐに解消された。すぐ後ろに5〜6体のアシガルマが立っていたのだ。ダミアン・バスカヴィルによって騙されて、下克上の夢に敗れた一部のアシガルマである。中にはダミアンが作った美少年ダルマもいる。
「何? 行くところがないから王国に行きたい? それは歓迎だがなあ……手足があるのはどうも……。何? 手足は出し入れ自由? それを早く言えよお前ら!!」
 一瞬、彼らが戦っていた理由の一部が根底から覆されそうになったが、まあいいかこの際、と皐月は気にしないことにした。
「ようし分かった、女王には俺から話してみようじゃねーか。OKだったら用務員として手伝いな!!」
 一様に嬉しそうな顔をするアシガルマだった。

「――以上をもちまして、蒼空学園主催による『西シャンバラ雪まつり』を閉会させていただきます。多数のご来場、誠にありがとうございました――」
 解説の小次郎がことのついでに閉会の言葉を放送すると、観客と参加者の間から盛大な拍手が送られた。
 それを会場のはずれで聞いていた宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)は、雪の精霊と一緒に雪像作りの手を止めて、顔を上げた。
「ふー、こんなもんかな」
 抉子はパートナーの瞼寺 愚龍(まびでら・ぐりゅう)と冬将軍とのバトルそっちのけで雪像作りを楽しんでいた。別に戦うわけでも動かしたいわけでもないので、雪だるマーも必要ない。抉子と愚龍の精霊は主に抉子の雪像作りを手伝っている。
「よーし、これで完成!!」
 元気いっぱいの抉子は完成した雪だるまに両手の代わりにスプーンを左右一本ずつ刺す。これにて『雪だるさん Verスプーン』の完成である。自分の身長よりちょっと低めくらいの雪像を眺めて悦に入る抉子。
 ところで、何故精霊は二人いるのに両方とも抉子を手伝っているのかと言うと。
「ふー。お疲れさまでスノー。ところで、これは何の雪像なのでスノー?」
 抉子は、ものすごく不器用なのだ。
「えー、ひどい!! どこからどう見ても雪だるまでしょー!? スノーマンでしょー!?」
「……雪だるまは、もうちょっと丸くないといけないと思うでスノー」
 抉子の雪像は、雪だるまにしてはもうちょっと不恰好で、あえて言うなら潰れたダンボールを重ねたような格好をしていた。ただ転がせばとりあえず丸く見えるはずの雪だるまで、こうまで不恰好に作れるのはひとつの才能であるとしか言いとうがない。
 ところで、一方の愚龍の雪像はというと――
「まあ、道具もねえし、こんなもんだろ」
 パンパンと手袋についた雪をはらい落として出来栄えを確認しつつ、まあ即興だしこんなもんだろ、と愚龍。『雪の女神像』が完成したようだ。それは抉子と同じくらいのサイズの女神像で、愚龍の言葉とは裏腹に素晴らしい完成度を誇る一品であった。もともと手先が器用な愚龍、雪まつり見物に来た抉子が雪遊びをしたいと言うので渋々付き合っていたが、どうやら知らず知らずの内に熱中してしまったようだ。伏し目がちな女神の顔は美しく、まるで今にも動き出しそうだ。
「わー、すごーい!」
 愚龍の作品を見た抉子は歓声を上げた。雪の精霊もこれはすごいと賞賛の言葉を贈った。だが。

「あれ、この女神像の顔、抉子に似てるでス――」

 最後まで言わせまいと、愚龍は精霊の口を両手が塞ぐがもう遅い。抉子はその言葉を聞いて不思議そうに雪像を眺めているではないか。
「……似てる、かなあ? 似てないよー。うん、似てない……あたしこんなに美人じゃないよー……似てない……よね?」
「お、おうよ! 単にせっかくだから美人にしようと思っただけだからよ! 別にオマエに似せて作ったわけじゃねえし!」
「……美人に作ろうと思ったら抉子に似たでスノー?」
「うっせ! うっせうっせうっせ!!!」
 余計なことを言うなと精霊の頭を拳骨で殴って黙らせる。それでも愚龍をからかう精霊たちを尻目に抉子は考え込んでしまった。
「うーん? 確かにキレイだけどー? あたしに似てる? 似てない? 美人にしようとしたら似ちゃった? うーん」
 鈍い抉子にはその意味は分からない、分からないが、何か心にモヤモヤしたものを感じて、イライラする。
「えーい! ロケットスプーン発射―!!」
 突然、抉子は取りだしたスプーンを『雪の女神像』に投げつけた。不器用なくせにこんな時だけ狙いは正確、投げられたスプーンは雪の女神像の頭部にヒットし、その衝撃で首から上がごろりと転がり落ちる。耐久性については考慮されていなかったようだ。
「あー、俺の力作を! 何すんだよオイ!」
「つ、ついカッとなって!!」
 さすがにちょっとだけ怒ったような愚龍にビクっとしながらも、抉子は素早く雪玉を作って次々と愚龍に向って投げ始めた。
「あ、コラよせって!」
「えいえい! えいえい!」
 いつも間にか雪の精霊も抉子に加勢している。

