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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

リアクション

――女湯更衣室入り口。
 そこに集まるは三つの影。男が二人と猿――ではなく【さるさるスーツ】を身に纏った人間だ。
「作戦はこうだ。まずオレがこの【おいしいバナナ】を更衣室に放り込む。そうすりゃ猿共が集まってくるだろう……その混乱に乗じるって寸法さ」
 スーツを着込んだ国頭 武尊(くにがみ・たける)がバナナを手に持ち、語る。
「ほう、流石じゃのう……」
 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が感心したように頷く。
 この二人の目的は女子更衣室。赤モンキーの騒ぎを聞き、この混乱に乗じて自らの欲望を満たそうとしたところを意気投合し、共同作戦に出ることにしたのだ。
「超じいちゃん、ここに赤モンキーがいるでありますか!?」
 藤右衛門の隣にいた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が言う。ちなみに『超じいちゃん』とは藤右衛門のことだ。
「そうだ剛太郎」
「ならば突撃するであります!」
「慌てるでない。何事も機会がある。それを待つのじゃ」
「わかりましたであります!」
 敬礼する剛太郎の言葉ははっきりしているが、目は据わっていた。それもそのはず、彼は酔っているのだ。
 藤右衛門に唆された剛太郎は、少し前に酒プールに入ってしまい泥酔。そのまま赤モンキーの話を聞きつけ、ノリで捕獲を決めたのだ。
 ならば何故こんな所にいるかと言うと、藤右衛門の仕業である。巧い具合に、彼の欲望のダシに使われている剛太郎であった。
「さて、そろそろ作戦を開始するぞ。準備は?」
「わしは問題ない」
「自分もであります」
「よろしい。それでは、作戦開始――」
 そう言って、更衣室に突撃した直後。
「させないですっ!」
 何者かが国頭達の行く手を阻んだ。
「な、何者ッ!?」
「ハッピー☆シスターズ次女、ハッピー☆メイド!」
「ハッピー☆シスターズが長女、ハッピー☆ウィッチ!」 
「は、ハッピー☆シスターズ三女、ハッピー☆ナイト……」
「「「ただいま参上っ!」」」
 広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)の三人が国頭達の前に立ち塞がった。
 ちなみにファイリアが次女、ウィノナが長女、ウィルヘルミーナが三女である。
「さあ、悪い人は成敗するですよ!」
「な、何故俺達の存在がばれたんだ!?」
「更衣室前で騒いでいればバレバレです!」
「何だと!? オレとした事が……!」
「というか、ばれないと思ったのかな?」
「思っていみたいですよ」
 呆れたように、ウィノナとウィルヘルミーナが呟く。
「くっ……どうするんじゃ!?」
「流石に分が悪い! 退散するぞ!」
「合点承知!」
「させないッスよ!」
 逃げようとした国頭達の前を、今度は広瀬 刹那(ひろせ・せつな)が立ち塞がった。
「さあ観念です。【のぞき部対策部・パンダ隊】であるファイ達からは逃げられませんよ!」
 じわじわと、ファイリア達が追い詰めてくる。
「……一つ、お前らに言いたい事がある」
「ああ、わしもじゃ」
 国頭と藤右衛門がカッと目を見開いた。

「「何でお前ら温泉なのに裸じゃないんだ!」」

「そ、そこ突っ込むところなんですかっ!?」
 ファイリアが思わず突っ込む。
「当たり前だ! このスペースは温泉だ! 何故温泉で全裸じゃないんだ!」
「いや、それは警備をしているからで……」
「何を言うか!」
 ウィノナの言葉を遮り、藤右衛門が叫ぶ。
「温泉と全裸は切っても切れない枕詞のようなもんじゃ! 温泉ではどこであろうと全裸! それが常識じゃ! 水着など言語道断よ!」
「流石だジジィ! 良い事言うぜ!」
「ふっ、伊達に歳は取っておらんわ!」
 藤右衛門が高らかに笑う。
「……ボク、相手にするの嫌になってきました」
「私もっス……お姉ちゃん、どうするっスか?」
「ウィルヘルミーナも刹那も弱気になっちゃ駄目です! パンダ隊の名に懸けてこの人たちを殲滅です!」
「ボク、パンダ隊じゃないんですけど」
「私もっス」
「そういう事言ってる場合じゃないよ。ここでボク達が見逃したら、温泉に入っている人達が困るじゃないか」
 ウィノナの言葉に、ウィルヘルミーナと刹那が頷く。
「そ、そうですね……」
「わ、わかったっス!」
「わかってくれたですか! それでは……悪い人達、覚悟です!」
 ファイリア達に再度向き直られ、国頭と藤右衛門の頬を冷たい汗が伝う。
「超じいちゃん」
 そんな中、剛太郎が藤右衛門に話しかける。
「この忙しい時になんじゃ!?」
「全裸というと、あんな感じにでありますか?」
 剛太郎が指差す方向を見る。
 そこにいたのは、全裸の人物。
――それを見て、全員言葉を失った。

