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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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冬将軍と雪だるま~西シャンバラ雪まつり~

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第5章


「解説の小次郎さん」
「はい、なんでしょう」
「こちらは実況のメトロです! 戦場ではブリザード対決が行なわれています。すごい吹雪で、前が見えません!!」
「これは凄いですねえ、他の参加者はいい迷惑ですね」

「ふっふっふ。このチャンスを逃すわけにはいかないのでござるよ!」
童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)は雪だるま王国騎士団長、クロセルのパートナーだ。華花の『オラ』の追跡を逃れたフブキを発見し、ブリザード勝負を挑んだのである。
「おのれ、たかが雪だるまの分際でー!」
 負傷した上で『オラ』のブーストを受けたフブキはもう戦闘不能に近い。最後の力を振り絞ってスノーマンのブリザードに対抗する。
「ふふふ、こう見えても拙者は王国で一番の雪だるまでござるからな」
 何をもって『王国一』かはさて置いて、禁じられた言葉で強化されたスノーマンのブリザードが相当な威力であることも事実だ。フブキのブリザードと相まって周囲はかなり密度の濃い吹雪に見舞われている。小次郎の言う通り、周囲の人間には大迷惑である。
「フブキ!!」
 仲間のピンチに駆けつけたのは片腕姿のツララだ。フブキの後ろに立ち、すでに身体にヒビが入りかけているフブキを支える。
「戻るよ!」
 ツララの言葉聞きつけたスノーマンは、ブリザードを操りそれを妨害する。
「おおっと、逃がしはしないでござる!」
 だが、戻ると宣言したはずのフブキとツララはその場を動かない。スノーマンのブリザードが強力で動けないのだろうか。
 だがそれは違った。目を凝らすと、二つの人影がいつの間にか一つになっている。何とツララはフブキに背中合わせにめり込むようにして融合しているではないか。ツララの下半身をベースにして、二人は二面三腕の怪物へと変貌を遂げていた。『戻る』とは本来の姿へと戻るという意味だったのだ。
「うわっと、フブキちゃん怪物になっちゃった!」
 驚きの声をあげたのは、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)。雪だるマーを着込んで元気一杯でやって来た彼女、スノーマンと同じようにフブキとブリザード対決をしようと思ったのだが、どうも事情が違ってきているようだ。
「加勢するよ、雪だるま君!!」
「むう、拙者、スノーマンという名前があるでござる!!」
 文句を言いながらも援助を断るスノーマンではない。二人で力を合わせた強力なブリザードを放つが、合体したフブキとツララの攻撃も並ではなく、カレンとスノーマンの二人分のブリザードでようやく押し止めているくらいだ。
「ほら、こっちの手はまだ空いてるよ!!」
 ツララの腕がひょいと動くと、ブリザードをかいくぐって細かいつららが銃弾のような鋭さで飛来する。
「危ない!!」
 その細かいつらら撃ち落としていくのはカレンのパートナー、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)。レールガンを構えた彼女は次々と射出されるつららを打ち落とし、カレンのガードに徹していた。
「我がいる限り、カレンには触れさせん!」
「ありがと、ジュレ!」
 ジュレールはツララの弾を撃ち落とすかたわら、周囲から襲ってくるアシガルマにも銃口を向け、応戦する。何しろカレンはひとつのことに集中すると全く周りが見えなくなるので、ジュレールがサポートしなくてはいけないのだ。
「まったく、世話の焼けることだ!」
 と言いながらも、彼女の口元には笑みがこぼれている。彼女は自らのレールガンをこよなく愛していて、理由はともかくこれが撃てることはそれだけで至上の喜びなのだ。徐々に楽しくなってきたジュレールだった。
「とは言っても、決め手にかけるでござるな……」
 スノーマンの呟きにカレンがうなずく。確かに、このままではこちらの魔力がいずれ底を尽きてしまうだろう。それどころか、敵のブリザードはますます威力を増している気すらする。
「よし、じゃあここらで一気に行くか!! ジュレ、お願い!!」
「了解した!!」
 ジュレールは最後の一撃をスナイプし、ツララの頭部にヒットさせ、その隙を突いて自らの雪だるマーをカレンに譲渡し、テレポートした。
「いくよ、氷結のブースト!!」
 カレンとジュレール、二人分の雪だるマーが同時にブーストすることでブリザードは更に強化されていく。
「『ブリザード絶対零度版』!!!」
 その名の通り、超強力な冷気を放つブリザードは相手の攻撃を押し返し、その姿を白雪の彼方へと消していく。
「こんなバカな! うわあぁぁぁ……!!」
 吹雪が止むと敵の姿はなく、いつの間にか現れたひとつの大きな雪だるまがそこにたたずんでいるだけだった。
「何これ?」
 その横ではスノーマンがアゴに手をあててふっふっふと不敵な笑みを浮かべる。
「ことのついでに拙者と敵のブリザードを利用して、王国自慢の雪だるまを巨大化させていたのでござるよ」
「……余裕あるね。」
 参ったかと言わんばかりに胸を張るスノーマンに呆れるしかないカレンだった。

