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『ヒラニプラ鉄道の激闘!』


 ヒラニプラ鉄道に到着した一同に、ナビゲーターの巨乳美女が近づく。
「間もなく発車になりますわ」

「よぉし。いっちょ派手にかましてやろう!」
 元気よく乗り込もうとしたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)へ、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)がおずおずと話かける。
「あ、あの。ふたてに別れてみてはいかかでしょう」
 銃型HCに入れた列車内の地図を広げながら、彼女はつづける。
 戦場は貨物列車だ。機材が豊富なので、トラップが仕掛けられている可能性は高い。
 大勢で渡れば一網打尽になるのではないか――。
 レジーヌの言い方は自信無さそうだが、指示は的確であった。
「なら。私たちは後方車両から攻めましょう」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がパートナーの肩をポンッと叩く。

 彼女たちの後から乗り込んだのは、冴弥 永夜(さえわたり・とおや)アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)の三人。
「俺は白影についてきただけなんだが。とんでもない犯行に巻き込まれてしまったな」
 と永夜。
「力を誇示したいなら、別の方法とってほしいね。――リアルファイトとか」
 そう不敵に笑ったアンヴェリュグへ、白影が同意する。
「まったくですね。なんにせよ、新作オンラインゲームを台無しにしたんですから。許せるわけないですよ」

 三人の後ろには、カル・カルカー(かる・かるかー)夏侯 惇(かこう・とん)のペアが乗り込んだところだった。
「あのさ。僕に考えがあるんだけど……」
「どうした、カル坊」
 カルが耳打ちした作戦を聞き、惇の表情が険しくなる。
「【雷術】でゲーム世界に干渉するだと――。いささか危険ではないか?」
「でも、効果があるかもしれない」
 カルの強い口調に、惇は折れたようだ。
「そうか。カル坊がやる気なら、それがしは援護するしかあるまい」


 列車が動き出した。
 データ通り、後方車両には少女タイプの機晶姫が、十体ほど積まれている。
 敵は侵入者を感知したようだ。一斉に動き出した機晶姫が、ずらりと並んで行く手を阻む。
「奴らはNPC。つまり、ただのデータです」
 白影が説明すると、パートナーの表情が晴れる。
「なら、遠慮はいらないね。思い切り暴れさせてもらうよ!」
 永夜が【風術】を発動する。相手の武器を弾き飛ばしたところに、【ブリザードショットガン】を放った。
「凍って動けなくなれ!」
 氷結する機晶姫の群れへ、アンヴェリュグの【貴族的流血】。咎人を断罪するように杭が突き刺さる。
「手加減なんかしないよ。君たちの罪が贖われるまではね」
 串刺しになった機晶姫の向こう。待機しているはずのハッカーへ向けて、アンヴェリュグは告げた。
「これで最後です。【サンダークラップ】!」
 激しい電撃が機晶姫を貫く。致命傷を負った彼女たちは、黒い煙を吐いて活動を停止した。


 移動した次の車両にも、同じように機晶姫が待ち構えていた。
 しかも数が多い。ざっと数えても二十体はいる。
「あたしの出番ね。みんなが現実世界に帰れるよう、一肌脱ぎましょうか」
「セレンが一肌脱いだら、全裸になるじゃない」
 パートナーのセレアナが肩をすくめる。彼女のツッコミは尤もだ。
 セレンの服装はビキニの水着というアレな格好である。
 だが、セレンにはひとつの狙いがあった。
 あえて敵を挑発させ、一箇所に集めたのち、お手製の爆弾カクテルを投擲したのだ。
 効率良く丸焼きになる機晶姫を、セレンは銃器でなぎ倒していく。
「ふふ、燃えるように暑くて刺激的なナパームカクテルのお味はどう?」
 セレンがわざわざ調合した爆弾。カクテルシェーカーの中に機晶爆弾・アルコール・ココナツオイル、さらにはタンブラーを割ってガラスの破片までも詰め込んでいた。
「そんな手間かけなくても。機晶爆弾を使えばいいじゃない?」
「こっちの方が盛り上がるでしょ」
「やれやれ」
 呆れるセレアナだが、ツッコミはいつもより控えめだ。
 パートナーの暴走を止めないことで、ハッカーを陽動させる思惑がある。

「ならば、それがしも乗るとしよう」
 彼女たちの意図に気づいた惇が加勢した。
「考えなしの猪武者のように暴れた方が、派手で良いだろう」
 めちゃくちゃに暴れ回る惇。セレンたちと演じる即興のコンビネーション。
 瓦礫が飛び交う車内で、セレアナは洗練された動きをみせた。華麗に舞うレオタードが敵を仕留めていく。一体。また一体。
 彼女の振るう【幻槍モノケロス】の前で、機晶姫はガラクタと化す。
 敵陣が混乱しているうちに、メンバーは次の車両へと移動を終えていた。
 振り向きざま、セレンが機晶姫に微笑みかけた。
「とっておきの爆弾カクテルで酔わせてあげる――。二度と覚めることはないけどね!」
 そして、両手に抱えた爆弾を放つ。

 無人の車両は吹っ飛び、黒い雲に変わった。



 一方、先頭車両から侵入していたメンバーは。
 トラップを越え、ハッカーと対峙した。
 能面Bは実際に見てみると、背が高く、かなり痩せこけている。
 周りに携えているのは、二体の機晶姫。
「ココガ、オ前タチノ墓場ダ!」
 細い腕を振り上げ能面Bが叫ぶ。

「我達は必ず元の世界に戻るのだ!」
 天禰 薫(あまね・かおる)が、【神降ろしの力】を発動した。小柄の体躯に神力が宿る。
 すぐさま薫は【草那藝之大刀】の力を解放させた。
 左目が白銀の光を帯びていく。彼女の澄んだ瞳は、果てしない雪原のようであった。
 草那藝之大刀から発せられる激しい光。
 これは神の怒りか。それとも加護か。
 敵全体に与えられる、光輝属性の魔法ダメージ。
 二体の機晶姫は瞬く間に撃破される。
 凛とした表情で、薫は告げた。
「我には待っている家族がいる。こんなところで終われないのだ!」