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part3 巣作りは台地の下で


 西エリアの台地は、森の外れに屹立する大岩の連なりだ。
 一つ一つが高層ビルよりも高く、東京ドームより面積がある。自然の風雨によって削り取られたと思われる道や、原住民が作ったらしき人工の道が地面から頂上へと続き、曲がりくねっている。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)はその台地のふもとで、仮設住居を造ろうとしていた。
「ここなら風がしのぎやすそうだな! ここにしようぜ!」
「えー? 上の方がいいと思うけどなー? 夜は動物が襲ってくるらしいよ? 多分、森に住んでる動物だよ」
 契約者のライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が異議を唱えた。
「でも、嵐が来るんだろ。高いところは風が強いからきついぞ」
「あ、そっか。納得ー」
「ライゼ、支援頼むぜ」
 垂は戦闘用ドリルで台地の岩肌に穴を掘り始める。
「はーい! 頑張れ頑張れーっ」
 ライゼはパワーブレスで垂の力を強くした。ギイイーンと、金属と石の擦れ合う音が響く。大地を掘っているというよりは、鉄板を切断しているかのような音である。
「ううー、耳が痛くなるよおー」
 ライゼは耳を両手で塞いだ。
 垂もうるさいのを我慢して作業を続けるが、石質が硬すぎてなかなか穴は広がらない。一時間経っても、半径五メートルの穴がようやく一つできただけだった。
「このペースじゃ、日が暮れるまでに人数分揃えるのは無理だな」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)が困ったように仕事の成果を眺めた。
 ライゼは両の拳を顎の辺りで固めて憤慨する。
「まだまだーっ! 垂は凄いんだから! 最後の最後で奇跡を起こすタイプなんだからーっ」
「そうは言っても、奇跡を待っているわけにはいかないぞ。サバイバルは現実との戦いだ」
「むううっ」
「それで、なにか他に案はあるのか?」
 垂は手を休めて一息つく。ドリルをずっと握り締めていたせいで、腕が痺れてきていた。
 一輝の契約者、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が意見する。
「我が思うに、穴は浅めに人数分掘って、そこに木材でキャンプを設営すれば良いのではないのかな。そうすれば、ある程度の風避けにはなるであろう」
 一輝は道具の入っている荷袋を持ち上げてみせる。
「いいな。俺は日曜大工セットを持ってきているから簡単な小屋なら建てられるぜ」
「我はローマ軍時代に培った野営設営のノウハウを提供いたそう」
「分かった。穴掘りの方は俺に任せとけ!」
 垂はドリルのスイッチをオンにした。
「その前に、辺りの木をドリルでなぎ倒してくれぬか。一輝のノコギリで切っていては間に合わぬ」
「オッケー」
 話し合いが済み、作業が再開する。
 垂が切り倒した木々で、一輝とプッロがキャンプの壁や床を組んでいく。垂の掘った穴に寄り添うようにして柱を立て、壁を固定する。床板を敷き、雨への対策を取る。
 草原から、郁乃と灌が草をわんさか抱えてやって来た。幾度も往復しては草の山をこしらえる。
 一輝とプッロはその草を床板に敷き詰め、寝床にした。メイド服コスプレは楽しそうに仕事の様子をビデオカメラに収めているだけだったが、郁乃に怒鳴られてようやく協力を始めた。
 プッロは登山用ザイルに木ぎれをぶら下げ、キャンプの周りに張り巡らす。
「なんだそれ?」
「鳴り子だ。敵が近づいてきたら音で教えてくれる。夜に必要になるだろうからな」
 一輝の質問に、プッロは説明した。