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リアクション
◆光
「ねぇ。君は何か超悪い事でもしたの?」
ドラゴンに向かってそう問いかけた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、ドラゴンが守る地図を手に入れたいと考えていたが、悪いことをしたのかどうかも分からないドラゴンを倒すというのが、どうも納得いかず。まずは話をしてみようと思っていた。
「何も悪いことしていないんなら、私はなるべく君と戦いたくないんだ。だから」
平和的に地図が手に入るのならば、それが一番だ。
ドラゴンは警戒した様子をしているものの、終夏の言葉に耳を傾けているようだった。大人しくしている。
どうも人の言葉を理解できるらしい。そんな様子を見ていると、もしかしたらこのまま説得できるのでは、と終夏の声にも力が入る。
「ヒャッハァ! 超強い素材みっけた! 大人しく細胞よこせぇ! すぅ〜ぺぁ〜・すとぅろぉんぐ・じゅらがぁん!」
が、終夏たちが入って来た扉から六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が飛びだし、ドラゴンへと襲いかかっていった。彼は何をすればいいのかと聞いた時、味方に危害を加えなければ好きにしていいと言われ、ならば好きにしようと行動していた。……と、いうよりも、相当ストレス溜まっていたんですか? と、尋ねたくなるほどの暴れっぷりだ。
溜まっていたんだろう、相当。
しばし呆然と彼の姿を見ていた終夏だったが、我へと帰り「待って」と声を上げようとした。地図を手に入れるのなら、別に戦わなくてもいいはずだ、と。
だがそんな終夏肩をポンと叩く男がいた。
「わりぃな。俺は英雄だとか地図だとか興味ねぇんだ。強い奴と戦えればよ」
そう彼女へと声をかけたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は、鼎に遅れじとドラゴンへと向かって行く。ラルクは元より、ドラゴンと戦いたくて遺跡探索へと加わっていた。終夏に悪いと思いつつも、戦えることになってホッとしていた。おそらく、鼎があそこで乱入していなければ、ドラゴンと戦えなかったろうから。
ラルクは床を蹴って素早い身のこなしであっという間に肉薄し、ドラゴンへと拳を叩きこむ。ドラゴンの巨体が大きく左右に揺れた。
だが硬い鱗によって攻撃を阻んだドラゴンが翼を動かして、追撃しようとしていたラルクをなぎ払おうとする。同じく傍にいた鼎にも翼が当たりそうになったが、両者は別々の方向へと飛んでその攻撃を避けた。
しかしかすかにラルクの頬をかすったのか。頬から血が流れ落ちていた。血を親指でぬぐう。ピリッとした痛みに、ラルクは楽しげに笑った。
鼎は風圧で後ろへと飛ばされ体勢を崩したまま、壁に身体をぶつけた。だが、何かのスイッチが入った彼はそれぐらいでは止まらない。
「ふん、ドラゴンの癖に中々やるじゃねぇか。熱い戦いができそうだな」
「早く素材になるのであ〜る! フヒヒヒヒハハハハハハハヒャッハァ! クローンだ! 素材をよこせ!」
にっと笑うラルクに、甲高い笑い声を上げる鼎。そんな2人を見るドラゴンの目は、周囲をすべて敵と認識しているようだった。
こうなってしまえば、もう説得は無意味だろう。終夏は、とても残念に思いつつも、その事実を受け止めた。
同じ光の勢力とはいえ、考え方はみな違う。行動理由も違う。それは当たり前のことで。どうしようもないことだ。そして、光の仲間たちの邪魔をしたいわけでもない。
終夏はじっと、戦いを見守ることにした。
「相手は超強いから気をつけて戦わないとな。香奈は援護を。信長! 行くぞ」
「はい! 皆の足手まといにならないよう頑張ります!」
「言われずとも分かっておるわ。超覇王の城を、私の新しい居城にしてみようかと思っておるしのぅ」
「はは。ほんと、2人がいてくれて心強いよ」
続いて飛び出していくのは桜葉 忍(さくらば・しのぶ)で、パートナーの東峰院 香奈(とうほういん・かな)と織田 信長(おだ・のぶなが)に声をかける。香奈は目を閉じて意識を集中して2人にパワープレスを施し、信長は忍に叫び返しながら剣をふりかぶった。忍は、そんな信長とは別方向からドラゴンへと切りかかる。
突然見知らぬ大地に召喚されたとしても、パートナーたちがいれば、忍に怖いものなどあるはずがなかった。
忍と信長の攻撃は、しかし鱗を軽く傷つけるに終わる。鼎やラルクの攻防でも分かっていたものの、予想以上の固さだ。
