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ピンクダイヤは眠らない

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ピンクダイヤは眠らない

リアクション


 6階。
セレンフィリティ、セレアナに案内されたヘーゼルの瞳の男はトラップ解除パネルを確認していた。設置されたいた監視カメラはセレンフィリティの銃で粉々に砕け散っている。
「案内ありがとな」
「どうする気? 」
セレンフィリティが訊ねる。
「ここにキーワードを打ち込めってんだから、打ち込んでやるさ」
20XX年に亡くなった人物の名前を打ち込め。頭文字はL。無機質な文字が浮かび上がっている。
「どういう事?」
「ピンクダイヤのほんとうの持ち主の名前。名前を打ち込めば、このトラップは解ける。だが、同時にメモリークラッシャーが即発する。そう言う仕組みだろう。オオミヤ会長の当初の目的は俺の記憶を奪うことなんだからな」
「なるほど。それで、私たちは、記憶消去を回避するわけ? 」
セレンフィリティの言うとおり、廊下には逃げこむ場所などありはしなかった。
「501号室の浴槽に水を貯め込んでおいたから、あんたは、レオタードの姉ちゃんと一緒にそこに飛び込んだらいい」
「ん?じゃあ、名前は誰が打ち込むの?」
「04:20まで、後1分。」
レオタード姿のセレアナが無情にも言い切った。
「俺しか知らない名前だぜ。俺が打ち込むに決まってる」
「!……あんたはどうすんのよ!記憶無くなっちゃうのよ! 」
「俺は、なんとかならあな」
「なんとかって」
「ダイヤの件たのんだぜ」
「ちょっと! 」
その瞬間、セレナはセレンのみぞおちに拳を打ち込み、セレンの意識を奪った。
「いい判断だ」
 男はセレアナに声を掛ける。後ろ髪引かれる思いを断ち切って、セレナはセレンを肩に担ぎ階下の浴槽を目指し走った。
「さてと……祖母さん。もうすぐダイヤが返ってくるぜ。俺の手で墓に持って行ってやれないのは、まあ、勘弁してくれよな……L」
 男は時計を眺めながら、一文字一文字を打ち込みはじめた。


 「秒読み開始! 」
 コルセアは照準を定めながら戦車砲のトリガーに指を掛けた。
時間である。
「ってーーーーー!!! 」
コルセアの雄たけびと共に、ドン!と戦車の砲塔の先が火を吹き、砲弾が放物線を描いき屋上へ向かう。
「もぐって! 」
風馬の合図で屋上、東側の貯水タンク内でひしめき合うように息をしていたノエル達は、一斉に水中へと体を沈めた。
 砲弾が空にうち上がるのを見た松坂は、マーガレットに問うた。
「で?俺達どうすんの?」
マーガレットは、ニッと笑うと、松坂を抱え上げて、屋上を助走し始めた。

「ったれーーーーー!!! 」
猫井も戦車の操縦桿を握りしめながら叫ぶ。
屋上のひび割れには東側の給水塔から噴き出した大量の水が滴り落ちていた。滴り落ちた水は7階大浴場の女風呂、浴槽をあふれさせていた。
マーガレットは屋上から松坂もろとも飛び降りた。
「うわあああああああ! 」
という松坂の絶叫に
「大丈夫。あたし脚力には自信があるから」
と、空中のマーガレットが答えたかどうかは不明ではあるが、二人は、廃墟ビルを水面に映す湖面に、大きな水しぶきをあげながら潜り込んでいった。
 砲弾は屋上のひび割れを間一髪ですり抜け、7階大浴場の溢れかえった浴槽に突き刺さり破裂する。
 瑛菜達が潜む客室のちょうど真上にあった、大浴槽の底が破れ、客室には一挙に大量の水が流れ込み、水深1メートルのプールの様相を呈した。クローゼットを覆うまでの水深は得られなかったが、客室の全員は息を止め水の中にもぐりこんだ。
 意識を失ったセレンフィリティを5階客室の浴槽に入れると、セレナは大きく息を吸い込み、抱きかかえるように浴槽の底に自らも沈みこませた。

 4:20AM

着弾の音を聞き終えた男は、最後の一文字を打ち込んだ。

 その瞬間、青白い閃光が直径300メートルの巨大な球体を作りだした。
 廃墟ホテルから離れた場所で様子をうかがっていた大久保らの鼻先30メートルのところまで、その球体は一挙に膨らみ、表面に白く細かい泡を浮かび上がらせて、数秒後には一瞬でその姿を中心点へと収束させ……消えた。
 メモリークラッシャーは発動されたのだ。


 「ぶはああああ! 」
国頭がびしょ濡れの短髪を震わせて、大きく息を吸い込んだ
6階客室に流れ込んだ大量の水は一時は客室全体を埋め尽くしたが、すぐに引いていった。
全員が、びしょ濡れだ。
「あたしが誰だかわかる? 」
瑛菜が国頭に尋ねる。
「波羅蜜多実業高等学校二年生熾月瑛菜」
国頭は即座に答える。
「よかった」
「やっぱりメモリークラッシャーは水を通さないんだねぇ。予想が当たってよかったよぉ」
堀河も水に濡れた髪の毛を掻きあげながらほっとした表情を浮かべた。

湖底から浮かび上がった松坂に肩を貸しながら、マーガレットは水辺へとあがっていく。
 風馬達も屋上の貯水タンクから顔をのぞかせ、重く濡れた体を震わせて、一人づつくしゃみをした。
国頭から全員無事の連絡を受けた猫井は、戦車の狭い操縦席でコルセアは両手でハイタッチをした。

6階にたたずんだヘーゼルの瞳の男は、意識を取り戻し5階客室から駆けあがってきたセレンフィリティを見つけこう言った。
「何処だここは? 」
 セレンフィリティは、男に駆け寄り、泣きながら頬っ面にビンタをする。
「……あ?俺、なんか悪さをしたのか? 」
「ええ」
「そんな格好してたら、悪さもされるぜ……水も滴るおじょうちゃん」
 男は笑った。
 6階客室のドアから出てきたオオミヤシズクは、セレンフィリティを見つけると、きょとんとしたような顔をして
「そんな恰好で寒くないですか? 」
 と聞いた。
「あんたに言われたくないってさ」
 びしょびしょのガウン姿の少女にセレアナは自分の上着を着せながら言う。その上着もびしょびしょではあったのだが。