「ってオイ……コラ……いい加減にしろやー!!!」
 
 ついにキレた愚龍、負けじと大量の雪玉を作りマシンガンのように抉子と精霊に向けて投げつけていく。もちろん本気ではない。
 雪合戦をしている間に、抉子にはいつもの笑顔が戻っていた。それをみて、まあいいかと思う愚龍であった。
結局、抉子には甘いのである。
「あー、ほらカップルさんが雪合戦してる! 私たちもやろうよヴェルさん!」
 そこに通りがかったあうらが一緒に雪まつりを楽しんでいたヴェルに声をかける。それを聞いた愚龍は耳まで真っ赤になった。
「な、ちょ、コラ……べ、別にカップルとかじゃねえよ! このガキ!!」
 手にした雪玉を投げるとそれは的確にあうらにヒット。お返しとばかりにあうらも雪玉を作って愚龍に応戦する。制止も聞かずに駆けだして行くあうらの背中を眺めたヴェルは、やれやれと呟くのだった。
「ふう、どっちがイヌ科か分からんな」

「ふふふ、今年も巨大雪だるまが作れました。もういっそのこと毎年巨大雪だるまを作るのを例年行事として、どこかの地方で受け持ってくれないものでしょうか」
 巨大雪だるまを見上げて満足気な美央の横顔めがけて、雪玉がひとつ飛んできた。投げたのは冒険屋ギルドの主、ノア・セイブレムだ。雪玉は正確な狙いで美央の横顔に当る。
「赤羽さん! 冬将軍との戦いは終了しましたが、雪だるま王国と冒険屋ギルドの決着はまだ着いていませんよ!!」
 美央はというと、黙って足元の雪をすくいあげて雪玉を作り、それをノアの顔面へとヒットさせた。
「――その挑戦、受けます。雪だるま王国に雪の競技で勝負を挑むその愚かしさ、思い知らせてあげましょう」
 当然、周囲にいた雪だるま王国のメンバーが黙っているわけもない。
 クロセルを始めとする雪だるま王国騎士団は敵陣営にトリッキーに攻め込み、冒険屋ギルドはレンの指揮のもとそれを的確にスナイプしていく。そのレンの背中に雪の塊をごっそり入れたのはファタだ。ルイと朔はアシガルマ競争では決着が着かなかったのか、それぞれに激しい攻防戦を繰り広げている。
 雪だるま王国対冒険屋ギルドの雪合戦は両陣営に関係ない参加者にも波及し、いつのまにかバトルフィールドは巨大な雪合戦会場と化していた。冒険屋ギルドの『KKK』のように重傷を負ったものはあまりいないので、ほぼ全員参加の雪合戦である。
 まあ、実際はルールも何もなく雪玉を投げあって遊んでいるだけなのだが。

「おいしいでスノー! これはおいしいでスノー!!」
 雪合戦に興味のないメンバーは雪の精霊と遊んだりしている。垂は雪の精霊の慰労もかねて、皆にジェラートを配っていた。
「雪の精霊には豚汁よりもこっちの方がいいかと思ってな」
「豚汁も食べるでスノー! これもおいしいでスノー!!」
「あ、別に熱くてもいいんだ?」