「はあ……はあっ!!」
 カレンのブースト技を受けたツララは、それでも辛うじてまだ動いていた。フブキであった部分はもうほとんど砕け散り、腕も2本に減ってしまっていた。フラフラになりながらも体勢を立て直そうとする。
 そこに、一頭のユニコーンが姿を現した。鬼崎 朔(きざき・さく)の愛馬『ユニ』だ。もちろん、その背中には朔の姿がある。
「おやおや、四天王も形なしですね……」
 朔は今回、他のメンバーのサポートやアシガルマ掃討に徹していた。背後にはおびただしい数のアシガルマの残骸が転がっている。正確には、雪だるま王国の不殺の精神にのっとり手足をもがれて転がっているだけなのだが。とはいえ、その数は100や200ではないことから、その実力がうかがえる。
「うるさい!」
「私は雪だるま王国騎士団の『白魔将軍』鬼崎 朔。命なき雪像といえども無駄な戦いは好まない。どうです、降参しては」
 ユニコーンから降りずに勧告する朔。だが、ツララがおとなしくそれに従うはずもない。
「黙れ! 冬将軍四天王に降参はない!!」
「いやあ、言う通りにしておいた方がいいですよ?」
 そこに陽気な声をかけてきた筋骨隆々の男はルイ・フリード(るい・ふりーど)だ。朔とはまた別方向でやってきた彼だが、背後を見ると彼もまたアシガルマを戦闘不能にしてきたのだろう、朔に負けるとも劣らない数のアシガルマが転がっている。
「なんだ、ルイも来てたんですか。ここは私一人で大丈夫ですよ?」
「いえいえ、そう言わずに。」
 ニカっとお得意のルイ☆スマイルで歯を見せるルイ。
「何しろ今日は私、雪だるま王国ではなく冒険屋ギルドとして参戦しているのです。あ、もちろん王国の法律には違反しないようにしてますよ?」
「……へえ?」
 朔の眉が少し動いた。
「いやあ、ここのところ王国の皆さんと行動を共にしてばかりでしたからねえ、たまには別行動で競ってみるのもアリかと思いまして。どうです、アシガルマ撃破数で競争などは。……互いの直接妨害アリで」
「それも面白いですね。ルイとならいい勝負になりそうです」
 ツララそっちのけで楽しげに会話する二人。完全に無視された形になったツララは怒りに肩を震わせている。
「貴様らぁ! 舐めるのもいい加減にしろぉ!!」
 今度は残った両腕の全てを巨大なつららに変換し、鬼の形相で二人に襲いかかるツララ。鬼羅を退場させた時とは攻撃力が桁違いだ。

 だが、相手が悪かった。

「光輝のブースト!!」
 ルイは自らの雪だるマーのブーストを発動させると、その全ての力を拳に込めて巨大な氷柱を迎え撃つ!
「ハッ!!」
 気合一発、ツララの全ての力を込めた氷柱はあっけなく砕け散ってしまった。
「氷結のブースト! 『ニヴルヘイム』!!」
 朔はその砕けた氷柱の合間を縫って手にした飛龍の槍を放つ。強力な力を秘めた槍は声を上げる間もなくツララの胸に突き刺さり、貫通する!

「……だから言ったのに。」
 片や雪だるま王国の他にイルミンスール武術部や冒険屋ギルドにも所属する、自称『イルミンスール一のマッチョ』ルイ・フリード。
 片や雪だるま王国『白魔将軍』、別名『王国の鬼神』の異名を取る鬼崎 朔。
 この二人の相手を同時にするなど、傷ついたツララには所詮無理な話だったのだ。いや、五体満足であったとしても、結果は同じだったかもしれない。胸を貫かれたツララは氷結のブーストの効果で凍りつき、氷像をさらに雪と氷でコーティングする、不恰好な人型の雪だるまのようになってしまった。
「まあ、操られているだけの氷像とは言え、やはり気分のいいものではありませんねえ」
 あえて陽気に言い放つルイ。そのまま朔と共にアシガルマ討伐競争に向うのだった。