狙うは鱗のない腹。しかし相手も自分の弱点はよく分かっている。中々、隙を作り出してはくれないだろう。忍と信長の2人で連携すればできなくもないだろうが……もっと確実かつ安全にいくべきだ。
そう考えた忍は切りつけた後、ラルクの隣へと着地する。何も、自分たちだけで戦う必要はないのだ。ここには、同じ目的をもった仲間たちがいるのだから。
「俺たちも参加させてもらうよ」
「……できたら俺一人で、といいたいところだが」
ラルクは忍たちをちらと見てから、ドラゴンの吐いた炎、尻尾の攻撃を避けて、口角を上げる。
「そう言っていられる相手でも、なさそうだな」
「そういうことだのぅ。……しかし、これほどの相手が守る地図……さぞかし立派な城なのだろうのぅ」
信長は信長で、楽しげにドラゴンの背後を見た。ドラゴンが強ければ強いほど、ドラゴンが守る扉の先にあるものへの期待が膨らむ。
「ま、しょうがねーか。じゃあ俺がおとりになるとして」
「分かった。俺と信長で腹をつく。香奈! 彼にも支援魔法を」
「ええ!」
「単純な作戦じゃが、にわかの連携じゃし、それが妥当か」
作戦を決め、互いに確認し合っていると
「にゃにゃにゃにゃ〜〜〜」
なんとも場違いな猫の鳴き声……を真似するような人の声がその場に響いた。猫耳としっぽを生やした柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)だ。超召喚された際、なぜだか猫語? しか話せなくなったのだ。
(こうなったらみんなに任せるしかないな。っても何するかなぁ……あれだ、道具持ちくらいで良いか)
など、みんなの支援を、と考えていたのに真田 幸村(さなだ・ゆきむら)にやる気満々と勘違いされ、ドラゴンに向かって投げ飛ばされたのであった。
「ドラゴン退治。超龍人としてなんとも腕が鳴る響きだな。
ところで氷藍殿、さっきから猫の真似事などなさって如何された? まあ良いでしょう、貴殿にも一つお手伝いして欲しい事もございます故」
「にゃ? ん、にゃにゃ〜〜(あ? ちょ、何すんだ幸村!)」
「死ぬ気でしがみついて下さいませ! アレに」
「そうだ。超龍人の王子である俺の命通りに動き、あのドラゴンを平伏させるべく、光勢力の連中と共闘してあれを倒すのだっ」
「にゃにゃにゃにゃにゃ〜(俺は後方支援を!)」
幸村の後ろから偉そうに胸を張っているのは曹丕 子桓(そうひ・しかん)だ。命令通りだ、と満足げに頷いている。まったくもって、氷藍の叫び声は通じていなかった。
投げ飛ばされた氷藍にできるのは、言いつけどおり、ドラゴンに必死にしがみつくことだった。そんな氷藍がしがみ付いたのは、ドラゴンの頭。目を覆い隠している。
ドラゴンは氷藍をはがそうと必死に首を振っているが、氷藍はなんとか頑張っていた。
「今だ! 真田と光勢力のものどもよ」
「分かっている! 氷藍殿に作っていただいた隙を逃すものか」
「にゃにゃんにゃん(隙なんか作った覚えないって)」
やけにノリノリな幸村と子桓に、氷藍は若干涙目だが、そんなやり取りを見ていたラルクや忍たちは顔を見合わせてうなづく。
「……よくわかんねーが、俺たちも行くか」
「そう、だな」
「なるほどのぅ。そういう作戦か」
「えっと……あの子、大丈夫よね?」
「ちゃ〜んす、細胞よこせや、すぅ〜ぺぁ〜・すとぅろぉんぐ・じゅらがぁん! ヒャッハァ!」
香奈が氷藍を心配そうに見て、いつでもヒールを使えるように準備した。そして――。
剣が。拳が。ドラゴンへと命中する。防備の甘い腹から血が噴き出た。
「やったか?」
一瞬、誰もが息をとめた瞬間
「ぐぁぁぁああああおおおお!」
今まで聞いたことのないほどに大きな声をあげて、勢いよく首を振るドラゴン。身体からは相変わらず血が流れているが、致命傷には至っていないようだ。
「にゃ〜」
「……っとと、大丈夫?」
首から振り落とされた氷藍を、戦いを複雑な思いで見守っていた終夏が助け、無事に着地。軽く傷を負っている氷藍に香奈がヒールを使った。
「はい。もうこれで大丈夫よ」
幸村が香奈と終夏にお礼言っている氷藍を見て
「ドラゴンめ。氷藍殿を危険な目に合わせるとは!」
「にゃにゃ〜」
何と言っているかはやはり判らないが、「いや、お前だろ」とツッコミ入れている気がする。
「いいねぇ。そうこなくっちゃな」
「超強いって言われるだけのことはあるね」
ドラゴンとの戦いは、長引きそうだった。
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