 一方、女湯では更衣室の騒ぎなど露知らず、皆ゆっくりと温泉に浸かっていた。
「……ふぅ」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が、湯の心地良さに思わず溜息を漏らす。
「評判通り、いいお湯ですわ……」
 白い肌がほんのりと湯の熱で桜色に染まっていくのを見て、小夜子の全身が満足感に満たされていく。。
 最初は水着無しには抵抗はあったが、この心地良さの前では気にならなくなってくる。
「さて、他にはどんな湯があるのかしら……楽しみですわ」
 これから先の事を想像し、小夜子は顔を綻ばせた。
 そんな小夜子の全身を、嘗め回すかのように見ている者がいた。緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)である。
「あの子いいなー……(もみもみもみ)」
「あの、紅凛さん……」
「あんたも見なさいよ。凄いわよー、胸とか胸とか胸とか(もみもみもみ)」
「あのですね……」
「ああ、是非ともお近づきになって触りたい……というか揉みしだきたい(もみもみもみ)」
「……なんで先程から喋りながら私の胸を揉んでいるのですか!」
 姫神 天音(ひめかみ・あまね)がそう言いながら、紅凛から離れる。
「えぇー、いいじゃないのよ。減るもんじゃあるまいし」
「そういう問題じゃありません! 公衆の面前で、恥ずかしいですよ……」
「ってことは人前じゃなければいいのね。それじゃ天音、あっちへ行こう」
「え? いえ、あの……そういう問題では……」
「天音から離れなさい、緋ノ神紅凛!」
 ブリジット・イェーガー(ぶりじっと・いぇーがー)が紅凛から天音を強引に引き剥がした。
「何するのよブリったら。いいとこだったのに」
「何がいいとこですか。大体いつもいつも天音をですね――」
 ブリジットの説教を、紅凛は面倒そうに聞き流す。
「あーはいはい……イヴ、ブリの相手してやって」
「はいお姉様っ!」
 イヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)が、ブリジットに抱きつく。
「な、何をするのですか! 話の途中を邪魔しないでください!」
「お姉様からの命令なので、相手します!」
「ああもう! 離しなさい!」
「おぉー、こういう裸の絡み合いも悪くないわね(もみもみもみ)」
 イヴを引き剥がそうとブリジットが悪戦苦闘している様を見て、紅凛が楽しそうに言う。
「……結局揉むのは止めないんですね」
 そう言って、天音が諦めたように溜息を吐いた。

「何か、ちょっと賑やかになってきたね」
 周囲を見渡しながら、温泉に浸かっていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)に言う。
「まあいいではないか……ふぅ、いい湯だのぉ……」
「……じーっ」
「しかし混浴が無いのが残念だ……ん? 何だ月夜その目……ああ」
 月夜の視線に、玉藻が気づく。その視線の先は、玉藻の胸だ。
「……いいなあ、玉ちゃんは大きくて」
 そう言うと月夜は自分の『よく言えば慎ましい』胸に視線をおろす。
「なんだ、気になるのか?」
「う、うん……」
 月夜は恥ずかしげに頷く。
「あら、恥ずかしがる事は無いと思うわよ?」
「へ? あの、どちら様でしょうか……?」
「ああ、ごめんなさい。私は宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。会話が聞こえてきたから、つい口を挟んでしまったわ。迷惑かしら?」
「い、いえ……そんなこと無いけど……」
 そう言いつつ、月夜の視線は祥子の身体に行っていた。
(うぅ……羨ましい……どうすればこんなスタイルになれるんだろう……)
 そんな事を考えている月夜の背後へ、玉藻がそっと近づく。そして、背後から胸を鷲掴みにする。
「ひゃっ! た、玉ちゃん何するの!?」
「何、そんなに気になるのならば、我が揉んでやろうと思ってな。揉めば大きくなると言うではないか」
「へ、変な気を利かせなくていいから!」
「あら、私も手伝うわ」
「さ、祥子さんまで!?」
「いいからいいから。大人の女はこうやって誰かに見られたり、触れられたりして綺麗になっていくものなのよ」
「な、何か騙されてる気がするよぅ……」
 
