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『空京ミスドの決戦!?』


「うわー。本物みたい」
 再現された空京の街並みを見回して、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が驚きの声をあげた。
 空気の手触りや匂い。どれをとっても現実と変わらなかった。
「まずは空京ミスドを守らなきゃね」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が力強く言う。たとえゲームであれ、憩いの場であるドーナツ屋が占領されるのは許せない。
「空京ミスドなら。あちらにございますわ」
 ナビゲーターの女性が指し示した。銀髪碧眼、口元のほくろも色っぽい巨乳美女である。
 見かけない顔だが、干渉してくることからNPCではないようだ。
「で、では。私は先に行って様子を見てきます!」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は【空飛ぶ箒スパロウ】に乗ると、猛スピードで滑空していく。
「ありがとう。誰だかわからないけど、ほくろおっぱいさんも、ちゃんと現実に戻してあげるね!」
 美羽はナビゲーターの女性へ手を振ると、一同を引き連れるように駈け出していった。


「フハハハ! 我が名は天才科学者にして電脳の監視者、ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
 空京ミスドの前。
 なぜか、ハデスがパートナーを率いて高笑いしていた。
「クククッ。匿名四天王の一人であるこの俺を倒せるかな?!」
「匿名って……名乗ってるじゃん」
 あきれたように呟く美羽を無視して、ハデスが叫ぶ。
「これより、我らオリュンポスによる仮想世界支配をおこなう! リアル・ワールドを征服してくれるわ!」
 ハデスの宣戦を合図に飛び出したのは、ひとりの少女。
「わらわは奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)。このドーナツ屋を取り戻したくば、わらわを倒すのじゃな!」
 彼女はスキル【名乗り】を使い、堂々と自己紹介した。
「匿名って設定はどこにいったんだろう……」
 苦笑いを浮かべたコハクの隣では。
 大量のドーナツを抱えたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が、よだれを流しながら言った。
「このドーナツ屋さんを征服すればいいんだよね!」
「デメテール君。それは『メニューを全部食べろ』という意味じゃありませんよ」
 勘違いした食いしん坊忍者を、パートナーの天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が優しくたしなめていた。

「ふん。あんなコント集団、俺の機晶スポーツカーで店ごと吹っ飛ばしてやるよ」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が、真っ赤なスポーツカーに機晶爆弾を搭載しながら吐き捨てる。
「どうせ仮想空間なんだ。派手にやっても問題ねぇだろ」
「ダメだよ! たとえゲームだって、お店を壊すわけにはいかない!」
 美羽の必死の説得に、恭也はしぶしぶ頷く。
「……ったく。しゃーねぇな」
 恭也はぼさぼさの頭をかきながら、作業の続きにとりかかっていった。

「なにをコソコソしておる。この奇稲田流剣術を恐れぬ者から、かかってくるがよいっ!」
 しびれを切らした神奈が挑発する。
 受けて立ったのは、コハクだ。
 彼は【怪力の籠手】を装着し、腕力を強化させた。そして得物であるサリッサ――5メートル以上の長槍を構える。
「良い面構えじゃな。だが、ハデス殿のためにもここを通すわけにはいかんのじゃ! い、いや、別にハデス殿のためではないぞ!」
 ツンデレしながらも、神奈は【乱撃ソニックブレード】を繰り出した。
 音速を越えた剣戟が乱舞する。
――疾い。
 コハクはひとまず防戦に徹した。神奈の攻撃範囲は広い。サリッサを巧みに操るコハクは、味方をかばいつつ、反撃のチャンスを待った。
「むー、おやつの邪魔をする人には、容赦しないんだからねっ」
 デメテールも加勢に入る。ナイフに【しびれ粉】を塗り、【疾風迅雷】。
 目にも留まらぬ速さで毒牙が翔ける。
 迎撃したのはマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)だ。

「腹が減ったら戦が出来ないんだよ。だからあたしはドーナツのために、戦うんだよ!」
 デメテールの攻撃を【ダンシングエッジ】で弾き返す。
 つづけざま、【フルムーンシールド】を投擲。ひるんだ相手の隙をついて反撃にでた。
 マーガレットの太刀筋が踊った。
 刃のぶつかり合う音が、絶え間なく響き渡る。
 空京ミスドの店先。火花が激しく飛び交っていた。

「……盛り上がってるとこ悪いが。茶番は終わりだぜ」
 割って入ったのは、恭也だった。
 彼はリモコン付きスペアボディを操作して、爆弾を積んだスポーツカーを爆走させる。
 真っ赤な車体が目指した先は――。
 ハデスであった。
「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 素っ頓狂な雄叫びをあげるハデスの前で、赤いボディがタイミングよく爆ぜた。
「おー。意外と派手に吹っ飛ぶんだな、機晶スポーツカー」
 見上げた彼の先では、爆風に飛ばされるハデスが青空を舞う。
 徐々に小さくなってゆくハデスは、それでもなお、地上を見下ろし笑っていた。
「フハハハ! これで勝ったと思うなよ。俺は四天王の中でも最弱……」
「自分で言うなよ」
 恭也が吐き捨てると同時に、ハデスの姿は見えなくなった。

「ハ、ハデス殿〜」
「待ってよ〜!」
 パートナー達が慌てて追いかけるなか。
 ひとり冷静な十六凪が、誰に言うともなく呟いた。
「それにしても、匿名四天王とかいうハッキング集団……。少々、気になるところですね」