 ところで、そのルイのパートナーであるシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)はというと。

「はー、やっぱりこたつはあったかいね〜」
 完全にゆるみきった顔で観戦しているのだった。どこから調達したのか、観客席からちょっと離れた見晴らしのいい高台にこたつまで用意して。
「ふ〜。モグモグ。そしてこたつにはみかんだよね〜」
 みかんの他、せんべいに緑茶、制服の上にはカーディガン、手にはミトンに頭にはロシア帽と完全防寒の構えだ。
 そして時おり、思いだしたように応援の声も上げてみるのだった。
「おー、ルイがんばれ〜! 雪だるま王国に負けるな〜! 雪だるま王国も頑張れ〜! 冒険屋ギルドをやっつけろ〜!!」
 やっつけてどうする、それは君の所属ギルドだ。
 まったく真剣に応援する気のないセラであった。ひょっとしたらコレが彼女なりの真剣なのかもしれないが。

 それはそれとして、戦闘に参加しながらも、別な意味でやる気のないコンビもいる。茅野 茉莉(ちの・まつり)とパートナーのダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)だ。別な方向にだけやる気がある、と言うべきだろうか。
「いいか、今こそ立ち上がる時なのだ!」
 ダミアンは数十体のアシガルマを相手に演説していた。アシガルマ達は相手に戦う気がないことを察したのか、とりあえず体育座りで大人しく聞いている。いかに戦う気がないとは言え、口車だけで敵である相手に話を聞かせる体勢に持ち込むあたりは、さすがに悪魔の面目躍如と言ったところか。
「見ろ! すでに四天王は二人も倒され、冬将軍の軍勢は崩壊寸前! このまま冬将軍をリーダーに据えていてはアシガルマ族に明日はない!」
 茉莉もさりげなくアシガルマ達の後ろに座り、演説の要所で声援を送り雰囲気を煽っている。
「いいぞ、その通りー」
 握りこぶしを掲げ、雪を1mほど盛っただけの簡易演説台の前でダミアンは熱弁を振るう。
「ただ強いだけのリーダーの時代は終わったのだ! これからのアシガルマをリードするのはまた同族であるアシガルマでなければならない!」
 アシガルマ達の間に動揺が走る。ダミアンはアシガルマ達に同族意識を芽生えさせ、冬将軍に対し謀反を起こさせようというのだ。
「リーダーとは民衆を押さえつけるものではない! 皆で新しいリーダーを支え、アシガルマの、アシガルマによる、アシガルマのための国家を作るのだ!! そして、我が推す諸君らの新しいリーダーとは!!」
 ばっ! と右手をかざすと、茉莉が一体のアシガルマを連れてくる。それはあらかじめ捕獲し、顔面部分を火術、氷術で整えた美少年アシガルマであり、ダミアンと茉莉の共同製作である。ダミアンとしては可愛い男の娘にしたかったようだが、果たしてアシガルマに性別があるのかは不明のままだ。
「これからは性別を超越した可愛いリーダー! 皆で支え、共に生きて行きたいと思えるリーダーの時代なのだ!」
 一層熱のこもるダミアンに対して、茉莉は正直言ってまるでやる気がない。そもそも今回の戦いにも参加する気すらなかったのだが、ダミアンがノリノリだったのでついてきただけなのだ。ついでに言えば人間規準の可愛さがアシガルマにとって可愛いかどうか分からないという疑問もある。というか顔だけ美少年の雪だるまってそもそも可愛いの? と茉莉は思う。
 だがそんな茉莉の心配は無用の長物であった。何とその美少年ダルマを見て一斉に気勢を上げるアシガルマ達。そう、アシガルマ達はその新リーダーの可愛らしさにもうメロメロ、一瞬のうちに冬将軍に謀反を起こし、新国家を作りあげる覚悟を決めさせるほどだったのだ。
「うそ」
 呟く茉莉を尻目にダミアンはさらにヒートアップ。
「さあ、行くのだ皆の者! 目指すは冬将軍の首! 新しい力に目覚めよ! 合体だ!!」
 合体? と顔を見合わせるアシガルマ達。だが彼らには今不可能はない。という気分だ。どうにかこうにか身体をすり合わせ、並んだ2〜3体の上にもう1体が乗るような形で合体する。
 アシガルマG(グレート)、なし崩し的に爆誕!! ……世間では良く言っても『騎馬戦』という言葉で片付けられそうな合体ではあるが。
「ようし行け!! 今年最後の下克上ー!!」
 わー、と戦場を駆けて行くアシガルマGとアシガルマ軍団。だがあれほど熱弁を振るっていたダミアンはその場に残っているではないか。
「ダミアンは行かないの?」
「行くわけなかろう」
 見ると、どうやら冬将軍に到達する前に四天王の一人、ヒョウザンに遭遇したらしい。果敢にも下克上を敢行するも一撃で屠られていくアシガルマGとその仲間たち。
「あー」
「まあ、当然であるな」
 さて遊んだ遊んだ、とばかりに戦線離脱して雪まつりを楽しみに行く茉莉とダミアンだった。
 なんという無責任、まさに悪魔の所業と言えよう。