「ふー、戦場リポーターも終了なんだじぇ」
 雪だるま王国と冒険屋ギルドの激しい攻防戦が続く中、戦いと共に戦場リポーターを終えたメトロとマイトが帰ってきた。雪だるマーを解除してメトロが背中から降りると、マイトはやれやれと伸びをする。
「ふー、疲れた疲れたっと」
 さすがに戦闘中、ずっとメトロを背負っていたので背中や肩が痛い。マイトがバキバキと間接を鳴らしていると、メトロがつい、と近づく。
「お疲れさま。それに、ありがと」
「ん? 何だよ急に。」
 改めて礼を言われ、ちょっとだけ調子を狂わせるマイト。
「約束どおり、しっかり守ってくれたもんね」
「ん、ああ。貸しひとつ――だな! 今度何かで返してもらうぜぇ」
 特に真剣に取り合わず、カメラ機材の後片付けをしながらひひひと笑うマイト。その顔を見たメトロもイタズラっぽく微笑んだ。
「おー怖。んじゃあ今のうちに清算しちゃおっか」
「あ?」

 ――ふと顔を上げたマイトの唇に、メトロの唇が軽く触れた。

「はい清算。これで貸し借りなしねー」
「おい」
 軽く流してふふふんと鼻歌を歌うメトロ。今度はそっぽを向いてしまったメトロの肩を掴んで、こっちを向かせるマイト。振り向かせた彼女の唇を狙って、今度はこちらから塞ぐ。――ちょっとだけ深めに。
「――ん」
 メトロも別に怒るでも照れるでもなく、マイトの身体をちょっとだけ押して離れる。マイトもしれっと言い放った。
「清算っつーなら、こんぐらいはして貰わねーとな」
「ふふ。ま、いいけどねー」

 状況からすると公衆の面前でキスを交わしたことになるのだが、当人たちは至って平然としている。
「――ん、どうしたお前ら。うっかり外に出しておいたバケツの水みてーに固まって」
 もちろん、当人以外の全員はそうもいかない。特に二人が付き合っているとか恋仲だとかは誰も聞いたことがない。王国にも冒険屋にも顔見知りが多いだけに、その驚きもひとしおだ。マイトの言葉通り、飛び交っていた雪玉は止み、その場の全員が時を止めたかのように硬直していた。
 数秒の沈黙の後、

「ええええええぇぇぇー!!!???」

 誰かの叫び声が校庭中に鳴り響いた。盛大な雪合戦も放り出して、メトロとマイトを取り囲むメンバーたち。
「ちょ、なんでいつから」
「えー、全然知らなかったー!!」
「おめでとー!」
「部長いつのまにそんな!」
「そんなバカな、俺のメトロちゃんが!」
「そんなバカな、俺のマイトが!」
「ちょっと待て今の誰だ」
 周りが騒ぐほど、あっけらかんとした二人が目立つ。特にそこまで騒ぎ立てるほどのことじゃねーよ、とマイトは呟いた。

「ふふふ。実は一ヶ月前から付き合ってたんだじぇ」
 そこでメトロお得意の顔である。

 それを聞いてますますヒートアップする参加者達、もはや雪合戦とかはどうでもいい勢いだ。いつまでたっても終わらない雪まつりに業を煮やした山葉 涼司がメガホンで全員の鼓膜をブチ破るまで、喧騒は続いた。

 いつの間にか雪の精霊が降らせていた雪は止み、かわりに天然の雪が降り始めていた。12月も中盤、木枯らしが冬の空気を連れて来ている。今年も例年通りの気温になり、ちょっとだけはしゃいだ精霊が多めの雪を積もらせるのかも知れない。
 それでも、いつも通りの冬が来る。

 ――こうして『西シャンバラ雪まつり』は幕を閉じたのである。

 『冬将軍と雪だるま〜西シャンバラ雪まつり〜』<END>

担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 皆さんこんにちは、あるいはこんばんは。まるよしです。
 まずはご参加いただきましたPLの皆様、ありがとうございました。まだサンプル作品がない新米GMが満員御礼など夢にも思っておりませんでした、本当にありがとうございます。

 そしてすみません、思ったよりも長くなってしまいました。皆さんのアクションが面白かったものでつい、というのが本音ですが、それを活かしつつシンプルかつシャープにまとめるのがGMの仕事なので、実力不足を痛感しております。
 とは言え、本人はとても楽しかったとつやつやしています、もし、皆さんも楽しんでいただけたならこれに勝る喜びはありません。
 次回以降は、もうちょっと読みやすくまとめられるように頑張りたいと思います。

 次作『その正義てを討て』は既にアクション投稿が終了しております。12月27日が公開予定ですので、もうしばらくお待ち下さい。

 改めて、ご参加いただきましたPLの皆さん、そして読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。またお会いしましょう。

▼マスター個別コメント