 その時だった。
 どたどたどたどた、と何かが走ってくる音。そして、出入り口が開かれる。
「み、みんな……は、早く逃げるですー!」
 出てきたのはファイリアだった。何やら焦っている様子だった。その後をウィノナ、ウィルヘルミーナ、刹那が続く。
「と、扉を閉めろ!」
「だ、駄目です! 間に合いません!」
 ウィノナとウィルヘルミーナが怯えた表情で出入り口を見る。
「ひぃぃぃぃ! 来るぅぅぅぅぅ!」
 刹那が悲鳴に近い叫び声を上げた直後、ガラガラと音を立てて、入り口の扉が開かれた。
「お! でけぇ風呂だな!」
 現れたのは全裸のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)であった。
――ラルクはここに来る前、しこたま酒を飲み酔っていた。その際全裸になった彼は『脱いだら風呂だろ』という思考に行き着き、温泉へとやってきたのだ。
 純粋に風呂に入りに来ただけなのだが、酔っていたせいで出入り口をまちがえたのであった。
 女風呂の時が止まる。全裸で、しかも男が入ってきたこともあるが、それ以上に場を凍りつかせた原因はラルクの下半身であった。
 ラルクの股間に聳え立つ男のシンボルは、それはまあ凄かった。
 その凄さを、後に目撃者は語る。

「足が三本あるのかと思いました(T・Kさん)」

「若い頃でも勝ち目は無い、と思いました(T・Oさん)」

「酔っていたので、よく憶えてないであります(G・Oさん)」

「「「「ワタシタチナニモミテイナイデス(F・Hさん他)」」」」

 そんなモノを隠しもせず、堂々と入ってくるラルク。

「「「「ひゃああああああああああ!!!」」」」
 当然の如く、悲鳴が女湯に木霊した。

「……悲鳴?」
 風呂上りの一杯(コーヒー牛乳)を嗜んでいた樹月 刀真(きづき・とうま)の耳に、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「今のは……女湯からか!?」
 気づいた時には、刀真は走り出していた。
(女湯にはまだ月夜と玉藻がいる!)
 女湯入り口に着くと、内部から悲鳴が聞こえてくる。躊躇する事無く、刀真は中へと入っていった。
 途中、更衣室で何故か棒立ちになっている男三人が目に入るが、刀真は無視した。悲鳴は女湯の中から聞こえてくるからだ。
 取り出した【光条兵器】を構え、女湯への扉を開く刀真。
「月夜、玉藻無事か――ってなんじゃありゃあ!?」
 真っ先に目に入ったラルク(の股間)に、思わず刀真が叫ぶ。
「さーてどっから入るかなー! こんなに多いとおっさん迷っちまうなー!」
 ラルクは、数ある温泉をどこから入るか考えている所であった。酔っているせいか、周りの喧騒など耳に入ってはいやしない。
 ラルクが動く度悲鳴が上がり、女性客は逃げ惑う。
「あ、あれが原因か……ど、どうすりゃいいんだ?」
 あまりの凄まじさに、刀真がたじろぐ。
「刀真ー」
 そんな刀真を見つけた玉藻が彼に飛びついた。
「た、玉藻!? い、いきなり抱きつくな!」
「刀真ー我はとても怖がっているぞ。守るがいい」
「え、ちょ……前! 前見えてる!」
「別に構う事あるまい。我と刀真の仲ではないか」
「構うって――いてててて!」
 刀真に様々な物が投げつけられる。投げつけているのは月夜だった。
「こら月夜、痛いよ」
「うーっ! うーっ!」
 玉藻の咎めもなんのその、手近にあるものを片っ端から投げつける月夜。
「いやホント痛い! 痛いから!」
「刀真のばかーっ!」
「だからやめ――がふぁッ!?」
 盥を投げつけられ、顔面に直撃した刀真は意識を失った。

「んー? 何か騒がしいなー! まぁいいかー!」
 騒ぎの原因であるラルクは湯船に浸かり、持ち込んだ酒を飲んでいた。
「はぁー極楽極楽! やっぱ温泉は最高だな!」
 そう言いながらも、ぐいぐいと酒を飲み続けていると瓶の一つが空になった。
「ん? もう無くなっちまったか! まぁまだまだあるからな! さーて、次は……ん?」
 その時、ラルクの周囲の温度が下がりだした。酔っていて感覚が鈍っていても解る位の低下。
「なんどぅあふッ!」
 そして、直後に頭部に鈍い衝撃を受け、ラルクは失神した。 
「――次は無いわ」
 彼の背後には、祥子が立っていた。そしてラルクの傍らにはこぶし大の氷が落ちていた。

