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【超勇者ななな物語外伝】超覇王の城の地図を探せ!

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【超勇者ななな物語外伝】超覇王の城の地図を探せ!

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◆第三章「超覇王の城の地図の超争奪戦」

 一方で、扉をくぐった先で光の一行を待っていたのはヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)の罠だった。
 一体いつ入りこんで罠を張ったのかは分からないが、巧妙に隠された罠がそこにはひしめき合っていた。
 ヴェルデは一応、光の勢力として召喚されたはずなのだが、それとは関係なく超地図を破壊しようと行動し、壁に貼り付けられた地図の周囲には念入りに罠を張ってあった。
 そうとはしらずやってきたゲドーフレデリカ
「地図はあれか……ぬぅあっ?」
 地図へと一目散に向かったゲドーがまずはトラップを発動させた。どこからか飛んできたロープがゲドーの足に絡みつく。その様子を見て、円はいち早く罠の存在を察知し、避ける。円のいた場所に数本の矢が突き刺さる。そして、離れた位置にある地図をじっと見つめ、描写のフラワシを使い地図を素早く写し取る。
 一方のフレデリカは炎の精霊を身にまとって罠を回避し、その魔力で槍を生み出していた。
「貫け神槍! グリューエント・ランツェ!」
 その槍をもってゲドーへと攻撃をしかける。彼女としては地図を手に入れて早く帰りたいのだ。邪魔者を倒した方が確実に、そして早く手に入る。

「中々こないな。しかたねぇ。俺が燃やすか」
 ヴェルデは戦闘を始めたフレデリカとゲドーを見やった後、舌打ちして地図へと手を伸ばす。――が、彼よりも先に地図を手に取った人物がいた。

「これは『僕が』貰って行くねぇ」

 ふっと笑って走り去っていくのは永井 託(ながい・たく)だ。彼もまた光勢力のはずだが、フレデリカとゲドーの戦いに加わらず、「御苦労さまぁ」と横を素通りしていく様子は、光でも闇でもなく個人で動いていると主張していた。
「あ! 待ちなさい!」
 フレデリカが追いかけ、円が地図を奪われるぐらいなら、と地図の破壊を試みるが、託の姿が扉の向こうへと消えたことで失敗する。
「地図は俺のものだ!」
 ゲドーもまた託を追いかけていくが、円は手にした地図の複製を眺め、あちらのことはあちらに任せようとゆったりした動作でその場を後にした。

「俺の罠もまだまだか」
 1人その場に残ったヴェルデは、溶かされたり見破られたり解除されたりしている罠を眺め、悔しげにつぶやいた。


「あなた光の一員じゃないのっ? どうして」
「たしかに光の超勇者として召喚されたよ。だけど、僕がどういうことをするかは僕の自由でしょ?」
「それはっ」

 託の言葉に一瞬詰まってしまったフレデリカ。そんな彼女に、託は突如剣を向けた。今まで逃げの姿勢だった託の方向転換にフレデリカは対応できず、託の剣が振り降ろされ……遺跡を破壊した。フレデリカが避けてもいないのに、剣は彼女をかすってすらいなかった。
 まるで託がわざと外したかのように。

「えっ?」
「君に預けるけれど、しばらくは持ってること悟らせないでねぇ」

 訳が分からないフレデリカの懐に、託が地図を忍ばせた。そしてフレデリカにしか聞こえない声で「じゃ、後はよろしく〜」と言って離れる。

「地図をよこせ!」
 追いついたゲドーの声に、託は「あちゃ〜」と声を上げた。困ったな、と首を傾ける様子はあまりにも自然だった。フレデリカも意図が分かって、顔を引き締めた。武器を構えなおす。
「二対一はさすがにきついなぁ……ここは逃げさせてもらうよ。それじゃあねぇ〜」
「逃がすか」
「……あ! ま、待ちなさい」
 託の姿が曲がり角を曲がって消えていく。ゲドーもまた追いかけていくが、フレデリカには分かった。彼の曲がった方角は、出口ではない。

「――ありがとう」

 呟いて、彼らとは逆へと走って行った。



 地図の争奪戦が始まったころ。超危険な遺跡の入り口では、別の戦いが始まっていた。
「ちょーま軍師 馬謖の才を知れぃ!」
 馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)が、声をあげて兵士に指示を飛ばしている。
「考えることはどちらも同じ、ということですね」
 幼常に対するのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)。近遠が光陣営で、幼常は闇。どうやら互いに入口で待機し、敵が地図を持っていれば横取り。味方が持っていればそのまま護衛を。と、考えていたようだ。
 相手の動きを見つめながら、近遠は勝つための策を必死に考えていた。兵士の能力はあまり高くないが、なにぶん数が多く、また幼常の指揮に隙が見えない。
 焦りつつも、近遠は仲間たちへ指示を出していく。

