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小ババ様の一日

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小ババ様の一日

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    ★    ★    ★
 
「えろえろ、てすためんと、えろえろ、てすためんと、我は求め訴えたり……」
「ちょっと、日堂 真宵(にちどう・まよい)、今の呪文は認められません。なんと邪悪な。それに、テスタメントは、エロじゃありません!」
 なんだか土方歳三が入っていった修練場の方が騒がしいので小ババ様がのぞいてみると、中で日堂真宵とベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が何やら騒いでいました。
「うっふっふっふっふ〜。今度こそ、わたくしに従順で強大で禍々しく美しく無敵で慎ましく万能で知性知力溢れる知的な伝説の存在を支配下に納めてこの世を恐怖の混沌に落とすのよ! そうね、最低でもパズズやルキフグス級がよいわね」
 五芒星の周りに、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの本体やら何やらの本を乱雑に積みあげながら、日堂真宵は悪魔召喚の儀式を続けていました。言ってることはめちゃくちゃですが、まあ、いつものことです。
「ふむ、五芒星か。何やら懐かしいな。五稜郭を思い出させる。知っているか、五稜郭を」
 土方歳三の言葉を、そんな物は知らない日堂真宵がいつも通り聞こえていないふりをしました。
「それにしても、この線の歪みっぷりは、少し許せん。そういえば、先ほど、変な星形を見た気もするが。あれこそは、この世のものとも思えない星形だったな」
 土方歳三がさっき見た五芒星侯爵デカラビアの姿を思い出して、日堂真宵の描いた五芒星を綺麗に書き直していきました。
「えろえろ、てすためんと、えろえろ……」
「だから、違うと言っているでしょうに。きー」
 相変わらずの呪文に、ついにベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがキレました。日堂真宵に飛びかかっていきます。
 ぽかぽかぽかぽか……。
 同じ頃、五芒星侯爵デカラビアは全身にラピス・ラズリの矢を受けて瀕死で助けを求めていたそうです。
 ぼん!
 何かが五芒星の中に現れました。
「死の臭いを感じたり! わきゃきゃきゃきゃきゃきゃ。ワタシは最強のらぶりーふぁんしー悪魔、星辰総統 ブエル(せいしんそうとう・ぶえる)だもん!」
「新しいヒトデだな」
「何ですか、この邪悪な棘皮動物は! 悔い改めなさい」
「何よ、これ、クリスマスツリーの飾りじゃないのよ!」
 日堂真宵たちの、星辰総統ブエルの第一印象です。
「契約しておいて何を言……、はにゃにゃ、力が……」
 凄もうとした星辰総統ブエルでしたが、五芒星の結界の中なので当然力が出ません。さらに、なまじベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの聖書が近くにおいてあったため、悪魔としては無茶苦茶弱体化しています。
「やりなおしを要求する!!」
 むんずと星辰総統ブエルをつかんで、日堂真宵が言いました。
「話は分かったわ。つまりワタシをプロデュースして世界を席巻したいってことねっ!?」
「ええい、お前には無理じゃ!」
 何か独り合点した星辰総統ブエルを、日堂真宵が床に叩きつけました。会話が成り立っていませんが、これもいつものことでした。
「きゅう」
 星辰総統ブエルが気絶します。
「さあ、踏め、踏みつぶしてしまえ!」
「こんな謎生物踏むのは嫌です。やめなさい、日堂真宵!」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントの身体をかかえ上げて、日堂真宵が無理矢理星辰総統ブエルを踏みつぶさせようとしました。当然、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは抵抗します。
「こばこばこば……」
 なんだかこれ以上見ていると怖いことになりそうなので、小ババ様はブルンと身震いして修練場から逃げだしていきました。
 
    ★    ★    ★
 
 空飛ぶ箒を引きずったまま小ババ様が通路をあわてて逃げて行くと、どこからかボールが転がってきました。
「こばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!」
 危機一髪、小ババ様が、小ババ百烈拳でボールを弾き返します。
 ポーンと飛んでいったボールは、傍の体育室に入っていきました。どうやら、そこから転がり出てきたようです。
「あ、ボールが戻ってきた。なんで?」
 中で新体操の練習をしていた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が、ちょっと不思議そうにいつの間にか空いていた体育室の扉を見ました。そこに、小ババ様がそーっと顔をのぞかせます。
「あっ、小ババ様だ。じゃ、これって、小ババ様が拾ってくれたんだね。ありがとー」
 そう言うと、藤林エリスは新体操の練習を再開しました。クラシックの音楽に乗せて、ボールを自在に身体の上にすべらせていきます。ときおり空中高く放りあげては、その間に前転したりしていました。
「こばあ」
 ぱちぱちぱちと、小ババ様が拍手します。
 その拍手の音を聞いた藤林エリスが、ちょっとはにかんでタイミングを失しました。落ちてきたボールが藤林エリスの手をすり抜け、ぽぽぽぽーんと床の上を転がっていきます。
「こばあ」
 自分の方にむかって転がってきたボールを、小ババ様がフラインクキックをして弾き返しました。
「あ、ありがと……って、べ、別にいつも失敗してるわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね! 見てなさい、今度こそ完璧に決めてやるんだから!」
 またしても小ババ様にボールを拾ってもらった藤林エリスが、お礼を述べた後に恥ずかしそうにツンツンしました。
「こばあ?」
 なんだか邪魔してはいけないような気分になり、小ババ様はそっと体育室を後にしていきました。