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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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    ★    ★    ★
 
「こばー!」
「あら、小ババ、何を持ってきたですぅ?」
 校長室に飛び込んできた小ババ様に、エリザベート・ワルプルギスが苺パイを食べる手を止めました。
 校長に書類を渡した小ババ様が、じーっと苺パイを見つめます。
あらまあ。小ババ様も食べますかぁ?」
 お皿の上にもう一人分の苺パイを切り分けていた神代明日香が、小ババ様に訊ねました。
「こばあ!」
 もちろんと、小ババ様が答えます。
「ちょっと待ってくださいですぅ、今、大きい人の分を冷蔵庫にしまってきますからぁ」
 いつ戻ってくるのかよく分からない大ババ様の分をお皿に載せてラップをかけると、神代明日香がそれを冷蔵庫にしまいに行きました。
「はい、どうぞ」
 戻ってくると、小ババ様専用の小さなお皿とフォークを持っています。
 書類に目を通しているエリザベート・ワルプルギスの邪魔をしないように少し離れると、小ババ様はもらった苺パイを食べ始めました。
 
    ★    ★    ★
 
 スイーツ分の補充の終わった小ババ様が、午後の散策に出発します。
 ヒュン。
 突然、矢が飛んできました。もっとも、矢と言っても、先端に吸盤がついているおもちゃの矢でした。
「こば! こばこばこばあ!!」
 さすがに、危ないじゃないかと、小ババ様が怒ります。
「いや、すまなかった。大丈夫だったか? こら、教えた通りに、ちゃんと狙わなくちゃだめだろうが」
 矢を拾いに来たオリオン・トライスター(おりおん・とらいすたー)が、小ババ様に適当に謝ります。
 怒られたラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が、ちょっとしょぼんとしました。
「いいか、目標はあれだ、デカラビットだ。あのど真ん中をこの矢で串刺しにしてこそ、弓矢の腕前が上がるんだぞ」
「串刺しにされてたまるか。だいたい、デカラビットってなんだ。オレはデカラビアだ。地獄の侯爵なんだぞ」
 指さされた五芒星侯爵 デカラビア(ごぼうせいこうしゃく・でからびあ)が憮然としましたが、オリオン・トライスターはそれを完全に無視してラピス・ラズリにもう一度弓矢を構えさせました。
「こばこばあ」
「えっ、どうしたの? 小ババ様もやりたいの?」
「こばあ♪」
 ラピス・ラズリの問いに、小ババ様が元気よく両手を挙げました。
「じゃ、これ、予備の弓矢なんだけど、引ける?」
 ラピス・ラズリが言う通り、ちょっと小ババ様には大きすぎるようです。
「ぶー、ごばあ!」
「よしよし、俺が手伝ってやろう」
 オリオン・トライスターが、小ババ様を手伝って弓を引いてやります。
「こうやって狙いをつけてだなあ……」
 巫女装束の小ババ様が弓を引くと、結構様になるようです。
「さあ、ラピス、いくぞ、ダブルアタックだ!」
「ちょ、ちょっと、待て。聞いてないぞ、うわ!」
 ヒュンヒュンと飛んでくる矢に、五芒星侯爵デカラビアがあわてて逃亡を再開しました。いくら先端が吸盤だとはいえ、弓矢ですからそれなりの威力はあります。はっきり言って痛いのです。
「おお、るる、るるじゃないか。助けてくれ、頼むー! るるー! 契約しただろ? パートナーだろ?」
 立川 るる(たちかわ・るる)を見つけた五芒星侯爵デカラビアが、助けを求めました。
「もふもふもふ……」
「こら、何をしている」
「もふもふに決まっているじゃない」
 通りすがりの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)をもふもふしていた立川るるが答えました。
「もふもふう?」
 何のことだろうと、小ババ様が頭をかしげます。
「うむ、もふもふの図。デッサンのしがいがある」
 すぐ傍では、土方 歳三(ひじかた・としぞう)が、雪国ベアをもふもふしている立川るるをデッサンしていました。いつもでしたら、そこにラピス・ラズリも加わるところですが、今日はオリオン・トライスターがそれを許してはくれないようです。
「じゃ、俺様は御主人が待ってるんで」
 もふもふはゆる族の使命と感じている雪国ベアでしたが、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が待っているので、宿り樹に果実へとむかいました。
「あーあ、デカラビアのせいでゆる族もふもふ計画が中断しちゃったじゃない。お星様になっちゃえ
 立川るるが、五芒星侯爵デカラビアを軽く睨みます。その間にもヒュンヒュンラピス・ラズリの矢が飛んできますが、みごとなまでに誰にもあたりません。立川るるもそれを熟知しているのか、まったく気にしていないようでした。
「俺ともふもふと、どっちが大事なんだ!」
「もちろんもふもふよ。だって、あなたゆる族じゃなかったんだもん」
 見た目ヒトデ型の五芒星侯爵デカラビアは、実はゆる族ではなく悪魔です。それがパートナー契約を交わした後に発覚したので、立川るるは実に残念に思っているのでした。
「ああ、ブエルよ助けてくれ」
 思わずかつての相方に助けを求めながら、五芒星侯爵デカラビアは逃げて行きました。その後を、オリオン・トライスターとラピス・ラズリが追いかけていきます。
 もふもふにちょっと興味を持った小ババ様は、その場に残って立川るるがどうするのか見守っていました。
「さあ、次のもふもふを見つけなくちゃ」
「よろしい、さあ、好きなだけもふるがいいですら」
 立川るるの言葉に応えるがごとく現れたキネコ・マネー(きねこ・まねー)が、ズイとその身体を差し出しました。けれども、彼は招き猫ですから、表面はつるつるです。
「もふもふしてないもん!」
 怒った立川るるが、キネコ・マネーを突き飛ばしました。
「すみません、うちのキネコが御迷惑を」
 パタパタと駆け寄ってきた大神 御嶽(おおがみ・うたき)が、倒れているキネコ・マネーをズルズルと引きずって回収していきました。
「もふもふ〜♪」
 そう叫びながら、立川るるはもふもふを求める旅を再開しました。
「さて、俺もそろそろ修練場に移動するか」
 スケッチブックを持って、土方歳三が歩き始めました。
 なんだか呆然とそれらの様子を見守っていた小ババ様が、ハッと我に返ります。
「こばこばあ〜♪」
 そう立川るるをまねして、小ババ様は土方歳三の後をついていきました。