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part6 もう一つの宴


 キャンプ地での夕食に参加していない者もいる。彼らは島に残っている可能性がある原住民を捜索していた。
 西エリアの台地を登ったり降りたり、目を皿にして草葉の陰まで捜すが、ちっとも見つからない。そうこうしているあいだに日は暮れ、ふもとからは愉快そうな宴の音が聞こえてくる。
「あーくそっ、まだかよ! オレもう疲れたぜ」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が痺れを切らし、岩肌の地面にどっかりと座り込んだ。
「まったく、康之が原住民に会いたいと言ったんだろうが……」
 契約者の匿名 某(とくな・なにがし)は呆れ声を出す。不意に襲われたら大変なので、念のため禁猟区で危険な存在が近づくのを警戒しているが、なんの兆候もないのだけは幸いか。
 某は顎と頬を右手で覆って考え込む。
「しかし、どうしたもんかな。このままやみくもに捜し回っても無意味だぞ」
「拙者は思うのだが、原住民の気を惹くため大騒ぎしてみたらいかがでござろうか。楽しそうにしていれば、彼らも興味を持つかと。拙者、恥ずかしながら、幸せの歌を習得しておりまする」
 椿 薫(つばき・かおる)がスキンヘッドを掻き掻き提案した。
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)が眉を上げる。
「お、そうなのか。オレもできるぜ。スラッシュギターも持ってきてる。音楽は万国共通だし、いっちょジャムってみっか?」
「是非に。お願いするでござる」
 薫は丁寧にお辞儀した。
「そんなものに引っかかるかぁー?」
 半信半疑の康之。
 一同が見守る中、即席の演奏会が始まった。
 皐月がジャラーンとギターを鳴らし、陽気なコードを弾く。薫が胸に左手を当てて右手を大仰に広げ、オペラ歌手のような姿勢で口を全開にする。
「のぞき音頭〜のぞき音頭〜お風呂の周りでハッピーでござる〜♪」
 なんとも壊滅的な歌詞だった。
「おいお前、それ替え歌だろ!」
 皐月が伴奏しつつ怒鳴るが、薫は構わず続ける。
「おっぱいがいっぱい、おっぱいがいっぱい、おっぱいがいっぱいでハッピーでござる〜♪」
 とはいえ、その歌にはどうしようもないほど感情がこもっていて、まさに幸せの歌。馬鹿らしく思いながらも、仲間たちも心が浮き立ってくるのを抑えられない。
 歌が誘われたのか、岩地の陰から見知らぬ獣人がひょいと顔を覗かせる。フェリーに乗ってきた中にはいなかったし、着ているものも露出の多い毛皮。きっと原住民だろう。
「効いた……。ここの人のセンスを疑うぜ」
 某は苦笑したが、同時に薫の歌に少し感心もしていた。
 原住民と交渉した結果、彼らの村に招かれることになる。もちろん、タダではない。薫の持参した日本酒、弥涼 総司(いすず・そうじ)の持ってきた高級食材詰合せが、原住民の食欲をいたく刺激したのである。
 村は、西エリアの台地ではなく北エリアの草原、その外れから海側に降りていった場所にあった。
 草原より段差があり、原住民の道案内なしでは野牛の群れの最中を突っ切らなければいけないため、狩猟組は気付かなかったようだ。
 村に着くと、日本酒と高級食材詰合せが振る舞われ、宴会が始まった。屋外に大きなかがり火が焚かれ、生徒たちは牛の丸焼きをご馳走される。
「うおー、旨いっ。こういう野性的な味もたまらないな!」
 総司はでっかい肉の塊にかぶりついて嬉しい悲鳴を上げた。薫も肉を噛み締めてうなずく。
「そうでござるな! 腹の奥から力がみなぎってくるでござる! どれ、拙者が今の感動を一曲!」
「よっ、待ってました! 椿さんの実力をこいつらにも思い知らせてやれ!」
 総司はやんややんやとはやし立てる。原住民お手製の濁り酒が入り、みんな上機嫌だ。
「じゃあオレが演奏をするぜ」
 皐月も立ち上がる。
 軽快な曲と歌に原住民が大喜びして踊り出す中、総司は隣に座っている村民の少女が気になっていた。
 ビキニのような毛皮の民族衣装から溢れんばかりの豊かな胸、張り詰めた太股、そしてなにより健康的に日焼けした肌。顔立ちも総司のストライクゾーン真ん中だ。
 過酷なサバイバル実習だと思って来ているが、こんな姿を見せられたら色気も出ようというものである。酔いの勢いで腕を回し、冗談を飛ばす。
「お姉さん、どうだ? これからオレと静かなとこに行かないか?」
 少女の頭からぴょこんとキツネの耳が飛び出し、顔が真っ赤になる。
「あ、あたし、そんな軽い女じゃないよ! まずはいろいろ喋って知り合ってからだよっ!」
 なんと、あんまり嫌がってはいなかった。楽しい夜になりそうだ、と総司は酔いが強くなるのを感じた。
 宴は夜更けまで続き、空が白みかけてようやく自然終了した。みんな力尽きたのである。かがり火は炭に変わり、丸焼きは骨だけになり、原住民たちの多くは寝転がって高いびきを掻いていた。
 帰り際、皐月が村長に警告しておく。
「ああそうだ、忘れてた。嵐がこの島に近づいてるぜ。用心しな」
「はい、気配は感じていました」
「そっか、余計なお節介だったかな」
「いえ、そのお気持ちが嬉しい。病気の人が出たら、うちに来なさい。薬を分けてあげましょう」
 村長は頼もしく請け合い、土瓶に入れた調味料を生徒たちに持たせてくれた。