「あなたたちの思惑通りにはさせませんわ」
 そう声を上げながら魔法を闇の兵士たちへと放つのは『小さな白き魔女』ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。ユーリカが魔法を唱えるたびに兵士たちの数が減っていく。……しかし、数が多い。魔法を唱え終えたユーリカに、無事だった兵士たちが襲いかかる。
「させん!」
 ユーリカと兵士の間に入ったイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、兵士たちの突撃を受け止たる。
「護るものがあるかぎり、我は負けるわけにはいかぬのだよ! はああああああっ」
 気合いと共に数人の兵士たちを押し返し、なぎ払う。体勢を崩した兵士たちに、近遠の雷術が突き刺さる。
「大丈夫ですか?」
「これしき、問題はない」
 近遠の言葉にイグナはそう答えるが、疲労しているのは間違いなかった。近遠やユーリカも、さきほどから戦い続けている。個々の力では近遠たちが勝っても、数が多すぎるのだ。
「どうか、みなさんに力を」
 疲労がにじむ近遠たちの背後で『平穏を祈る者』アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が、静かに歌い始めた。
 驚きの歌が、全員の身にしみわたっていく。
 身体の疲労が、わずかではあるが和らぐ。まだ、戦える。そう全員に思わせてくれた。

「なんで悪者の方にようじょさんが居るのです? っていうか何やってるですかー」

 アルティアの歌で元気を取り戻した光勢力の1人、土方 伊織(ひじかた・いおり)は、幼常の姿を目に捉え、叫び声をあげた。
 突然召喚されて訳のわからない状況に置かれ、とりあえず協力していたら敵にパートナーがいたのだ。それは驚くというもの。
 幼常は伊織の声に目を向け、

「光の方に見覚えのある奴がって、伊織も呼ばれてたのか……ふむ、見なかった事にしよう」
「あれ? 見えなかったですか? ようじょさーん! 何してるですぅ?」

 何も見なかったことにして兵士たちへの指示を再開した。そんな幼常に伊織がさらに声をかけるが、聞こえないふりに徹している。
 伊織は「早くお家に帰らないと怒られちゃう」と思い、幼常への問いかけは兵士たちを倒してからにしようと意識を切り替え、傷を負ったものたちのためにリカバリを唱える。
「ありがとうございます」
「怪我の治療は、僕に任せてくださいです」
 

「……ねぇ、まだいかないの?」
 闇勢力の後方に待機していたクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)は、隣に立つイリス・クェイン(いりす・くぇいん)へそう言った。
 イリスは問いには答えず、じっと闇勢力の動きを見ていた。その間も、お情けのように光陣営へと攻撃は仕掛けているが、当てる気はないのか。遺跡を傷つけるだけに終わっている。
「右翼、突撃だ! 中央は下がり、魔法を放て」
 幼常の指揮で動く闇の兵士たち。中央が言葉通り後方から魔法を放ち始める。その数は、大分少なくなっていた。

「今よ!」
「待ってました!」

 イリスの声に、クラウンが歓声とともに風術を兵士たちの後ろへと放った。今まさに詠唱していた兵士たちは、ドミノ倒しのように前方へと倒れていった。
「なんだ? 何が」
 思わぬ児たちに振りかえった幼常が目にしたのは、闇の一員として今回の作戦に参加していたはずのイリスとクラウンが闇の兵士たちへ魔法を放つ姿だった。そう。イリスたちは闇の中にまぎれていた光勢力のメンバーだったのだ。イリスの手が輝き、また兵士たちが倒れていく。

「貴公らは、まさか!」
「ええ、私たちは光の勢力よ」
「ぐぅっ」

 口元をゆがめて笑ったイリスに、幼常は歯を食いしばった後、すぐに兵士たちへ指示を出す。兵たちの動揺をすぐに落ち着かせる様は、さすが軍師と言ったところか。
 だが、

「今です! 一気に押し返しますよ」
「了解ですわ」
「承知! 我に任せよ」
「申し訳ありませんが、倒させていただきます」
「ようじょさん! 事情、聞かせてもらうですよ」

 そんな好機を光陣営が逃してくれるわけはなく、幼常は撤退を余儀なくされた。
 とはいえ、光陣営もまた無傷ではない。深追いはせず、闇の勢力が見えなくなると、地面に膝をついた。