「……はっ!? 意識を失っている場合じゃない!」
「お、おう! そうじゃったそうじゃった!」
 凄まじいモノを見せ付けられた国頭と藤右衛門が、意識を取り戻した。
「作戦は変わっちまったが現状は問題ない! 続行するぞ!」
「合点よ! 剛太郎、行くぞ!」
 藤右衛門は剛太郎を連れ、女湯へと駆け出した。
「おぉ……楽園は現世にあったのか!」
 目の前に広がる光景に、藤右衛門が拝みだした。
「超じいちゃん、赤モンキーはどこにいるでありますか?」
「ありがたやありがたや……おお、そうじゃったな」
 拝んでいた藤右衛門は辺りを見渡す。勿論目的は赤モンキーではなく、女性の身体だ。
「おぉ!」
 そして、小夜子を目にした藤右衛門が歓喜の声を上げた。気づいた小夜子が、手で身体を隠す。
「いたでありますか!?」
 剛太郎も小夜子の方を向いた。
「見るなぁーッ!」
 小夜子は手近にあった盥を藤右衛門と剛太郎へ投げつけた。
「「がふぁッ!」」
 顔面にクリティカルヒットした二人は、そのまま崩れ落ちるように倒れた。

「むぅ…どれだ……」
 更衣室に残っていた国頭は【トレジャーセンス】を働かせていた。勘に従い、ロッカーを探っていく。目的は価値のある水着だ。
 できる事であるならば、全てを手に入れたいところだがそこまでの猶予は無いと国頭は判断したのだ。
 そして、勘は一つのロッカーへと辿り着かせた。
「……おぉ!」
 ロッカーを開け、中に入っている物を目にした国頭は感嘆の声を漏らす。
「流石オレ……こんな物を見つけてしまうとはな……」
「――次に見つけるのはあの世かしらね」
 背後の声に驚き、反射的に振り返った瞬間。
――ぐちゃり、と祥子が【氷術】で呼び出した氷が国頭の顔面へとめり込んでいた。

 悲鳴を聞きつけたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は、女湯へ向かって駆けていた。
「ふっふっふ……狙い続けていた甲斐があった!」
 ハインリヒは、国頭達が女湯に忍び込むところを目撃していた。そこを彼はあえて見逃し、騒ぎになったところを捕獲しようとしていたのだ。
 躊躇無く、ハインリヒは女湯へと飛び込む。彼の中ではこれは『強制捜査』となっていた。
「どいたどいたぁ! るぱ……じゃなくてレッドモンキー! 神妙にお縄につ……け……?」
 女湯を見たハインリヒは、絶句した。
――そこにいたのは赤モンキーではなく、肉塊のオブジェと化した男達に、血のりが着いた盥を持った女性陣。
 とんでもない物を、ハインリヒは目にしてしまった。
 ぎろり、と女性陣がハインリヒを睨む。とんでもない時に来てしまったのだ。
「……お邪魔しました」
 平静を装い、回れ右して退場――
「できると思う?」
は祥子に妨害されていた。
 観念したかのように、ハインリヒは目を閉じ、口を開いた。
「るぱ……ではなく、レッドモンキーはとんでもないものを盗んでいきました」
「あら、何かしら?」
「私の命です」
「正解……というわけで死ねぇーッ!」
「ぎゃあああああああああ!!」
 ハインリヒの悲鳴が、木霊した。

