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リアクション
第4章
――ワイハーの温泉は様々な種類がある事が特徴だ。
それぞれ異なった効能があり、それが好評となっている。温泉目当てに来る客も、少なくないという。
――そんなワイハーの温泉、男湯にて。
「うぅ……僕の水着ぃ……」
温泉に浸かりながら、清泉 北都(いずみ・ほくと)が落ち込んだ声を上げる。
「そう落ち込まないでください」
そんな北都を、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が慰める。
北都達は、二度目の温泉に入っていた。本当は一度だけしか入る予定は無かったのだが、出られなくなってしまったのだ。
「流石に落ち込むよぉ……水着が盗まれたらさぁ……」
出ようとしたところ、北斗の水着が無くなっていたのだ。
「係員の方が言ってたではありませんか。何でも、パラミタ赤モンキーが暴れているとか」
いくら探しても見つからず、係員に話したところ赤モンキーの話を聞いたのである。
「現在捕獲作業を行なっているそうですから、すぐに収まりますよ」
「うん……でも、何で僕のなんて盗んだんだろうねぇ? 女の子のならまだしもさぁ……」
「……需要はありますけどね……私とか」
「え? クナイ、今何か言った?」
「いえ、何も……ああそうそう、のぼせるといけません。飲み物でも買ってきますね」
何か誤魔化すように、クナイはそそくさと湯船から上がり出て行った。
「はぁ……面倒事になったねぇ……ん?」
溜息を吐く北都の横に、いつの間にか一匹の猿がいた。その猿は赤毛で、頭に手ぬぐいのような物を乗せていた。
「……んん?」
その手ぬぐいらしき物に、北都は何故か見覚えがあった。
「…………」
猿と目が合う。沈黙が、男湯を支配する。
「そ、それ僕の水着っ!」
北都が沈黙を破ると、猿が逃げ出そうとする。
「逃がすかぁッ!」
北都が【超感覚】を発動させると、彼の身体から犬の耳と尾が生えてきた。野生の獣を追う準備は整った。
「待てぇッ!」
猿を追いかけようと、北都が駆け出した時だった。
「成敗ッ!」
いつの間にか戻ってきていたクナイが、猿に飛び蹴りを食らわせていた。
飛び込んできたところに入った蹴りは、猿を失神させるには十分な威力を持っていた。
「クナイ!」
「北都、下がっていてください!」
クナイは北都を引き剥がすと、失神している猿に再度蹴りを喰らわせる。
「……く、クナイ?」
クナイは無言で、猿に蹴りの制裁を与え続けていた。それは北都が止めるまで続いた。
その結果。
「……僕の水着ぃ」
「……申し訳ありません」
北都の水着は、血で染まって使い物にならなくなってしまった。
「――なんてことが男湯ではありましてね」
風呂上り、ドリンクコーナーで神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)がフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)と柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)に男湯であった出来事を話していた。
「それでお湯まで血まみれになっちゃったので、男湯はお湯の入れ替えを行なうことになりましてね」
翡翠は苦笑を浮かべ、持っているお茶を口に含む。
「まぁ、それは災難でしたわね」
「通りで早いと思ったわ」
「はは……二人共、ゆっくり浸かれましたか?」
「ええ、私達はほら、この通り温まったわ」
フォルトゥーナはそう言って、翡翠の腕に絡みつく。風呂上りで普段よりも高くなっている体温が翡翠の腕に伝わる。
「あらあら、仲良しですわね」
そんな二人を美鈴はにこにこと見ている。
「は、はは……美鈴さんはどうでした?」
「私は……ちょっとゆっくり出来ませんでしたわ。フォルトゥーナ様が胸ばかり触ってくるんですもの」
「そう言うけどね翡翠。美鈴の胸って良い大きさだし、張りも有っていいのよ? 羨ましいくらいよ」
「は、はぁ……」
翡翠は真っ赤になりながら苦笑する。
「そうだ、今度は混浴なんていいわね」
「こ、混浴。わ、私はちょっと……慣れていませんので……」
「あー……し、しかしそっちは何も無くて良かったですね」
会話の流れを変えようと、翡翠は別の話題を振ってみた。
「まあね。でも、猿や覗きなんて出てたらそれなりの代償は払って貰ってたわね」
「そうですわね……間違いなくお仕置きしてましたわ」
それから、二人は『もしも何かが現れていたら、どのようなお仕置きをするか』という話題へと変わっていった。
その過激な内容に、『何も無くてよかった』と思う翡翠であった。
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