「何で止めないんですか!」
「だって、面白そうだったんですもの」
 コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)もまた、女湯へと向かっていた。剛太郎を止めるためである。
 酔った剛太郎を見失いコーディリアが途方にくれていたところ、ソフィアが『藤右衛門が女風呂とか言ってましたわ』と聞いのを思い出したのだ(本当は酔った剛太郎が何かやらかすのを期待して黙っていたのだが)。
「とにかく早くしないと……何かしでかす前に!」
「しでかしてくれていた方が面白いですのに」
 ソフィアの言葉に、コーディリアがぎろりと睨む。
 そうこうしている内に、女湯へと辿り着いた。
「つ、着きました!」
「……静かですわね?」
 ソフィアの言う通り、女湯は静かになっていた。
 二人はそのまま中へ飛び込み、女湯へと向かう。
 二人が目にした女湯は、平穏そのものだった――ある部分を除いて。
「な、なんですの……あれは……」
 ソフィアが声を震わせる。
 彼女が目にしたのは、隅にある温泉。
 湯船は赤く染まっており、男達がぷかぷかと浮いていた。横には『罪人の湯』という看板まで立っている。
「ご、剛太郎さん!?」
 浮いている男達の中から、剛太郎を見つけたコーディリアが駆け寄ろうとする。
「はいはい、ちょっと待った」
 そんなコーディリアを、紅凛が止める。
「な、なんですか!? 私は剛太郎さんを……」
「マナー違反よ、あんた達」
 そう言うと、紅凛はコーディリア達の衣服を剥ぎ取った。
「きゃああああ!!」
「な、何をするんですの!?」
「何って、温泉なんだから服は脱がないと……あら、二人ともタイプは違うけどいい身体してるわね……お姉さんがいいことしてあげる」
 そういって紅凛は二人の手を取る。
「え!? ちょ……」
「は、離してください!」
「あら、独り占めはずるいわよ」
 そんな彼女達を見ていた祥子も混ざってきた。
「それじゃ皆で楽しまない?」
「あら、話がわかる方ね。いいわよ」
「わ、私はよくありませんわ!」
「ご、剛太郎さぁーん!」
 コーディリアが叫ぶも、剛太郎から返事は無い。彼は今となっては、ただの屍だ。

『……何だって言うんだ、あれ?』
『さ、さあ……?』
 こっそりと女湯の様子を伺っていた猿達が顔を見合わせる。
『ど、どうする? 突撃するか?』
 一匹の猿が言うが、他の猿達は苦い顔をしている。
『……やめようぜ、ろくな事にならない気がする』
『そ、そうだな……やめよう……』
 その言葉に、皆が頷き猿達は女湯から離れた。
『しかし、何か喉が渇いたな……』
『そういやさっきあっちで人間が飲み物売ってたぜ?』
『よし、それを頂こう』
 
 温泉ゾーンにあるとある飲食店の店頭では、風呂上りの客を対象に飲み物を販売していた。
「うーん……なんで売れないんだろう?」
 販売所に立っていた多比良 幽那(たひら・ゆうな)が呟く。
 彼女の言葉とは違い、飲み物の売り上げは上場であった。店で用意した物の中で、いくつかはもう在庫が少なくなってきている。
「……なーんでみんな、こっちはスルーしちゃうのかなー?」
 幽那が見た先にあるのは、勝手に売り場を作ったマンドレイクジュースの山だ。『心と体の老廃物を一気に排出!!』と書かれた紙が、ひらひらと揺れている。
「私の可愛い植物達だって頑張ってるのに……」
 幽那が振り返ると、4体のアルラウネたちが舟を漕いでいた。退屈で眠くなってしまったのだろう。
「うーん、今日も私の植物達は可愛いなぁ」
 眼を細め、愛でている幽那の服の裾を、くいくいと何者かが引く。振り返ると、アルラウネ・アコニトムが居た。
「ん? どうしたの?」
 幽那が言うと、アコニトムがマンドレイクジュース売り場を指差す。
 幽那が目を向けると、そこにはジュースを抱えた赤モンキー達がいた。眼が合う幽那と猿。
「……欲しいの?」
 幽那がそう言うと、猿が頷く。
「ふーん、欲しけりゃあげるわよ。持っていって」
 すると、猿は逃げるようにして去っていった。
「礼くらい言いなさいよ……ま、猿じゃ仕方ないか……あ」
 突如、幽那が何かに気づく。
「……マンドレイクジュースって、飲んで大丈夫なのかな?」
 最も重要な事を忘れていた。
「……ま、大丈夫でしょ。さて、お仕事お仕事」
 重要な事だが、スルーした。

「……一体、何があったのでしょうか?」
「さあ……」
 騒ぎを聞きつけ、温泉ゾーンに着いた美緒とラナが、目前の光景に首を傾げる。 
 そこには、赤モンキー達が横たわっていた。寝ているのではなく、泡を吹いて失神しているのだ。 
「ふむ、どうやらこれが原因のようだな」
 鋭峰が赤モンキーの傍らに落ちていた容器を手に取る。
「……マンドレイクジュース?」
 ラベルに書かれた文字を、美緒が読んだ。
「うむ、どの猿も同じ物を持っているし、間違いないだろう」
 再度、赤モンキーに目を向けると、ピクピクと僅かだが痙攣している。恐らく死んではいない。
「……どうしましょうか、このお猿さん達」
「とりあえず、捕獲しましょう」
 赤モンキー達は抵抗どころか、起き上がることもなく、されるがまま縛られていった。